作品タイトル不明
後日譚 第7話
宿屋に戻り、床に倒れ込むようにして眠りについてから約三日。
途中で起きたであろうラルフとヘスターのどちらかが俺をベッドに運んでくれ、しっかりと疲労を取ることができた。
丸三日間も眠ってしまったが、今の俺は時間に追われていないため何も問題ない。
なんというか、初めて心身共に安らげたかもしれないな。
「クリス、やっと起きたか! シャーロットの使いが何度か来たんだぜ! 明後日の夜に『レモンキッド』に来てほしいらしい!」
「そうか。なら明後日の夜にみんなで『レモンキッド』に行こう。……それにしてもラルフは元気だな」
「めちゃくちゃ寝たからな! もう目的みたいなもんもないし、気分が滅茶苦茶に軽いんだよ!」
どうやらラルフも俺と似たような心境らしい。
やはりクラウスという目標は高かったし、俺達が死んでもおかしくない相手との戦いを常に控えた状態だった。
数多の追手にも追われていたし、それを乗り越えた今は晴れやかな気持ちになるよな。
「元気になったなら何よりだ。それで、ヘスターとスノーの姿が見えないがどこにいるんだ?」
「二人は依頼に行っているぞ!」
「依頼? 高い宿屋に泊まっているから金が尽きたのか?」
「いや、金はシャーロットが出してくれた! 単純にスノーの体が鈍っちゃうから、散歩がてら依頼をこなしに行ったんだよ!」
散歩がてらに依頼をこなすって凄いな。
確かにスノーは俺達三人と比べてダメージ自体が少なかった。
元気な状態で三日間も部屋の中にいるのは退屈だろうし、気分転換も兼ねての依頼を受けにいったということか。
「俺が寝ている間に迷惑かけたな。明日は三人で何処か出かけようか。王都はあまり回れていないし」
「本当か!? こそこそと動かなきゃいけないから、王国一栄えている王都を回れてないもんな! 三人で過ごせるのも楽しみだぜ!」
「スノーがいると大抵の店には入れなくなるから宿屋に待機してもらうとして、三人の命を救ったといっても過言ではないスノーへのプレゼントを買うのを目的としてもいいかもしれない」
「おっ、面白そうな目的だな! 三人でスノーへのプレゼントを選ぼう! そうすれば待機しているスノーも喜ばすことができるぜ!」
今日はこのまま休むとして、明後日までの時間潰しは決まった。
ラルフは王都で初めての観光に部屋を飛び跳ねて喜んでいるし、ヘスターもきっと快諾してくれるはず。
スノーのプレゼントだけではなく、お礼参りに持っていくお土産的なものも購入したいところ。
シャーロット、『七福屋』のおじいさん、神父のグラハム、『旅猫屋』シャンテル、オックスターの副ギルド長、【銀翼の獅子】へのお供え物。
それからボルス、ルーファス、ルパートにフェシリア、『ガッドフォーラ』のトリシャ、ゴーレムの爺さん。
あとは……ミエルにも何か買っていってあげよう。
こう振り返ってみると、様々な街で様々な人に助けられてきた。
一人で全てをこなしたつもりでいたが、ラルフ、ヘスター、スノーも含めて、本当に良い人達に支えられてきたのだと実感する。
「とりあえず明日は買い物で決まりでいいな? 帰って来たら、ヘスターにも話してみよう」
「ヘスターも絶対に賛成すると思う! 早く明日にならねぇかな!!」
早くもソワソワし始めたラルフを横目に、俺はシャワーを浴びて一度体を綺麗にしてから軽くを食事を取り、再び眠ることに決めた。
三日間も寝ていたせいで体の鈍りも凄まじいのだが、今はもう少しだけ体力を回復させたい。
ラルフの独り言を子守歌代わりに聞きながら、俺は明日の買い物まで眠ることにした。
翌日の早朝。
あれからずっと眠っていたこともあり、二人よりも早くに目が覚めた。
まだ日が昇っておらず夜のように暗いが、眠りすぎて体がバッキバキなため二人よりも早く準備を行う。
ラルフほどではないが、俺も今日の買い物は非常に楽しみ。
軽い筋トレを行ってから、シャワーを浴びて着替え終えたタイミングで、どうやらラルフが起きたらしい。
寝起き早々なのにも関わらず、うるさい声が聞こえてきた。
「クリス、もう起きてたのかよ! 早く動けるんだし、起きてたなら俺とヘスターを起こしてくれたら良かっただろ!」
「俺が目を覚ましたのは日が昇る前だ。時間はいくらでもある訳だし、今日で回り切れなかったら、別日にまた買い物に行けばいいだけだろ」
「……へっへっ、確かにそうだな! 時間ならいくらでもあるんだし、もう無駄に急ぐ必要はないのか! ――でも、今日もたっぷりと買い物を行うぞ! ヘスター起きろー!!」
一瞬、時間がいっぱいあることを噛み締めていたラルフだったが、それとこれとは別なようですぐにヘスターを起こし始めた。
ゆっくり寝かせてあげればいいのにと思ったが、俺が制止する前にラルフの声でヘスターが起床。
ラルフに促されるまま、二人も身支度を整え始めた。
スノーはというと耳をパタリと閉じているため聞こえないのか、一切起きる気配がない。
「クリス! 俺とヘスターも準備が整ったぞ!」
「ふぁー……あ、お待たせしてすいません」
「別に待っていないから大丈夫だ。それよりも、ヘスターも今日は買い物で良かったのか?」
「もちろんです。三人でゆっくりと買い物ができるなんて嬉しいですから」
「それなら良かった。それじゃ……今日はとことん買い物を楽しむとするか」
「いよっしゃー! 出発進行だー!」
部屋を飛び出たラルフの後を追い、俺達は宿屋を出て買い物へと向かった。
王都をゆっくりと見て巡るのも初めてなこともあり、非常に充実した一日を過ごせそうで楽しみだ。