軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第372話 天才

【外皮強化】【鉄壁】【痛覚遮断】。それから【硬質化】。

俺は瞬時に防御スキルを発動し、背中に意識を集中させて衝撃に備えたのだが――ワンテンポ待っても攻撃がやってこない。

ミルウォークが俺の反応を面白がって攻撃するのを意図的にズラしているのかとも思ったが、このギリギリのせめぎ合いでそんな余裕は流石にないはず。

背後で何が起こっているのか分からないが、とにかくこの状況から抜け出すことを第一に動く。

前に転がるように倒れ込み、地面に這いつくばるような姿勢から――【脚力強化】を使って一気に距離を取りにかかった。

俺が逃げ出すまでのこの数秒間の間も結局攻撃が飛んでくることはなく、距離を取ったのを確認してからようやく後ろを振り返って見てみると、ミルウォークは後頭部を押さえた状態で片膝をついていた。

ミルウォークのそんな姿を見ても何が起こったのか理解できなかったのだが、視野を広く持って周囲を見てみると……。

険しい表情をしていながらも、ミルウォークに両腕を突き出しているミエルの姿が目に入った。

この状況から考えられるのは、ミエルが魔法によってミルウォークを止めてくれたということ。

一撃もらうのは覚悟の上だったが、戦力換算していなかったミエルに助けられてしまった。

「……おいおい、流石にズリぃだろうがよ! 一対一で戦ってるところに水差すんじぇねぇぞ! せっかく仕留めるチャンスを潰しやがって!」

ミルウォークの目は血走っており、さっきまでの丁寧な感じの人格から再び別の人格へと入れ替わったように思える。

雰囲気的に最初の人格に戻った感じがあるのだが、最初の乱雑な感じとはまた少し違うような気もする不思議な感覚。

……と、今はミルウォークの人格について考察している場合ではなく、ミルウォークの矛先がミエルに向いているため守るように動くのが先決。

現状は俺とミエルでミルウォークを挟んでいる立ち位置のため、俺は即座にミエルとミルウォークの間に入る位置へと動いた。

「怯んで動けないと思っていたことを謝罪する。今回は本当に助かった」

「……謝罪なんていらないわよ。実際に直前まで私も攻撃するつもりなんてなかったし」

いわゆる体が勝手に動いたという現象だろうか。

なんにせよミエルに助けられたことには変わりないし、理由が何であれ謝罪を撤回するつもりはない。

「とにかく助けられた。……ここからのサポートは期待していいのか?」

「絶対に期待しないで! 後ろから迫ってきている構成員相手になら動けるけど、ミルウォークは絶対に無理。謝罪はいらないから、とっととあの気持ち悪い男を倒して」

「ああ、分かった。次はヘマすることなく仕留めきる」

俺はミエルにそう宣言し、再びヴァンデッタテインを構えた。

対するミルウォークは未だに俺へは視線を向けておらず、俺の背後にいるミエルのみを見つめている。

眼中にないと行動に示されているようでイラッとくるが、実際にさっきは完全に裏を取られた訳だし俺にはイラつく資格がない。

そもそもカッカッすることで、ミルウォークのペースに呑まれていくため冷静さを保つことが第一。

短く強く息を吐いてから、ミルウォークがまだ武器を構えていないこの時間を使い頭をフル回転させて戦闘を振り返る。

実際に手合わせして思い知らされたが、ミルウォークは完全なる戦いの天才。

【黒霧】の暗闇の中での完璧な対応もマグレではなかったことが分かるし、カウンターの我慢比べも完璧に負かされた。

動き一つ取っても天才だと思い知らされるが、その中で何よりも特筆しているのは同じ人間とは思えないメンタル。

暗闇の中での対応も目を見張ったが、動揺することなく変わらず動けるのがまずおかしい。

結果的に最適であったのだが、カウンターの時に前進してきた行動も正気の沙汰とは思えないし、感情が一切ないとしか思えない行動を取っている。

当たり前の感情である痛みへの恐怖や死への恐怖を持ち合わせていない狂人であり、それがミルウォークという人物ということがこの短い戦闘の中で分かったこと。

常識が一切通用せず、頭のネジがぶっ飛んだ戦いの天才。

対する俺は、植物のお陰で強くなったものの適性職業【農民】の凡人。

勝ち目がない相手としか思えないが、戦い方次第でどうにでもなるし――こんな相手に勝つためにこれまで地道に力をつけてきた。

ここからは仮想クラウスとして、このミルウォークを全力でぶっ倒させてもらうとしよう。