軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第305話 宝の番人

あの分かれ道からはもっと入り組み始めると思っていたが、分かれ道以降は一本道だったな。

別れ道を左に曲がった先にも道はあるものの、ここが正真正銘バハムートの洞窟の最奥部。

俺は大きく深呼吸をしてから、最奥部へと足を踏み入れた。

足を踏み入れてまず目に飛び込んできたのは、雑に作られた謎の石の墓。

最奥部だからといって、ロザの大森林東エリアのような大きな変化はないのだが……。

そんな石の墓の前には目を引くものがあり、意味深に立て掛けられた鎧と大きな大剣があった。

鎧も大剣も見るからにオーラを放っているように見え、頭に浮かぶのは“ヴァンデッタテイン”という単語。

俺はその大剣に意識を奪われたかのように、何の警戒もせずにふらふらと石の墓へと近づいていったのだが――石の墓にある程度近づいた瞬間に最奥部の部屋が大きく揺れ出した。

その揺れと同時にけたたましい咆哮が聞こえ、その咆哮が聞こえた洞窟上部に目をやると……。

そこにいたのは、天井に引っ付く翼の捥がれた漆黒の龍。

片足がなく、胴体もボロボロ。皮膚に目も爛れ切っており、神々しいとされている龍とは程遠い邪悪に満ち満ちた姿をしている。

よく見てみるとその龍の体の至るところからは、体液なのか分からないが黒い液体が滴り落ちていた。

石の墓。そして、その石の墓に立て掛けられている装備に目を奪われていなければ、天井にへばりついている龍には絶対に気づけたものの最後の最後で油断をしてしまったようだ。

……いや、油断というよりかは、圧倒的なオーラを放つ大剣に意識を奪われたという感覚の方が近い。

天井にへばりつく見るからに凶悪な龍よりも存在感を放つ大剣。

――石の墓の前に立て掛けられているあの装備は、ヴァンデッタテインで間違いない。

俺は俺自身の現象からも考えて、そう確信することができた。

あのヴァンデッタテインを手にするためにも、天井にへばりつきながら咆哮を上げた漆黒の龍は倒さなければいけない。

噂通りなのであれば、この龍は洞窟の名前の由来でもあるバハムートで間違いないはず。

ただ、伝説の龍と呼ぶには圧のようなものが足らないような気がするし、せいぜいヘラクベルクと同程度の強さだと思えてしまう。

ヴァンデッタテインと比較して霞んで見えている可能性もあり実際の強さは分からないが、特殊スキルを手に入れた俺ならば単独での撃破も可能なはずだ。

ここまではまともな戦闘は行ってきていないため、バハムートの洞窟に入って初めてのしっかりとした戦闘。

見た目の感じからしても毒は効かなそうだし、搦め手が使えないことからも伝説の剣を守る最後の番人としての相手に申し分ない。

ここからは帰路のことは一切考えず、ここまで温存してきたスキルを一気に発動させる。

【肉体向上】【戦いの舞】【身体能力向上】【能力解放】【脳力解放】【脚力強化】【野生の勘】。

力が一気に湧き出る感覚を味わいつつ、更に『ガッドフォーラ』で購入した二つの強化ポーションで能力を高めていく。

【広範化】を用いて、パーティ全員を強化させる目的で買ったポーションだが、この最終局面で温存する理由が一つもない。

体も脳も冴えわたり、先ほどまで感じていた心身の疲労も吹き飛んでいる。

こっちの準備は整った訳だが、バハムートは俺がポーションを呷っている最中も張り付いた天井から下りる気配を一切見せず、真っ赤に光り輝かせた片目で俺を睨み続けていた。

背後から襲うつもりなのか、それとも別の作戦でもあるのか。

バハムートの考えていることは理解できないが、向こうから攻撃を仕掛けてこないのであればこっちから仕掛けるだけ。

【脚力強化】と【疾風】を使ってジャンプ攻撃を仕掛けてもいいのだが、【粘糸操作】というおあつらえ向きのスキルがある以上、わざわざリスクを課す必要はない。

やることを決めた俺は、【黒霧】を使ってから一気にバハムートの真下まで潜り込むと、位置を悟られないように動きつつ天井に張り付くバハムートに五本の粘糸を飛ばした。

トロールの時と同じように最初から【硬質化】で硬くさせず、とにかく粘糸を巻き付けることだけを考えて糸を噴射させる。

狙い通り、俺の放った粘糸はバハムートの体に巻き付いたのだが、体に付着した粘糸を特に気にもしていなかったトロールとは違い、体を回転させながら即座に振り払うと――勢いそのままに下へと飛び降りてきた。

着地の際の風圧で【黒霧】は霧散し、俺を見下しているバハムートと真正面から対峙することになった。

天井に張り付いている時はそこまでの強さを感じなかったのだが、こうして近く且つ同じ目線で対峙すると流石に貫禄がある。

俺にとっての初めてのドラゴンとの対峙でもあるし、久々の血が湧いてくる感覚だ。

どんな攻撃を仕掛けてくるのか、現状では皆目見当もつかないが……相手がバハムートだろうが戦えるだけの力を身に着けたという自負はある。

鋼の剣を引き抜き構えたところで――バハムートとの決戦が始まった。