軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74 べムス商会再教育

ミンティジュース好評発売中です! サラナ・キンジェです、ごきげんよう。

予想はしていましたよ、ええ。あの効能ですもの、女子のハートを鷲掴みにする商品だって分かっていましたよ。

だけど、余りに注文が殺到し過ぎて、生産がストップするなんて思いもしなかったわ。万全な体制で臨んだはずなのに、女子の美への執着、侮っていたわ。

まぁですけど、べムス商会の皆様がそれこそ馬車馬のように働いて、生産再開の目途はたちましたとも。クルム会長をはじめ、従業員の皆様は、年齢層が高め、いえ、経験豊富なだけあって、修羅場の切り抜け方が素晴らしいわ。『いやっはっはっはぁ、この何かに追われる様な緊張感、若い頃を思い出しますなぁ! 』と、なんだかキャラが変わった気がするクルム会長が、大変、楽しそうに働いていらっしゃいます。いきいきシルバー、ここにもいたわ。まだ現役だって怒られそうですが。でもくれぐれもご無理はなさらないでね、病み上がりなんですから。

アルト商会の傘下に入ったべムス商会ですが、若干、これまでの体制とは変わっています。商会長はクルム会長のままですが、その上にアルト商会のビンスさんが東の支店と一緒に取りまとめをすることになりました。コンビニのエリアマネージャーみたいなものでしょうか。ビンスさんはまだお若いけど、貴族対応も従業員教育も容赦ないのだとか。あの大貴族さえ鼻であしらうクルム会長が、ビンスさんがべムス商会にいらっしゃると、新人みたいに緊張なさるそうです。何をしたの? ビンスさん。

そんな恐ろしいエリアマネージャーの元で、問題児であるレアさんはどんな再教育を受けているのかというと。ビンスさんはレアさんを一目見るなり『話にならない』と、あっさり戦力外通告となりました。現在、レアさんはべムス商会のお仕事から外れ、研修中でございます。

その研修場所は、モリーグ村孤児院。ええ、ドヤールが誇るグエーの羽毛布団加工と販売の先駆けであり、職人交流の聖地と言われるあの、モリーグ村孤児院ですわ。

そこでレアさんは、子どもたちに交じって、商人になるためのイロハを基礎から学んでいらっしゃいます。モリーグ村孤児院の基礎といえば読み書き計算、挨拶から。ビンスさんに鼻で笑われた意味が分かりますわね。

私も色々と、レアさんの 教育方法(躾け直し) を考えていたのだけど、皆様から口を揃えて『サラナ様が直接教えるレベルじゃありません』と言われてしまいました。アレに時間をかけるぐらいなら、他の仕事に集中してくださいですって。前世で培った新人教育のテクニックは披露できなかったわ、残念。

さて、そんなレアさんですが、べムス商会で引き続き商人として働けると思っていたのに、まさかの研修生扱いでショックを受けた様です。心を入れ替え、身を粉にして働くつもりだったようですが、まだまだまだまだそのレベルには達していないと、却下されました。

素直に研修を受ける姿勢があったので良かったものの、研修当初はやはり、奢りというか、プライドというか。一度は商会で働いた実績があるので、そういうものが見え隠れしていたようですが、そんなことを許すモリーグ村孤児院研修部ではありませんでした。あら? いつできたのかしら、研修部。

まずはモリーグ村孤児院の講師達。ええ、泣く子も黙るゲンガンドントリオ。

「はぁー。クルム会長は商売に関しては凄腕じゃが、身内には甘いんじゃのぅ。流石の辣腕家も、子育ては苦手か?」

「ここまで酷いと、むしろやる気がでるわい」

「教育を始める前の子どもたちの方が、まだ若い分、呑み込みが早いなぁ。おい、せめてメモを取らんか」

一切容赦なしの辛口レビューで、ビシバシとレアさんを指導していらっしゃいます。子どもたちのレベルが上がって、最近は失敗がないからつまらんなーと仰っていたので、久々にしごきがいのある新人で嬉しそうです。

