作品タイトル不明
第407話 世界樹
グラハムと別れた後、ラルフ達が楽しそうに談笑しているところに俺も後から合流する形で話に混ざった。
「おっ、クリス! さっきの人との話は終わったのか?」
「ああ。話が終わったからこっちに戻ってきた」
「見覚えがない方だったけれど、先ほどの方は知り合いだったの?」
「レアルザッドに居た頃の知り合いだ。知らないのも無理はない」
「うーん……俺はどっかで見たことがあるような気がするんですよね」
見覚えがないと言ったシャーロットに対し、ゴーティエは見たことがあると言ってきた。
王国騎士団の団長の息子な訳だし、知っていてもおかしくはないと思ったがグラハムの顔自体はあまり知られてないようだな。
「それよりも……見送りに来てくれたんだな。シャーロットが来てくれるとは思ってなかった」
「出発が早朝ということだから来れたのよ。朝から晩まで忙しいけれど、早朝は少しだけ早く起きるだけで時間自体は確保できるからね」
「俺は別に見送りに来た訳じゃないからな。シャーロット様の付き添いで来ただけだ。勘違いするなよ」
「忙しい中わざわざ来てくれてありがとな。それと、アレクサンドラも来てくれてありがとう。ゴーティエは……俺にやられておいてよく来れたな」
「なんだとッ!? たまたま油断をしていただけであって、お前に負けたのは偶然だ! 出発の前にもう一度俺と勝負しろ!」
『レモンキッド』で気絶させたのが最後だったし、軽く煽ったら顔を真っ赤にして激怒したゴーティエ。
俺には澄ました表情で喧嘩を売るようことを言うくせに、本当に煽り耐性が皆無だな。
「ゴーティエ、少し黙っていなさい」
「は、はい。シャーロット様、申し訳ございません」
「すぐに突っかかってしまって悪いわね。いつも注意しているんだけれど、言うことを聞かなくて」
「別に構わん。襲われたとしても、気絶くらいなら簡単にさせられるからな」
「なんだとッ!? 今すぐに俺が捻り上げて――」
「ゴーティエ!」
すぐにムキになって言い返してきたが二度目の注意で流石に反省したようで、シュンとなって後ろに控えた。
俺から煽っている節もあるし、別に注意せずとも軽い小競り合いぐらいならしてやっても構わないんだけどな。
「ゴーティエとクリスが顔を合わせると話が一向に進まないわね。あなたたちはどうしてそんなに仲が悪いのかしら?」
「単純に性格が合わないだけだな。それより、わざわざ見送りに来たってことは何か伝えたいことがあったりするのか?」
「えっ? 伝えたいことなんて特にないけれど」
グラハムのことがあったため、シャーロットも何かしらの理由があって見送りに来たのかと思ったのだが……。
きょとんとした表情で何もないと言われてしまった。
「そうだったのか。こんな早朝にシャーロット本人が来た訳だし、何かしらの用があるのかと思ってしまった」
「単純に見送りに来ただけよ。大変な役を任せていることぐらいは理解しているから。……あっ、でも渡すものは用意してあるわ」
シャーロットはそう言うと、鞄から三本のポーションを取り出した。
色は綺麗な翠玉色で、ここまで綺麗な色のものは見たことがないが、緑色なのを考えると恐らく回復ポーションだろう。
「それは回復ポーションか?」
「ええ。でも、ただの回復ポーションではなく、世界樹の葉から作った最高級ポーションよ。一人一本用意したから本当に身の危険を感じた時に使って」
「世界樹の葉のポーションなんて、見たのも初めてだ。噂で聞いたことがあるが、世界樹の葉は死者をも復活させる効果があるとか言う代物だろ?」
「流石に死んでしまったら復活はできないけれど、そんな噂が流れるほど凄まじい回復効果のある植物よ。致命傷を受けて死ぬかもしれない瀬戸際がその回復ポーションの使いどころね」
流石に死んでしまったら効果はないのか。
だとしても、凄まじい回復ポーションであることには違いないし、ありがたく受け取らせてもらおう。
「なるべく使用せずに返すようにするが、ピンチの時は遠慮なく使わせてもらう。三本も用意してくれてありがとな」
「あげた訳だし、別に返すことなんて考えなくていいわよ。ちなみに一本当たりの価格は――」
「あー、値段は言わないでくれ。益々使いづらくなる」
値段を聞いてしまったら、本当にピンチの時も使うのを躊躇いそうだからな。
白金貨数十枚ではないかと予想を立ててはいるが、それ以上だった時は扱いに非常に困るため絶対に値段は聞きたくない。
「クラウスと違って随分と感覚が庶民的ね。とりあえず私からは以上よ」
「見送りの言葉だけじゃなくて品まで用意してくれてありがとう。良い報告ができるように善処する」
「善処じゃ駄目。絶対にケリをつけてきて頂戴ね」
「……ああ、分かった」
目は笑っていない笑顔でそう言われ、俺は一つ間を置いて返事をする。
それからシャーロットとも握手を交わしてから、次に後ろで静かにしていたアレクサンドラと話をしようか。