軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第254話●ログ解析

「「「おおっ!?」」」

壁に光る文字を見た三人が同時に声を上げる。

左から右に。右端までいったら次の行へ。白く光る文字が次々と流れていく。

「凄いな。完全にプロジェクターだ……」

「ぷろじぇくたぁ?」

「ええ。前にいた世界にもあったんですよ、似たようなものが。こうやって光を使って、専用の幕や壁に絵や文字を大きく映し出すんです」

勇の言う通り、ほとんどプロジェクターそのものだった。

少し違うのは、壁に近付けたり逆に遠ざけたりしても、映し出される大きさが変わらない点だろう。

地球のプロジェクターであれば、離せば大きくなる替わりに明度が下がるのだが、こちらは離しても若干明度が下がるだけで大きさはそのままだった。

この辺りが、物理法則に縛られない魔法具ならではの挙動だろう。

「魔法陣を見る感じだと、そのまま魔石の中の文字を表示してるだけっぽいから、ダンプリストみたいなもんなのかなぁ……」

一定の速度で流れ続ける文字を見ながら勇が独り言ちる。

ダンプリストとは、コンピューターのメモリ上にある様々なデータをそのまま出力しただけのものの事だ。

ぱっと見では人間が理解する事はほぼ不可能だろう。

「それにしても凄い量だねぇ。いつまで続くんだろ?」

五分ほど流れても文字に表示される内容に大きな変化が無いため、ようやくヴィレムが小さく息を吐いて言う。

「そうじゃの。見た感じ規則正しく文字が並んどるのか?」

腕組みしたままのエトもそれに続く。

「そうだね。多くは旧時代の数字、それも十六進数で、一部にそうじゃない文字が混ざってるものが規則正しく並んでる感じかなぁ」

時々メモを取りながら見ていたヴィレムが見解を口にする。

遺跡で何度か使った、起動に大量の魔力が必要な時用の魔力ブースト魔法陣を作ってきたこともあり、ヴィレムも十六進数はマスター済みだ。

「ひとまず、全部表示され切るまではこのまま様子を見ましょうか。これ、設計思想が元の世界のものに近いので、無限に続くことは無いはずです」

勇はこの魔法具が、メモリに保存されたデータをひたすら表示するだけの単純なものだと予測している。

であれば、どれだけ時間がかかるかは分からないが、いつかは記録されている全てのデータを表示し終えるはずだ。

「ふむ。中途半端に止めても仕方が無いしの。交代で見張るか」

「それが良さそうだね」

エトもヴィレムも基本的には勇の方針に従うので、このまま表示が変わるまで交代制で見守る事となった。

その後しばらくは変化が無かったのだが、日を跨ぐ頃、唐突に表示されている文字に変化が起きた。

当番だったエトは変化を察知すると、自室で仮眠をとっていたヴィレムを叩き起こし、館に戻っていた勇にも声をかけに行く。

「おおっ?」

「……変わっとるじゃろ?」

「そうですね……」

再び三人揃って変化の起きた文字列を眺める。

「一部の数字が、同じ文字に変わっとるのか?」

「そうだね。これは数字じゃなくて“不正”を表す単語の可能性が高いと思うよ」

これまではほぼすべて数字、かつその並びはランダムだったのだが、ここに来てその一部が全て同じ文字に変わっていた。

ヴィレムの見立てでは、“不正”という意味の単語だという。

また、それ以外の部分も数字ではあるものの、その値がほぼ変化しなくなっていた。

「“不正”ですか。それに数字が固定化された……。なるほど……」

それを聞いた勇が小さく頷く。

「えーっと、そうなるとここまでがワンパケットか? で、その一部が欠損している? てことは……」

その後も文字列の並び方を見て素早くメモしつつ、ブツブツと何事か呟きながら思考の沼へと落ちていった。

そして、こうなると声を掛けても反応しなくなるのを知っているので、二人は黙って様子を見守る事にする。

「んん?」

「あ、また変わった!」

「なんじゃこれは?」

勇が思考の沼にはまってからおよそ一時間後。また唐突に文字列の様子に変化が表れた。

「……全部“不正”になりましたね」

「ああ」

「そうだね」

