軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第252話●魔動水上バイク

「はーー、なるほど確かに噴き出した水の勢いで進んでるな……。賢い奴がいたもんだなぁ、おい」

レベッキオが、水に浮かべた全長五十センチ程の船が動く様を見て感嘆する。

勇が新型船の共同開発をレベッキオに打診して五日。小さな模型を使った実験が始まっていた。

ただし、実験を行っているのは海ではなく森の中だ。

「しっかし、実験用にこんな池をあっちゅう間に作っちまうとはよぉ……」

「あはは。当面秘匿する事になりますしね。それに海で実験して万一沖の方へ暴走したりしたら大変ですからね」

実験の場となっている池をあらためて見渡して嘆息するレベッキオに、勇が笑って答える。

手っ取り早く実験を行うなら、メルビナの砂浜を使えばよい。遠浅で波も穏やかなので、環境としても悪くない。

しかし領主が率先して海岸で変わった事をやるのは、あまりにも目立ちすぎる。

娯楽の少ない この世界(エーテルシア) では、あっという間に話が広まってしまうだろう。セキュリティ的には致命的だ。

また、かなりの速度が出ることが予想されるので、万一暴走した時に沖の方へ走っていってしまうと回収はほぼ不可能である。

そうした懸念から、領都ヴェガロアの北にある森を少々切り開いて池を作り、そこを実験場としていた。

現時点の大きさはおよそ五十メートル×二十メートル程。

爆裂系の魔法や土魔法を派手に使って短期間で作り上げ、今も尚拡大を続けている。

ヴェガロアへ生活用水を引いている水路の途中に作った形なので、最初に 局地洪水(フラッシュフラッド) のような水魔法で一気に水を溜めた後も水量は安定している。

ちなみにセルファースの妻で“森の魔女”ことニコレットにも手伝ってもらったのだが、「久々に思い切り魔法を使えてスッキリした」と良い笑顔で言っていたそうだ。

「大体の原理と推進力は分かった。早速試作機を作ってみるがよ、コイツは舵はいらんな」

「そうなんですか?」

「多分だがな。必ず決まった方向に水が出る訳だろ? だったらコイツ自体の向きを変えてやりゃあ曲がるはずだ」

「あーー、なるほど。確かにそうですね!」

一通り小型模型での検証を終えたレベッキオが目論見を語る。

勇は水上バイクを実際に操縦したことが無いため知らなかったが、地球の水上バイクを始めとしたウォータージェット推進を使った船舶には基本舵が無い。

しかも、ノズルの噴射方向を変えるだけでかなりの急旋回や急停止も可能で、スクリューが飛び出していない事による浅水域での安全性の高さと共に、大きなメリットとなっていた。

