軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第346話 人間

雨水と油汗によってローブがびしょびしょになっているパブロを見下ろし、俺は質問を再開した。

「『アンダーアイ』についての情報を話せ。まず誰の指示で俺を狙っているんだ?」

「……ボス。ミルウォークさんの指示で『クラウス様の兄であるクリスを探せ』という命令が出ている」

「やはり指示は出ていたのか。この命令にクラウスは関わっているのか?」

「……それは本当に分からない。ミルウォークさんの指示しか聞いていない」

心拍数から読み取るのであれば、パブロは嘘を吐いていない。

どうやら本当にクラウスが関わっているかは知らない様子。

「そもそも『アンダーアイ』とクラウスはどんな関係なのか教えろ。様付けしているってことは、上の存在って認識しているってことだよな?」

「そこも知らない。ボスがクラウス様のパーティに加わったから、俺達も手足となって動いているだけで実際に会ったことはないんだよ」

「なるほど。あくまでミルウォーク経由で関わっているだけって感じなのか」

クラウスとの直接的な関わりがない以上、今回俺を捕まえようとしたのはミルウォークの独断で間違いない。

俺に毒を盛るという行為を行ってきた時点で怪しんではいたが、今の話で確信が持てた。

こうなってくると、上手くやれば厄介だと思っていたミルウォークを先に単独で殺すことができるかもしれない。

頭を落としてしまえば『アンダーアイ』がクラウスに付く理由もなくなるし、クラウスの戦力を大幅に削ぐことができる。

……まぁミルウォークの仇として、俺を狙ってくる可能性は大いにあるけどな。

とりあえず、クラウスの前に『アンダーアイ』及びボスであるミルウォークを狙うことにしよう。

「次は『アンダーアイ』の構成員について知っていることを全て話せ。少数精鋭だから全員知っているだろ?」

「……ミルウォークしか知らない。基本的な指示はボスから出されないんだよ。名前も能力も何も把握していない」

ここにきて初めて心拍数が大きくなった。

素直に話していたから嘘がバレないとでも思ったのか、本当に考えなしで安易な奴だな。

「嘘だな。そもそもダグラスダインという名をお前の口から聞いている。……嘘を吐いたら爪を剥すといったよな」

「嘘じゃない! ダグラスダインはその……偽名っていうかコードネームみたいなものなんだよ!」

焦りまくりながら必死に弁明しているパブロの背後へと回り、骨が折れて力なく垂れている右手を掴んだ。

腕がポッキリと折れている訳だが、果たしてそんな手の爪を剥して痛みを感じるのか。

単純な疑問を持ちながら、何一つ耳に残らない弁明を続けているパブロの人差し指の爪の間に、俺は廃屋に転がっていた釘を拾って打ち込んだ。

そんな次の瞬間――耳を劈くような悲鳴を上げたパブロ。

この悲鳴の大きさだけは予想外だったため、身に着けていた黒ローブを引きちぎり口の中に詰め込む。

鼻息を荒げながらかっ開いている目からは大粒の涙が零れ落ちている。

「嘘を吐くなとあれほど言ったのにな。指先には神経が集まっている関係上、痛覚が集中している。気絶することもできないくらい激痛だろ」

激痛が走る理由を細かく説明してあげたのだが、痛みでそんな俺の言葉すら耳に届いていない。

この状態では会話にならないため、もったいないが打ち込んだ釘を引き抜いてから回復薬で治療してやるか。

「釘を抜いた時も情けない声を上げてたな。ただ治療してやったんだし、これで会話はできるだろ」

「……も、もう許してくれ。し、死なせてくれ!」

「情報を全て吐いたら楽に殺してやる。……お前達から襲ってきたんだ。楽に死ねるとは思うなよ。治癒したことから分かる通り、何回でも何十回でも爪の間に釘を打ち込めるし剥すこともできるんだからな」

この脅しでパブロは完璧に心が折れたようで、ここからは一切の嘘を吐くこともなく淡々と『アンダーアイ』の情報を話し始めた。

パブロからあらかた情報を聞き終え、そろそろ尋問をやめようとしたタイミングで丁度部屋の扉が開かれた。

部屋に入ってきたのはラルフで、かなり深刻そうな表情をしている

「クリス! 捕まえたその男と同じローブを着た二人組の男が現れた! 遠くから見ただけだがかなりの実力者なのは間違いない!」

「そうか。こっちも尋問が丁度終わったところだし、ヘスターと合流して迎え討とう」

「……やっぱやるのか。街中で戦闘はしたくなかったけど、そんなことを言ってられないしな。仕方ねぇ! それでその男はどうするんだ?」

「悪いけど殺す。戦意は完全に削いだつもりだが、俺のことも知られているし生かすメリットがないからな」

「分かった! 止めたい気持ちはあるが、俺もグリースやカルロの件で既に覚悟は決めている! クリス一人に背負わせたくないし……俺にやらせてくれ!」

「駄目だ。俺の獲物は誰にも渡さない。ラルフは外に出ていろ」

「でも! 俺だってやれ――」

「いいから早くしろッ!」

男を殺すと言い始めたラルフを怒鳴りつけ、俺はラルフを無理やり部屋の外へと追い出した。

本当に怒っている訳ではなく、あくまでもラルフを遠ざけるための演技。

ここまで巻き込んでおいてアレだが、ラルフとヘスターには一線を越えてほしくないというのが俺の最後の我儘。

“人間を殺せる奴は人間ではない”

人を殺した俺だからこそ分かる事実であり真実。

下を俯きながら、聞かれてもいない情報をブツブツと喋り続けているパブロの首元に剣を当て、最後くらいは苦しまないように――俺は一瞬で首を刎ね飛ばしたのだった。