軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第265話●いかすバンド天国

オーギュスト・シャルトリューズ侯爵の言葉に、静かだった会場が一気に騒めき立つ。その反応は、大きく三つに分かれていた。

「らいぶ? らいぶって何だ??」

「侯爵様が持ってるの、確かギターっていうヤツじゃないか??」

「メイドさんもいるぞ?」

困惑の色が強いのが、勇と共にやってきた船乗りや職人たちだ。

たまに勇が船の中でギターを弾いていたのを知っている者は、それによく似た楽器を候爵が手にしている事に気付く。

「きゃーっ! パルファン様よっ!!」

「おおっ、ナディア様もいらっしゃるぞっ!」

「おう、ゼムランドがんばれよっ!」

一方、シャルトリューズ家の関係者は大盛り上がりだ。

騎士やメイドらはもちろん、職人たちも応援の声をかけている。

「やーー、そう来ましたか……」

「これって完全に……」

「バンドを組んでらっしゃいますね……」

そして苦笑しながら納得しているのがマツモト家の家人たちだ。

自分たちも楽器を演奏するし、そもそも侯爵らが手にしている楽器のほとんどは勇が贈ったものである。

「じゃあ、まずは一曲聞いてもらおうかね」

ざわつく会場を愉快そうに見ていたオーギュストがそう言うと、シャルトリューズ家の関係者とマツモト家の家人たちが静かになる。

その様子を見て、マツモト家の関係者たちも口を噤んだ。

会場が静かになったのを見計らってオーギュストがドラムの男に目配せをする。

小さく頷いたドラムの男は、一度小さく息を吐くと手にしたスティックでシンバルを鳴らした。

シャーンシャーンシャーン

ややゆっくり目に三度シンバルが鳴ったのを合図に、他の楽器も一気に演奏を始める。

B♭~C~Fを繰り返すゆったりとしたテンポの特徴的な短いイントロが終わると、会場に音が弾けた。

一気に加速した軽快なテンポのエイトビートの曲に乗せて、ややハスキーなパルファンのヴォーカルが響き渡る。

オーギュストが楽しそうにギターをかき鳴らし、ベースを弾く騎士、魔法キーボードを弾くメイドはやや緊張気味か。

オーギュストらが演奏しているのは、八十年代の後半にデビューし日本にパンクロックを根付かせた伝説的なバンドの名曲だ。

魔法楽器一式を提供した際に、何曲か曲も教えてほしいと言われて勇が教えた曲の一つである。

自分の中にある情熱を信じようぜと歌うこの曲は、歌詞がシンプルで地球独自の固有名詞も出てこない。コード進行もシンプルで種類も少数だ。

FやB♭といった少々難しいコードは出てくるものの、これは簡易コードでカバーすれば良い。

タイトルに“薔薇”が入っているのも、何となく貴族っぽいなと感じて教えることにした曲である。

「凄い……、完全に自分たちの曲にしてる」

しばし聞き入っていた勇が、ポツリと零す。

エフェクトがかかっていないので原曲のようなパンクロックっぽさは弱いが、演奏もヴォーカルもバッチリだ。

ギターを弾くオーギュストも、簡易コードではなくきちんとセーハ(人差し指で全ての弦を押さえる難易度の高いテクニック)をした正式なコードで演奏しているようだ。

ドラムについても、勇はまともにドラムの譜面など書けないのでエイトビートの基本と特徴的なリフだけを教えていたのだが、しっかりと曲に合わせて仕上がっていた。

そして何より特徴的なのは、妙齢の美しい女性が演奏するトランペットのような楽器だ。 この世界(エーテルシア) の楽器だろう。

地球のトランペットとよく似た音を奏でているが、地球の物のようにバルブっぽいものは見当たらない。