勇の言う通り、今度は数字だった部分も残らず全て“不正”に変化する。

「……私の予想があっているなら、しばらくこの状態が続いてもう一度文字が変わるか何も映らなくなると思います」

じっと考え込んでいた勇が、ボソリと呟いた。

「どういう事じゃ?」

「しばらくってどれくらいだい?」

それを聞いたエトとヴィレムが、首を捻りながら勇に尋ねる。

「ちょっといつまでかは分からないですね。こいつが海の上を走っていた日数次第です」

「「??」」

勇の答えにますます首を傾げる二人。

「またしばらく交代で様子を見てみましょうか。予想が当たっていたらあらためて全部お話しするので。外れてたら恥ずかしいじゃないですか」

そう言って苦笑いする勇。

「まぁええわい」

「ちゃんと話してよ?」

エトとヴィレムは一瞬顔を見合わせるが、特にそれ以上追及する事もせず、再び監視体制に入った。

そしてその日の昼頃。果たして勇の予測通り、文字列が変わった。

「……予想通りになったの」

「あはは、よかったです」

「いやぁ、驚きだねぇ。ちなみに今度は“無い”を表す言葉だと思うよ」

「凄いですね、初めて見る魔法具だというのに……」

「にゃぁふぅ」

昼過ぎと言うこともあり、研究所には既に三人揃っていた。

また、事務仕事が一段落したアンネマリーと、騎士団との 遊び(訓練) を終えた織姫も、今日は研究所に来ていた。

「“無い”ですか。うん、それで予想が正しかったとますます確信が持てましたよ」

「ほう?」

「へぇ」

「そうなのですか?」

大きく頷いた勇に、三者三様のリアクションが返って来る。

「これはやっぱりあの小舟が走って来た道のりが記録されたものだと思います」

「なんでそんな事が分かるんじゃ?」

問い返すエトに、ヴィレムとアンネマリーも相槌を打つ。

「推進装置とかを調べた時に、方角と速度と時間を取得していたじゃないですか? やっぱりこのデータはその三種類がワンセットになっていました」

そう言って勇が自身の考えを話していく。

「で、とあるタイミングからそのどれかが取得できなくなり不正データとなった。このとあるタイミングは、おそらく小舟を引き上げて推進装置の動きを止めた時です」

「ああ、なるほど。推進装置から情報が来なくなったのか」

「ええ、そうです」

「ちゅうことはじゃ、全部が不正になったのは、あの箱を取り外したときじゃな?」

「正解です」

勇の答え合わせを聞いて理解したのか、エトとヴィレムも正解へと辿り着く。

「で、“無い”になったのは、記録された情報がこれ以上は無いからです。でも、記録可能な情報量にはまだ余裕があるんでしょうね。だから“不正”じゃなくて“無い”になった」

「はー、なるほどのぅ」

「まぁ言われればすぐ納得がいく理屈だけど、自分だけでその答えには辿り着けなかっただろうねぇ」

「あはは、前いた世界では一般的なモノでしたからね」

感心する二人に勇は苦笑する。

パソコンにしろスマホにしろレコーダーにしろ、何かしらのデータを記録、呼び出す装置は、現代地球にはありふれたものだった。

設計思想がそれと同じだったので、現代地球人であれば勇と同じ結論に達する事は難しくないだろう。

「そういえば海の上を走っていた日数が分からんから、どれくらい続くかも分からんとも言っておったな?」

「そうですそうです。あの小舟を引き上げてから今日までで、だいたい三十日弱というとこですかね? それと引き上げる前の時間とどっちが長いかで、あのあとどれくらい続くかは逆になるんですよ」

「なるほどそういう事か」

海を走っていた時のデータを表示しきるのにかかった時間は、プロジェクタもどきを起動させてから、最初に表示内容が変わった所までの時間になる。

その時間が基準となるので、引き上げてからの時間の方が長ければ、残りを表示しきるのにかかる時間は長くなるし、逆だと短くなる。

「では今回は、残りを表示しきるのにかかった時間の方が長かったので、引き上げてからの時間の方が長いという事なんですね」

「うん。そうなるね。まぁ、一定時間ごとに記録するんじゃ無くて、動きに変化があった時に記録するっぽいから、まっすぐ走ってる時間が長かったりすると逆になる事もありそうだけどね」

