軽量なろうリーダー

男女の友情?でもそれって、不貞ですわよね?

作者: ひよこ1号

本文

子爵令嬢ヴォレッタは憂鬱だった。

これから婚約者のオニールと会うというのに。

最近……というよりは学園に入って、騎士科の人々と交流を持つようになって彼は変わってしまった。

特に伯爵令嬢のレオニーダと過ごすようになって。

きっと今日も約束を破られるか、直前の取りやめとなるだろう。

「これから遠乗りに行くんだよ」

「こいつらと来たら遠乗りが好きで困ったものだ」

オニールの言葉に、笑いながらレオニーダが答える。

ヴォレッタは呆れた眼差しを隠し切れなかった。

いつものことだとはいえ。

オニールは茶色の巻き毛で、優し気な甘い顔をしていて、緑の垂れ目の精悍な青年だ。

婚約者でもないのに隣にぴったりと座っているレオニーダは金髪を後ろで一つに結んでいる、青い目の中性的な令嬢。

令嬢と言うより騎士としての装いが多いので、あまり女性としては見られていない。

今日も乗馬服に 長靴(ブーツ) といったいでたちだ。

「前から約束をしていましたよね、お買い物に一緒に行きましょうって」

「言ってたけどさぁ、急に用事が入ることだってあるだろう?」

その急な用事が多過ぎる。

いつものごとく、レオニーダが笑って言った。

「大変だな、オニール。女性というものはすぐ拗ねる」

「ああ、お前みたいに付き合いやすい奴は稀なのさ」

ヴォレッタは、耐えきれずに言い返した。

「貴女だって女性ではございませんか!」

その言葉に一瞬驚いた顔をしてから、オニールは笑う。

「女?こいつは確かに性別は女だけど、男みたいなもんだよ」

「そうそう。男同士の友情と思ってくれて構わない」

笑いながら言うオニールに、レオニーダも笑って応じる。

そういう問題じゃない、とヴォレッタは口を噤んだ。

たとえ、性別が男だとしても、婚約者との約束を度々破って迄応じるのは間違っている。

「そんなに怒るなって。何も今日は二人きりで行く訳じゃないし」

「ああ、騎士科の連中も一緒だから、嫉妬しなくて大丈夫だよ」

溜息を押し殺して、ヴォレッタは静かに言う。

「お二人の友情については分かりましたけれど、何度も約束を破られるのは遺憾でございます。この事は父に伝えておきます」

そう言えば、二人は顔色が変わった。

「はぁ??こんな事くらいで一々家を巻き込むなって」

「ああ、こういうのが面倒な所だよな、女って」

家を巻き込むな、と言われても婚約とは家同士の契約で、婚約者として蔑ろにされたら親に言うのは当然だ。

正式な夜会や家同士の公式な集まりでなくても、蔑ろにして良いという話ではない。

「でも、お前がどうしてもっていうなら婚約解消でもいいかもな。こんなに束縛がきつい女と結婚したら先が思いやられる」

「おい、可哀想な事を言うなよ。泣いてしまうぞ」

気遣っているようでいて、馬鹿にするように笑われた。

泣く気は無かったが、目にはじわりと涙が浮かんでしまう。

「ああ、もう面倒くさい。とにかく、俺は行くから」

「いいのか?本当に婚約を解消されても」

「そんな勇気ねえだろ」

二人はヴォレッタを一人、 喫茶店(カフェ) に残して、遠乗りに行ってしまった。

こんな所で泣きたくないと思ったが、悔し涙が溢れる。

自分の情けなさに余計に涙が抑えきれない。

「大丈夫か?ヴォレッタ嬢」

声をかけられて顔を上げれば、学友のフォレスト公爵令息ロッドが困った様に立っていた。

思わず涙が零れてしまって、慌てて俯く。

「婚約者に、置いていかれてしまって」

「それはひどい」

ロッドは向かいに座るとゆっくり話を聞いてくれた。

ヴォレッタとロッドは学園でも魔獣研究について学んでいて、よく議論をする間柄だ。