そんな一回目の実験からさらに五日後。レベッキオと共に作った試作機を持ち込んで、二回目の実験が行われた。

その間にも池は拡張を続け、今は長辺側が七十メートル程になっている。

「おおっ!? いきなりソレっぽい感じじゃないですか!!」

「細かいとこはまだ適当だがよ、全体の形状はこの前のスケッチをベースにしてある。船首とか船底は一旦それっぽくはしたが、実際に走らせてみて調整だな」

池の畔で組み上げられ、ついに水上に浮かんだ試作一号機を見た勇が感嘆の声を上げた。

船体、操作系回り、魔法陣を別々に作って現地で組み上げたので、勇も組み上がった形を見たのは初めてだった。

材質こそFRPではないが、その形状は勇がいくつかスケッチを描いた現代地球の水上バイクによく似ている。

魔動スクーターが、一人乗りの魔動具の良いサンプルになったそうだ。

「操縦桿は魔動車に使ったギアを応用しておるぞ。コイツで直接ノズル、じゃったか? の方向を変えておる。ちぃと防水は甘いが、まぁ試験程度なら大丈夫じゃろ」

「速度は最大の二割くらいに落としてるよ。切り替えも二段階だけだね」

続いて、一緒に試作を行ったエトとヴィレムからも説明が付け加えられる。

操作系はエトが、魔法陣系はヴィレムと勇が手分けをして作っていた。

魔法陣だが、初見の動力箇所についてはさすがに勇の手によるものだが、魔力の調整部分については魔動車での経験を活かしてヴィレムがひとりで担当している。

「さて、では早速試験走行といきましょうか。マルセラ、準備は出来てる?」

「はい。大丈夫です!」

名前を呼ばれたマルセラが、少々緊張した面持ちで返事をする。

安全のため、ヘルメットや肘・膝を保護するための簡易な防具を身に着けている。

初の乗り物という事で、感覚派で運動神経の良いマルセラが、テストパイロットに選ばれていた。

女性騎士の中でも小柄な方である事も選定理由の一つだ。

「うぅ、私も操縦したかったっす……」

そんなマルセラを見てティラミスが歯噛みする。

「だいぶマシになったとは言え、お前はすぐ暴走するからな。テストパイロットは任せられん」

「ぐぬぬ……」

騎士団長のフェリクスにこの上ない正論を叩きつけられティラミスが唸る。

彼女も感覚派で運動神経も良いのだが、女性騎士としては大柄である事と、何より乗物を操縦すると暴走する事があるため、テストパイロットの役は回ってこない。

その代わり、耐久試験を行う時には彼女の独壇場だ。何事も適材適所である。

「ひとまず向こうまでまっすぐ走ったら停止させて、一度陸にあげて方向転換したらまた走って戻って来て止める。しばらくそれで様子を見てみましょう」

「了解です!」

勇の言葉に頷いたマルセラが、跨るような形で試作機に乗り“ヘの字型”の操縦桿を握る。

そして操縦桿中央に設置された起動用の魔石に触れた。

いつものフォンという音と共に魔法具が起動、一秒程置いて船体後部に取り付けられたノズルから、微量の水が排出され始めた。

いわゆるスタンバイ状態だが、推進力より水の抵抗の方が勝っているためAT車のクリープのように前へ進むことは無い。

水が排出された事を確認したマルセラは、親指付近に二つ横並びになっている魔石の左側に触れた。

一拍置いて、船体下部から伝わっていた微かな振動と音が大きくなる。

そしてノズルから排出される水勢が徐々に強くなり、船体が前へと進みだした。

「「「「「おお!!」」」」」

見守っていた面々から声が上がる。

なおも水勢は増し、白い飛沫を上げながら駆け足程度の速さで船は前進を続ける。

池の中央を過ぎた辺りで、マルセラは再び親指で左側の魔石に触れた。

