軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第244話●いざいざ王都

おそらく この世界(エーテルシア) 初の、馬車ではなく魔動車を連ねたキャラバンは、出発前も賑やかだったが出発しても賑やかだった。

「ティラミスッッ!! またお前か~っ!!」

「うひぃっ。みつかったっす!! キキちゃん逃げるっすよ!」

「みゅみゅーっ!」

街道沿いにある共用の野営スペースで小休止を取り、いざ出発というタイミングでフェリクスとティラミスの大きな声が聞こえてくる。

今回勇が率いるマツモト新男爵家の車列には、多数の魔動スクーターが参加している。

基本一人乗りだが、魔動車よりスピードが速く燃費も良いので、先行して偵察したりするのに向いている。

ちょうど、馬車に随伴する騎馬に近い扱いだろう。

そんな魔動スクーターの一台に、乗物全般の運転をいまだ禁止されているティラミスが、一瞬の隙を突いて乗り込み逃走を図ったのだ。

「こらっ! 待たんかっ!!」

肩に 愛猫(パートナー) のキキを乗せて街道を逃げていくティラミスのスクーターを、フェリクスのスクーターが追いかけていく。

ちなみにフェリクスは、新男爵家では晴れて騎士団長に就任する予定である。

「やれやれ、仕方がないヤツだな、あいつは――」

「にゃにゃっふ~」

「おや、先生どうされましたか?」

魔動車で追走しながら苦笑するミゼロイの頭に乗っていた織姫が、その頭をテシテシと叩きながら溜息をつく。

「にゃお~~~~ん」

そして一鳴き……。

「ぎゃーっ! 痛いっす!!」

数秒後、前方からティラミスの悲鳴が聞こえてきた。

「まったく貴様は……。何をやってるんだ」

「うぅ、キキちゃん酷いっす……」

「みゅーー」

結局すぐに捕まったティラミスが、貨物タイプの魔動車の荷台に正座をさせられて、フェリクスから懇々と説教を受けていた。

その横では、キキが何食わぬ顔で香箱座りをしている。

ティラミスにくっついて一緒に逃走したキキだったが、織姫の鳴き声を聞いた瞬間にティラミスを引っ掻き、逃走を止めるきっかけを作っていた。

プラッツォから帰って以来ずっとティラミスと行動を共にしているキキは、ティラミスのやらかしにも便乗するようになり、随分とお転婆に育っている。

しかし織姫の指示は絶対なようで、今回のように目に余る行動をした場合は織姫の指示によって容赦なく引っ掻くなど、ある意味実に猫らしい性格に育っているとも言えた。

今回の騒動は、仲が良いとは言え上位の貴族がいる中で起こされた事だったため、ティラミスは給料没収一年の沙汰が下った。

懲戒免職、下手をすれば手打ちになっていてもおかしくないレベルではあったが、他の当主たちが「自分も運転を止められていてその心情は分かる」と逆に擁護に回ったための温情差配であった。