「このホーンが入った感じ、どこかで聞いたことがあるな。スカっぽいと言うか……。そうか!! あの人達だ!」

トランペットに似た楽器が入った事でスカっぽくなった曲を聞きながら考えていた勇の脳裏に、ひとつのバンドが思い浮かぶ。

スカの楽園の名を冠する彼らは、ホーンセクションが特徴的な日本を代表するスカバンドだ。

幅広いジャンルからゲストボーカルやゲストメンバーを迎えた楽曲も多く、かつてはハコフグの被りもので有名な魚博士を招いて話題になっていた。

オーギュスト達のバンドはホーンが一本なので、かのバンド程の音の厚みは無いのだが、リズミカルに音を刻みながら時にはリードに参加していくアレンジは実に見事だ。

「うふふ、褒めてもらえて光栄だわ」

一曲目が終わって勇が拍手をしていると、ふいに後ろからそう声を掛けられた。

「これはポレット様。いやはや、素晴らしいですね。正直かなりいいかげんな教え方だったのですが、お見事です。特にあのトランペットのような楽器のアレンジは凄いですね」

声の主――シャルトリューズ侯爵夫人のポレットを振り返った勇が感想を口にする。

「ありがとう。あの子、私達の娘なのよ?」

「えっ? そうだったんですか!?」

「ええ。以前あなたが訪ねていらした時は不在だったから紹介していないけど、末娘のナディアよ。小さい頃からサイリンクスを習っていたの」

「サイリンクス?」

「あの楽器の事よ。ナイトバグラーという梟のような魔物の 鳴管(めいかん) を使った楽器ね」

「へぇ、鳴管から作られているんですね」

鳴管とは鳥が声帯の替わりに持つ発声器官の事だ。

この世界(エーテルシア) の鳥が同じ器官を持っているかは不明だが、梟のような魔物が持っているのであれば似ているのかもしれない。

もっとも地球の鳥の鳴管は、あのような金属質なものではないが……。

勇がそんな事を考えていると、階下の舞台から声がかかる。

「――ポレット、お前も来なさい!」

勇から楽器を譲り受け、今の曲を教えてもらった事などを話していたオーギュストが、MCに一区切りつけたところのようだ。

「はいはい、すぐ降りますからお待ちになって」

柔らかな笑顔で応えるポレット。

「ふふ、私も少々サイリンクスを嗜んでいるの。よければ皆さん近くで聞いて下さるかしら?」

ポレットは勇らにパチリとウィンクをすると、一階へと降りていく。

勇達もそれに続いて階下へと降りていった。

「少々と仰ってましたけど、ポレット様はこの国一のサイリンクス奏者であられるんだよねぇ」

「ええ? そうなんですか!?」

階段を下りる勇と並んで歩きながら、ヴィレムが言う。

諸国を回っていた彼の話では、とある名門伯爵家の令嬢であるポレットは、王都で開かれる宮廷音楽会で十代ながら五年連続最優秀演者に選ばれた才媛らしい。

五連覇したことで殿堂入りのような形になって以降音楽会には出ていないが、今なお教えを乞うものが後を絶たないと言う。

音楽好きで領内でも楽器製造にも力を入れている侯爵との馴れ初めも、この音楽会がきっかけだ。

ヴィレムによると、サイリンクスは竪琴とならんで貴族御用達の楽器なのだが、非常に演奏の難易度が高いそうだ。

ただ音を出すだけであればそうでもないのだが、音階を作るのがとにかく難しいのだとか。

勇は知らぬことだが、地球のトランペットの原型もこのサイリンクスに似たバルブの無いラッパで、ナチュラルトランペットと呼ばれるものだった。

バルブが無いので、音階は唇とブレスワークのみで作る必要があり、やはり演奏難易度が高い。

バロック期の高い技術を持った奏者は、尊敬され音楽パトロンから熱心な支援を受けたと言う。

