軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第209話●それぞれの役割

ヤリスコフの言う通り大食らいの第一世代ではあるが、予備の魔石も搭載されており、本来であればこの程度で魔力を使い果たすことは無い。

勇の機転と騎士達の頑張りで、クラウフェンダムから大量の魔石を確保することは出来なかったが、問題無くメラージャを落とせる程度には魔石は用意されていた。

メラージャほどの規模の街であれば大きな魔法具の商会がいくつかあるので、魔石も現地調達でき、継戦にも問題が無いはずであったのだ。

「おや、例の軍師が合流したようですね。ふぅ、よかった、ギリギリでしたね」

メラージャの物見櫓で様子を見ていた勇の目に、複数の騎兵を率いた一団が第一世代の駐留場所へ合流する様子が映る。

騎兵に合流されるとヒットアンドアウェイの難易度が増すし、かの軍師に目論見がバレかねない。

時間との戦いだったが、どうやら紙一重で天秤は勇達に傾いてくれたようだ。

「まさか本当に第一世代を無力化するとは……」

勇の隣で様子を見ていたリリーネが驚く。

「どの程度で動かなくなるか分からないので、賭けみたいなものですけどね。まぁ最悪無力化出来なくても相当稼働時間を減らせるはずなので、やって損は無かったと思いますけどね」

安堵の表情で勇が答えた。

今回勇達がとった作戦はシンプルだった。

魔法巨人(ゴーレム) の動力源である魔石の魔力を消耗させ、あわよくば燃料切れの状態に持ち込むことである。

真っ向勝負では勝ち目が薄いので、こちらが勝っている点で勝負をしかけた格好だ。

元々第一世代は燃費が悪いと聞いていたし、無属性の魔石も小型の物以外はほとんど相手に渡っていない。

しかも第一世代と合流してから気付いたのだが、魔石の運用は操縦者任せになっていた。

予めリザーブ用の魔石も搭載されているし、普通に行軍して街を占拠するだけなら魔力に余裕があるためだろう。

そもそも実戦配備されて間がないため、魔石の運用方法も確立されていない。

また、森を抜けての電撃戦だったため、ちゃんとした輜重部隊がいなかったのも勇達に有利に働く。

対してこちらは無属性魔石が潤沢にある上、小魔石でオーバードライブ出来るように改造が施されている。

そしてこれまでの勇達による魔法陣、魔石の研究で、短時間での高負荷やオン・オフの繰り返しによって、魔石の魔力効率が悪くなることが分かっている。

さらに、元々は操縦の妨害に使えないかと思っていた散魔玉による魔石粉の散布が、消費魔力を増やす効果があることを、先の戦いで気付くに至っていた。

それらの情報を元に、魔法装甲に負荷を与え続け、攻めては引くのを繰り返すことで一気に相手の魔石を消耗させることに成功する。

もちろんこちらも相応に魔力を消費するのだが、小魔石で運用できる点が決定的な差となり、相手方だけが一方的に消耗する事になったのだ。

「サミュエルさん達を追っていった第一世代が何体か残っていますが、こちらの 魔法巨人(ゴーレム) は全て万全ですからね。向こうから仕掛けてくることはまず無いでしょう」

動きの無い相手陣営を見ながら勇が言う。

「そうだな。あの軍師も戻って来ているし、迂闊な事はしないだろう」

隣にいるリリーネも頷いた。

「さて、では最後の一仕事をしましょうか」

「了解した。間もなく相手の騎馬本隊が合流するからな。その前に決着を付けよう」

両者はそう言って互いに頷き合うと、物見櫓を後にした。

その後全ての第二世代とメラージャの騎士達で打って出た勇達が、相手の陣を強襲する。

ズン側も反撃を試みるが多勢に無勢。

騎兵とまだ動ける五体ほどの第一世代が文字通り盾になる形で、将軍を逃がすのがやっとであった。

こうして十体以上の第一世代の鹵獲に成功するとともに、何名かの兵士と共に軍師であるヤリスコフをも捕らえるという最高の形で、メラージャでの戦闘は一旦の幕引きとなった。

