作品タイトル不明
後日譚 第37話
食材を大量に買い込み、借家へと戻ってきた。
主にイルダのせいで大変だったが、副ギルド長のお陰でしっかりと食材を買うことはできたと思う。
「ただいまー! 色々と買ってきたニャ!」
「おかえりなさい。迷惑かけなかったですよね?」
「かけてないニャ! 私のお陰で気持ちよく買い物ができたのニャ!」
どの口がと言いたいところだが、何度も言ったように家を貸してもらっている立場。
俺も、隣にいる副ギルド長も言いたい言葉をグッと堪え、小さく頷いた。
「それなら良かったです。こちらも大方の準備は整っていますよ。庭にグリルとコンロを設置しましたので、バーベキューをやることもできます」
「おお!? 久しぶりのバーベキューなのニャ!」
「外が嫌な人はキッチンで料理を作って、中でお食事やお酒も飲めますので」
バーベキューは今までやったことがなかったから、俺も少しだけ心が揺れ動いた。
この家の広い庭でバーベキューをやろうという案はあったが、色々と面倒くさかったというのもあって、結局やらず終いでオックスターを出ることになったからな。
「急な話だったのにそこまで用意してくれてありがとな。買った食材的にもバーベキューはできると思うから楽しみだ」
「バーベキューセットはあるものの僕達だけじゃやらないので、良い機会を頂けたと思っていますから気にしないでください。それにここまでの大人数でなんて初めてでワクワクしてます」
「そう思ってくれているのは助かる。ルディとは後でゆっくりと話したいな」
「ぜひ! 僕もクリスさんとはお話がしたいと思っていましたので」
イルダはちょっと厳しいが、やはりルディとは仲良くやれそうな気がする。
副ギルド長から大雑把に聞いてはいるが、どんな経緯でこのオックスターにやってきたのか気になるし、後でゆっくりと話をさせてもらうとしよう。
「そういえば、他の二人がもう戻っているかもとイルダが言っていたんだが、まだ戻ってきていないのか?」
「ええ、まだ戻ってきていないんですよね。そろそろ帰ってくる頃だと思うのですが――」
そんな話を振ったタイミングで、玄関の扉が開く音が聞こえた。
「おっ、タイミングを見計らったようなタイミングですが、戻ってきたかもしれません」
「エイミーとカルビンが戻ってきたニャ! あの二人にも手伝わせるニャ!」
俺とルディの間を擦り抜け、玄関へと走って行ったイルダ。
それからすぐに二人の腕を引っ張って連れてきた。
「ちょっとイルダ、痛いって……え? えーっと、どちら様でしょうか?」
困惑した様子で俺に声を掛けてきた方が、イルダの妹のエイミーだろう。
イルダと同じく獣人であり、可愛らしい耳と尻尾がついている。
まず気になったのは毛の色で、イルダが真っ黒なのに対してエイミーは真っ白。
妹といっても妹のような存在という感じなのか、それとも本当の妹なのかが少し分からない。
背丈も顔立ちも非常に似ているとは思うけどな。
それと一番気になったのは口調。
イルダのように変わった語尾をつけておらず、至って普通のような感じがする。
「勝手に上がってすまない。俺はクリスっていうもので、以前この家に住んでいたんだ。今日は副ギルド長の紹介でルディと会わせてもらって、その流れで……なぜかパーティーを行うことになった」
「な、なるほど。クリスさんですね。私はエイミーと申し――えっ!? パーティー!?」
「俺はカルビン。よろしく」
ワンテンポ遅れて驚いたエイミーと、一切の動揺もしていない様子で挨拶を返してきたカルビン。
イルダの二人は大人しいという言葉を疑っていたが、この反応を見る限りでは二人ともまともそうで安心した。
「許可も取らずにすまないな。話の流れでパーティーをやることになったんだ」
「そうだニャ! パーティー、パーティー! 二人も一緒に準備をするニャ!」
「……なるほど。お姉ちゃんがやろうって言いだしたんでしょ! もう色々な人に迷惑ばかりかけないでって言ってるのに!」
「私は何も言ってないニャ! 勝手にパーティーをやる流れになったニャ!」
「楽しそうだからなんでもいい。俺、手伝う」
姉妹の言い争いを止めるかのようにカルビンが一歩前に出た。
カルビンは背が高くて筋骨隆々であり、話し方も非常に独特だが、見るからに優しい人間が纏っているオーラが出ている。
「カルビンが珍しく乗り気だニャ! こっちに来て黙々と肉焼き係をするニャ!」
「いや、全員で肉は焼くから他の――」
「分かった」
イルダにとんでもない雑用をさせられそうになったため、俺は止めようとしたのだが、カルビンは二つ返事で了承してしまった。
何か色々と変わっている人が多い気もするが、パーティとしては纏まっている……のかもしれない。
「もういっつも勝手に色々とやっちゃうんだから。姉が本当にすいません」
「いや、もう慣れたから気にしなくていい。それより気になったことがあるんだが、エイミーは語尾が普通なんだな。イルダの語尾はわざとつけているのか?」
俺はシンプルに気になったことを聞いたのだが、急に顔を真っ赤にして俯いてしまったエイミー。
何かまずいことを聞いてしまった感じだろうか。
「エイミーはカッコつけてるだけなのニャ! ちょっと前までは私と似たような喋り方だったニャ!」
カルビンを連れて庭へと出たイルダが、そんなエイミーの過去を大声で暴露した。
「お姉ちゃん! もうそのことは言わないでいつも言っているニャ! ――あっ」
「うっぷっぷ! いつもの語尾が出たニャ!」
感情的になったからか、イルダのような語尾が出てしまったエイミー。
既に顔が赤かったのだが更に顔を真っ赤にさせると、逃げるように走って二階へと行ってしまった。
……これはやっぱり変なことを聞いてしまったようだ。
「ルディ、今の質問はまずかったか?」
「いえ、全然大丈夫ですよ。ちょっと落ち着いたら戻ってくると思うので、僕達も準備をしましょうか!」
慣れっこなのか、ルディはなんてことない態度で準備を開始した。
俺もラルフに振り回されて色々と大変だと思っていたが、ルディの方が何倍も大変そうだなと、この短いやり取りで強く思ったのだった。