「さて、役者も揃った事だし、続けて二曲披露しようかね」

壇上にあがったポレットの準備が整ったの確認したオーギュストは、ステージ前最前列に来た勇にチラリと目をやてから言う。

ドラムスティックを打ち合わせる音が四回響いた後、次の曲が始まった。

それは勇の知らない曲だった。

二本のホーンを軸にしたアップテンポな曲で、騎士の事を歌っているようだ。

「あ、これは“騎士の誓い”ですね!」

「アンネの知っている曲?」

勇の隣で見ていたアンネが、小さくリズムを取りながら言う。

「はい。こちらでは有名な曲です。街を魔物から守った平民の男が騎士に取り立てられる物語を歌った曲で、冒険者や庶民にも人気があります」

どうやら この世界(エーテルシア) の定番曲の一つのようだ。

「でも、かなり雰囲気が違いますね。元々はもう少しゆったりした曲なので」

「へぇ。じゃあアレンジしてあるってことだね」

アンネによると原曲とはかなり違うようなので、侯爵のバンドに合うようにスカっぽくアレンジしたのだろう。

騎士の誓いが終わると、MC無しでそのまま流れるように次の曲の演奏が始まる。

こちらも勇の知らない曲だった。

「これもこっちの有名な曲なのかい?」

「いえ、この曲は私も知りませんね。ヴィレムは知っていますか?」

「いや、これは私も知らない曲ですね……」

どうやら三曲目は誰も知らない曲らしい。

「ということはオリジナル曲なのか……? …………ん? ちょっと待てよ、この歌詞って……」

「うにゃっにゃっ!!」

パルファンの歌う歌詞を聞いていた勇が、何かに気付く。

同時に織姫も何かに気付いたのか、勇の肩から頭へとぴょんと飛び乗った。

「……黄金色の小さな勇者って、これ姫の事だろ? と言うかこれ、例の魔物騒動の話じゃないか!!」

「にゃっふん!」

その後もしばらく歌詞を聞いていた勇が、確信したように声を上げる。

そうだ! とばかりに織姫がポムポムと勇の頭をリズミカルに叩いた。

壇上のバンドメンバーもその様子に気付いたのか、勇を見て皆が演奏しながらニヤリと笑っていた。

「ふふ、どうだったかね、マツモト殿。我々からの余興は楽しんでもらえただろうか?」

三曲を演奏し終えたオーギュストからそう声がかかる。

「いやはや、とにかく素晴らしかったです! そして何から驚いて良いやら……。特に最後の曲はいったい?」

手放しで称賛した勇が、自分たちの事を歌ったであろう曲について質問を投げかけた。

「気付いたかい? あれは我々のオリジナル曲だよ。タイトルは“ちいさな英雄”だ」

またもやニヤリと笑ったオーギュストが答える。やはりオリジナル曲だったようだ。

「少し前から流行っている例の紙芝居。あれをモチーフにしようと教会に相談したところ快く了解を得られてね。そればかりか、何とかいう大司教の口利きで教会音楽を作っているものが協力までしてくれたよ」

どうやら教会全面バックアップによる公認曲らしい。

アルカイックスマイルを浮かべる某大司教の顔が脳裏に浮かび、勇は苦笑する。

「とても素晴らしいものを譲ってもらったからね。そのお礼のようなものだよ」

ぽんぽん、と軽くギターを叩きながらオーギュストが言う。

「そう言っていただけると、贈った方としても嬉しいですね。ん~~、そうですね。お返しとして我々も何曲か演奏させていただけないでしょうか?」

「お? それは嬉しいね。是非頼むよ」

「分かりました。準備しますので少々お待ちください――。ノイマン、ギターとベースを持って来て。魔動車に入れてあるから。あ、閣下、キーボードとドラムはお借りしても良いでしょうか?」

