軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

友人は容赦なんかしない

「はぁぁぁぁぁぁ!?」

ビリビリと鼓膜を震わせ……というか、めちゃくちゃ五月蝿いと言われるほどの声量で、遠慮なくチェスカは大絶叫した。

カフェテリアにいた生徒はぎょっとしてレイラたちの方を見て、何だ何だ、とざわついているし、声の主はまさに般若、と言わんばかりの形相で怒り狂っている。

「婚約者を交換する、ですってぇ!? あの脳みそお花畑女、なぁに考えてるのよ! ばっかじゃないの!?」

「チェスカ、それには俺もとても同意するんだが、一先ずは声を抑えてくれ」

「そ、そうよチェスカ! あの、皆見てるから……ねっ?」

「……けど……!」

怒りから悲しみへ、くるくると変わる表情のチェスカは、まるでレイラの代わりに怒ってくれているようだった。

レイラ自身、怒っていないわけではないのだが、如何せんリベリアの身勝手さや自己中心な思考回路に頭痛がしており、怒るよりも体調を整える方が先だ、と思い始めてしまっていた。

それに、ジェレミーも今はリベリアを溺愛することの方が忙しいのだろう。レイラには手紙すら送ってきていない。

大方、あぁやって宣言したことから婚約は既に破棄をした上で、婚約者変更の手続きをしているとでも思っているのだろう。

「仮に、仮によ?」

怒ってばかりだったチェスカは、大きく深呼吸をしてからランチを再開する。

本日のメニューはローストビーフのサンドイッチにオムレツ、サラダ、フルーツの盛り合わせにチキンの香草焼き、彩り野菜のピクルス、それからドリンクのセット。

チェスカは紅茶を、レイラはオレンジジュースを、リッドはコーヒーを選んでいた。

「……もし、万が一、あのお花畑が公爵夫人になれる、って思い込んでいたとして」

「有り得そうなんだよなぁ……」

「……もうジェレミー様のお兄様が次期公爵としてお披露目されているのに?」

「はいそこストップ、まぁ聞いて」

「ごめん」

「はいはい」

チェスカは野菜をざく、とフォークで突き刺してから言葉を続ける。

「あの子、公爵夫人にもしも万が一なれたとして、業務に支障しか出ないでしょう?」

「……」

「……」

レイラもリッドも、さっと視線を逸らす。

本来であればリベリアだって、同じ学校に通っているのに、喘息を理由にほとんど登校していない。彼女がやってくるのは、何かしらのイベントがある時くらいだ。

「それが答え、よね」

「まぁ、その……」

「レイラのノートを見ても赤点、もしくは赤点スレスレの点数しか取れない落ちこぼれが、どうやって公爵夫人になるっていうんだろうね?」

「リッド、私もそれめっちゃ思ってたわ。レイラのノート借りれば、うっかり何も勉強しなくてもある程度の点数が取れるようにはなってるのよ。普通にやればね、そう、 普(・) 通(・) に(・) や(・) れ(・) ば(・) 」

