軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第31話 治療費

パーティ結成の宴会を行った翌朝。

目を覚ますと、ラルフが既に準備を整えて待っていた。

俺を起こしはしてこなかったが、見るからにそわそわしており落ち着きがない。

朝一じゃないと、昨日あれほど念押ししたのにな。

「おはよう。準備終えるのは早すぎだろ。朝一じゃ開いてないって言っただろ?」

「目が覚めちまったんだから仕方がないだろ。それよりも早く行かないか?」

「今から支度するから焦るな。……ヘスターはもう出て行ったのか?」

部屋にはそわそわしているラルフだけで、ヘスターの姿はもうない。

今日はゴブリン狩りがないというのに、二人とも動き出しが早すぎる。

「ああ。さっき情報収集に行くって言って出て行ったよ。俺もヘスターも、日課となっていた早起きのせいで目が覚めちまうんだ」

「そういうことか。今日ぐらいはゆっくり過ごせるはずなんだが、体がそれを許さないんだな」

「そういうことだ。だから、早く行こう!」

「分かったっての」

ラルフに急かされながら準備を整え、俺とラルフは商業地区にある治療師ギルドへと向かった。

工業地区のギルド通りにあれば宿屋を出てすぐに行けるのだが、需要の関係か治療師ギルドだけは商業地区にある。

治療院や薬屋なんかも商業地区にあるため、結局は向かうことになるから遅かれ早かれなんだけどな。

そんなことを考えながら治療師ギルドにやってきた俺達は、早速中に入って受付を行う。

「おはようございます。本日はどう致しましたか?」

「怪我の具合を診てもらいたくて来た。古傷なのだが、診てもらうことは出来るか?」

「外傷の古傷ということでよろしいでしょうか?」

「ああ」

「かしこまりました。それでは身分証のご確認をしてもよろしいでしょうか」

俺はラルフに肘うちをし、冒険者カードを出すように促す。

慌てた様子のラルフが受付嬢に手渡し、受付嬢は紙にラルフの情報を手際よく記載していった。

「身分証の提示ありがとうございました。それでは順番が参りましたら五番の番号でお呼び致しますので、席に座ってお待ちください」

開店直後だからか人は少なく、想定通り早めに診察を受けることが出来そうだ。

宿屋ではワクワクしているような素振りを見せていたラルフだが、治療師ギルドに入ってから緊張して固くなっている。

診察次第で今後の運命が決まるといっても過言ではないし、緊張するのは無理はないか。

適当に話しかけて緊張をほぐしてやろうかな――そう考えた矢先、話しかける前に五番の番号が呼ばれてしまった。

「ラルフ、行くぞ」

「も、もう……か? 早くないか?」

「早いに越したことないだろ」

ラルフの背中を軽く押し、案内にしたがって一つの部屋へと入る。

中には五十代くらいの治療師が座っており、先ほど受付嬢が書いた用紙を眺めていた。

「おはようございます。本日は外傷を診てもらいたいということで大丈夫ですかな?」

「ああ、よろしく頼む」

「えー、どちらが診てもらいたいのかね?」

「……あ、ぼ、僕です」

「怪我の部分を見せてくれるかな?」

緊張しているラルフは、ぎこちない動きで裾を膝上まで捲り、治療師に外傷部分を見せた。

俺も初めて見たのだが、ラルフの左膝は皿の外側に一本深い古傷が残っていて、異様に腫れあがっているようにも見える。

「うーん……。確かにこれは酷いね。いつ頃の怪我かな?」

「七年前くらいの怪我です。高いところから着地をした際に、ブチッといきました」

「ちょっと触ってもいいかな?」

「ど、どうぞ」

治療師はラルフの膝を触ると、軽く色々な方向に曲げて痛みの出方を確認し始めた。

「こりゃあ、靭帯がぶっつりいっちゃってるね。放置しすぎて半月板も損傷してしまってる」

「や、やっぱり完治は無理なのでしょうか?」

「いや、無理ではないよ。膝を切り開いて靭帯を移植、縫合する手術を行い、半月板部分には代わりとなるメタルスライムの油を入れれば治る」

「本当に怪我が治るんですか!?」

「嘘はつかないよ。でも、かなりの額の手術費用と、メタルスライムの油に関しては自前で用意して貰わなければならない」

「金額はどれくらいなんだ?」

「手術費用は白金貨二十枚。別でメタルスライムの油ってところだね」

「白金貨二十枚!?」

流石に高すぎる。

ラルフが崩れ落ちるのも納得する値段だ。

俺の先月の稼ぎが金貨十二枚だから、一年半以上何も使わずに貯めてようやく到達する額。

これに加えて、メタルスライムの油ってアイテムも用意しなければいけないのは、あまりにも先が見えない。

「高すぎる。他に手はないのか?」

「如何せん、傷を放置されすぎているからね……。傷を負ったばかりならポーションでなんとか出来たかもしれないけど、その後も無理に足を使ってる形跡がある。膝がガクンと崩れることはなかったかい?」

「……よくあった」

「やっぱりそうだよね。この治療師ギルドで一番安く済ませるのなら、再建手術が一番安いよ」

「この治療師ギルドで……? ここ以外なら安く出来るところがあるのか?」

「まぁ、治療院とかだともっとかかるだろうね。……ただねぇ」

「ただ? なんだ?」

そこまで言って口を噤んだ治療師。

俺がその先を言うように急かすと、ようやく口を開いた。

「……ブラッドという人を調べてみたらいいよ。治療師ギルドに属する治療師が喋れるのはここまでだね」

「――そうか。診察と貴重な情報ありがとう。本当に助かった」

「いやいや、助けになれずにすまないね。痛み止めなら処方出来るがどうするかい?」

「…………いらない」

俺はすっかりしょげてしまったラルフを引き連れ、治療師に頭を下げてから治療師ギルドを後にした。

話しぶり的には、ラルフの怪我を完治させるのはかなり厳しそうだな。

普段の痛がり方から重傷ではあると思っていたが、まさか白金貨二十枚もかかると思わなかった。

とりあえず、さっきの治療師が話してくれた“ブラッド”という人物を探しはするが、基本的にはヘスターを魔法使いとして育てることが先決になりそうだ。

「おい、あからさまに気落ちするな。ブラッドとかいう人を探すぞ」

「……俺はもういい。だから言っただろ。俺の怪我は完治しないって」

「完治しないとは言われてないだろ。最悪、白金貨二十枚貯めれば治せる」

「どこにそんな金があんだよ。俺の今の手持ち知ってるか? 銀貨二枚だよ。銀貨二枚! 金貨二十枚でも諦めるのに、白金貨二十枚なんて支払える訳がねぇ!」

「だったらなんだ? お前は諦めるのか? 意思がない奴とは俺は一緒にいる気はない。昨日パーティを組んだばかりだが、解散したって俺は構わないからな」

「……………………諦めてねぇよ。少しぐらい愚痴らせてくれたっていいだろ」

「愚痴ってどうにかなるなら愚痴ればいい。愚痴ってもどうにもならないから、その僅かな時間を使って少しでも可能性を追うんだろ。諦めてないならブラッドを探すぞ」

俯き愚痴るラルフに喝を入れつつ、ブラッドを探すことに決めた。

詳しいことは教えてもらえなかったため、ブラッドがどんな人間なのか分からない。

二手に分かれてとにかく手当たり次第に治療院を回り、ブラッドの情報を集めていくことに決めた。