すると徐々に速度が落ち、やがてその動きを止めた。

一度陸に上げた船を逆方向に向けて浮かべ直すと、再び走り始める。

今度は走り始めてすぐに親指で右側の魔石に触れた。

さらに一段振動が強くなり、走る程度の速度まで加速する。それに伴い後方から上がる水飛沫も勢いを増した。

「うん。速度を上げても安定してますね」

「綺麗に水をかき分けてっから大丈夫そうだな」

走る試作機の様子を見て、レベッキオがうんうんと頷いている。

緊張したのか、船上ではマルセラが両手をプラプラと振っていた。

「じゃあいよいよフリー走行してみましょうか。マルセラ、お願いします」

「はっ!」

羨ましそうに様子を見つめるティラミスに苦笑しながら、再びマルセラが試験航行を開始した。

すぐに二段階目まで加速すると、今度は止まることなくハンドルをゆっくり右へと切る。

連動して船体後方のノズルが方向を変え、右斜め後方に水が噴射されると、船体後方がスライドするように左に流れ、船首が右側へと向いた。

そのままの角度でハンドルを固定していると、大きく弧を描いて試作機が右旋回を続ける。

百八十度方向が変わったところで、今度は左側へとハンドルを切り左旋回を行った。

「ふむ。問題無く曲がれそうじゃの」

「随分と小回りが利くな」

旋回する様子を見ていたエトが、満足そうに言う。レベッキオは腕組みをして、その旋回性能に唸った。

マルセラは、そのまましばらく8の字に旋回をしていたが、池の真ん中あたりで一度スタンバイ状態に切り替えると、しばし考えるそぶりを見せる。

その後小さく伸びをすると、再び出力を上げて走り始めた。心なしかその表情は、先程までよりも真剣に見える。

池を斜めに走り出したマルセラは、これまでよりも大きく一気にハンドルを左に切る。と同時に、身体を左側へと傾けた。

大量の水飛沫を上げた試作機が、今までで最も急な角度で旋回する。

「「「「「おおーーっ!」」」」」

それを見たギャラリー一同から歓声が上がった。

チラリと歓声の上がった方を見やったマルセラは、さらに右へ左へと体重移動をさせながら五分ほど旋回を続けてから、勇たちの元へと戻って来た。

「どうでしたか?」

「凄いですね、これは……。私は船を操ったことは無いですが、多分全くの別物のような気がします」

ヘルメットを小脇に抱えて戻って来たマルセラに勇が声を掛け、色々な確認を始めた。

「感覚的には魔動スクーターに近いと思います。こう、内側にグッとやるとギュッと曲がる感じがするんです」

「あはは、後半はそうやって体重移動していましたね」

「はい。なんかいけそうな気がしたので、やってみたら上手くいきました」

「まだスピードが上がりますが、曲がれそうですか?」

「曲がるだけなら大丈夫じゃないですかね。ただ、結構滑るというか流される気がするので、慣れが必要になるかと」

「なるほど……」

マルセラからの聞き取りやその後の複数人による試乗の結果、現状の設計の延長上で、ある程度まで速度を上げても問題無さそうだとの結論に至った。

参考にしたのが時速百キロ以上で爆走していた水上バイクなのでさもありなんではあるが、勇は目処が立ったことに安堵する。

しかし当然課題もある。

まずは船体の強度だ。

船は当然水の抵抗を受けて進むものだが、その抵抗は速度の二乗に比例する。速度が三倍になると抵抗は実に九倍だ。

水上に出ている部分が多いし、先端を尖らせたいわゆる流線形にはしてあるものの、今の形状・材料でどこまで持つかは不明だし予測もつかないので、徐々に最高速度を上げながら確認していくことになった。

