軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第219話●魔動車高速化への道

「お、戻ったか」

「ああ、イサムさんお帰り」

「ただいま戻りました」

研究所へと戻った勇を、エトとヴィレムが迎えた。

「戦況はどうじゃった?」

「まだ勝敗はついていないようですが、辺境伯の皆さんの援軍が間に合ったので、ここからが本番という感じですね」

「そうか、ひとまずは良かったの」

やはり気になっていたのか、勇の答えを聞いたエトとヴィレムがホッとした表情になる。

「ええ。魔動車を現地生産しておいて良かったですよ、ホントに……」

「そうだね。早めに判断しておいて正解だったね」

元々は同一派閥内であろうと魔動車の製法は秘匿する予定だったのだが、アバルーシの一件を受けて方針を変更、一部の基幹パーツを除きセミ・ノックダウン方式で同盟領での魔動車生産を行っていた。

各領主とも戦上手なだけあって魔動車の有用性にはすぐに気付き、持てるリソースを全て突っ込んで生産を行った。

その結果、前線へいち早く精強な部隊を送り込むことが出来たため、どうにかズンの侵攻をすんでの所で食い止めることに成功したと言える。

「で、次は魔動車を速くするという話じゃったか?」

ひとしきり戦況についての話を終えたところでエトが切り出す。

「ええ。やはりスピードは力ですからね。それで作ったばかりの 魔法巨人の書記(ゴーレムライター) を前線に早く配備したいんですよ。なので、今の倍ほどの速度は出せるようにしたいですね」

「さらに倍ですか!? 馬の 駈歩(かけあし) より速くなりますね……。しかも馬とは違って魔石があればずっと走れるんですよね?」

勇の目指す数値を聞いたアンネマリーが目を丸くする。

駈歩、いわゆるキャンターは、馬による行軍においての事実上の最大速と言っても良いだろう。

おおよそ時速二十~三十キロほどで走る事が出来る。その分移動効率は悪くなり、一日の総移動距離は三十キロ程度だ。

競馬などでも目にするもっと速い 襲歩(しゅうほ) 、いわゆるギャロップで走れば時速六十キロは出せるのだが、あれは持って精々五分程度、一日の総移動距離も五キロメートルほどになってしまう。