聞き上手で穏やかなロッドは、研究仲間にも評判が良い。

なのに何故婚約者がいないのかといえば、ある意味研究馬鹿だからだという。

約束を破るような事はしないが、話の多くは研究に関する事で、令嬢達に敬遠されるに至ったと言っていた。

「良かったら送っていくけど、その前に本屋に寄ってもいいだろうか?」

「ちょうど私も本屋に行きたかったのです。よろしくお願いします」

ヴォレッタとロッドは、本屋に行き、そこでも楽しく研究についての話をした。

そして、別れ際ロッドはヴォレッタに一冊の本を手渡したのである。

「これ、君が欲しがっていた本だろう?」

「そ、そうですけれど、そんな高価な物は頂けません」

慌ててヴォレッタは遠慮するが、ロッドはその手に優しく本を持たせた。

「僕が持ち帰ったら二冊になってしまうし、貰ってくれないか」

「そういう事でしたら……はい。ありがとうございます」

そしてロッドは深く深呼吸した。

「彼とは婚約解消を考えている、と言ったね。だったら、解消後は私と婚約して欲しい」

「えっ……?」

思ってもみなかった提案に、ヴォレッタは驚きを隠せなかった。

だが、ロッドの目は真剣だ。

「君とは話が合うし、話していて楽しい。考えておいてくれないか?」

「分かりました……」

呆然としたヴォレッタに紳士らしい挨拶をすると、ロッドは馬車に乗って去って行く。

ヴォレッタは胸の鼓動を抑えきれないまま、ふらふらと家に入ったのである。

正式に婚約の解消が整い、ロッドとの婚約が整ってからの初めての夜会。

ヴォレッタはロッドに 同行(エスコート) されて、煌びやかな 会場(ホール) へ足を踏み入れた。

そこへ遠くから目敏く二人を見つけて、オニールが騎士科の一団を連れて歩み寄ってくる。

「何で勝手に婚約を解消したんだ!」

「え?勝手にも何も、婚約解消で宜しいと仰ったのはオニー…リトマス伯爵令息ですよね?」

「それは……ただの、軽口じゃないか」

軽口だろうとなんだろうと、同意の言葉を言ったのはオニールの落ち度である。

それに、正式に両家で話が付いているのだから、今更何を言われても覆しようがない。

だが、横に居たレオニーダがまた口を出してくる。

「どうせ次が見つかったから、オニールを捨てたんだろう?女って言うのは浅ましいよな」

「浮気していたのか!」

オニールの大声にざわざわと会場がざわめく。

浮気も何も、オニールには言われたくなかった。

「浮気ではありません。それに、貴方がたの方が浮気でしたでしょう?」

「だから、何度も言ったが、こいつとは男同士の友情みたいなもんで、浮気とかしようがないんだよ!」

ヴォレッタが反撃し、オニールがその反撃に応じる。

その時不意に、声がかかった。

「でも、それって、不貞ですわよね」

何時の間にか近くにいた、第三王女のアマーリエが、ふんふん頷きながらそう言ったのだ。

慌てて周囲の誰もが頭を下げる。

「ああっ!しまった!わたくしとした事がっ……声が大きゅうございましたね……!」

思い切り交ざって来ていたので、存在を消しているつもりだと思わなかった周囲は目を瞬いた。

だが、立ち直りの早いロッドが言う。

「折角ですから王女殿下の御意見をお聞きしても?」

「ええ?宜しいのですか?」

うきうきした様子のアマーリエが可愛らしく周囲を見回して、誰もが頷いたのを見て、きゅふん!と息を吐いた。

「ええと、まず……男女の友情は存在するか?ということについては、肯定致します」

アマーリエの言葉に、オニールとレオニーダが誇らしげに胸を反らした。

續く言葉に打ちのめされるとは知らずに。

「ですが、貴方がたのしていた事は、不貞ですわね。婚約者を蔑ろにしたとか、そういう諸問題は排して、貴方がただけのお話を先に致しますと、不貞でしかありません」

