軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第224話 小細工

「だぁーっ! くっそぉ、もう一回だ!」

「もう俺が三回勝った。この後、エデストルを出る予定があるからもう無理だ」

「勝ち逃げはずりぃぞ! クリス、ラスト一回だけ付き合え!」

「今日はもう予定が詰まってるんだ。約束通り、別日で時間を作って指導してもらうからな。ボルス、よろしく頼むぞ」

「おい、ちょっと待ちやがれ!」

ぴーぴーと喚くボルスを置いて、俺は一度エデストルへと目指した。

今の会話から分かる通り、ボルスとの手合わせは全て俺の完勝。

砂による目つぶしに小石での投擲。

蹴りを使った体術に不意をついての猫だましと、ボルスはありとあらゆる手段を使って攻撃を仕掛けてきたが、俺にそんな小細工が通用するはずもなくあまりにもあっさりと三勝を成し遂げた。

小細工の一切なかった初戦が一番手強かったし、俺はそのボルスを戦い方を求めていたのだが、正直残念としかいいようのない戦いっぷりだったな。

まぁ確かに、初戦のような受けの一辺倒では絶対に勝てないという判断で、どうにかこうにか隙を作ろうと動いていたのだろうが……。

感動したのを返してほしいぐらいの体たらくっぷりだった。

何はともあれ、これでボルスからの指導は取り付けた。

【視覚強化】に加えて何を行っていたのか、絶対に俺も習得してみせる。

心の中でそう誓いつつ、俺はエデストルへ戻ってロザの大森林へ向かう準備を行った。

エデストルで荷物を整えてから、休む間もなくエデストルの南に位置するロザの大森林へとやってきた。

約一ヶ月以上ぶりのロザの大森林。

久しぶりに感じるその圧倒的な自然の破壊力に気圧されつつも、俺は前回の探索で作った拠点を目指して歩を進めた。

かなりの時間を空けてしまったし、拠点としても完璧とはいえない仕上がりだったため、もしかしたら他の生物や魔物に乗っ取られているかもしれない。

【知覚強化】【知覚範囲強化】【生命感知】【魔力感知】【聴覚強化】【隠密】。

今回はスノーを連れて来ていないため少し過剰なくらいの索敵スキルを発動させてから、全力で警戒しつつ拠点を目指す。

――前回、オークから奪った拠点が見えてきた。

パッと見た限りでは以前と変わりなく、魔物の気配も一切感じられない。

念のため、ぐるりと一周回って再三拠点の様子を確認してから、異常なしと判断した俺は久しぶりの拠点の中へと入った。

前回過ごした時は完璧とはいえないまでもそこそこの拠点が作れたと思ったのだが、改めて見てみると雑だし酷い作りだな。

既存の建物はオークの臭いが酷すぎたため、全て一から建てたから仕方ないといえば仕方ないんだが……。

一ヶ月以上も訪れていなかったせいで劣化してしまっている部分を確認しつつ、俺は拠点の中に荷物を運び入れる。

午前中はボルスとの手合わせを行ってしまったため、時刻はもう既に夕暮れ前。

今日は動けたとしても拠点近くの有毒植物を採取するぐらいしかできないだろうし、劣化により壊れている部分の補修作業を行うか。

少し座って休憩してから、俺は拠点を補修するための素材集めへ出た。

まずは木材集めを行い、それから石に蔓に良さそうな葉っぱを搔き集めていく。

拠点近くの良さそうな資材をとにかく回収して周り、必死に集めたその資材を使って拠点をいい感じに補修。

更に周囲を囲んでいた防護柵の補強を行ったところで、完全に夜が更けてしまったため本日の作業は終了。

時間がなかった割りには作業が進んだし、手合わせが終わってから休まずに来た甲斐はあった。

これで明日からは、探索と採取の方に全ての力を注ぐことができる。

眼前に広がる圧倒的な自然に胸を躍らせつつ、俺は補修した拠点へと戻って体を休めた。

昨日は早めに就寝したこともあり、日が昇ると同時に目を覚ますことができた。

やることは山ほどあるし、今から準備を整えて明るくなったら動けるようにしておこうか。

今日の予定は、まずオンガニールの様子を見に行く。

