軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第214話 初実戦

今回は練習ではなく実戦。

【ファイアーボール】の時みたいに、成功させたからと言って気絶してしまったら意味がなくなる。

体に残っている息を全て吐き出し意識をミエルにだけ向け、俺は深く集中した。

【聴覚強化】と【知覚範囲強化】の二つのスキルも発動させてから、ミエルの動きに俺の動きを完璧に合わせていく。

息遣い、体に流れる魔力の質と量、細かな動きまで完璧なトレースに成功。

今までゴーレムの爺さん相手にやっていたからか分からないが、ミエルは無駄が多く真似しやすく感じた。

「“世界を創造する四神の一神——」

「【アンチマジック】」

ミエルの詠唱開始とほぼ同タイミングで、俺は【アンチマジック】を発動。

これまでとは比にならないほどの魔力が抜け出ていく感覚があったが、なんとかギリギリのところで魔力切れは免れている。

ミエルの放とうとしている魔法はどうやら氷属性の魔法のようで、魔法が発動し切る前から凍えるような冷気が俺の下まで風に乗って届いた。

対抗策として一応【耐寒耐性】があるが、これだけの冷気となれば一撃で致命傷を負ってしまうはず。

詠唱を妨害できなければ、窮地に立たされる訳だが――。

「【アイスクライオニシス】」

ミエルの詠唱が終わり、魔法名を唱えた瞬間に俺の放った【アンチマジック】が着弾。

ぐにゃりとミエルの手から体内へと溶け込み、発動しかけていた上級氷魔法は完全に消失した。

ミエルは何が起こったのか理解できていない様子で、両目を見開いて固まっている。

脳内では正面に魔法が放たれ、俺を氷漬けにしているイメージだったのだろうが、起きた出来事は魔法の失敗。

この反応を見る限り、久しく魔法を失敗したなんてことはなかったようだ。

無防備で隙だらけのこのチャンスを物にするべく、俺は一気に距離を詰めにかかる。

未だに【肉体向上】【戦いの舞】【疾風】【身体能力向上】【脚力強化】の五つのスキルは発動したまま。

ミエルは慌てて高速で近づく俺に対応しようとしたが、一瞬で懐まで潜りこんだ俺に何かできることもなく――。

叩き込んだ拳は腹部に完璧にクリーンヒットし、ミエルはそのまま気絶した。

…………ふぅー。

実戦でいきなり強敵相手に使うことになったが、なんとか成功してくれて良かった。

気絶して地面に倒れたミエルを見下ろしながら、俺は大きく深呼吸をする。

【賢者】ということだし理解していたつもりではあったが、まさか上級――それも複合魔法の上級魔法を使ってくるとは思っていなかった。

俺は決してベストコンディションではなかったし、この状態で戦闘へと発展させてしまったのは完全なる慢心だった。

魔力も切れ掛け、体力も残り少ないため、一度周囲に他の人間の気配がないことを確かめてから全てのスキルを解除する。

それから倒れたミエルの持ち物を漁り――おっ、やっぱりポーションを持っていた。

通常のポーションと魔力ポーションを盗んで、そのまま全て飲み干す。

「……両方とも上級ポーションか? やっぱり金を持ってんだな」

ボソリとそう独り言を漏らしつつ、気絶しているミエルを逃げられないように縛り上げた。

できれば金属の鎖かなんかで拘束したいところだが、そんなものは持ち合わせていないため適当な紐で体が動かせないようにだけする。

後は鋼の剣を首元に当てていれば、何か行動を起こすこともできないだろう。

ミエルが目を覚ますのを待ちつつ、盗んで飲んだポーションが体に馴染むのを待っていると……。

約三十分ほどしてからミエルは目を覚ました。

「…………いったぁい。ここは――」

「やっと起きたか。いつ目を覚ますか分からないから、動くに動けずにずっと待っていたんだぞ」

「クリスッ! 殺す!」

「おっと、自分の状況を把握してくれ。手足は拘束させてもらったし、少しでも動けば――首を掻っ斬る」

気絶から目を覚ましたばかりということもあってか、前後の記憶が曖昧なようだ。

俺は冷静にミエルの今の状況を説明し、動かないように脅しをかける。

「…………そうだ。魔法が発動されず、そのままあんたに――」

「そういうことだ。勝手にいきなり硬直してくれたから助かった」

「な、なんでこんな時に限って魔法が失敗したのよ!!」

「おい、あまり大きな声を出すな。斬るぞ」

様々な怒りに加えて、俺に拘束されている。

そんな状況のせいで頭がこんがらがっているのか、ミエルの情緒がかなりおかしいため少し冷静にさせる。

「俺の質問に全て答えてもらおうか。返答次第では、殺さずに生かしてやることも考える」

「だ、誰があんたなんかの――」

「俺がお前を殺せないとでも思ってるのか? 【ザマギニクス】のカルロ。あいつは俺が殺した」

「【ザマギニクス】のカルロ……? クラウスと手を組んでる裏組織の!? なんであんたがその名前を――わ、分かったわ。質問には答えるから殺さないで」

「それでいい。少しでも不審な動きを見せてみろ。俺は魔力の流れも見ることができるから、即座に斬り殺すからな」

【ザマギニクス】という組織名。

そしてカルロの名前を聞いた瞬間に、血の気が引いたように顔を青ざめさせて命乞いを始めたミエル。

やはりカルロは、王都では名の知れた悪党だったようだな。

あの強さにあの風格。只者ではないことは分かってはいたが、全て本当のことを話していた訳か。