軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第257話●おめでとう! リーチはメタルリーチにしんかした!

「ピイィィィィィィィッッ!!!!」

そして甲高い鳴き声を上げたリーチの身体が、ついにネオンのように七色に輝き始めた。

「にゃにゃにゃっ!」

「ああ、オリヒメ様、後生ですからもっと近くで見せて下さいませ!」

光り続けているリーチの檻に取り付くように見ようとするバルバラの目の周りを、頭の上に乗った織姫がバシバシと猫パンチする。

魔法具で強化された檻があるとは言え、本当にメタルリーチ化した場合に安全の保障は無い。

織姫なりの注意喚起だろう。

……しかし、そんな事で引き下がるバルバラでは無かった。

「よいしょ、っと。さぁ、オリヒメ様も一緒に拝見しますわよ?」

「うにゃっ!? にゃにゃにゃーー?」

全身強化(フルエンハンス) の魔法を一瞬唱えると、ひょいと頭上の織姫を掴んで素早く腕の中に抱きかかえてしまう。

リーチ関連の依頼ばかり受けているためC級のままだが、実力はとっくにB級と言われているその実力を遺憾なく発揮した、電光石火の早業だ。

「うふふ、これはいよいよですわよ~~」

「うにゃにゃ~~」

思わぬ行動に身動きが取れなくなった織姫をぎゅっと抱いたバルバラの目の前で、リーチの光がどんどん強くなっていく。

しばらく強い輝きを放ったあと光が弱くなり、消えた。時間にして三十秒程だろうか。

そしてそこには、メタリックな身体を小刻みに震わせるメタルリーチがいた。

「はぁぁぁぁ、素晴らしい……。実に素晴らしいですわ! まさかこの至近距離でメタルリーチへ進化する瞬間を見ることが出来るなんて!!」

劇的な変化を目の当たりにしたバルバラが、恍惚とした表情で叫ぶ。

そしてフラフラとした足取りで、檻の出入り口へと手を伸ばそうとした――その瞬間だった。

「にゃフッ!!」

「ピギャッ!!」

ガシャーーン

「きゃっ!!!」

バルバラの腕から飛び出した織姫が尻尾で彼女を弾き飛ばすのと同時に、檻に何かがぶつかる激しい音がした。

「にゃふーーーー!!」

「いたたた……。オリヒメ様、急にどうし……」

たまらず尻餅をついたバルバラが、そこまで言って固まった。

織姫は、地面に降りた後もイカ耳で警戒態勢のままだ。

「これは……。メタルリーチの身体が伸びていますの!?」

檻の隙間から、銀色の細長いトゲのようなものが伸びていた。

その出所はと視線を巡らせば、檻の内側にへばり付いているメタルリーチへと辿り着く。

つい先ほどまで自分がいた辺りにまで鋭利な切っ先が届いているのを見て、バルバラの顔が青褪める。

「助けて下さいましたのね……。オリヒメ様、ありがとうございます」

「にゃにゃっふ」

状況を把握したバルバラが謝意を口にすると、織姫は何でもないとばかりにゆるりと尻尾を振って応えた。

「メタルリーチにこのような特性があるのは知りませんでしたわ……」

落ち着きを取り戻したバルバラは、檻から距離をとったまま立ち上がると、未だ変形したままのリーチを観察し始める。

メタルリーチはそもそも発見される個体数が極端に少ないため、その生態や特性はほとんど謎に包まれている。

知られている攻撃方法は、やや身体を細めて弾丸のように高速で突っ込んでくる体当たりのみだ。

発見される場合のほとんどが開けた屋外であるため、先程のように至近距離で対峙するケースはほとんど無い。

ましてや何かに閉じ込めた事など、おそらく世界初だ。

身体の一部分だけを変形させて攻撃してくるなど、思いもよらないだろう。

「ピギャギャ!」

ガシャン

「ふむ。何度でも攻撃できるようですわね」

バルバラが距離を置いたままゆっくり檻の周りを歩くと、追従するように別の側面にへばり付き直しては何度もトゲを伸ばしてくる。