うん、と頷きあってがっちり握手をしているチェスカとリッド。

実際のところ、仮にリベリアが公爵夫人としての執務を執り行えるのか、と問われれば誰もが『否』を突き付けるだろう。

それほどまでに、まず頭が悪い。

二言目には『喘息が』と言い訳をして、まともに取り組もうとしない。

こんな感じだから、リベリアに寄り添ってくれる友人なんていないのだが、何故かリベリアは『レイラが何でも助けてくれるから大丈夫だ』と信じている、とのこと。

それを一番最初に聞いたレイラは、自分の部屋でこっそり頭を抱えてしまった程だ。

「それに、あの子あーんなにか弱いんだったら、子供を産んだらどうなることやら」

「それもあるよねぇ」

うんうん、と頷き合うリッドとチェスカ。

困った顔で自分のランチを食べ進めていくレイラ。

三者三様の様子で、お昼ご飯を食べ進めていき、食べ終わると大きなため息を吐いた。

「後さぁ、レイラって公爵夫妻にめちゃくちゃ気に入られていたじゃない?」

食後のお茶を飲みながら、チェスカはふと口を開く。

「ああ、ええと……うん?」

「しかも、公爵夫妻から頼み込んでこの婚約って成し得ているんでしょう?」

「一応ね」

「んで、息子は大暴走して勝手にレイラと婚約破棄するとか言ってるわけでしょう?」

「そう」

うん、と頷いてからレイラもお茶を飲んだ。

リッドはどことなく遠い目をしながら、しみじみと話を聞いているが、チェスカがぽんぽんと出していく内容に対しては、同じ思いをしていたのか小さく頷いたりもしている。

「……その、ね。こんなこといっちゃいけないのかもしれないけど、ジェレミー様って……意外に馬鹿だった、ってことよねぇ」

「そもそもさ、ジェレミー様って婚約の意味を理解しているのかな?」

「え?」

「嫌だわリッド、そんなこと……」

「理解している、って本当に言える?」

チェスカは『絶対に理解していないわ』と冷たい声で言っているし、レイラは『まさか忘れるはずはない、と思う……』と自信なさげに呟いてしまった。

そもそも、レイラとジェレミーが婚約したのは十一年前。

レイラとジェレミーが揃って六歳の頃、お互いに照れながら『よろしくお願いします』と言って、和やかな雰囲気の中で婚約をしたのだ。

最初は何も問題がなかったのに、いつの間にかそこには当たり前のようにリベリアがやってきて、するりと交ざりこんでしまっていた。

いつの間にか、会話にも交ざってきて、自分が分からないことがあると喚き散らすようになった。

ジェレミーの隣に、当たり前のように座ることは既に日常茶飯事。止めたところで『ごめんなさい、私ってあまり外に行けないから……』と、悲しそうな微笑みを浮かべる。

そうすれば、執事から両親へと連絡が飛んでいき、酷いときには仕事を放り出してでも、リベリアのことを最優先に動くから、レイラは酷く叱られてしまう。

だがしかし、単なる家同士の関係の強化、という名目で婚約をしていたわけではないのを、恐らくこの十年間でジェレミーはすっかり忘れてしまっている。

「……とはいえ、書類を作るとか何とか言ってたから、もう引き返せないところまで進んで行っているのではないかしら」

「仮の話だけど、当主の印が押された書類が貴族院に提出されてしまえば……撤回をするのに相応の理由が必要になってくるはずだ。やっぱりやめます、で済まされていい話ではないからね」

「そうよねぇ……」

蔑ろにされ続ける関係性なんか、既にレイラの中ではありえないことになっているし、彼らに対しても『婚約破棄上等』くらのことは伝えているし、両親だって納得しているのであれば後はグロネフェルト公爵が了承さえしてくれれば何の問題もない。

だが――。

「……そうなれば、私は卒業をまたずに交換留学の話を受けるか、魔法省の入省試験を受けるように勧めていくわ。学校の先生からもすすめられていたことだし」

「ああ、それなんだけど。うちの両親に話したら『何かあった時の後見人のところは任せておけ』だってさ」

「……準備が良いわね」

「君が約束をすっぽかされたあの日にね、家族に話してみたんだ。そうしたらレイラに関してはいくらでも支援をしようか、っていう話になって」

あっはっは、と朗らかに笑っているリッドを見ていると、本当に何でもできて大丈夫な気持ちになってくる。

チェスカも、にっこりと微笑みながら大きく頷いてくれている。

「こっちも全力でサポートするわ! お父さまやお母さまだって、ヴェルティ伯爵家ではなく、レイラ個人を助けたい、って言ってるしね~」

「チェスカ、あなた家で私のことをどんなふうに報告しているの?」

「ありのまま」

言いながら親指をぐっと立てているチェスカだが、何も嘘は報告していない。

ありのままを報告して、いつだったかレイラを招いて遊んでいる間に、彼女の両親は色々話を聞いた上で『仮に万が一があったならば、レイラちゃんの味方になろう!』と思ってくれているようだ。

ウェルドリン男爵家は、大きな商会を持っているし、財力だってかなりのもの。ここに睨まれてしまえば貴族社会ではある意味終わる、とも言われている。

「ありのまま、って」

「レイラが可哀想すぎる、とかは言っていないわ。何があって、どうなっているのかを私が見たままを、お父さまやお母さまに報告したの」

にこりと笑ったチェスカは、お茶をぐっと飲み干してから立ち上がる。

「さーて、レイラ。貴女にはしっかり味方もいるんだから、 こ(・) れ(・) か(・) ら(・) のことを考えなくちゃ! 多分ジェレミー様は後からとんでもない後悔をするんでしょうけど、後の祭り、ってやつねー」

「いやねぇ、そんな風にはならないわよ」

「いーや、俺もチェスカの言う通りになる方に賭けようかな?」

「リッドまで!」

この友人たち、本当に容赦ない。

レイラはそう思いながらも、とても心強い味方がいてくれることに心から安堵する。

「(……そうね、いざとなれば……本当に頼ってみようかしら)」

婚約者交代、という馬鹿げたことをレイラが告げられてから、まだ一ヶ月も経過していない。

だがしかし、じわじわと物事は進んで行くのである。

レイラにとっては最良の、リベリアたちにとっては最悪の未来へと――。