作付したオークキングも気になるし、人型兎のオンガニールの方もまだ枯れていないのであれば採取したい。

拠点からかなり距離があるし、今回はスノーもいないからな。

万全の準備を整えてから向かうとしよう。

地図とコンパス。それから水と念のための携帯食料を鞄へ入れ、オンガニールの場所である南エリアの東を目指す。

向かう際に気をつけなくてはいけないのは、ロザの大森林の南側に生息していると言っていたカラスオルニス。

前回の探索で感知したあの魔物のことだろうが、確かにヘンジャクが名指しで注意喚起してきたのも納得するほどの生命反応を感じた。

くれぐれも鉢合わせないようにし、索敵スキルを全て使って最大限の警戒をしながら森を突き進んでいく。

オンガニールの場所を目指し、ロザの大森林を突き進むこと約三時間。

今回はオークキングの死体を運んでいた訳じゃなかったのに、予想以上に時間を食ってしまったがなんとか辿り着くことができた。

やはり俺以上の索敵能力があり、道中の魔物を即座に倒してくれるスノーの存在は非常に大きく、これらを俺一人で全て行うとなると余計な時間がかかってしまう。

スノーをラルフのダンジョン攻略に行かせず、こっちに連れてくるべきだったと少し後悔しながらも、俺はオンガニールの様子を窺うことにした。

流石に超危険な植物ということもあり、オンガニールが生えている周辺からは一切の魔物の気配もない。

いっそのこと、オンガニール周辺に第二拠点を作ってもいい気もしてくるが、そうするとスノーも近寄れなくなるんだよな。

生々しい死体の近くで生活しなくてはいけないし、腐肉の臭いも段々とキツくなってくる。

そう考えると、オンガニール近くは第二拠点の候補としては不適切だよな。

「……お! しっかり生えてくれたか」

第二拠点の候補としては駄目だが、オンガニールの方はオークキングからしっかりと生えていてくれた。

人面兎の方も枯れかけているが、ギリギリまだ実がついている。

実が成ったばかりのオークキングのオンガニール。

それから枯れかけの人面兎のオンガニールの実を採取し、実を潰さないように大事に鞄へとしまう。

これでとりあえずの用は済んだのだが、さてここからどう動こうか。

新たな場所の探索は明日以降と決めているため、今日行おうとしている候補は二つ。

一つ目は、無難にレイゼン草やリザーフの実の有毒植物の採取。

前回採取した有毒植物はほとんど食べてしまったし、この期間内である程度は絶対に採取しなくてはいけないため、オンガニールの様子を見に来て中途半端な時間となった穴埋めとしては一番最適。

二つ目は、オンガニールの宿主の討伐及び運び出し。

人型兎のオンガニールが枯れかけていることから、オンガニールを残すという意味でも新たな宿主を見つけなければいけない。

作付しない可能性も考慮して早めに新たな宿主は見つけておきたいし、拠点からこの場所までは意外と距離がある。

せっかく三時間ほど掛けてここまで来た訳だし、この付近で新たな宿主探しを行うのは時間効率も良いはず。

オークキングのオンガニールを眺めながら、どちらの選択が正しいかを十数分ほど考え――俺は一つ目の案である有毒植物採取を行うことに決めた。

新たな宿主探しも正直捨てがたいが、討伐してから運ぶとなると一人では相当な労力がかかってしまう。

オンガニールを見る限りでは、オークキングの方はすぐに枯れることもないはずだし、次来るときは必ずスノーを連れてきて、その時に新たな宿主探しを行うことにした。

そうと決まれば、有毒植物を採取しながら拠点へと戻ろうか。

植物採取も植物採取でスノーがいないとなると、自分で索敵をしながら有毒植物を探し採取しなければいけない訳で、相当な負担がかかる訳だが……。

行動の制限がかかる訳じゃないし、ペイシャの森、カーライルの森では一人で行っていたからな。

慣れもあるし、ロザの大森林でも一人で行うことができる。

俺は頬を叩いて気合いを入れ、来た道を戻りながら有毒植物採取に明け暮れたのだった。