軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第55話●ヤンセン子爵領

避難民と別れてから馬を走らせる事30分、ついに隣領の境界の町バダロナの町が見えてくる。

深夜に始まった攻防だったため竈に火が入っておらず、遠目からは火の手が上がっている様子は無くホッとする。

しかし門が目に入った所で、騎士達の顔色が変わった。

皆を館や裏門へ逃がすために、最後まで門に残っていたのだろう。

二人の守備兵と思しき血まみれの亡骸が、門の脇に打ち捨てられていた。

すぐにでも手厚く弔ってやりたいところだが、今脚を止める訳には行かない。

悲しみと怒りを内に秘め、一行はさらに速度を上げ門を駆け抜ける。

町へ入ると、ゴブリンやオークの姿が散見された。

家の中にあったのであろう食料を取り合って喧嘩をしているものまでいる。

どうやら、街に入った魔物の全てが、館を襲っている訳では無いらしい。

「どうしますか、セルファース様?」

「好き勝手荒らしおって……。

殲滅したいところだが後回しだ! まずは代官屋敷に向かえっ!!」

「「「はっ!!!」」」

ギリリと歯を食いしばり、セルファースが命令を下す。

「ミゼロイ!」

「はっ!」

皆が駆け始めたのを見て、セルファースはミゼロイに声を掛けると、腰の剣を放り投げる。

「使え、強化型だ。おそらくオーガが1、2匹いるはずだ。そうでなければ、門があそこまで壊されることは無かろう……」

「よろしいのですか?」

「ああ。さっき少年と約束していただろう?

キッチリ仕留めて土産話でもしてやれ。喜ぶぞ?」

ミゼロイの確認に、セルファースはニヤリと笑った。

「承知!!」

ミゼロイは一瞬目を見開くが、こちらもニヤリと笑うと剣を抜き代官屋敷へと急行した。

1分ほど走ると代官屋敷が見えてくる。

セルファースの予想通り、オーガが1匹、門に棍棒を叩きつけては雄たけびを上げていた。

それを取り囲むように、50体を超えるゴブリンとオークの姿が見える。

あたりに何10体もの魔物の屍が散乱しているので、100匹を超える大群だったと思われる。

籠城している防壁の上からは、投石による攻撃が行われていた。

そこら中に矢が転がっているところを見ると、すでに矢が尽きているのだろう。

しかし、どうにか門は形を保っており、魔物の侵入を死守していた。

「守備兵に告ぐ! 私はクラウフェルト家当主セルファース・クラウフェルト!

友人であるダフィド・ヤンセン子爵領が窮地と聞き馳せ参じた!!

これよりこの町にいる魔物を撃滅する! 今しばらく持ちこたえられよっ!!!」

ディルークがクラウフェルト子爵家の旗を掲げる横で、セルファースが滔々と口上を述べた。

「かかれっ!!!!!」

そして突撃命令が下された。

「うおぉぉぉぉっ!!!! 騎士団だ! クラウフェルト子爵様と騎士団が助けに来てくれたぞ!」

「ありがてぇっ!」

「子爵様、忝い! こちらは既に矢も尽きて、目立った石も無くなってしまいました……。

何も手助けできず……」

代官と思しき男から、安堵と共に謝罪の言葉が投げかけられる。

「いや、よくここまで持ちこたえてくれた!

あなたたちが時間を稼ぎ、逃がした女性や子供たちは無事だ。今はテルニーへと向かっているので安心するといい」

ゴブリンを切り捨てながら、セルファースが簡単に状況を説明する。

「!!! そうですか…。無事だったか……よかった…本当に良かった!!」

それを聞き、防壁の中に安堵の声が広がっていった。

騎士達は二人一組になり、馬上から次々と魔物を切り捨てていく。都合本日3戦目だが、フェリス1型の切れ味は健在だ。

30分も経たぬ間に、半数程度がその躯を晒していた。

ドドドドッ!

やや状況が落ち着いてきた頃、街の入り口の方から多数の蹄の音が聞こえて来た。

掲げられている旗を見て、セルファースが安堵の溜息を漏らす。

「ふむ、どうやらこれでいち段落しそうだね……」

やって来たのは、領主であるダフィドを先頭にした、ヤンセン領の騎士団だった。

ダフィドは、代官屋敷の前に見知った顔を見つけると、一瞬目を見開いた後指示を出す。

「1班と2班は二手に分かれて街中の残党を狩りつくせっ! 3班は門前と外壁まわりを哨戒だ!

