軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私は私、貴女は貴方

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

レイラのクラスの面々が、お手本のように魔法を使えるようにと練習を始めてから、すぐのこと。

「え……?」

「な、なんだ!?」

リベリアのクラスの生徒たちの方から、いきなり悲鳴が聞こえてきた。

「皆さんはそのまま練習をしていて!何事ですか!」

先生が慌てて走っていくのを見て、レイラとチェスカ、リッドは怖いもの見たさでそっと先生の方に視線をやる。

なお、当たり前だが手は止まっている。後で怒られたとしても実技試験さえクリアしてしまえばそれでいいんだ、というのがチェスカ談。

点数取れるように上手いことやればいいよね、というのがリッド談である。

レイラは普通にクリアできるので、まぁいいか、くらいにしか思っていない。

ちなみにリッドもチェスカも、魔法の才能がめちゃくちゃあるので、二人とも合格してしまうことだろう。

だから、三人がこそこそと先生の方を見ていると、クラスの面々がそっと近付いてきて三人の盾になってくれた。

「何があったのか後で教えて」

「OK!」

「何を言ってるのかは分かるんだけど、リベリアが何がどうなってるかは分からないからね!」

「みんな野次馬根性凄いわねぇ」

あっはっは、と笑っているチェスカに、何人かが『お前が言うなよ!』とツッコミを入れつつ笑っている。

とても和やかで皆が仲良しなクラス、ということで有名なだけはある。

「……うわ」

盾になってくれている生徒の横からそっと覗き見ると、あのリベリアが、事の発端となったらしい女子生徒と取っ組み合いをしているではないか。

「何よ、あいつめっちゃ元気じゃない」

「興奮してるから、その内バテるわよ」

「そんなものなのかい?」

「うん」

そんな会話をしながら、じーっと見守る三人。

割と細かく実況してくれているから、クラスの面々は思い思いに想像しているらしい。

「てかさ、リベリアってレイラの双子の片割れでしょ?」

「そうよ、何今更」

問われたチェスカが訝しげな顔をし、問いかけてきた生徒をつつくと、困ったような笑顔と共にとんでもないことを言われた。

「いや、だって……レイラと違いすぎるからさ。奥様が実はもう一人いて、同じ顔の子供が二人できたから、双子として出生届出したんじゃないか、とか言われてて」

「小説ならまぁ良いけど、現実世界としてはアウト。やり直しよ」

「あいた!なぁチェスカ、お前遠慮って言葉知ってる!?」

「知らないわ、ちょっとうるさい」

べちん、とそこそこいい音をさせて、チェスカは遠慮なく壁になってくれている生徒の背中を叩く。当たり所が宜しくなかったのか、あるいはちょうど怪我でもしていたのか。

小さな悲鳴が上がるものの、チェスカは気にせずキラキラとした目を揉めている……もとい、取っ組み合いをしているリベリアと女子生徒を見る。

「何よアイツ、めちゃくちゃ元気じゃないの。あれでよくもまぁ病弱だとかほざいて、レイラをこき使ってくれたわね……!」

「チェスカ、口調に気を付けて」

「……はぁい」

レイラに苦笑いを浮かべつつ注意をされてしまい、これにはチェスカも大人しくなる。

恐らく、チェスカに対して注意をすることが出来て、チェスカがきちんと言うことを聞くのはレイラか、もしくはリッドくらいだという噂が本当ぽいなぁ……と、壁役の男子生徒はしみじみ思った。

「……って、え?」

「チェスカ?どうしたんだよ、何が起こってる?」

「リベリア、取っ組み合いしてる上にマウント取ってるんだけど……あの子、侯爵家のご令嬢!」

ちょっとうっかり、チェスカは声が大きくなってしまった。

幸いにも先生には聞かれていなかったようだったが、これにより、レイラのクラスの生徒も皆揃ってリベリアの揉め事に勢いよくばっと視線向けたのだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「いきなり何するんですの!」

「うるさい!うるさいうるさい、うるさぁぁぁい!お前に、体の弱い私の何がわかるっていうの!?」

「い、っ……、知らない、わよ!」

いきなりその侯爵令嬢……ルミエナに飛びかかったリベリアは、彼女の腹部に乗って押し倒し、ゆさゆさとルミエナの体をがくがくと揺さぶる。

「やめ、っ……」

「お前が、余計なことを……」

「……逆恨みも甚だしいわよ、この………勘違い女!」

だが、ルミエナだってやられっぱなしというわけではない。

肩を掴んでいるリベリアの手首を掴み、ぎりり、と力を込めればリベリアが痛みに顔を顰めた。

「い、っ」

そうすると、少しだけ力が緩んだ。

それだけで良い、ルミエナは素早く腹筋に力を込めて上半身をがばりと起こし、思いきり、遠慮など一切せずに頭突きをした。

――がづん!!