そして、先輩である孤児院の子どもたちは。

「雑用ばかりで勉強にならない? じゃあ今のアンタに何が出来るの? 接客? 頭の下げ方からなってねぇよ!」

「商会で働いていたんでしょ? なのに帳簿も付けられないって、どういうこと? 計算が苦手? それでよく商人だなんて名乗れるね?」

「ていじされたねだんでそのままかうの? なんでねぎらないの? それじゃあしいれにおかねがかかりすぎるよ? おばさん、そんなこともわからないの?」

子どもたち、仲間内では昔の口調に戻ってしまうのだけど、お嬢様育ちのレアさんには刺激が強すぎたようで、泣いてしまったのだとか。あらー。

こんな風に、毎日コテンパンにやられていて、レアさんのなけなしのプライドは木っ端みじんに折られたようです。どうせ逃げられないので、徹底的に折りましょうとは、ルエンさんの お言葉(教育方針) 。前世より容赦ないのね、こっちの新人教育は。

「お母しゃま、頑張りましょう」

そんな中、レアさんの唯一の癒しになっているのが、レアさんの息子のフェム君、4歳。レアさんと一緒に孤児院に住み込み、立派な商人になるための修行中です。

「フェム。あそこのやおやのおばちゃんは、かわいくおねがいしたら、たくさんわりびきしてくれる」

「あいっ、しぇんぱい!」

「フェム。あっちのにくやのおじちゃんは、つよきでせめろ」

「……あい、しぇんぱい。ぐずっ」

「こえはおおきいけど、こわいひとじゃない。だいじょうぶだ。なくな」

そんなフェム君の加入で、孤児院最年少の4歳児が張り切ってお兄さん風を吹かして、フェム君の手を引いて お買い物(値切り) に行くのだとか。4歳児にとっては、初の弟分なんですよと、マオ君がにやにやしながら報告してくれました。なにそれ、直に見たいわー。

「フェムは頭もいいし、計算も得意です。ちょっと甘ったれなところがありますが、そこをチビが厳しく鍛えつつも、ちゃんとフォローしてて、ぶふっ」

うちの4歳児、前世の中間管理職並みに新人指導が上手みたいだわ。あの子に関しては、もう何も驚くまい。

「レアの方も、フェムの手前、母親ですから泣き言も言えず、お陰でなんとか形になってきました。まだまだまだまだ、客の前には出せませんが、もう少し裏方で経験を積ませる予定です」

孤児院の収支報告と一緒に、律儀にレアさんとフェム君の研修状況を伝えてくれるマオ君。成長したわねぇ。ほんの1年前まで、『なんで勉強なんかしなくちゃいけないんだ』って叫んでいた子とは思えないわぁ。

そんなマオ君は、孤児院卒業後の進路でお悩み中だ。アルト商会からの熱烈オファーと、孤児院講師陣からこのまま講師として残れ! という強い要請の中で揺れ動いている。「商会でしばらく鍛えてもらって、その成果を講師として活かす手もある」と助言はしたけれど、アルト商会が手放してくれるかは分からないのよねぇ。ゲンガンドントリオに怒られそうだわ。