なので、戦場での突撃くらいにしか使えない。

「ただ、今の魔動車でこれ以上速度を出すのは、曲がれなくなって危険なんですよね……」

「でふ、とか言うのが無いからという話じゃったか?」

「ええ」

エトが言う“でふ”とは、デファレンシャルギア、通称デフのことだ。

現代の四輪の乗り物には一部の例外を除いて組み込まれている機構で、コーナリング時にどうしても発生する外輪と内輪の回転差を吸収する。

これが無いと四輪車はスムーズに曲がる事が出来ないのである。

現状の魔動車はデフが無いため、片輪が微妙に浮いたり、ドリフト状態で曲がっている。

まだ速度が遅いためその程度で済んでいるが、これ以上速度が出ると曲がらなくなるか横転する可能性が非常に高いのだ。

三輪自転車のように駆動輪を片輪にする事である程度解消はするが、それはそれで速度が上がると色々な問題が出てくる。

「残念ながら、私はデフの詳しい仕組みまでは知らないんですよね……」

ある程度車好きであれば、デフの存在や原理は何となく把握してはいるものの、実際にどういう機構になっているかまで知っている人間は少ない。

ましてやそれをゼロから自分で設計しろと言われて出来るのは、ごく一握りだろう。

「今後の事を考えると是非実用化はしたいので、職人の方々に実験はしてもらいつつ、今回は思い切って二輪タイプを作ろうと思ってます」

「へぇ、二輪タイプかぁ。最初に作ったランドヨットだっけ? あれを二輪にした感じなのかい?」

「それも一つの手ではあるんですが、ランドヨットで速度を上げようとするとどうしても帆が大きくなっちゃうんですよねぇ……」

魔動車を作成する際に最初に試作したランドヨットは、帆に風を受けて走る三輪車だった。

帆を大きくして風量を上げれば、かなりの速度を出すことは出来るだろうが、デメリットが大きい。

林間を走る街道も多いため大きな帆があると邪魔になるし、荷物もあまり積めない。

また、高さがある分非常に目立つため、戦地で運用するのも危険である。

何より向かい風に弱いのは致命的だろう。

「なので、私の国にあったバイクという乗物を参考にしたいと思ってます」

そう言いながら、勇が簡単な絵を紙に描いていく。

「ほう、色んな形があるんじゃな」

「ええ。どの形状が現実的かが、作ってみないと分からないんですよねぇ……」

アメリカンタイプっぽいもの、レーサータイプのもの、そしてスクータータイプのものを描きながら勇が苦笑する。

「ふむ。こいつも動力は繰風球を使うのか?」

「その予定です。他にもいくつか動力に出来そうなアイデアはありますけど、なるべく早く作りたいので、まずは実績のある繰風球でいこうかと」

動力はモーターのような回転運動である必要は無い。エンジンのような上下運動でも、反復運動であればそれを最終的に使える形に変換するだけだ。

色々な魔法陣や、メタルリーチを筆頭とした様々な魔物素材がある今、勇の知識でも動力源に出来そうなアプローチがあるにはある。

しかし実用化を急ぎたいので、今回は制御方法まで確立している繰風球をベースにするつもりだ。

「その代わり、今回はパワーは極力落とさずに小型化しようと思っています」

「へぇ。そんな事が出来るのかい? 矛盾してるような気がするけど」

「多分、ですけどね」

そう言って笑いながら、勇がどういうアプローチをするのかを図に描きながら説明を始めた。

「なるほど、複数使えば確かにパワーは上がるか……」

「ええ、繰風球は小さくしても風を吹かせる範囲は狭くなりますけど、強さはあまり変わらないっぽいんで、こうやって複数取り付けようかと」

唸るエトの目線の先には、勇が作ったモックアップモデルがあった。

断面が*状になった垂直軸型の風車のような形状で、幅は四十センチ程だろうか。

ブレードは六枚で、一枚置きに小型化した繰風球がブレードとブレードの間に合計三個取り付けられている。

それが二回りほど大きなケースに収められるようになっていた。

ちなみにモックはメタルリーチ製だ。贅沢な話だが、魔力を込めると柔らかくなり止めるとすぐ硬化するその性質が、モック作成に最適なのだ。

「今までは、これに似た大型の風車を直接車軸に付けて回していましたけど、今回は動力源として独立させようと思ってます」

勇が作ろうとしているのは、簡易なエアモーターとかエアタービンと呼ばれるものだ。

普通の電気モーターが電磁力によって回転するのに対して、文字通り空気の力で回転させるモーターである。

火花が散らないため火気厳禁の場所で使われたり、過酷な環境下でも作動するため様々な分野で使われている。

地球のものは、高効率化を図るため内部で回転するローターと呼ばれるパーツの形状がもっと複雑なのだが、そんな内部構造までは知らないのでごく単純な形状である。

また、地球のものはモーターの外から動力となる空気を送り込んで使うのだが、繰風球はその場にある空気を直接動かすのでさらにシンプルな構造となっていた。