また、今のままだとブレーキが無いので、止まるまでの距離が長い点も課題だろう。

こうした課題を潰しつつ、段階的に船体サイズも大きくしていくこと十日。

四度の試作を経てついに魔動水上バイク一号機が完成した。

「おーー、海に浮かべると映えますねぇ」

「おう。中々カッコ良く仕上がったと思うぜ」

海に浮かぶ出来上がったばかりの一号機を眺めて、勇とレベッキオが目を輝かせた。

満足いく出来になったので、いよいよ海での最終試験に臨もうというのである。

とは言えメルビナの海岸でやると目立ってしまうので、少し離れたとこにある小さな入り江のような場所での試験だ。

最終スペックは、全長三メートル、全幅一メートル、二人乗りで最高速度は時速六十キロ(目測)となった。

大きさ的には地球の一般的な二人乗りの水上バイクより一回り小さめ、最高速度は七割ほどだろうか。

船体の多くは木造で、表面には防水効果のある魔物の素材を混ぜた青い塗料が塗られている。

より軽くて強度のある魔物素材が無いか探してもらっているが、それが見つかるまでは強度アップの魔法陣の出番だ。

「池と違って何があるか分からないので、気を付けてくださいね」

「了解です」

勇が、桟橋の上から最終試験に臨むマルセラに声を掛ける。

喫水が非常に浅いので、砂浜からのランディングも可能ではあるのだが、桟橋の試作も兼ねて短い桟橋を作ったのだ。

勇の言葉に頷いたマルセラが、少々緊張した面持ちでゆっくりと桟橋から離れていく。

ほぼ無段階となった速度調整用の魔石を右手の親指で操作しながら徐々に速度を上げて沖へと進んでいく。

百メートル程離れたところで軽く手を挙げると、一気に速度を上げた。

スバババッと水飛沫を上げて、魔動水上バイクが海水面を疾走する。

しばらくまっすぐ走った後は大きく弧を描き旋回、そのまま周回運転へと移行。

その後はしっかり体重移動をさせた急旋回を繰り返し、二十分ほどで桟橋へと戻って来た。

「ふーーっ」

水上バイクを係留して桟橋へ上がったマルセラが、大きく息を吐き出した。

「どうでしたか?」

「ばっちりですね。やはり波がある分跳ねたりはしますが、少し練習すれば大丈夫だと思います」

勇の質問に、マルセラが笑顔で答える。海での試走も、どうやら問題無いようだ。

「魔石は……ふむ、一割くらいしか減っとらんな」

船体後方に取り付けられた、推進に使う魔石の色を確かめたエトが言う。

「あれだけ走って一割ですか……。十倍だとすると三、四時間は小魔石で走れそうですね」

「うむ。二種類の魔石を使ってはおるが、燃費は良いの」

エトの言う通り、魔動水上バイクは風と水、二種類の魔石が使われている。(強度アップに使っている土の魔石除く)

水を吸い込む所と噴射させるところは水属性、水を圧縮する部分が風属性だ。

旧魔法時代の代物らしく元の船は無属性の魔石だけだったが、魔石の価格や入手難易度を考えて、あえて複数魔石仕様に作り替えている。

無属性魔石で出来る事の一部をリークしたため、無属性魔石の価格が跳ね上がり、属性魔石の価格が少々下がったのだ。

勇達だけのことならば、唯一の無属性魔石産地があるため安価かつ容易に無属性魔石の入手が可能なのだが、同一派閥家や今後の領地外での運用を考慮してのものでもある。

そんな安価な水と風の小魔石で三、四時間も走れるのであれば、非常に運用はしやすいだろう。

複数の魔石を搭載する事で、さらに航行時間を延ばすことも可能だ。

その後も乗り手を変えて何度か試験走行を行い、問題無しと判断。ついに魔動水上バイクが完成した。

それは、 この世界(エーテルシア) で最も速い乗り物が完成した瞬間でもあった。

「んんん? この部分だけは読めるのか??」

ヴェガロアにある研究所で魔法陣を調べていた勇が声を上げた。

魔動水上バイク完成後、勇達は次の段階であるウォータージェット推進の中型船の試作に取り掛かっていた。

魔道ジェットヨットとでも言うべきソレは、ある程度沖合での漁業や海運に使う事を想定した船である。

推進装置は、水上バイクのものを大型化、高出力化するだけなので大した問題は無い。

が、船体の方はそうもいかない。

ゆうに十メートルを超える大きさになるため、全く新しい船を作るようなものなのだ。

そのため、レベッキオらが船体を試作している間の時間を使って、勇はあらためて鹵獲した魔道船の魔法陣解析に乗り出していた。

今勇が解析をしていたのは、小舟の上部中央に付いていた直径三十センチほどの半円形の部品だ。

内部には複数の魔道基盤が積層化されるように収められており、ドーム状の外装の内側にもびっしり魔法陣が描かれている。

ほとんどが読めないものだったのだが、積層された基板の一枚が、遂に読める魔法陣だった。

「む? ついに読めるのがあったか?」

少し離れたところで中型船用の操縦装置を設計していたエトが、勇の声を聞きつけて歩いて来た。

「ええ、ようやく。さて、どんな機能なんだ? …………ん? なんだこれ? 魔力? 残滓? 渦? で、それがどちら向きかを見極めて……」

首を捻りながらも読み進めていく勇。

描いてある事こそ分かるのだが、前提となる理論が分かるとは限らない。今回のものもこのタイプのようだ。

「この計算式どっかで見たことあるな……、あ、これ対数螺旋か? で、最終的には魔力残滓? の濃度を量ってその方向を固定……」

なおもブツブツ言いつつメモや計算をしながら解読を続ける。

「あーーーーーーっ!! そうか、そういう事か!!!」

「にゃっ!?」

「うおぅっ!」

十分ほどブツブツ言っていた勇が急に大きな声を出したため、うたた寝していた織姫と、それを撫でていたエトが跳び上がる。

「なんじゃ? 何か分かったのか?」

「ああ、すみません驚かせて。多分ですけど、これは方角を正確に調べるための魔法陣だと思います!」