「んーー、久々にしっかり寝た気がするな。心配してた夜襲も無かったみたいだし」

「にゃっふぅ~」

翌朝遅く目を覚ました勇が、寝室の窓を開けて大きく伸びをした。

ベッドの上では織姫も伸びをしている。

昨夜は軽く戦勝祝いをした後、メラージャの領主であるメルシュ子爵家の屋敷に、アンネマリー、護衛の騎士と共にお世話になっていた。

あの後、合流した騎兵隊による再度の襲撃を警戒して夜間の監視体制を強化していたが、結局何事もなく翌朝を迎えていた。

捕虜となったヤリスコフによれば、将軍も長年軍人をやっていて馬鹿では無いので、合流後は撤退するだろうと言っていたがその通りとなった格好だ。

そのヤリスコフだが、自身を助けに来る事は無いのかと聞いた時に「私は嫌われているのでね」と自嘲気味に笑っていたのが印象的だった。

「あ、イサムさん、おはようございます!」

「おぉマツモト殿。昨夜はよく眠れたかい?」

客室に備え付けられていた洗面台で、魔法で出した水を使って身だしなみを軽く整えた勇がダイニングへ顔を出すと、先に起きていたアンネマリーとマリエンテ・メルシュ子爵が声を掛けてきた。

「おはようございます、マリエンテさん。アンネもおはよう。お陰様でよく眠れました。すみません、遅くまで寝てしまって……」

「昨日まであれだけ戦っていたのだから無理もない。ちゃんと休めたようで良かったよ」

申し訳なさそうに謝る勇に、マリエンテは笑いながら答える。

「マツモト殿、アンネマリー嬢、あらためてプラッツォ王国貴族の一人としてお礼を申し上げる。この度は本当にありがとう」

歓談しながら朝食を摂り、メイドの淹れたお茶で一息ついたところで、居住まいを正したマリエンテがそう言って頭を下げた。

「マリエンテさん、顔を上げてください。 我々は目の前の事に対して出来る事をやっただけです。それにこの戦いはプラッツォだけの問題ではなく、我々シュターレン王国にとっても重要なものですからね」

「確かにそうかもしれんが、そのおかげで多くの者が救われたのだ。どれだけ感謝の言葉を並べても足りぬよ。この礼は、後日必ずさせていただく」

そう言って再びマリエンテが頭を下げた。

「分かりました。ただそのお話は、王都が落ち着いた後にしましょうか」

ひとまず受け入れないとキリがなさそうなので、勇はそう言って話を進める。

「うむ……。王都からは距離があるため一報は入っておらぬが、マツモト殿の言っていた通り王都へ侵攻があるのは間違いが無いようだな……」

あからさまな話題変更に苦笑しながらマリエンテが答える。捕らえたヤリスコフを尋問した結果、同様の話が出てきたと言う。

「我々は近隣の領主と連携して、明日にでも王都に騎士団を派遣することになるだろうが、マツモト殿はこの後どうされるのだ?」

王都が攻められるのは間違いないだろうが、全ての領主が全軍を率いて駆けつけてしまえば今度は各領地が危険にさらされてしまうため、最低限の防衛戦力は残す必要がある。

地域ごとに最も爵位の高い貴族家の領主を大将とする連合部隊を結成し、王都へ駆けつけることになるだろうと言うのが、マリエンテの見立てだ。

すでに一報の早馬は、昨夜のうちに各所に飛ばしているそうだ。

「おそらく近日中に、シュターレンを発った援軍が駆けつけてくれるはずなので、まずはそれを待とうと思っています」

「確か、フェルカー侯爵家だけでなく、ザバダック辺境伯家、カレンベルク伯爵家も加わっているという話だったか?」

「はい。三千近い兵力になるはずだと、サミュエルさんは見積もっていましたね」

「三千か……。こちらも王都へ着くころには二千くらいにはなっているはずだから、合流すれば結構な戦力になるな」

「南側からも同じくらいの兵力が北上すると思います。兵力的にはズン本隊の方が多いですが、こちらは挟撃できるのでそこまで戦力差はないはずです」

「うむ。では我々は早速派兵の準備を始めるとしよう。そちらの部隊が到着したら、可能であれば我々と合流して欲しいと伝えてくれぬか? こちらは合流しながらなので少々足が遅い。恐らくすぐに追い付かれるはずだ」

