軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第29話●機能陣の試作

「なるほどなぁ。

必要な魔力を作って貯める部分、魔法を発動させる部分、全体を制御する部分に分かれてんのか……。

言われて見りゃあ効率が良さそうだが、そんな事これまで誰一人予想せんかったじゃろうな。

そりゃ解読なんぞ永遠に出来ん訳じゃわい……」

勇に説明を受けながら試作作業を手伝っていたエトが、しみじみとそう零す。

「まぁ原理とか考え方の話ですからね。

私はたまたま前にいた世界に似た考え方があったからすぐに理解できましたけど、新しい概念に自分で辿り着くのはハードルが高すぎますよ」

そう答えつつ、勇も試作用の機能陣を描いていく。

元になる機能陣を丸写しする部分も多いので、そこはエトに任せて、勇は新たに書き起こす必要がある部分を担当していた。

「えーと、ここからが起動陣からの繋ぎになる部分だから、こっちの機能陣を参考にして……」

そう言葉に出しながら作業を進めていく勇。

熱の付与(エンチャント・ヒート) の機能陣は、起動陣から連結する部分が欠けていたため、火を起こす機能陣のものを改変して使う事になる。

「見た感じ、機能陣を起動させるための魔力量と魔力変数の数が少し違うようだから、ひとまずそこだけ調整して、と……。

うん、こんな感じかな。起動陣は一旦カンテラのヤツで代用できそうだから、まずはそれを使うか。

エトさん、そっちはどうですか?」

「おう、こっちももうすぐ終わるわい」

こうして半日程度かけて、 熱の付与(エンチャント・ヒート) を使った魔法具試作初号機がついに完成した。

今回試作された魔法具は、 熱の付与(エンチャント・ヒート) の効果をダイレクトに利用したコンロのようなものだった。

熱の付与(エンチャント・ヒート) は、接触・指定した物体にその名の通り熱を加える機能陣だ。

色々な応用が考えられるが、もっとも単純な使い方として、熱伝導率の高い銅のプレートを置いて加熱、電気コンロのような効果を想定している。

消費魔力と発生する熱量の加減が全く分からないので、元の機能陣に書かれていた数値をそのまま使ったものと、半分にしたものの2種類が試作されていた。

そこへ炎の魔石と起動用の無属性の魔石をセットし、コンロとしての性能を確認するために水を張った鍋も用意して、実験の準備が整った。

「ふっふっふ……ついに、ついにこの瞬間が来たか。

魔法具師長年の夢、自作の魔法具を動かす歴史的な瞬間じゃ!!!」

組みあがった試作機を前に、エトが感無量といった表情で声を上げる。

「ついこの前、起動陣を作ったばかりだと思ったら、もう機能陣まで作っちゃうなんてね……。

ホント、規格外すぎて言葉が出ないわね」

「全くだね。しかも私の遠征病を、その傍らで治してくれちゃった訳だし。感謝してもしきれないよ」

歴史的な実験に立ち会うため、領主夫妻も駆けつけていた。

セルファースも、万全とはいかないまでも動けるくらいには回復しており、この場へ足を運んでいる。

「さて、それじゃあ行きますね! エトさんは、そっちの起動をお願いします」

「おう、任せておけ!」

「じゃあ、カウントダウンしますよ。

3…2…1…、起動!!」

勇の合図で、同時に起動陣の無属性魔石に触れる。

淡い光を灯しながら起動陣が立ち上がる。そしてその光の筋が、ついに機能陣へと繋がった。

ここから先は未知数だ。想定では、まず必要な魔力の変換と確保が行われるはずだが……。

固唾をのんで見守る一同の前で、まずは起動陣との接続部分の魔法回路に、淡く光が灯った。

そして次の瞬間、炎の魔石に淡い朱色の光が灯ったと思うと、フォンという小さな音と共に機能陣全体が淡く発光する。

続けて 熱の付与(エンチャント・ヒート) の効果を発揮する魔法陣が、魔石と同じような朱色の光を纏った。

「うん。ここまでは問題なさそうだ。ちゃんと 熱の付与(エンチャント・ヒート) の魔法が発動しているはず!」

「……そうじゃな。あとは銅板がどれくらい温められるかじゃな」

試作機の様子を見ながら、勇とエトが頷き合う。

そのまま待つこと僅か1分ほど、まずは魔力消費量が元の数値のままの試作機の鍋から湯気が立ち上り始めた。

「い、イサムさんっ!! お湯が、お湯が沸いています!!! すごい……」

それを見たアンネマリーが、勇の腕を掴み歓喜の声を上げる。

そのまま見ていると、すぐにボコボコと沸騰し始めた。

遅れること1分、魔力量を半分にした試作機側の鍋からも湯気が上がり始めた。

「おう、こっちでも問題無いようじゃな」

「そうですね。念のため、もう少し様子を見てみましょう。

特に魔力消費が大きい方が、どこまで温度が上がるのかは確認しておきたいです」

「そうじゃの。銅を溶かすほどの熱量は無いとは思うが、万一熱量が高いと危険じゃからの」

勇とエトが最も懸念していたのは、その部分だった。

温度を管理して制御するようなロジックは見当たらず、単に魔石から取り出す魔力量と魔法陣につぎ込む魔力量が数値化されているのみ。

インプットとアウトプットのバランスが全く分からない状態なのだ。

一応セーフティ機能は用意されているのだが、それが発動する 閾値(いきち) がよく分からない。

ベースになった機能陣が軍事目的のものだったりしたら、超高温となる可能性もあり得る。

注意深く観察する事15分ほど。デフォルト設定側の鍋の水が完全に蒸発した。

そこからしばらく空焚き状態で様子を見たが、銅板も鍋も溶けたり赤熱することも無かった。

魔力量を減らした方も、しばらくすると鍋の水は完全に蒸発。当然こちらも溶けるようなことは無かった。

「ふーーっ、年甲斐もなくはしゃいでしまったが、実験としては大成功と言って良いんじゃないか?」

「ええ。ほぼ想定通りの結果でしたし、大成功ですよ!」

エトと勇はニヤリと笑い合うと、パン、と右手でハイタッチを交わす。

「次は、連続稼働時間の調査と魔力量と熱量の関係性調査が急務ですね」

「そうじゃな。それが分からん事には、魔法具としては使えん。

逆にそれさえわかれば、すぐにでも魔法具として使えるとも言えるがの」

「まったく……もうちょっと感動したり余韻に浸るとか、そういった情緒は無いのかしら、あの二人には」

新魔法時代になって以来の偉業を成し遂げたばかりだと言うのに、その余韻に全く浸ることなくもう次の実験の事を考えている二人をみて、ニコレットがため息をつく。

「職人とか技術者というのは、そういうものなんだろうね。

過ぎた事より次は何をするのか。それが原動力になってるんだと思う」

「そうですね。今の二人の顔は、飛び切りのおもちゃを手に入れて楽しくて仕方が無いといった感じですから」

クスクスと笑いながら二人を見つめるアンネマリーの表情もまた、嬉しくて仕方が無いというものだった。

そしてついに実働する機能陣を作り上げた勇は、ここから一気にその 能力(スキル) の真価を発揮していくのだった。