軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第49話●他者の動向

ザンブロッタ商会との仮契約から、十日が過ぎた。

そろそろシルヴィオが、国境の街で商会長の説得にあたっている頃合いだろうか。

そのシルヴィオが訪ねて来てからしばらくは、他の貴族や商会からの接触は特になかった。

しかし、五日が過ぎた頃からポツポツと接触を試みる所が出て来ていた。

おそらく、週に一回程度魔法陣の登録状況を調べている所であると思われる。

魔法陣登録の現状を考えると、その頻度でも、かなり情報収集に力を入れている所と言えそうだ。

シルヴィオの次に訪ねてきたのは、隣領の領主であるヤンセン子爵家の当主、ダフィド・ヤンセンだった。

クラウフェルト家と同じ、このあたり一帯を治めるビッセリンク伯爵家の寄子で、いわば兄弟貴族である。

セルファースと同い年で領地もお隣、貴族学園でも同級生だったので、一番親しくしている貴族と言って良いだろう。

シルヴィオがクラウフェンダムを発ってから五日後に先触れが訪れ、翌日には本人が訪ねて来た。

ちなみにクラウフェルト家は、領主として領都であるクラウフェンダム以外にもいくつかの町や村を治めているが、統治体制としては上にビッセリンク伯爵家がいる。

現代日本で言えば、県を治めるのが伯爵家で、その下で数家の子爵家や男爵家が、複数の市区町村を分割統治しているのがこの国の統治体制だ。

「よぉ、セル! すっかり遠征病は治ったみたいだな?」

「やあダフ。おかげさまですっかり良くなったよ」

顔を合わせるなり、ロクな挨拶も無くタメ口で言葉を交わすあたり、気心の知れた間柄なのが良く分かる。

「あの魔法陣すげぇな。ようはオリジナルの魔法陣みたいなもんだろ?

それをまぁ、しれっと何でも無いことのように書きやがって……。お前んとこが登録者じゃ無かったら、思わず見過ごすところだったぜ?」

お茶を飲みながら、苦笑いでダフィドが言う。

「ふふ、やっぱり気付いたかい?

組み合わせて出来たものではあるけど、新魔法時代初の、魔法具では無く魔法陣だけを元に作られた、動く魔法陣だと思うよ」

同じくお茶を飲みながら答えるセルファースは、実に良い笑顔だ。

彼らの言う”オリジナルの魔法陣”と言うのは、ゼロから作ったものだけを指すわけでは無い。

新魔法時代以降、魔導具として動いている状態の魔法陣の複製品以外は動く魔法陣は作られていないので、一部でも自作ならばオリジナルと呼んでいるのだ。

「どうやったのか、は聞かねぇ。

そんなすげぇもんなのに、大々的に発表してねぇんだからなんか理由があるんだろうよ」

苦笑しながらも、ダフィドは真剣な眼差しをセルファースに向ける。

「すまないね。

もう少し準備する時間が欲しいんだ。準備が出来たら真っ先に教えるよ」

対するセルファースも、笑みを消して答える。

「わかった。ただ、ウチの領にも影響がある部分だけ聞かせてくれ。

あの魔法陣を使った魔法コンロだったか? それは誰にまで売るつもりだ?」

「当面は貴族と大金持ちの商人あたりだね。高級路線で行くつもりだよ」

「ふむ。それなら当面ウチへの大きな影響は無いか…。

民生品を売る時にはひと声かけてくれ。市井にまで広がると流石にうちにも影響が出るからな」

ダフィドの治めるヤンセン子爵領は、クライフェルト領と同じく森林地帯にある。

無属性魔石をたまたま掘り当てて森の中の領地になったクライフェルト領とは異なり、昔から森林地帯を治める家なので、主な産業は林業だ。

建材としての需要はもちろん、燃料としての薪の売り上げも大きな収入源となっている。

それが、薪代とさほど変わらない価格で運用できる魔法コンロが広まってしまうと、調理に使う薪の需要が大きく減るのは明白だ。

収入が減ること自体も問題だが、それが急だと対応も後手に回るので、ダフィドがそこを確認したがるのは当然だろう。

「すまんな……。迷惑をかけて」

沈痛な面持ちでセルファースがぼそりと呟く。

「何言ってやがる。ようやくクズ魔石屋なんて汚名を返上出来るチャンスじゃねぇか。もっと喜べよ!

だいたい、貧乏貴族同士が傷を舐め合ったって、何の利益も生みやしねぇよ」

そんなセルファースをカラカラとダフィドが笑い飛ばした。

「ああそうだ、悪いと思ってんなら、金持ちになって、何かこっちにも仕事を回してくれよな」

「ふふ…。分かったよ、せいぜい良い仕事を回せるよう頑張るさ」

「その意気だ」

ダフィドはニヤリと笑い、セルファースと握手を交わす。

その後も特に何かを詮索することなく応援までしてくれたダフィドは、聞きたい事も聞けたと言って早々に帰路についた。

次に接触してきたのは、ヤーデルード公爵家だった。

かつて王家から分かれた超名門で、火の魔石の鉱山を領地に擁している押しも押されもせぬ大貴族だ。

そんな超大物からの先触れに、クラウフェルト家は上を下への大騒ぎとなった。

公爵自身は別件があるため代理の者を送るとの事で安心していたら、実子、それも長男であるアレクセイ・ヤーデルードが訪ねてきたことで領主夫妻は再び驚愕する事になる。

「まさかアレクセイ殿がいらっしゃるとは思ってもおりませんでしたよ…」

「おや? 父上からの書状にありませんでしたか?