「分かりました。確とお伝えします」

「頼んだぞ」

今後の方針を確認した両者は握手を交わすと、マリエンテは派兵準備のため席を立った。

「イサムさんはこの後どうするんですか?」

勇と共に席を立ったアンネマリーが、勇の横を歩きながら尋ねる

「ズヴァールさん達の部隊が到着するまでは、鹵獲した第一世代をゆっくり調べてみるつもりだよ」

「なるほど。この館で調べるんですか?」

「いや、色々と道具も欲しいし、エトさん達も楽しみにしてるからね。ザンブロッタ商会の支店を借りようと思ってる。シルヴィオさんから国中の支店に話が通っているらしいよ」

勇のオリヒメ商会と専売契約を結んだシルヴィオは、勇達が協力を求めてきた場合は最優先してそれに応えるよう通達をしていた。

半分は善意だが、残りの半分はそうしたほうがより商会が儲かると踏んだ打算からである。

勇としてもそれを知っているので、遠慮なく頼めるというものだ。

そんな事を談笑しながらザンブロッタ商会へと辿り着いた勇を、まさかの人物達が待っていた。

「おお、イサム。久しぶりやな」

「かっかっか、派手にやらかしたそうではないか? 元気そうで何よりよの」

応接室に客人が来ていると案内されて向かった先にいたのは、ズヴァール・ザバダック辺境伯とエレオノーラ・エリクセン伯爵の二人だった。

「え? ズヴァールさんにエレオノーラさんまで!? どうしてここに??」

「今朝方突然訪ねて来られまして。ご領主様の館へご案内すると申し上げたのですが、マツモト様はこちらに来るはずだし、領主もびっくりするだろうから待たせて欲しいと仰られまして……」