「トゲを伸ばすと身体が一回り小さくなっているのと、離れてもトゲの長さが変わらないところを見ると、どうやらこれ以上は伸ばせないようですわね」

ぐるぐると檻の周囲を回りながら近づいたり離れたりしてみたが、トゲの長さは一メートル程度が限界のようだ。

真剣な表情でそうした内容をメモしていく姿は、先程まで恍惚とした表情を浮かべていた同一人物とは思えない。

「バルバラさんっ! ピギ丸に動きがあったって本当ですかっ!?」

しばし観察を続けていると、勇とアンネマリーがフェリクスとティラミスを伴って研究所に飛び込んできた。

バルバラはエトやヴィレムと同じく、雇用はされているが仕官している訳ではないため、敬称付きだ。

「マツモト様、夜分に起こしてしまい申し訳ありませんわ。ええ、この通りほんの少し前に。あの森の中で起きているのと同じ変化でしたわ」

軽く一礼してから、バルバラが簡単に状況を説明する。

「そうですか! おおっ!? 本当にメタルリーチになってる!! いやぁ、よかった。仮説を立ててはみたものの一ヶ月以上変化が無かったから不安だったんですよね……」

見事にメタルリーチになった姿を見た勇が、ほっと胸をなでおろす。

「ううっ、ピギ丸ぅ。立派な姿になっておねーちゃんは嬉しいっすよ」

実験を始めて少し経った頃に、名前が無いと可哀そうだと言ってピギ丸と勝手に名付けたティラミスが、そんな事を言いながら檻へと近づいていく。

「あっ! ティラミスさん、近寄ったらあぶ――」

それを見たバルバラが慌てて中止しようとしたが時すでに遅し。

「ピギャッ!!」

ガシャーン

「うひぃぃぃっ!?」

「にゃぁふぅぅ~~」

近付いてきたティラミスに対して、再びトゲを突き出すメタルリーチ。

すんでの所で立ち止まったティラミスが情けない声を上げて座り込むと、お前もかとでも言いたげに織姫が尻尾でその顔をはたいた。

「お前は何をやっているんだ……」

「うわぁ、こんな芸当も出来るんですね……」

「ええ。少し検証しましたが、おおよそ一メートルの距離が限界のようでしたわ」

呆れたり驚いたりしている面々に、バルバラが知り得る内容を説明していく。

「なるほど……。二重檻の外側は、内側から何メートルか離したほうが良さそうですね」

「そうですね。あと、内側の檻ももっと大きくしたほうが良いかもしれません。このサイズの檻の中ですと、先生以外はまともに戦えないので……」

ひとしきり説明を聞きながら自らの目でも確かめた勇は、皆を交えて今後の方針を決めていく。

こうして人工的にリーチをメタルリーチに進化させられる事を突き止めた勇達は、その後もバルバラを中心に詳細を調べていった。

調査の内容は、必要な魔石の量を割り出しや、進化後に安全かつ効率よく仕留めるための檻の仕組みであったりと多岐に渡る。

そして半年後には、三ヶ月で二匹のメタルリーチを進化させられるに至り、安定してその素材を手に入れられるようになるのであった。

なお、かなりの量の無属性魔石を必要とするメタルリーチへの人工進化だが、例の“充魔箱”の思わぬ仕様が発覚、それを助けることになった。

リーチの研究を始めてしばらく経ったある日。魔法を使える騎士達が、日に何度か行われている中魔石への魔力充填をしていた時の事だ。

魔力はあるものの魔法を使えないミゼロイが、休憩しながらその作業を見ていると織姫がやってきた。

そして全員が魔力充填を終えたタイミングで、充魔箱まで駆け寄った織姫がしきりにミゼロイを呼ぶ。

どうしたのかとミゼロイが近づいていくと、充魔箱の両サイドにあるミスリル製の魔力を流し込む部分とミゼロイの手を、交互にタシタシとタッチしてきた。

「……先生、私にも充填作業をやってみろ、と仰るので?」

「にゃっふ」

首を傾げながら尋ねるミゼロイに、そうだとばかりに短く鳴く織姫。