…全く、あの方は悪戯好きが過ぎますね」

挨拶の後、お互い苦笑しながら社交辞令を交えて話をしていると、公爵の悪だくみである事が判明する。

現当主のドラッセン・ヤーデルードは、どちらかと言うと武断派で知られており、齢60をこえた今も領内の魔物討伐等に自ら出向いているらしい。

特段、主戦派でも無いし戦闘狂と言うわけでも無く、単に現場が好きすぎるだけなのだと言う。

私たちに運営を任せられるようになって、好き勝手やっていますよ、とアレクセイが苦笑する。

現在、領地の内政は、アレクセイをはじめとした四人の子供たちで執り行っているとのことだ。

「して、公爵家のお方が、このような田舎に何用で?」

「ふふ、惚ける必要はないでしょうに…。

単刀直入にお尋ねします。先日登録された魔法陣、あれの専属利用権を我々にも売っていただけないでしょうか?」

魔法陣を登録した際、登録者の権利を守るのが専属利用権だ。その名の通り、十年間は他者の利用を禁止している。

ただし、登録者が許可を出せば登録者以外が利用する事も可能で、自領で魔法具の量産が難しい場合など、高額で権利の取引がされることが稀にある。

「1,000万ルインで如何でしょうか?」

「1,000万ですか…」

「はい。悪い条件では無いと思うのですが?」

1,000万ルインと言ったら、日本円に直すとおよそ10億円ほどの価値だろうか。

クラウフェルト家が、無属性の魔石からあげる年間利益より少し少ないくらいの金額だ。

それをポンと提示してくるあたり、さすがは属性魔石を産出しているだけはある。

思いも寄らぬ金額提示にセルファースが黙っているのを、金額が少ないからと判断したアレクセイが続ける。

「では、1,200万で如何でしょうか?

この際隠しても仕方が無いのでお話ししてしまいますが、年間に支払う金額としては、このラインがギリギリのところです」

「年額?!」

「はい。少なくとも専属期間の半分である5年間は、毎年お支払いする想定です」

一回の払い切りだとばかり思っていたセルファースが驚嘆する。

5年間毎年10億円相当以上の収入があれば、かなり領地の開発を進めることが出来るだろう。

「……そこまでご評価いただいて恐縮です。

理由を教えていただいても?」

「細かい理由を挙げればキリが無いですが、大きく2点でしょうか。

まず一つ目は、アレが火の魔石を使うものだからです。

火の魔石を使うものは、当然火の魔石を産出する我々と非常に相性が良い。

そんな我々のノウハウを活かせば、より良い魔法具が作れると思うのです。

そして2つ目は、先行投資ですね。

あの魔法陣は、オリジナルの魔法陣と言って良いものだと思います。

組み合わせたら出来た、と言う事でしたが、そう簡単に出来るものではありません。

これまで我々も散々試してきましたからね…。

だがそれをやり遂げた。そしてそれが偶然では無いとしたら、今後も同様に新しい魔法陣が生まれる可能性があります。

しかし、それには研究を継続する資金が必要では?

我々がその費用を肩代わりする代わりに、成果が出た暁には引き続き利用させていただけないか、というご提案です」

「なるほど……」

アレクセイの説明に、セルファースは腕を組んで思案する。

一見こちらに都合の良い物言いではあるが、その裏には大貴族のエゴが見え隠れしている気がするのだ。

我々の方が良い魔法具が作れる、金は出してやるから新たに成果が出たものも我々に任せておけ――

金額が大きいのも、先の成果まで視野に入れた手付だと言わんばかりの、そんなエゴが……。

「魅力的なご提案、ありがとうございます。

しかし、他の方々からも提案をいただいておりますので、一度預からせていただいても良いでしょうか?」

「…分かりました。

まぁ我々よりも良い条件を出せるところはそうそう無いとは思いますが。

良いお返事をいただける事をお待ちしております」

「わざわざご足労いただいたのに、即答できずに申し訳ございません」

「いえいえ、まだ登録して日も浅いですからね。

お考えになる時間も必要でしょう」

こうしてヤーデルード公爵家との交渉は態度保留となった。

「ふん、クズ魔石屋風情が。黙って頷いておけば良いものを…。

まぁいい。ウチより良い条件を出せる所などないだろう。

出してくれ!」

「はっ」

馬車へと乗り込んだアレクセイは、不機嫌そうにそう独り言ちると、ヤーデルード領へと帰っていった。