軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第259話 異形の魔物

「俺が前に出る。敵の注意を引くから魔法で攻撃してくれ」

「タンク的な役割を担うってことですか? ……心配なのですが、大丈夫でしょうか。正直、すぐにやられたり殺されたら邪魔なだけなんですよね」

「大丈夫だ。見たことのない相手だろうが、絶対に捌き切ってみせる」

水没林を移動している際は常にラルフがタンクだったし、俺がタンクをやることに不安気な様子を見せているフェシリア。

少し前の俺だったら怪しかったかもしれないが、ボルス流の戦闘法を身に着けた今なら捌き切れると自信を持って宣言できる。

「あまり期待しないでおきます。あまりにも簡単にやられたら助けには入りませんので」

「見捨ててくれて構わない。それじゃ……行くぞ」

俺の背後についたフェシリアに合図を送ってから、俺は角を飛び出して近づく魔物のいる通路へと飛び出した。

近づいてきていた異形の魔物はまだ遠く、ギリギリ視界に捉えられるといった距離だったが、その異形の姿は俺の目に入ってきた。

想像とは違い、人の形を成している魔物。

タコを擬人化させたような魔物で、腕が計六本に太い足が二本。

体は全体的に機械じみていて、シャープでスマートな男心を擽るフォルムをしている。

武器を持っている様子は見受けられないが、六本の内の四本の腕は三日月状に鋭利な刃物のようになっており、まるで鎌を彷彿とさせるような形状だ。

見たことも聞いたこともない魔物だが、実際に正面から対峙すると逃げたくなるほどの圧を感じる。

そして俺が目の前に現れたにも関わらず、動きに一切の変化がないところを見ると……。

フェシリアの俺達に勘付いているという直感は当たっていたようだな。

「口をすぼめているのが気になります。何か口から発射してくるかもしれないです」

「何か? 墨か何かか?」

「そこまでは分かりませんが、遠距離も攻撃もあると思って対峙してくださいよ」

あまり気にしていなかったが、確かに口をすぼめているのが分かる。

そういった形の顔かとも思ったが、筋肉の強張り具合を見るに何かを飛ばそうとしているな。

タコだけに目くらましのタコ墨かとも思いたいが、あの力の入れ具合は違うだろう。

あの口から放たれるのは、攻撃手段の一つとして間違いない。

見た目は完全なる近距離タイプだが、遠距離攻撃も持ち合わせている非常に厄介な魔物。

タコの魔物の情報を頭に入れて整理していきつつ、俺はスキルを発動させてボルス流戦闘法の準備を整えていく。

今回は後衛にヒヒイロカネ冒険者がついている。

本当に攻撃は一切考えずに、タコの魔物攻撃を躱すことだけに専念していく。

…………………………ふぅー。

スキルを発動し終え、頭のスイッチを入れたところで――俺は一気にタコの魔物に近づいていった。

すぼめている口に注視しつつ、全体像もしっかりと見て全てに警戒する。

俺とタコの魔物の距離が近づいていき、姿がはっきりと見えてきたが動く気配はまだ感じられない。

それどころか敵意も感じ取れないため、攻撃する気配がないとまで思ってしまうが、一瞬タコの魔物の四角い眼が俺の心臓部を見たのが分かった。

そして次の瞬間――すぼめた口から何かが発射され、心臓目掛けて飛んできた。

速度は尋常ではなく速い。背後にはフェシリアが控えているため斬る。

俺は一瞬でそう判断し、居合い斬りの要領で飛んできた何かを斬り飛ばした。

斬った瞬間にその何かは弾けて俺の全身に付着したが、体に何か異常が出ることもないし無色透明の無臭。

…………これはただの水か。

水を勢いよく飛ばし、攻撃してくるという単純明快で強烈な遠距離攻撃。

ただの水だからと言って、直撃すれば体が弾け飛ぶくらいの威力を誇っている。

剣に付着した水を斬り払いしつつタコの魔物様子を窺うと、足を止めて腕をうねらせていた。

タコの魔物の表情からは全く読み取ることができないが、今の一撃で殺せると思っていたのか驚いているのが分かる。

ゴーレムの紋章の彷彿とさせる模様が体の表面に浮かび始めているし、ここからが本番だと思っていいだろう。

フェシリアにハンドサインで攻撃開始の合図を出し、俺は攻撃を仕掛けてくるタコの魔物に備える。

「【ライトニングボルト】」

戦闘の開始はフェシリアの魔法から。

暗い洞窟にまばゆい電撃魔法が放たれ、動きを止めていたタコの魔物に直撃——はせず、体を上手くうねらせながら回避している。

単純な動きも相当に速いし、攻撃の読みについても鋭い。

標的がフェシリアに向く前に、俺は魔法を避けたタコの魔物に近づき近距離戦を挑みにかかる。

遠くから見るとかっこいいフォルムに見えたが、近くでみると何やらブツブツのぬめぬめで気色悪い。

それに体格も三メートルほどあり、デカいのが気になるな。

一本一本の腕も長いし、これは相当苦労させられる。

「注意するのは打撃攻撃じゃなく拘束ですからね」

「分かってる。――おっと、あぶねぇ。俺のことはいいから、とっとと攻撃してくれ」

タコの魔物の攻撃を躱しつつ、後ろから注意してきたフェシリアに言葉を返し早く倒すように要望を出す。

今フェシリアが言った通り、六本の腕による変幻自在の打撃と斬撃攻撃だけが怖いのではなく、ヴェノムパイソンが行ってきたような拘束攻撃が一番が厄介。

常に俺を捕まえようと狙っているのが分かるし、拘束されたら死だと思った方が良い。

口からの水球攻撃、変幻自在の打撃、四本の鎌のような腕による斬撃、太い足から繰り出される強烈な蹴り、一度捕まれば逃げ出すことは不可能な六本腕による拘束。

攻撃を捌くという一点のみに集中したとしても手こずりそうだが……久しぶりの純粋な強敵に思わず口角が上がった。