充魔箱で魔石に魔力を充填するには、魔力を集めて箱の両サイドから流し込む必要がある。

そのため、魔法の使える者だけが充填の作業をしていた。

なので魔法の使えないミゼロイは、もちろん充填作業はしたことが無い。

しかし敬愛する織姫の提案を断るという選択肢などミゼロイには無いため、言われるがままに箱を持ち、体内の魔力に意識を向けた。

この世界(エーテルシア) において、魔法を使える者はおおよそ一割から二割ほどだと言われている。

ただし、使えない者に魔力が無いのかと言ったらそうではない。むしろ八割ぐらいの者は魔力を持っているのだ。

では魔力がありながらどうして魔法が使えないのか? それはひとえに“魔法が発動できるレベルの魔力を集められない”からだ。

まず、訓練で自身の魔力を感じることが出来るようになる者は全体の七割程度と存外に多い。

魔力を持っていれば多くの者が感じることは出来るわけだ。

次のステップである、感じた魔力を多少なりとも自分の意思で動かせるようになる人も、五割ほどとまだまだいる。

問題はその次。魔力を動かして一箇所に集める事で魔力の濃度を高めることが出来るか、だ。

多くの者がここで脱落するため、魔法を使えるものは最終的に二割を下回る事になる。

今でこそ自在に魔法を使う勇とて、最初はこの工程に悪戦苦闘していたことを考えると、さもありなんだろう。

ミゼロイも、この魔力を集めることが出来なかったタイプであった。

騎士団に入った者のうち魔力のある者は、ほぼ必ず魔法を使うための訓練を行う。

そこでどうにか少しだけ魔力を動かせるところまではいったミゼロイだったが、そこから先には進むことが出来なかった。

以来魔法は諦めて、己の肉体を鍛えに鍛えて今のミゼロイがある。

そんな遠い昔の感覚を思い出しながら自身の魔力を感じ取ったミゼロイが、その動きに違和感を覚えた。

己の魔力が、なにやら特定の方向へと動きたがっているように感じたのだ。

その先は、充魔箱に触れている手――

自らの感覚と何より織姫を信じて、ミゼロイが魔力を動かしてみた。

「むぅ、これはっ!?」

これまで感じたことも無いスムーズさで両手に魔力が集まっていく感覚に、思わず声を上げるミゼロイ。

それでも手を放さず集中を続ける。

「にゃにゃにゃっ!!」

その様子を見た織姫がなにやら慌てるように鳴いているのが、視界の隅に入って来た。

「どうしま……」

そして、どうしましたか? と聞こうとしたところで、ミゼロイはその意識を手放した。

その後、織姫が顔を舐める幸せな感触で目を覚ましたミゼロイは、自分が半日以上眠っていたと聞かされて驚く。

原因は魔力切れ。

そして、その時箱にセットされていた魔石には、見事に魔力が充填されていたのだ。

それをきっかけにして様々な調査が行われたところ、どうやらある程度魔力を動かせさえすれば、充魔箱が使えるという事だった。

魔力の流れをアシストするような機能が付いているようで、魔力を動かすきっかけさえ作れば、自然と魔力が流れていくようなのだ。

ただし、魔法を使った事が無い者は魔力を流した事など無いため、先のミゼロイのように多くの魔力を流し込んでしまい、魔力切れを引き起こした。

魔法が使える者は、最初から注ぎ込む魔力量を決めてブレーキをかけていたため、この仕様に気付かなかったのだと結論付けられる。

そして勇の手により、一定の魔力を流し込んだら自動停止する魔力切れ防止ストッパーが追加された、魔法が使えない者向けの充魔箱が開発されるに至った。

量産はまだこれからだが、それが叶った暁には、メタルリーチの養殖に使う魔石をはじめ、魔石の消費に対するハードルが大きく下がる可能性がある。

なにせ、理論上半分の人が魔力を充填できることになるのだ。