4班はついてこい!!」

「「「「ははっ!」」」」

指示が飛ぶと、まるでそれぞれが1つの生き物のように、スムーズに散らばっていく。

良く鍛えられた騎士である事が、一目でわかる動きだ。

ダフィドは速度を落としてゆっくりとセルファースの前までやってくる。

「やあダフ。1週間ぶりくらいかな? 元気にしてたかい?」

「セル……助けに、来てくれたのか?」

セルファースの軽い挨拶に、ダフィドが言葉少なに問いかける。

「なに、昨夜急報が入ってね。ウチに魔物の群れが向かっていると言うじゃないか。

慌てて打って出たら領境の町まで襲われてる始末でね。

それを受けて念のため偵察を出したら、今度はバダロナが襲われたって聞いてね。

ちょっとお節介を焼きに来たところさ」

そう言うと、セルファースはひょいと肩をすくめた。

「そう、か…。ウチの町の為にわざわざ……

ありがとうセル。本当にありがとう!!」

セルファースの言葉を聞いたダフィドは、肩を震わせながらゆっくりと頭を下げた。

「いやいや、顔を上げてくれ。

ついさっき来たばかりだから、ダフたちも十分間に合ってたんだし」

「そんなものは結果論に過ぎないし、早いも遅いも無い。

ウチの町を助けるためにお前たちは来てくれた。それが嬉しいんだよ!」

ぐい、と目をこすりながらダフィドが答える。

すると今度は、代官屋敷の方から歓声が上がった。

「うぉぉぉっ!!」

「すげぇ! オーガを2人で仕留めたぞっ!!!」

「何もんだあの騎士? オーガの腕をぶった切りやがった!」

歓声のした方に目をやると、ディルークとミゼロイが、二人がかりでオーガの息の根を止めた所だった。

「ふーー、これですべて片付いた、かな?」

それを見届けたセルファースは、長い溜息を吐くと、ようやく緊張感がほぐれていくのを感じた。

「……オーガを二人で?

あれはディルークとミゼロイか…だったら可能か…いやしかし?」

対するダフィドは、たったの二人でオーガを倒したという事実に首を傾げている。

「だいぶ弱ってたみたいだからね。

それよりとっとと後片付けを始めないかい? 今から取り掛かれば、暗くなる前にある程度片付けられるはずだ。

折角倒したのに、血の匂いで御代わりが来たらたまったもんじゃないからね……」

それとなくセルファースが話を逸らす。

しかし、言っていることは事実だ。血の匂いに誘われてやってくる魔物は多いので、放置しておくと二次被害が出る恐れがある。

「ああ、そうだな。

門も外壁も応急処置をせねばならん……。レイナルド!」

セルファースの言葉に軽く首を振ると、ダフィドが一人の男に声を掛ける。

「はっ!」

短く返事をしたのは、ヤンセン子爵家の騎士団団長であるレイナルドだ。年のころは40歳程度、大柄な体躯は良く鍛え上げられている。

「隊を3つに分けて事後処理に当たらせろ。

躯の処理をする班、町内の残敵を処分しつつ被害状況をまとめる班、同じように町の周りの残党狩りと被害状況を確認する班だ。

指示を出したらお前は代官の屋敷に来てくれ。ここまでの状況を整理するぞ!」

「了解しました!」

レイナルドは、セルファースに黙礼をすると指示を出すために町の正門の方へと向かっていく。

「セル、すまんがもう少し付き合ってくれ。

少しでも情報が欲しい」

「もちろんだよ。我々も全く全容が掴めていないからね……。

事後処理にはウチからも人を出そう。

ただ、すまんが半分ずつの交代制で休ませてくれ。流石に疲れが出てきているからな」

苦笑しながらセルファースが答える。

「すまんな、助かる」

「なに、お互い様だよ。

ディルーク! 聞いていたな? 半々に分けて交代で休憩を取りながら、作業に当たらせてくれ。

ひとまず日が落ちるまでだ。

指示を出したら、お前も代官屋敷まで来てくれ」

「了解しました!」

いつの間にかすぐ近くまで来ていたディルークに指示を出すと、二人の領主は馬を並べて代官屋敷へ向かった。