作品タイトル不明
第391話 気遣い
『血の涙』を購入し、カリファに礼を言ってから『ラカンカ』を後にした俺は、メインストリートから少し離れた市場で食料を買い込んだ。
大半は礼の品として孤児院に持っていくもので、俺達用のは保存の効く干し肉や乾パンだけ。
あとはスノーに食べさせるメロンを買ったところで、俺は再び西地区へと戻り孤児院を目指した。
前回訪ねた時は早朝だったため、孤児院内ではウゼフの姿しか見えなかったが、今は昼過ぎということもあって庭のような場所で子供たちが楽しそうに走り回っている。
囲まれたり怪しまれたりしたら嫌だし、【隠密】と【消音歩行】のスキルを発動させて孤児院内に入り、子供たちに見つからないようにしながらウゼフを探す。
この間は離れの小屋にいたから今回も真っ先に見に行ってみると、干していた衣類を取り込んでいるウゼフの姿があった。
建物に勝手に入るのは流石にどうかとも思っていたため、この離れの小屋にいてくれて良かったな。
「ウゼフ。ちょっといいか?」
「――ッ!? な、なんだい、この間訪ねてきたジャンビエの知り合いかい。ビックリさせないでおくれよ!」
【隠密】と【消音歩行】のスキルを発動させたまま、背後から声をかけたせいで驚かせてしまったようだ。
心臓を抑えながら飛び跳ねたウゼフを見て、少しだけ申し訳なくなる。
「いきなり声をかけて悪かったな。ここまで驚かれると思わなかった」
「物音一つしないどころか、人の気配すらしなかったからねぇ! ……そんなことより、今日はどうしたんだい? もしかしてイザベルのところを追い出されて、他の当てを探しているのかい?」
「いや。イザベルの家からは出たが、もう問題が解決したから大丈夫。今日はイザベルを紹介してもらった礼をしに来ただけだ」
「お礼? 私は何もしていないし別にいらないよ」
ウゼフは本当に興味なさそうにそう告げたが、もう買ってきてしまったし無駄になるから受け取ってもらいたい。
「いらないと言われても、もう持ってきてしまったからな。無駄になるから受け取ってくれ」
「無駄になるって、もしかしてその手に持っているパンパンの紙袋かい?」
「ああ、大量の食料が入っている。奇をてらったものより子供たちも嬉しがると思ってな」
「うーん……確かに食料ならいくらあっても困らないからねぇ」
「なら受け取ってくれ。気持ちの持ち様なら礼ではなく寄付って形でも良い」
「そういうことなら、ありがたく受け取らせてもらおうかね」
とりあえず受け取って貰えそうで良かった。
俺はウゼフに食料の入った紙袋を手渡し、そのままひっそりと立ち去ろうとしたのだが……。
「おーい、ガキンチョ達! 食材をたくさんもらったからお礼を言いに来ておくれー!」
「ちょ、おいっ!」
急に叫んだウゼフは、なんと庭で遊んでいた子供たちを呼び始めた。
俺も止めようとしたのだが一歩遅く、せっかくバレないように来たのに全く意味がなくなってしまった。
どうしようかと迷っている間に子供たちは離れに集まり、俺の周りを取り囲んだ。
「ほら、この人が食料をくれたんだ。お礼を言いな」
「「ありがとうございました!」」
「あ、ああ。食べてくれ」
耳がキーンとするほどの声量でお礼を言われ、俺は苦笑いで変な対応しかできなかった。
ウゼフはそんな様子の俺を見て楽しそうに笑うと、何か思いついたのか少し悪そうな顔をしたように見えた。
「それじゃ久しぶりに豪勢に作ろうかね。こんなにパンパンに入った紙袋は持てないから、悪いけど食堂まで運んでくれるかい?」
「……別に構わないが、食堂まで運ぶだけでいいんだよな?」
そう質問したのだが返答はなく、俺は言われた通り持ってきた食材を食堂まで運んだ。
その後、何故か調理まで手伝わされるハメになり、ウゼフと共に料理をしながら子供たちの相手もして過ごした。
大量の料理を作った後はみんなで囲んで遅めの昼飯をご馳走になり、結局俺は相当長居してしまったのだった。
「結局、飯までご馳走になって悪かったな。食材を持ってきたのに俺まで食べてしまったし」
「私が誘ったんだから謝罪なんていらないよ。ガキンチョ達も喜んでたし、こっちとしてはありがたかったからね」
確かに俺の渡した食材を食べて喜んでいる所を見れたのは素直に良かった。
持ってきた甲斐があったと思うし、実際にウゼフの料理は美味かったからな。
「それなら良かった。礼とか関係なく、食材を持ってきて良かったと思えたしな」
「ふふふ。そう思ったなら、また食材を寄付しに来てくれてもいいんだけどね」
「ああ。……また気が向いたら食材を持ってくるよ」
「そうしたらまた一緒にご飯を囲もう。ガキンチョ達も喜ぶはずだろうからさ」
心情的には気が向いたらなんて言わず、確約してもよかったぐらいだが……。
クラウスとの戦いで生きて帰ってこられるか分からないからな。
ただ、生きていたら必ず食料を持ってこよう。
そう心の中で決め、優しい笑顔を見せているウゼフと別れて、俺は孤児院を後にしたのだった。