でも、なんとかレアさんの再教育が決まって良かったわ。

べムス商会から帰った後、ひと悶着あったからね……。

商談を終えたあと、アルト会長は ドヤール家(私の家族) にべムス商会で起きた事を全て、包み隠さず報告したのだけど。

ええ。ブチ切れましたよ。お祖父様が。

ビキビキッと額に青筋が浮いて、みるみるうちに悪鬼の様な表情に。目に見えない速さで剣を引き抜き、アルト会長の目の前に突き付けたのだ。

「小僧! 貴様、サラナをそのように侮辱されて、黙って引き下がったのか!」

空が割れるんじゃないかってぐらいの大声でお祖父様に怒鳴られ、鈍く光る剣の切っ先が目の前にあっても、アルト会長はお祖父様を見据え、微塵も揺れなかった。

「べムス商会は、私の商会の傘下に入りました。責めは全て私に」

立ちはだかるお祖父様に一歩も引かず、アルト会長は静かにそう仰るだけで、一言も弁解をしなかった。お祖父様から視線もそらさないし、怯えもせず、静かに立っていた。

落ちた針の音さえ拾えそうな、静まり返った部屋の中で睨みあうお祖父様とアルト会長。

最初に引いたのはお祖父様だった。

「……生意気な小僧だ。気に喰わん!」

ひゅんっと剣を収め、怒鳴りつけるようにそう言ったお祖父様だったけど、その顔はなんだか満足そうに笑っていて。

「申し訳ありません」

返すアルト会長も、いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。

「……っ」

そこで私の足は耐え切れず、カクンと力が抜けた。

こわ、怖かったぁぁ。本気で怒ったお祖父様。こんなに間近で殺気をぶつけられたのは初めてだ。

動いたら斬られるような気がした。お祖父様は、脅しで剣を抜くような人じゃない。アレは本気で殺る気だったわ。

「サラナ様っ」

「サラナ?」

地面にへたり込む寸前に、アルト会長に支えられたけど、私の足は生まれたての小鹿の様にプルプルするばかりで役に立たず。

「親父が怒鳴るからだぞ! サラナが怖がっているじゃないか!」

伯父様がお祖父様を怒っていたが、伯父様からも剣呑な殺気が漂っていたし、剣に手を掛けていましたよね。どっちもどっちですよ。

「サラナ、スマン。大声を出して、怖かったか?」

オロオロとお祖父様が私を抱き上げ、ソファに運んでくださいましたが。

大声よりその魔獣もねじ伏せる殺気が怖かったです、とはいえず。そんな事を言ったら、お祖父様が、オヤツを取り上げられた子犬の様に萎れてしまいますからね。

「お祖父様。べムス商会との契約は、私が強く望んだのです。アルト会長は、私の体面を守るために、一度はべムス商会を切り捨てるとお決めになられていたのに、私がお願いしたから……」

アルト会長のせいじゃないと必死で言い募る私に、お祖父様は眉をひそめ、不可解な顔をなさっている。

「侮辱されたというのに、その商会がいいのか?」

「ええ! 能力はピカ一でウチに逆らえない商会なんて、条件ピッタリです!」

これで何の憂いもなく、ミンティジュース販売に全力投球できますよ。

意気揚々とぶっちゃけると、お祖父様がぽかんとなさっている。ごめんなさい。貴族の体面より、実利をとってしまいました。

「……小僧、すまぬ。苦労をかけるな」

「……っとんでも、ございません」

溜息交じりにお祖父様にそう言われ、先ほどまで凛としていたアルト会長が、ちょっと震えていらっしゃいました。笑うなら笑って欲しいわ。貴族らしさが微塵も無くて、自分でも呆れているのだから。

「サラナ」

腰が抜けてソファに座る私の目の前に、お父様が座りました。

あ、ら……? なんだか嫌な予感がするわ。笑顔のお父様、とっても優しいお顔なのに、後ろに何か黒いモノが漂っていらっしゃいますけど。

伯父様がポーカーフェイスのまま、安全圏に逃げているっ! 伯母様とお母様まで、さりげなく距離を取って……? やっぱり、お父様は怒っていらっしゃるのね。気のせいだと思いたかったわ。

「商売熱心なのはいいけどね。淑女の振舞いとしては、どうかな?」

失格ですー。明け透けにし過ぎたし、全然スマートじゃなかったもの。お祖父様も怒らせちゃったし。

「セルト様。この度の商談は、私が……」

「アルト会長」

すかさず庇ってくださる アルト会長(救世主) を、お父様が視線で止める。

「あまりサラナを甘やかしてはいけないよ。悪い所は、きちんと叱らなくてはね」

穏やかにそう言われて、アルト会長も開きかけた口を閉じて、目線で私に謝って来た。いえ、ここは素直に謝るのが最適解です。

それでもお優しいアルト会長は、お父様からのお説教3時間コース(増えました)を一緒に受けて下さいました。本当に何から何までごめんなさい、アルト会長。