「繰風球をブレードから少し離した位置にこうやって固定して稼働させれば、無駄なくブレードに風が当たるんじゃないかと思いまして」

「なるほどの。確かにこれなら発生した風が全部羽根に当たるの」

「ああ、しかもこれ、繰風球も風車と一緒に回転するから、常に風が当たり続けるのか……」

「はい。理論上はこれで上手く回ってくれるはずなんですよね。ただ、高速で風車が回転したらどうなるか見当がつきませんので、まずは実験してみようかと」

理論上で分かる事もあれば、分からない事もある。身近にある接着剤ですら、接着の原理はいまだに解明されていないのだ。

実験できるものは実験してみるに限る、という事で、モックを使って早速実験をしてみる。

魔力を流さなければ硬いままというメタルリーチの特性は、こうしてすぐに実験が出来るという事も大きなメリットだ。

まずはブレードに、金属パーツで小型繰風球を固定していく。

この金属のパーツには、繰風球を起動させるための起動陣と機能陣を繋ぐ魔法陣が描かれており、接続ケーブルの役割も果たしている。

固定した繰風球に風の魔石を嵌めて、回転軸を外に出すようにしてケースに風車を格納すれば準備は完了だ。

ちなみにケースには、外から中の様子を見られるよう何箇所かに穴が開けられている。

「さーて、では動かしてみますね」

風車の側面中心に埋め込まれている起動用の魔石に触れると、フォンというお馴染みの起動音と共に繰風球が風を起こし始める。

指定した風力がいきなり発生するわけではなく、徐々に風力が上がっていくのが繰風球の特徴だ。

数秒で風車が回り出し、その後さらに数秒で指定した風力に到達したのか、風車の速度が一定になった。

「おお、回っとるの!」

「そこそこの速さで回ってるけど、問題無さそうだね」

「そうですね。繰風球も正常に動いてそうです」

ヒューンという独特の風を切る音をさせて回る風車を見て、三人の表情がほころぶ。

そのまましばらく様子を見ていたが、特に異常は見当たらなかったため一度停止させようとした時に問題が発生した。

「あ、これ止めるのが大変だ……」

起動用の魔石に触れようとした勇が手を止めて呟く。

止めた指の先には、風車の中心でグルグルと回り続けている魔石があった。

テストなので最大出力の一割程度で動かしているが、それでもそこそこの速度で回転している。

怪我をするようなレベルでは無いが、手を出すのを一瞬躊躇するレベルではあった。

「何をしとるんじゃ、お前さんは……」

「あはは、ちょっと考え無しでした。今回は繰風球を取り付けた風車自体が回転するので、別パーツから魔力を送るのが難しいんですよねぇ……」

呆れるエトに、勇が苦笑して答える。

魔法陣を描くことが出来る勇にとって、魔法具は魔法陣が繋がってさえいれば魔石の魔力を供給することが可能だ。なので魔石も好きな所に配置する事ができる。

今回も、外側を覆うケースに起動用の魔石を付けて、風車と接触している回転軸にも魔法陣を描いて繋げれば、魔力の供給自体は出来る。

しかし接触部分が回転するという事は、魔法陣も接触したまま回転すると言う事だ。

魔法陣を描く魔法インクは硬化するとそこそこの強度はあるのだが、さすがに回転し続けるとすぐに削れてしまい、魔法陣の接続が切れてしまう。

それを防ぐために、動く風車のケースから外に飛び出している中心部に魔石を付けたまでは良かったのだが、停止させる時の事まで頭が回っていなかったようだ。

「なるほど。確かにここまで回転してると、すぐに擦り減っちゃうだろうねぇ……」

「う~む、今までは考えたこともなかった問題じゃの」

「ええ。 魔法巨人(ゴーレム) でさえ、動かない場所はありましたからね。常に動き続ける魔法具というのは初めてかもしれません」

理由を聞いてヴィレムとエトも唸ったまま黙り込んでしまった。

「あの~……」

そんな沈黙を破ったのは意外な人物だった。

「魔力を飛ばす事って出来ないんでしょうか??」

「魔力を飛ばす??」

これまでずっと黙って見ていたアンネマリーが、小さく手を挙げながら提案する。

「ええ。話に出てきた 魔法巨人(ゴーレム) ですけど、第一世代は動きを無属性の魔力に変換して飛ばしていたんですよね? この魔法具でも、その方法は使えないのでしょうか?」

「!!? そうか! その手があったか!! 動きを再現するためのデータっていう認識しかなかったけど、飛ばしてるのは確かに無属性の魔力なんだった!」

アンネマリーの言葉に一瞬ポカンとしていた勇だったが、その表情がみるみる歓喜のものに変わっていく。

そしてがしっとアンネマリーを抱きしめた。

「ひゃっ!?」

「はっはっは、さすがはアンネだよ!! うん、それならいけそうな気がするよ!!」

「いや、その、私はただそう思っただけで、あの、その……」

抱きしめられたままのアンネマリーが、顔を赤らめてしどろもどろになる。

「よし、じゃあ早速試してみましょう!」

こうして魔動エアモーターの作成は、次のステップへと進んでいった。