驚愕する勇に、支店長が説明をする。

「あの魔動車というのはええな。馬と違って休ませなくても良いから、随分早く着いたわ」

「わっちも魔動車よ。ルビンダのじーさま達が、自分らはいいからイサム達のほうへ向かってくれと言うからの」

「……なるほど」

これは付いてきた人たちが可哀そうなことになっているな、と思った勇が苦笑する。

「そ、それでは何かありましたらお呼びください!」

勇が来るまで、当然訪ねてきた隣国の大物の相手をして困り果てていた支店長は、心底ほっとした表情で二人を勇に託すと、すぐさま応接室を後にした。

大慌てで逃げるように去っていく支店長の背中に心の中で謝りながら、勇もアンネマリーと共にソファへ腰を下ろした。

「お二人とも領地を空けて大丈夫なんですか?」

「ああ、大丈夫や。アレクセイの坊主んとこは監視しとる。それに、ニコレットの嬢ちゃんの策略で迂闊な事は出来んくなっとるからな。あれは大したタマやな……」

「わっちんとこはそもそも傭兵だからの。領地を空けるのが普通よな。だからこその狭い領地よ」

「そうですか……」

ズヴァールの口から何やら不穏な言葉を聞いた気もするが、一先ず飲み込む。

「今日はな、イサムに大事なことを伝えようと思って急いできたんや」

「わっちもよ。ルビンダのじーさまたちも同じことを言うておったよ」

「大事なことですか?」

「今回の一件、ここまでイサムにずっと戦わせてしまってすまんかった。許してくれ」

「ああ。お主には本来戦など似合わんよな。相手が 魔法巨人(ゴーレム) と言うだけで任せきりにしてしまった。まっこと申し訳ない」

そう言って二人の当主が深々と頭を下げる。

「え? ちょ、ちょっと待ってください! 二人とも顔を上げてください!!」

急に謝罪を始めた二人に困惑した勇が、慌てて言葉を並べる。

「別に私だけが戦っていたわけじゃないですし! それにクラウフェルト家に売られた喧嘩でしたから! 妻の家をコケにされては黙っていられませんよ!!」

「それでも、や。他国とのいざこざはな、本来ワシら貴族が出張らんとダメなんや」

「ああ。たしかにお主は魔法陣が読めるし、魔法具も作れる。なるほど今回の相手とやり合うには持ってこいよな」

勇の言葉に、二人の当主は柔らかい笑顔を浮かべる。

「でも、それと任せきりにすることは違うんや。助けてもらうのはいいが、表に立つのは我々でなければ。人にはそれぞれ役割というもんがあるんや」

「そうよな。そしてイサムの役割は、戦う事ではないんよな。その稀有な 能力(スキル) は、もちろん戦にも使えるが、もっと他の事に使ったほうがいいんよ」

「うむ。前にそちらの家に寄せてもらった時に魔法具を作っておるお前さんの顔は本当に楽しそうやった。とんでもないもんを作ってるというのに、まるで玩具を作ってる子供のようやった」

そこまで言ってズヴァールはしばし目を閉じる。そして再び目を開くと力強く言葉を続けた。

「だから、ここからの戦いはワシら貴族に任せておけ」

「わっちも久々に最前線に出るからの。お主は安心して領地へ戻り、魔法具の開発をするとええんよ」

「うむ。どうせ鹵獲した 魔法巨人(ゴーレム) を研究して、またぞろとんでもないもんを作るんやろ? 楽しみにしとくわ」

「かっかっか、違いない」

「ズヴァールさん……エレオノーラさん……」

からからと笑う二人の領主に、思わず勇も言葉を詰まらせる。

「アンネちゃんもすまんかった。旦那をこんなとこまで引っ張り出してしまって。戻ったらオリヒメも一緒にゆっくりしておくれ」

「そうよな。新婚の二人がこんな血なまぐさい所におってはあかんよな」

「お二人とも……」

アンネマリーもその瞳にうっすら涙を浮かべて言葉を詰まらせた。

「と言うわけでや。今日中には残りの魔動車部隊も追い付いて来るはずやし、明日には王都ラッチェリオへ向かう。本隊も数日遅れで付いて来るやろ」

「わっちは一足先に魔動車で王都方面へ向かって、偵察がてら一当てしてみるかの」

「……分かりました。では、せめて明日までに出来るだけの手土産を作りますから、それを持ってってください。そしたらクラウフェンダムへ戻りますね。お二人もさっさと戦いを終わらせて、クラウフェンダムに遊びに来てください!」

グイっと目元を拭った勇が、力強く答える。

「かっかっか、それは楽しみよな」

「うむ、ズンの連中も馬鹿な事をしたもんや。この世で一番喧嘩を売ったらいかん奴に喧嘩を売りよった」

「さてさて、イサムと話も出来たし、今度は領主に挨拶に行くかの」

「そうやな、面倒やが顔くらいは見せんとな。という訳で、ワシらはこれから領主の館へ行ってくる。明日の土産、楽しみにしとくわ」

ひとしきり話をし終えた二人の領主は、メルシェ子爵の館へ行くためザンブロッタ商会を後にした。

「……良かったですね、イサムさん」

「そうだね。皆さん気に掛けてくれて本当にありがたいよ。勢いでここまで来たけど……。帰ろうか、クラウフェンダムへ」

「ええ、帰りましょう」

「にゃ~お~」

子爵の館へと向かう二人の背中を見つめる勇の肩で、織姫は頬を擦り付けながら優しくひと鳴きするのだった。