「なっ!姫殿下、お言葉が過ぎますよ!」

オニールがそう言って一生懸命主張した。

「こいつは男みたいなものなんです!」

「はい。でも女性ですわよね」

あっさりと切り返された。

オニールは再度言う。

「でも恋愛感情がないんです!」

「でも 付添人(シャペロン) 無しで、二人きりや少人数で出かけていたのならば、十分な 醜聞(スキャンダル) ですもの。令嬢にとっては致命的ですわね」

当然と言えば当然の指摘に、オニールは顔を青くする。

「あら。お噂は聞いていらっしゃらないのかしら……遠乗りと称して男達と森に消えて、いかがわしい事をしている奔放な女性……と」

「なっ!わたくしは、そんな不埒な真似はっ!」

「ええ。実際にしていなくても、どうやって証明いたしますの?」

レオニーダの顔が真っ赤に染まっていく。

アマーリエは不思議そうに小首をこてん、と傾げた。

「じょ…女性は、不貞が無かった事を、身体を調べれば……」

「あらいやだ、初心ですのねえ。……令嬢の身体が清廉だとしても、疚しい行いって他にもございますでしょう?」

その痛烈な言葉に、レオニーダは押し黙る。

真っ赤だった顔が今度は蒼白だ。

「まあ、そういう風に噂がたっておりますから、男女の友情ですとか、恋愛感情がとかではなく、名誉の問題ですのよ。貴女には貰い手が現れないでしょうから、リトマス伯爵令息に嫁ぐしかないでしょうねぇ……」

扇で指し示されたオニールは素っ頓狂な声を上げた。

「何で俺が!?」

「だって、一番よくお出かけなさっていたのでしょう?」

「おいレオ、何とか言ってくれ、お前だって俺と結婚したくないよな!?」

「いや、わたくしは……」

そう言って、レオニーダは目を伏せる。

「別に、それでもいい」

「はぁ!?俺は嫌だよ。お前をそんな目で見られるわけねーだろ!」

思いっきり否定されて、再びレオニーダの顔に朱が上る。

「だって、仕方が無いだろ!……どっちにしろ嫁にいくしかないんだ」

そう言いつつ、レオニーダは満更でもない顔をしているので、オニールは頭を掻きむしった。

「嘘だ、こんな事になるなんて……」

本当に嫌がっている姿を見れば、確かにそこには友情しか無かったのだろう。

でもレオニーダの方はオニールに対して、恋愛感情はあったのだ。

勝ち誇るような眼を見て、ヴォレッタは首を傾げる。

「とてもお似合いだと存じますよ」

元 恋敵(ライバル) にそう言われて、レオニーダの顔が引き攣る。

奪い取った優越感は、後ろで嫌だ嫌だと言っているオニールに否定され続けていた。

「でも、噂と言えば。貴方がたも問題ありでございますわね」

アマーリエが、ロッドとヴォレッタを見たので、二人は固まった。

顔を見合わせてお互いを見る。

ロッドは静かに微笑むが、ヴォレッタには分からなかった。

「何故で、ございましょうか、殿下」

「噂で聞いておりましたけど、婚約前に二人きりで街を歩いていたとか」

あの日の事だ、とヴォレッタは思い出す。

でも、あれは仕方のない事だった。

「あの日、婚約者だったリトマス伯爵令息はレオニーダ様と遠乗りに行かれてしまい、待ち合わせ場所だった 喫茶店(カフェ) に置き去りにされてしまったのでございます。それを救けてくださったのがロッド様でございました」

悔しさに涙しながら、不安にもまた苛まれていた時に手を差し伸べてくれたロッドをヴォレッタは愛し気に見上げる。

「なっ!?婚約解消前に、男と街歩きしたのか!不貞じゃないか!」

「元はと言えば、オニール様が置いて行ったからでしょう?それに、貴方が男女の友情について仰るなら、わたくしも友人だったロッド様と街を歩く事に文句を言わないでくださいませ」