「~~~っ!?」

「っ……い、たた……」

リベリアも痛いだろうが、やった本人も痛い。ルミエナは額を押さえながらリベリアの肩をぐっと押し退けるようにし、体の上から落とそうと腕に力を込める。

「あ、っ」

痛みに気を取られているリベリアは、そのままバランスを崩して、どさりと横に転んでしまった。

だが、誰も彼女に駆け寄り、助けようとはしない。

誰もが、軽蔑の眼差しをリベリアに対して向けていた。

「……ぁ……」

小さく零れた声のような音のようなそれは、あっという間に空気に溶けていく。

誰か助けて、と周囲を見渡しても、誰もリベリアの方に同情的な目は向けていない。むしろ、軽蔑するかのような目しか向けていなかった。

「なん……で」

誰に問いかけるでもなく放たれた声は、震えていた。泣くのを我慢しているのかもしれないが、これで泣かれたとて誰が同情できるというのだろうか。

「……っ、う……うぅ……ううう~」

ついに、我慢の限界が訪れてしまい、リベリアは顔をグシャグシャにして泣き始める。

それを見ていたルミエナは、蔑んだような目を向け、すっとレイラに視線を向けた。

「レイラさん」

「……はい」

名前を呼ばれてしまえば、応えるしかない。

先生も困ったような顔をしており、行きなさい、と言わんばかりにレイラのところに向かって背を軽く押した。

「……あまり大事にならない程度にね」

「ごめんなさい、先生」

レイラが素直に謝罪をしたことで、先生は気にしないで、と言わんばかりに首を横に振った。

そしてそのままルミエナのところに歩いていき、真っ直ぐ見据える。

「貴女の……ええと、姉妹の方。どうにかなりませんこと?」

「……」

ルミエナの目には、誰がどう見てもレイラに対して『どうにかしろ』という色が込められていた。だが、そんなもの知ったことでは無いレイラは、ふっと微笑んで緩く首を振る。

「どうにもなりませんので、お好きなようになさってくださいませ」

「え」

「レイラ!?ちょっと、助けなさいよ!」

「……って、言っているけど」

ルミエナも困惑しているのか、ぎょっとしてレイラとリベリアを見比べながら言葉を続けていく。

「あ、貴女、リベリアさんの身内です……わよね?」

「まぁ、今のところは」

「……今の、ところ」

にこにこと微笑んでいるレイラは、すっと頭を下げる。

「私、家を捨てます。成人する十八歳になったタイミングで、除籍をお願いする予定ですし……あぁそうだ、抗議文を送る際には誰が悪いのかを明記していただいた上で、しっかりと今のところの我が両親にご対応いただくことがよろしいかと思います」

「…………え、えぇと」

まさかレイラがこんな風に思いきった対応をするだなんて、誰も想像すらしていなかった。

レイラのクラスの面々もそうだが、普段リベリアの世話を焼いているところを見ているリベリアのクラスの面々も、ぽかんとして黙ってことの行方を見守っている。

「大体、掴みかかってルミエナ様にご迷惑をかけたのは、そこにいるリベリア。自分の意思で、自分の判断で、人に対して掴みかかるだなんてことをしたのだから、 き(・) ち(・) ん(・) と(・) 責任を取らせませんと……ねぇ、リベリア?」

「な、んで」

「何で?いや、私がいつまで経っても貴女の尻拭いをしなくちゃいけないとかごめんよ。人のことを便利屋とかベビーシッターみたいな扱いしないでちょうだいな」

人前でこれほどまで言われることに、リベリアは慣れていない。

更に言うなら、リベリアはプライドだけはとても高いので、こうまで言われて『助けてくれ』だなんて言わない。むしろ、リベリアならば……とレイラはほんの少しだけ目を細める。

「べ、ベビーシッター……!?ふ、ふざ、ふざけないで!アンタなんかの手を借りなくても良いわよ!責任でも何でも取ってやろうじゃないの!」

「……とのことですわ、ルミエナ様。どうぞ貴女様のお好きなように」

そして、レイラはまた更に言葉を続けた。

「リベリアはリベリア、私は私ですもの」

言い終わるとレイラはにこ、と微笑んで頭を下げ、クラスの面々のところに戻って行ったのだった。