街の中に充填所のような場所を設けて魔力を充填してもらい、対価として小銭を渡すなどすれば、かなり安価に魔石を再利用する事が可能になる。

税を魔力で納めるような制度を作るのも良いかもしれない。

もっとも、他者、特に属性魔石の産地などに知られると、魔石価格の暴落を恐れて様々な問題が起きる可能性が高いため、安易に始めることは出来ない。

それでもごく限られた身内で利用するだけで、メタルリーチの養殖に使う魔石は完全自給自足できるようになるのであった。

メタルリーチの人工的な進化成功に沸いて数日後。

勇の元を訪ねてきた人物がいた。

「ああ、ベネディクト。お久しぶりですね」

「マツモト様、お時間いただきありがとうございます」

応接室へ向かった勇を迎えたのは、ヴェガロア教会の主であり、この度大司教代理へと昇格を果たしたベネディクトだった。

勇の着任早々、大司教権限で建て替えたという立派な教会の除幕式に参加して以来なので、およそ二ヶ月ぶりと言ったところだ。

ちなみに教会に対しては、領主が自領での布教を許すという形をとるため、勇からの敬称は無くなっている。

「それで今日はどのような用向きで?」

「はい。お陰様で新しい教会の運営も安定してきましたので、そろそろこの地を聖地として売りだ……全土に布教するためのご許可を陳情しにまいった次第でございます」

勇の問いに、いつもの二分咲きの笑顔でベネディクトが答える。

「聖地、ですか……」

「ええ、ええ。何と申しましても、数々の女神様の覚えめでたく、幾度となくご神託を賜りになられたオリヒメ様とその主たるマツモト様が治める地。これを聖地と言わずして何を聖地と言いましょうや」

「う~~ん、なるほど……。仮に聖地にするとして、その後はどうするんですか? 私のいた世界では聖地巡礼とかあったけど……」

立て板に水を流すように語られるベネディクトの説明に苦笑しながら、勇が再び問いかける。

「流石はマツモト様、ご慧眼恐れ入ります。まさしく聖地をご巡礼いただきたいと考えてございます」

「やはりそうですか」

「はい。各地より乗り合いの魔動車を運行し、護衛も同行。もちろん 多(・) 少(・) の(・) 喜捨は頂戴しますが、安全に巡礼していただくためには致し方ないかと……」

ベネディクトが、そう言いながらチラリと勇の表情を伺いながら続ける。

「すでにマツモト様と懇意にされている貴族家の皆様からは、魔動車を手配する旨のご内諾をいただいております」

「え?」

思わぬ言葉に勇が驚いていると、コンコンコンと応接室の扉がノックされた。

「イサム様、御来客中に申し訳ございません。ザバダック辺境伯様、ビッセリンク伯爵様、ヤンセン子爵様がいらっしゃっております。何やら巡礼の件でお話があるとの事で、表まで出てきていただけないかと……」

扉を開けると、家令のノイマンが困惑気味にそう伝えてくれる。

「は? 遣いの方じゃなくて当主様ご本人が来てるのかい? ……分かった、すぐに伺うと伝えてくれる?」

「かしこまりました」

ノイマンが一礼して出ていくのを見届けた勇は、ジト目でベネディクトを見やった。

「ベネディクトの仕業ですよね?」

「ほっほ。今日あたりマツモト様に聖地巡礼のお話はするかも、とだけお伝えはしておりましたが、はてさて……」

「まったく……」

相変わらずな態度のベネディクトに溜息をつくと、勇は三当主が待つという中庭へと足を向ける。

「よう、イサム。久しぶりだな!」

「うむ、元気そうで何よりや」

「すまんな急に」

勇が顔を出すと、三人が気安く声を掛けてきた。

「皆さん、ようこそいらっしゃいました。今日はどういった御用――。はぁぁぁっ!?」

勇が挨拶を返そうとし、そして思わず絶句する。

その目に入って来たのは、織姫や女神様と思しき絵が車両全体に描かれた魔動車と、その前で誇らしげに腕を組む貴族家当主と言う、目を覆いたくなるような光景だった。