二人の言い合いに、アマーリエは静かに頷く。

「大丈夫です。両方とも不貞で 醜聞(スキャンダル) です」

何も大丈夫ではない。

周囲の人々は心の中で突っ込んだ。

「リトマス伯爵令息はそもそも、婚約者の置き去り、婚約者以外の未婚の令嬢との遠乗りなどしているので、有責ですから、お黙りになっていて」

アマーリエにぴしゃりと言われて、オニールは黙った。

そしてアマーリエはヴォレッタに向き直る。

「相手がなさったら、同じ事をして良いと仰るのはとても子供らしゅうございますのね。同じところまで降りて行って争って、自分の名誉を汚す事に何の意味があるのか、わたくしには分かりかねますわ」

正論だ。

ヴォレッタの中に、当てつけが無かったとは言えない。

でも、救ってくれる安心感の方が大きかった。

「……ロッド様はわたくしを救けてくださっただけです」

「助けたとは言いきれませんわね。確かに心細いと思う淑女に手を貸すのは優しさですけれど、優しさで名誉を守る事は出来ませんのよ」

ちら、とアマーリエはロッドを見やった。

「勿論、下心があったなら別ですけれど。少なくとも淑女の名誉を守りたいのなら、お二人が出会った 喫茶店(カフェ) で動かず、令嬢の実家に使いをやって 付添人(シャペロン) を呼び寄せるべきでしたわね。自分が侍従を連れていなかったのなら、御者に命じてご自分の侍従を連れ、そして彼女の 付添人(シャペロン) を用意して、手順を踏んで買い物にいくべきでした」

ヴォレッタは困った様にロッドを見るが、ロッドは先程と同じように静かに微笑んでいる。

「他家の事は口出しできませんけれど、フォレスト公爵令息の軽率さで公爵は務まりませんでしょう。お相手も子供らしいやり返しをするような方では公爵夫人という重責が務まるとは思えませんわ」

