軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第251話 交渉

「先ほども言ったが、それ相応の対価をし払うと約束する。だから手伝ってくれないか?」

「貴方の態度が気に食わないので、絶対に引き受けません」

「フェシリア。俺からも頼むわ。この依頼を引き受けてくれたら、そうだな――」

ヴィンセントは手のひらを拳でポンッと叩き、何かをフェシリアに耳打ちした。

俺はすぐに【聴覚強化】を発動したものの、ヴィンセントの耳打ちは一言で終わってしまったため何を話したのかは聞き取ることができなかった。

「………………ヴィンセント。その約束は絶対ですよね?」

「ああ、絶対だ。約束する」

「………………分かりました。引き受けましょう。詳しい日時と期間を教えてください」

俺は何もしていないが、まさかの協力を得ることに成功した。

全てはヴィンセントが何かしらの提案をしてくれたお陰で、ラルフ同様ヴィンセントには俺も頭が上がらない状況になってしまったな。

「明後日……随分と急ですが、まぁ日時に関しては大丈夫そうです。それでは明後日の早朝にエデストルの入口ですね。了解致しました。それでは用件はもう済んだようですし、私はこれにて失礼します」

冷たくピシャリとそう言い残すと、フェシリアはソファから立ち上がり一人外へと行ってしまった。

本当はもう少しロザの大森林についての情報を伝えたかったが、ヒヒイロカネランクの冒険者であれば余計な心配というものだろう。

どれほどの実力者なのか、その部分においても当日を楽しみにしつつ……。

俺はひとまず、部屋に残ったヴィンセントに礼を伝えることにした。

「ヴィンセント。フェシリアを説得してくれて助かった。お陰でロザの大森林を探索することができそうだ」

「別に構わいやしねぇよ。俺自身が興味があるから、フェシリアに条件を出した訳だからな」

「でも、フェシリアさんに何て条件を出したんですか? ヴィンセントさんの一言で目の色が変わってましたよ!」

「ラルフにもそれはちょっと話せないが……。まぁ断固として拒否していたフェシリアが、考えを改め直すほどの提案を俺がしたってのは分かってくれ。――そこを踏まえてなんだが、クリスに俺から一つお願いを聞いてもらいたいんだわ!」

歯を剥き出しにして笑顔を見せ、獣のような眼光で俺を見つめながらそんなことを言い出したヴィンセント。

ただの好意から説得してくれていた訳ではないのは分かっていたが、一体何を要求してくるつもりだろうか。

金でなんとかできるなら一番だが、金じゃなんとかできなさそうなのがヒヒイロカネ冒険者というものだろう。

「お願いって一体なんだ? 無理な条件じゃなければ聞かせてもらうが、無理な条件なら聞く気はない」

「聞く気はないって言えんのすげぇな。そう難しい話じゃねぇから安心しろ。金もいらねぇし高価な品をくれってんじゃない」

「それじゃ……そのお願いってなんなんだ?」

「俺にもスキルの実を見せてほしいんだわ! 欲を言えば、もし複数取れたのなら一つ欲しい」

ヴィンセントが提示してきたのは、スキルの実を見せるということ。

見せるくらいならば別に構わないのだが、余っていたとしても流石に渡すことはできない。

「見せることはできるが、複数取れても渡すことはできない。どうする? それでも良いのであれば、こちらは条件を呑ませてもらう」

「何十個取れても渡す気はないのか?」

「……仮に三十個以上取れたのなら、一つくら分けてやってもいい」

「よし! それでいいや。リアム、条件については聞いたよな?」

「え、ええ。聞いてました。ね、念のため書面に残しておきます?」

「いや、書面には記さなくていい。互いに証人がいれば反故になることはないだろうしな」

ラルフを見て、ヴィンセントは笑顔でそう言った。

明るく軽い感じの男って感じだが、要所要所の俺に対しての圧や目の奥が笑っていない感じがどうも不気味に感じる。

「ああ。確実に約束は守らせてもらう。……金銭に関しては本当にいらないんだよな?」

「金には困ってねぇからな! これで俺達の交渉は終了だ! フェシリアには確実に行くように念を押しておくから安心してくれや! んじゃ……クリス。お前はもう帰っていいぞ。ラルフはちょっと借りるぜ?」

ラルフはここに残るように言い、俺は出て行くように指示したヴィンセント。

やはり目の奥が笑っていないという直感は当たっていたようで、どうやらフェシリア同様にヴィンセントにも俺は好かれていないようだ。

逆に比較的誰からにも好かれるラルフが訳分からんが……。

俺はラルフに目配せすると、首を縦に振ってここに残ることを合図してきた。

「分かった。結果の方はフェシリアの方から聞いてくれ。それじゃラルフのことよろしく頼んだ。ラルフも何か盗ませてもらえよ」

「ああ! しっかり指導もつけてもらうさ!」

冒険者ギルドの応接室にラルフを残し、俺は一人でギルドを後にした。

さて、ここからだが――ちらりとダンジョンを見る。

先ほどよりも人が多くなっており、凄まじい活気を見せているダンジョン前。

少し中を覗いてみたい探求心に駆られるが、ロザの大森林の探索は明後日に迫っている。

人も集めることができたし、準備不足で探索失敗なんて目にはあいたくないため、帰って準備を整えるとするか。

名残惜しさを感じつつも俺はエデストルを目指し、ダンジョン街を後にしたのだった。