「もちろん構わんよ」

「ありがとうございます!」

お礼として演奏することを決めた勇の指示のもと、急ピッチで準備が進められていく。

ちょっとした空き時間を潰すのに楽器はちょうど良いので、持ち運びが簡単なギターとベースを常に持ち歩いていたのが功を奏した。

流石に大きなキーボードやドラムセットは持ち運ぶわけにはいかないが、贈ったものは同タイプのものなので問題無いだろう。

三十分もしないうちに準備は整い、勇達のバンドがステージに上がった。

ギターボーカルに勇、ギターにリディル、ベースがアンネで魔法ピアノはヴィレム、そしてドラムにカリナという編成だ。

基本的に実力が高い者を選んだ感じだが、ドラムについては一番の実力者であるエトがノームなので通常サイズのドラムが叩けないため、カリナが選ばれている。

「えー、本日は素晴らしいおもてなしをありがとうございました。感謝を込めて私達も二曲演奏しますので、楽しんでいってください」

当たり障りのないMCを終えた勇は小さく息を吐くと、後ろを振り返る。

カリナが小さく頷き、頭上に掲げたドラムスティックをクロスさせて四度打ち鳴らした。

それを合図に、イントロ無しのヴォーカルスタートで一曲目の演奏が始まった。

勇が一曲目に選んだのは、魔法ギターを作った時にも演奏した、黒猫と貧乏な絵描きの歌だ。

アップテンポながらシンプルな音で構成された曲に乗せて、語りかけるような勇のヴォーカルが響く。

オーギュスト達とはまた違ったオルタナティブ・ロックとも言うべき曲調と、分かりやすい物語的な歌詞は、侯爵家の関係者にも好評なようだ。

始まりと同じく後奏なく終わった曲に、会場が一瞬の静寂に包まれる。

直後、鋭いシンバルの四連打に続けてギターの音が走り始めた。

釣られるように他の楽器も、疾走感のあるメロディとリズムを刻み始める。ギターロックの王道のような曲調だ。

勇が二曲目に選んだのも、一曲目と同じバンドの同時期の曲だった。

神話の神が持つ槍の名がタイトルのこの曲も、歌詞が物語調で地球固有の単語がほとんど出てこない。

槍の名前を この世界(エーテルシア) の伝説の槍に差し替えているだけだ。

そしてその歌詞の内容が、まさにシャルトリューズ領や今の勇達の状況にピッタリであることを鑑みた選曲である。

胡散臭い宝の地図を手に入れた男が、宝を求めて手作りの船で海に出ようと画策する。

偽物だ、欲に眼がくらんでいると罵られるが、男はついに船を作り上げ一人で海へと繰り出した。

「高波にやられてしまえ」などと呪いの言葉をかけられ、夢が破れそうになった男は地図を破り捨ててしまう。

しかしいつしか皆が彼を応援するようになる。男は再び地図の切れ端を拾い集める。

そして嵐に見舞われた男。神ですら男を救いたいと願ってやまない――

そんな夢を貫く男の生きざまを伝説の槍に例えた曲が終わる。

再びの静寂。そして会場は大歓声に包まれた。

「いやはや、流石に本家は違うね。素晴らしい演奏だった!!」

「ええ。そして何より歌詞が良いわ。船を作っている我々にピッタリで。良い曲をありがとうね、マツモト男爵」

「いえ、こちらこそありがとうございました。まだ楽器をお渡しして間もないのに、すでに弾きこなしていて驚きました」

「ふふふ、驚いてもらえたなら何よりだよ。これまでマツモト殿には驚かされ続けていたからね」

そう言ってオーギュストは良い顔で笑った。

「時にマツモト殿。この魔法楽器は売りに出す予定は無いのかね?」

「身内には配り切ったので、丁度そろそろ魔法陣を登録しようと思っていた所です。楽器は多くの人に弾いてもらわないと意味が無いですからね」

「ふむ、そういうことなら話は早い。この魔法楽器一式の製造権を売ってはくれないかね? もちろん独占使用権ではなく、我々にも魔法陣の使用権を認めてくれるだけでかまわない。値段はいくらでもかまわん。言い値を支払おう」