感心しながら話すアンネマリーに、勇が頷きながら答える。

「ん? そうなると、この情報をうまい事読み解けば、こいつがどこから来たのか分かるっちゅう事か!?」

「「!!」」

「正解です、エトさん」

驚く三人に、勇はニヤリと笑ってみせる。

「まぁ速度の単位も時間の単位も方角の単位も分からないですし、データの量も膨大なので、一筋縄ではいかないでしょうけどね」

「確かにそうじゃが、そのあたりは実験してみたら良かろう?」

「はい。次は早速それに取り掛かろうかと思っています」

「まかせとけ!」

「いやぁ、遺跡の次は海の上かぁ。いやはや、やっぱりイサムさんといると飽きないねぇ」

「一部の島や大陸を除くと、ほとんど海の向こうの事は分かっていませんからね……」

アンネマリーの言う通り、逃げ場のない海で魔物に遭遇すると悲惨な事になるので、 この世界(エーテルシア) ではほとんど海洋文化は発展していない。

極一部に魔物が極端に少ない航路がある事が分かっており、そこを使って行ける一部の地域との交流・交易があるのみだ。

もっとも限られているだけに、それが上手くいった場合に得られる富も莫大である。

かつてひと悶着あったシャルトリューズ侯爵家などは、王国では数少ない“上手くいった”家であり、貿易によって大きな利益をあげている。

「ふふ、利益はおいておいて、未開の海を切り開くっていうのはワクワクするなぁ。まぁこれが予想通り救難を求める船だったら、楽しい事ばかりじゃないんだろうけども……」

まだ見ぬ大海原へ思いを馳せつつも、小舟が意味する所を考えると素直に喜べない勇であった。

こうしてこの日を境に、勇の掛け声の元今度は保存されている航路データの数字を読み解くための実験が始まる。

最初にやったのは、推進装置から得られる数値の検証だ。

再び小舟に小箱を設置して、試験用の池で走らせては、その速度と記録される数字を見比べる。地道な作業だが、それ故に成果も確実に上がっていく。

三日ほどかけて実験した結果、直接的な速度ではなく、推進装置の出力の強さを記録している事が分かった。車で言えば、アクセルの開度を記録しているようなものだろうか。

五十段階ほどで出力が調整できるようで、その数値が記録されていた。

具体的な時速を計る術が無いので、作ったばかりの魔動水上バイクを並走させて相対速度を記録する。

そしてそれが一定時間で走った距離も計測して、独自の速度体系を定めていった。

なお、距離については この世界(エーテルシア) にも単位がある。

また、勇は自身の身体の長さ、いわゆる身体尺で十センチと五十センチをかなり正確に計る事が出来たため、今回の事を契機になんちゃってメートル尺を作り、 この世界(エーテルシア) の距離体系との換算表も同時に作っていた。

次に計測したのは、推進装置が同一出力で走っている時間だ。

保存されているログは、推進装置の出力か方角が変わるごとに、それがどれくらいの時間続いたのかを記録する仕組みになっていた。

なお、時間については絶対時間をカウントできる命令が魔法陣に描いてあった。

勇が唯一身に着けてこちらに来た腕時計の秒針で調べてみたところ、100カウントが10秒、1カウントがほぼ0.1秒だと判明したため、それを基準としている。

これまで空ループ等で疑似的に秒数をカウントしてきていたので、絶対時間がカウントできるようになったのは何気に大きな副産物だろう。

最後に方角についての数値だ。

こちらについては、船の向きを少しずつ変えながらそのログを取得していけばよいので、割合とスムーズに進んでいく。

どうやら北側(仮)と南側(仮)それぞれで、三六〇段階ずつ。〇・五度単位で方角を取得している事が判明した。

こうして五日間で実験を終え、全ての数値を取得する準備が整った。