他家の事は口出しできない、というのは強制ではないという暗喩だけど、もはやこれは決定事項と同じだ。

第三王女の価値観だけという訳ではない。

居並ぶ貴族達も頷いて、冷たい視線に四人は晒されていた。

「ロッド、こちらに来なさい」

フォレスト公爵に呼ばれて、ロッドはヴォレッタの手を引くと、公爵の前に立つ。

「従属爵位と、飛び地を子爵領として与える。婚姻後は二人で子爵領を治めるがいい」

「はい、父上」

礼儀正しく頭を下げたロッドに悲壮感はない。

公爵は若干苦々しげであるが、静かに付け足した。

「絶縁はせぬが、公爵家からの援助は無いと思え」

「はい、父上、重々承知しております。行こう、ヴォレッタ」

「はい。失礼いたします、公爵閣下」

淑女の礼を執って、ロッドに促されるまま夜の 露台(テラス) へと二人は場所を移した。

「こうなるって、分かっていたのですか?」

「まあ、うん。最初から仕組んだわけじゃないけど。アマーリエ殿下が仰ったように、あれはうっかりしていたというか、君と距離を詰めたかったというか……」

照れたようなロッドの顔をヴォレッタは見上げた。

その頬も赤く染まる。

「君が爵位や身分に拘らないと分かっていたから、こうなるのも有りかと思って」

「殿下は、貴方の仕込みではないのです?」

ヴォレッタの問いかけに、ロッドは微かに笑った。

「まさか。彼女とは確かに幼馴染だけど、今日いらっしゃるとは思わなかったし、ほら君の元婚約者があんな風に大仰に騒ぐかどうかも分からなかったしね」

「なるほど……」

十中八九、騒ぐとは思っていたけれど、こんな風に事が流れるとはヴォレッタも思わなかった。

王女からも厳しい言葉をかけられたが、正当な評価である。

子爵令嬢が公爵夫人になったとて。

才覚がなければ社交界で馬鹿にされたり、最悪付き合いを断たれてしまうこともある。

「私は広大な公爵家の領地経営も出来るけど、出来れば研究の方に力を注ぎたくてね。社交界に出るのも最低限で良いと思っているんだ」

「幼馴染の殿下はそれを理解なさっておいでだったのね」

「多分ね」

ヴォレッタはこくりと頷いた。

「子爵領の運営だったら、わたくしにお任せくださいませ。ロッド様は研究を…」

「いや、両方二人でやろう。その方が負担も少ないし、二人で一緒に居られるから楽しいだろう?」

優しく言われて、ヴォレッタはじわりと涙を浮かべた。

いつだって便利に使われて、いつだって置き去りにされてきたヴォレッタには、ロッドの言葉が胸に染み入ってくる。

「はい……ロッド様」

その頃、夜会の中心では、まだオニールが駄々を捏ねていた。

「何で男友達のお前と結婚しなきゃならないんだ」

「責任を取れといわれたんだから、仕方ないだろう」

嫌がるオニールに、段々レオニーダも語気が荒くなってきたところで、両家の親が二人を控室へ引きずっていった。

「お前達の結婚は決定事項だ」

リトマス伯爵の声に、レオニーダとレオニーダの父である、カナリス伯爵もにっこりする。

「ですが、父上……そんな、そんな事って。女として見られないのですよ!?」

「だからどうした。お前が好きで連れ回していたんだろう」

「そうだ、他の奴らだって…!」

「婚約が一度解消になっているお前に、嫁ぎたい令嬢なんているわけがないだろう!」

怒声が響き、オニールは言葉に詰まる。

男女だろうと、恋愛感情がなかろうと、婚約者を蔑ろに……置き去りにするような男に嫁ぎたい令嬢はいない。

「では、婚約成立ということで、宜しいですかな?」

カナリス伯爵の言葉に、リトマス伯爵は頷く。

「我が家は、ヴォレッタ嬢の持参金で彼女の家に対しての借財を相殺する予定だった。だが、婚約が無くなった今、すぐにも持参金をご用意頂きたい」

リトマス伯爵の言葉に、カナリス伯爵は慇懃に頭を下げた。

「それが、我が家も手元不如意でして……持参金を用意出来ぬのです」

「なっ……」

場が凍り付いた。

「は?裕福だっただろう、オニール」

「そうだ、父上、何だよ借財って……!」

レオニーダがオニールを責め、オニールが伯爵を問い質す。

「お前には何度も説明してあっただろうが!手紙でも言葉でも、ヴォレッタ嬢だけは手放すなと!!……この馬鹿息子が!そんな男だか女だか分からん女に誑かされおって!持参金は積んでもらうぞ!!」

「うちも貧乏なので、金はありません。そもそも貴殿の息子が誘ったのでしょう。 娘を傷物にした責任を取って養ってください」

「男を誑かす女の何が傷物か!」

父親同士の言い争いの中、夜会の夜は更けていったのである。

翌日、リトマス伯爵は債権者がサザーランド子爵家からフォレスト公爵家に変わった事を知る。

慌ててオニールとレオニーダを結婚させて、自分は妻と離婚して姿を晦ました。

借金を返したとて、妻の持参金まで手を付けてしまえば、老後の暮らしが出来ないからである。

爵位と共に、息子に借金を押し付けて逃げたのだ。

何も分からないままのオニールは、父と母が居なくなった屋敷で呆然とレオニーダと過ごす事になったのである。

結局父母に見捨てられたと気づくまで、そう時間はかからなかった。

屋敷の中にあった金になるものは公爵家の執行官達がどんどん持ち去っていく。

対処が出来ないまま、二人は門の外に追い出され、名ばかりの爵位を持ったまま、路頭に迷うことになってしまった。

お互いを罵りながらも、庶民街に住む金すらなく、身を持ち崩していくしかなかったのである。

ヴォレッタとロッドは社交界から冷たく距離を置かれたものの、二人は気にしないどころか嬉々として領地運営と魔獣研究に精を出し、国からも一目置かれる研究者となった。

子宝にも恵まれ、幸せに暮らしたのである。