そして道中の騒がしさは、そんな当主たちも原因となって巻き起こっていた。

「どうやオリヒメ、ウチの風呂は? この滑らかな手触りはな、アイスバジリスクの石化ブレスの素になる袋から抽出した粉を塗りつけて磨いてあるんや」

「さあオリヒメ、私のコタツ布団で寝てみてくれ。 一角狐(ホーンフォックス) の毛皮の中に最高級の魔羊の毛を詰めた、最高の品だ」

「ようオリヒメ! 今回は五種類の鳥の肉を用意してるんだがどうだ? 料理番も連れて来てるから、煮るも焼くも思いのままだぞ?」

「にゃーふーー……」

出発前に行われていたザバダック家、ビッセリンク家、ヤンセン家の三当主による愛車自慢が、出発後には織姫に対するアピール合戦へと形を変えてなおも続いていたのだ。

ズヴァールがアピールしていたのは、独自にカスタマイズされた風呂馬車だった。

アイスバジリスクは、寒冷地に住む巨大な蜥蜴という相変わらず矛盾した魔物なのだが、口から触れた物を石に変えるブレスを吐くらしい。

大層恐ろしい魔物だが、そのブレスの元となる粉は、様々なものに塗って磨くとまるで大理石のような見た目になるため珍重されている。

討伐難易度の高さから非常に高価な代物だが、ズヴァールは当たり前のようにそれを自前で用意、バスタブに使うという暴挙に出ていた。

しかし最初は物珍しそうにカキカキしていた織姫だったが、特段風呂が好きなわけでもないため、あっという間に飽きて風呂馬車から去ってしまうのだった。

続いてマレインは、織物が名産である自領の特性を生かして、超豪華なコタツ布団を馬車へ持ち込んでいた。

角を生やした大型の狐のような魔物である 一角狐(ホーンフォックス) の毛皮を贅沢に使ったものだ。

白っぽい色から栗毛色へと至るグラデーションカラーの毛皮は、ふわふわとした触感ながらほとんど毛が抜けないため、貴族の襟や袖のファーに人気の高級素材だ。

大型と言っても大型犬程度のサイズなので、布団にするにはお金も手間もかかっている事は容易に想像がつく。

しかも中に詰めてあるのは、これまた高価な魔羊の羊毛だ。美しさと機能性の両方を備えた逸品と言えよう。

しかしこちらについても、フンフンと匂いを嗅いで多少身体を擦り付けただけで、包まることなく馬車から出て来てしまった。

毛皮の扱いに関しては、織姫のご神体ぬいぐるみの責任者であるミミリアが、もはや王国一というレベルにまで達している。

絶えず最高の素材を求める彼女が、事あるごとに持ってくるサンプルの感触を織姫が確かめていたことで、その目が異常なほどに肥えてしまっていたことが、マレインにとって最大の不幸であった。

最後にダフィドだが、こちらは前者二人とは違い、食べ物で釣ると言うど真ん中のストレートで勝負に出ていた。

しかも実績のある鳥タイプの魔物の肉を複数種類用意する周到さである。

これはさすがに勝負ありかな、と苦笑しながらその様子を眺めていた勇。

ダフィドもそう思っていたらしく、ニヤニヤと両伯を横目で見ていた。

が。一筋縄ではいかないのが織姫だった。

出てくる肉の匂いをフンフンと嗅いで一口食べるものの、それ以上食べることは無かったのだ。

ちょうど食事の時間だったのだが、結局は勇が用意した“いつもの食事”を美味しそうに平らげると、その後もダフィドの用意した肉を食べることは無かった。

勇がいつも織姫に食べさせている食事は、クラウフェルト家の料理長であるギードを中心にした有志によって作られている。

そこには冒険者ギルドのロッペンも加わっているのだが、食材のほとんどはその冒険者ギルドから提供されたものだ。

織姫が冒険者と共に森に入り獲物を仕留めていたのは周知の事実だが、あらたに加わったにゃんズたちも狩りに慣れたのか、同じように森に入る事が増えていた。

それと共に、冒険者ギルドに持ち込まれる魔物の質と量が急激に上がることになる。

そしてその高級な食材の数々が、提供の大元である織姫らの食事用に提供されていたのだ。

上位貴族でも中々口に出来ない食材をふんだんに使い、織姫に甘々な料理人達が日々飽くなき改良を施している“いつもの食事”がどんなことになるか……?