「えっ!? 単なる使用権を言い値で買うと仰られるのですか!?」

「その通りだ」

突然の申し出に思わず聞き返した勇に、オーギュストが頷く。

この国で魔法具を一般販売する場合、魔法陣を魔法陣ギルドに登録する必要がある。

貴重な魔法陣の流出や密造を防ぐためで、登録した者が十年間の独占使用権を得られる。

かつて勇も、魔法コンロの魔法陣を登録している。

この使用権を買う、と言った場合、それはすなわち独占使用権を買う、という事だ。

新しい魔法陣は独占して使うものと言うのが常識なので、売る方も買う方も自然とそう言う考えになる。

それゆえに、オーギュストからの申し出に勇は驚いていた。

「いや、それはかまいませんが、いったい何故……?」

「うふふ、この人の夢なのよ」

首を傾げる勇に答えたのは、侯爵ではなく夫人のポレットだった。

「これ、ポレット。やめないか」

「ふふふ、いいじゃありませんか。この人が音楽好きなのはご存じよね?」

「ええ、存じ上げています」

「筋金入りの音楽好きなのよ、この人は。特に弾くのがね。でも、私が嫁いで来たことで、その楽しみを奪ってしまったわ」

ポレットは伏し目がちにそう語り出した。

先述の通り宮廷音楽会で出会った二人は、家格も釣り合うし派閥も同じであったため、程なくして結婚する。

自身もライアーという小型の竪琴の奏者であった侯爵は、妻のサイリンクスとのセッションを日々楽しんでいた。

しかしやがてセッションする機会が減っていき、数年で一緒に弾くことは全く無くなってしまった。

「実力の差に気が付いてしまってね。一緒に弾くのが恥ずかしくなってしまったのだよ。最初は追い付こうと練習はしたんだがね、追い付けなかった……」

くだらないプライドだがね、と自嘲気味に付け加えるオーギュスト。

「で、先日たまたま王都でマツモト殿が見慣れぬ楽器を弾いていた。聞けば全く新しい楽器、それも魔法具だと言うじゃないか。しかも何とも良い音だ」

一目見てその楽器を気に入った侯爵は、同時にまだほとんど誰も弾いていないこの楽器であれば、自分でも一人者になれるかもしれないと思った。

そして再び、妻と肩を並べて演奏できる日が来るのではないか、とも。

「別派閥だし最初は色々あったからね……。どうしたものかと思っていたら、船の作り方の替わりに譲ってくれると言うじゃないか。一も二も無く飛びついてしまったよ」

「ふふふ、あの時のこの人の嬉しそうな顔と言ったらもうね……。それからは明けても暮れてもギターの練習ばかり。バンドを組むんだ! って騎士やメイドまで集めて選考会はするしでもう大変だったのよ?」

ポレット夫人から語られる内容は、あのシャルトリューズ侯爵の物とは思えないエピソードばかりだった。

そんなある意味黒歴史のような話をされても、当の侯爵は怒るどころか笑っている。

「とまぁ、恥ずかしながら再びセッションが出来るようになった。そこで今度はもう一つの夢を叶えたいと思ってね」

「それがギターの製造であると?」

「そうだ。まぁ正しくはそれだけではないのだがね、私はこの領地を音楽の街にしたいのだよ」

「音楽の街……」

「ああ。そのためには、楽器を特産にするのも良い手だと思わないかい?」

「なるほど、そういう事だったんですね……。分かりました、使用権はお売りします」

「おお! 本当かね?」

「はい。我々だけでは国中に広めるほどの生産力は無いですしね。私も楽器が広まって、音楽が広がって欲しいと思っていたところでしたから」

魔法楽器を作った時にも考えていた事だが、勇はあまり楽器を独占するつもりは無かった。

楽器が広がるほど音楽も広がり、新しい曲がどんどんできることを望んでいたためだ。

シャルトリューズ領でもブランドを立ち上げてくれるなら願ったりかなったりである。

「費用も歩合で構いませんよ。売り上げの一割で如何ですか?」

「なに? 一割で良いのかね!?」

勇の提示した条件に驚くオーギュスト。

この世界(エーテルシア) で魔法陣のライセンスを歩合で売る場合、売り上げの二割が相場だ。

地球のライセンスはおおよ五パーセントである事を考えるとかなり高額だが、それだけ魔法陣の価値が高いという事だろう。

それの半値だと言うのだから無理もない。

「その代わりと言っては何ですが、引き続き船に関するご助力をお願いします」

「ふふ、なるほど。そういうことなら喜んで協力しよう」

「ありがとうございます」

勇からしたら元々広めようと思っていたものだし、オーギュストとしても想像以上に安い使用料で済んだため、まさにWin-Winだろう。

お互い満足のいく取引となった事で、握手を交わす二人。

オーギュストの手、その指先には、すでに薄っすらとギターだこが出来ていた。

後日、この日のお礼として今度は勇がオーギュストらを招待して、マツモト領でライブを開催する。

そしてそれをきっかけにして、夏の早い時期にはシャルトリューズ領で、夏の終わりにはマツモト領で、毎年ライブが開かれるようになる。

やがてそれはどんどんと規模が大きくなっていき、最終的には複数日に跨るサマーフェスとして この世界(エーテルシア) 中に広まっていくのだが、それはまた別の話――