軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第303話 素早い討伐

あの魔物の大群を見ているだけに、洞窟へと向かう足が先ほど以上に重く感じる。

体の力を抜いて極力無駄な体力を消費しないように意識しながら、俺はバハムートの洞窟へと足を踏み入れた。

この単独攻略での一番大事なポイントは、如何に体力を温存できるかどうか。

使えるスキルを全て使って攻略に挑みたい気持ちで一杯だが、極力温存して最低限のスキルだけで攻略に臨む。

そんな状態で発動させるスキルは――【黒霧】【隠密】【消音歩行】【深紅の瞳】。

そして、『マジックケイヴ』で購入した指輪をいつでも装着できる位置に置き、これで万全の準備が完了した。

魔物に見つかった場合はスキルを出し惜しみすることなく、生存すること最優先に動く。

残り体力と相談しつつ帰還することも頭の片隅に入れながら、俺は【黒霧】によって更に暗くなったバハムートの洞窟を進み始めた。

近くからは魔物の叫び声やら呻き声が聞こえ、目を凝視させて赤く染まった視界を頼りに魔物を的確に避けながら前へと進んで行く。

三つの特殊スキルの中では一番使いどころが難しいと思っていた【黒霧】だが、まさかここまでしっかり使い、ここまで役立つことになるとは思ってもいなかったな。

逆に言うと【自滅撃】の使いどころがない訳だが、使う場面が局所的すぎるから仕方ない部分がある。

俺は【黒霧】のスキルに感謝をしながら、魔物の声で響き渡っているバハムートの洞窟を戦闘なしの状態で進んで行き、あっさりと先ほど一時間かけて辿り着いた地点を通過。

正直、生きた心地はしていないがこのペースで進んで行けるのであれば、攻略することは可能なはず。

……と、そんな考えが頭を過った矢先、前方に大きな蝙蝠のような魔物の群れが見えた。

【黒霧】の弱点である羽ばたく魔物であり、梟の魔物から奪った【音波探知】と似たスキルを保有している蝙蝠。

【音波探知】を保有していない可能性に賭け、【脚力強化】と【疾風】で素早く通り抜けるのもありだが……保有していない可能性は限りなく低い。

一度見つかると倒すまで追いかけ回されるだろうし、蝙蝠の魔物に追いかけ回されたら他の魔物にも襲われてしまう。

「……だったら、目の前にいる蝙蝠の魔物を倒すしかないな」

俺はそう小さく呟き、前方に見える蝙蝠の魔物を倒すことに決めた。

狙いは蝙蝠の魔物だけで、とにかくスピーディに倒した後は【黒霧】で身を隠す。

【広範化】と聴覚弱化の指輪で位置を紛らわせつつ、他の魔物には目も暮れずに逃げることを優先させる。

頭の中でここからの動きを決めてから、【脚力強化】と【疾風】のスキルを発動。

壁に止まっている蝙蝠の魔物の真下へと素早く移動し、硬質化させた粘糸で打ち落としにかかる。

サイズが大きいだけに絶命とまではいかないが、地面に叩き落すことができればこっちのもの。

指を巧みに操りながら粘糸を操作し、計七匹の巨大蝙蝠の魔物の胴体に突き刺し絡め取った。

そのまま硬質化させた粘糸を引っ張り地面へと叩き落してから、鋼の剣を引き抜き一気に詰め寄る。

【肉体向上】【戦いの舞】【身体能力向上】【能力解放】【疾風】のスキルを発動させ、更に【剛腕】と【強撃】を乗せた強烈な一撃を蝙蝠の魔物に浴びせにかかった。

漆黒のスライムと同様、一匹一撃で確実に仕留めていく――。

空へと逃げられる前に七匹全ての巨大蝙蝠の魔物を斬り殺し、音を聞きつけた他の魔物に見つかる前に【黒霧】を発動。

それからすぐに一度スキルを全て解除してから、【隠密】【消音歩行】【深紅の瞳】【聴覚強化】のスキルだけを発動し直し、聴覚弱化の指輪を装着してから黒霧に身を紛れ込ませた。

【広範化】と猛毒ポーションの合わせ技の方が、音もない上に一気に倒せるからいいのだが……この巨大蝙蝠に毒耐性があったら全てが終わるため、剣で確実に殺す方法を選んだ。

いつかは絶対に、敵に毒耐性がないという前提で動かなければいけない場面が来ると思うと、今から胃が痛くなってくるな。

激しい運動に加えて極度の緊張のせいで心臓が大きく高鳴っており、俺は荒くなっている息遣いを必死に抑えながらその場を後にした。

巨大蝙蝠の魔物と戦闘を繰り広げた場所に続々と魔物が集まってくる気配を背中に感じながら、俺はそんな魔物達に見つからないように洞窟の奥へと足を運ぶ。

迅速で正確且つ、確実な殺しが要求されるこのバハムートの洞窟。

大量の魔物が跋扈している中、見つかってはいけないという状況のせいで、今は最初に懸念していた体力よりも精神の方が大きく疲弊している気がする。

額から流れてくる大量の汗が地面に滴らないよう必死に拭いつつ、先の見えない巨大な一本道の洞窟を慎重に進み続けたのだった。