ダフィドの用意した肉も庶民は中々口に出来ないものだったが、今回ばかりは相手が悪かった。

こうして趣向を凝らした懐柔策合戦は、全員が敗北するという惨憺たる結果で幕引きと相成った。

もっとも当事者の当主たちは、それによって多少凹みつつも次こそは! と闘志をみなぎらせている。この辺りは、さすが貴族家当主の面の皮の厚さといったところだろう。

そんなこんなはありつつも道程自体は平和なもので、(当主自らが)時折現れる魔物を蹴散らしながら、三日目の夕方には王都へと無事辿り着いていた。

馬車であれば最低五日はかかる距離なので、「王都も随分近くなったもんやな」とズヴァールなどは笑っていた。

王都へと着いた各家の一団は、そこで家ごとに分かれて年明けの大評定まで過ごすことになる。

クラウフェルト家は、去年まではヤンセン子爵家と同じ“銀龍の鱗亭”という貴族向けの宿に泊まっていたが、今年からは少し前に完成したタウンハウスに滞在する。

「おお、ここがタウンハウスですか! お洒落だし、ちゃんと大きな駐車場があって良いですね!!」

一緒に宿泊する勇が、初めて見るタウンハウスに目を輝かす。

その横ではセルファースが、執事に留守中の確認をしていた。

「おかえりなさいませ。長旅お疲れ様でございました」

「ああ。変わりは無かったかい?」

「はい。地下と壁の工事も終わっております。それと、昨日イノチェンティ辺境伯閣下ご一行が到着されまして、お手紙を預かっております」

「そうか。先に手紙だけ確認しよう」

「どうぞ、こちらになります」

執事から渡された手紙に、セルファースが素早く目を通していく。

このタウンハウスは、元々ナザリオ・イノチェンティ辺境伯が所有する空き家だったものを譲り受けたものだ。

そのためお隣には、辺境伯の立派なタウンハウスが建っている。いわばご近所さんだ。

「ふふ、どうやら閣下が首を長くしてお待ちになっているらしい。ユリア嬢もアンネの話を聞きたがっているそうだよ?」

「ユリアが、ですか?」

「ああ。どうやったら新しい貴族家当主の妻の座を手に入れられるのか、とね」

「……もうっ! ユリアは相変わらずなんだから」

ユリアとはナザリオの娘で、アンネマリーの学園時代からの親友でもある。

何かにつけて、堅物だったアンネマリーと勇の仲について根掘り葉掘り聞きたがるのだが、今回さらにネタが増えたらしい。

「はっはっは。仲が良さそうで何よりだよ。閣下には明日の夕方に伺うと伝えておいてくれ」

憤るアンネマリーを見て笑いながら、セルファースが執事に指示を出す。

「ああ、それと。王妃陛下にも遣いを頼む。お待たせしていた“養子”を連れてまいりました、とね」

「かしこまりました」

指示を受けた執事は頷くと、一礼して下がっていった。

「お義父さん、壁と地下室と言うのは?」

旅装を解いて、リビングで夕食までの休憩をとっていた勇が、同じく休憩中のセルファースに尋ねる。

「ああ。元々古い屋敷に手を入れただけだったからね、例の保温石による断熱と防音工事をしていたんだよ。地下室は隠し部屋兼 魔法巨人の書記(ゴーレムライター) 用だね」

「なるほど、そういう事でしたか」

「本宅と違って、こちらは他家の耳目が多いからねぇ。最低限の防衛策だよ」

領都には基本的に他の家のものはほとんどいないのだが、王都はそれこそ国中の貴族や関係者が集まっている。良からぬことを企てる輩も、その分多い。

ましてやエポックメイキングな魔法具を次々と開発しているのが知られているクラウフェルト家など、格好の的だろう。

警備を厚くするのはもちろん、少しでも防諜・防犯対策を施そうという訳だ。

「ん~~、じゃあ外壁にも手を入れましょうか? 直接攻撃されるようなことはまずないので、対物理の魔法陣はお守りですけど、電撃柵のほうは侵入防止に効果的ですからね」

セルファースの話を受けて、勇が更なる防犯対策を進言する。

「お、じゃあ頼めるかい?」

「任せてください。夕飯後にでも取り掛かりますね」

電撃柵は、クラウフェンダムの外壁に 魔法巨人(ゴーレム) 対策として取り付けたものの進化版だ。

あちらは有事になってから作動させることを想定しているので、起動したら常に電撃が流れている。

対してこちらに組み込むのは、外壁を乗り越えようとする相手を撃退するのが目的なので、外壁の上部に設置する。

そして二十四時間動かし続ける必要があるため、常時起動型となる。

ずっと電撃が流れ続けていても良いのだが、それだとあまりに燃費が悪い。

何かが触れた時にだけ電撃が流れるようにするのがベストだが、完全に電撃もとい魔力が流れないようにすると魔法陣自体が非アクティブになってしまう。

なので、ごく弱い魔力を流し続け、触れた時だけその出力を瞬間的に上げるように改造する予定だ。

夕飯後、エトらと共に早速改造に取り掛かる。

魔法陣自体の改造は、最近よく使っている感圧式の魔法陣を組み込むだけなので、さほど時間はかからなかった。

魔法陣を組み込む筐体部分だが、外壁の上に載せる部分と外壁の上部に直接貼り付ける部分に分かれる。

上に載せる部分は、改築時に取り外した外壁用の飾りが残っていたため、それを再利用した。

外壁上部には、薄く形成した保温石の板の裏に魔法陣を描いて貼り付けていった。

エトもヴィレムも何度か作った事がある魔法陣の応用形なので作業は順調に進み、翌日の昼頃には組み込みが完了していた。

その日の夜はお誘いを受けていたイノチェンティ家の晩餐会に参加する。

晩餐会は、根掘り葉掘り聞き出そうとするユリアに、顔を真っ赤にしながらも嬉しそうに答えるアンネマリーという伝統芸能を披露して、平和裏に終わった。

そしてその翌日の午後。昨日の内に返事の来ていた王妃との謁見兼“養子”の引渡しのため、勇とセルファースは王城へと足を向けた。