軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第143話 レッドコング

いつもは立ち止まるカーライルの森をスルーし、公道に沿ってズンズンと突き進んでいく。

次第に道幅が狭くなっていき、辺りも一気に緑が増えてきた。

「一気に自然が増えて来たな! これってもう山林地帯に入っているのか?」

「入ってはいるけど、レッドコングが目撃されている場所はもっと先だ」

「それにしても……道中の戦闘が少なくて楽ですよね。スノー様々ですよ!」

「俺達が勘付く前に魔物を倒しているもんな! あっさりと魔物を倒してるけどよ、スノーってこの楽に見える戦闘でも強くなっているのか?」

「強くなっていると思うぞ。明らかに動きが変わってきているし、索敵範囲も広くなっている。指定の魔物以外は手を出さないように伝えてあるから、強敵を倒して大幅に強くなるってことはないだろうけど――塵も積もれば山となる」

「げげ……。スノーまで俺を差し置いて強くなっていくのか! くそっ、負けてられねぇぞ!」

ラルフは周囲を警戒するスノーの横へと並び、一緒に索敵を始め出した。

いくら索敵したところで、俺を凌駕するスノーよりも先に見つけられるはずないんだが……。

止めるのも面倒くさいし、このまま放置しておく。

結局二時間ほど、ラルフはスノーと共に索敵しながら雑魚を狩ろうとしていたのだが、全て先に狩られてしまったせいでラルフは一匹も狩ることはできず、無駄に体力を使っただけとなった。

そんなラルフの心情なぞ露知らずのスノーは、ラルフに負担をかけさせないよういつも以上に頑張ったようで、褒めてもらおうとラルフに頭を擦りつけている。

「ラルフ。スノーが褒めてもらいたがってますよ! 褒めてあげてください」

「う、うぅ……。スノーよくやった! えらいぞ!」

なんともいえない心境でスノーを褒めるラルフを横目に、俺もそろそろ集中して索敵を始めることにした。

位置的にはこの辺りから、レッドコングが姿を見せてもおかしくないからな。

「じゃれるのはその辺にして、ここからは集中してくれ。スノーはヘスターの鞄に。ラルフは俺の真後ろに控えてくれ」

「もう近いってことだな。分かった!」

「スノー、おいで。……私もいつ襲われてもいいように、集中しておきます!」

陣形を取ってから、俺を先頭にして山林地帯を進んで行く。

俺を先頭にして歩き始めてから約二十分。

右前方から、勢いよく近づいてくる魔物の気配を感じた。

その圧の強さから並みの魔物ではないことはすぐに分かり、二人に指示を出してから、俺は盾を構えて静止する。

木々をなぎ倒すようにして、猛スピードで姿を現したのは――赤い体毛の巨大なゴリラ型の魔物。

オークジェネラルに近しい見た目をしているが、より獣に近い形状で武器は何も持たれていない。

筋肉量はオークジェネラルの比ではなく、鋭い牙と鋭い爪。

片腕で木をなぎ倒すことができるほどの太い腕に、全長の半分はある長く自在に動く尻尾。

体捌きも軽やかで、筋肉で纏った巨体の重さを微塵も感じさせない。

「な、なんか予想より強そうじゃねぇか!?」

「ああ。正直、俺もここまでとは思っていなかった」

胸を叩き、雄たけびを上げながらドラミングするレッドコングを見て、冷や汗が額から流れ出る。

同じプラチナランクに位置するであろうヴェノムパイソンとは、発するオーラの桁が違う。

副ギルド長が言っていた通り、ヴェノムパイソンは猛毒がなければゴールドランクというのは本当のようだな。

予想していたよりも強そうではあるが……俺もヴェノムパイソンと戦った時とは違う。

ラルフとヘスターだって成長したし、前回はいなかったスノーだって今回はいるしな。

ドラミングをしているレッドコングを横目に、俺は静かに【肉体向上】のスキルを発動させた。

まずは様子見で、発動するスキルは【肉体向上】のみ。

この状態で対応できなければ、即座に【外皮強化】と【要塞】を使う。

頭の中でそう復唱し、レッドコングに動きを注視する。

攻撃を仕掛ける気配はまだない――そう思った瞬間、四足歩行で一気に突っ込んできたレッドコング。

巨体を投げ出すように突進し、飛びつくように勢いよくぶつかってきたところを、なんとかステップを踏んで回避する。

動き自体もかなり速いのだが、それ以上にゼロからトップスピードになるまでが速く、これが非常に厄介だな。

ヴェノムパイソンもそうだったが、急に来る攻撃はどうしても対処がしにくくなる。

ヴェノムパイソンの場合は直線上の攻撃のみだったが、レッドコングは変幻自在に攻撃ができるから更に対処が難しい。

威力も見る限りでは桁違いだし、これに加えて属性攻撃も持ち合わせている。

……予想以上に危険な敵だな。

俺に攻撃をすかされたレッドコングは、すぐさま体勢を立て直すと再び襲い掛かってきた。

今度は勢いに任せた飛びつき攻撃ではなく、腰を据えての至近距離での打ち合いを仕掛けようとしている。

俺からすればこっちの方がありがたい。

独特のリズムを踏みながら近づいてくるレッドコングに対し、俺は盾を構えてジッと様子を窺う。

こちらから攻撃は仕掛けず、攻撃を防ぐことだけに注力する。

下からアッパーのような感じで放ってきた右腕の攻撃を――地面に押さえつけるように盾で防ぐ。

……予想していたよりも、攻撃に重さはない。

アッパーを完璧に防ぎきり、こちらの反動もなかったことで軽いと思ったのだが――続けざまで放ってきた渾身の左のストレート。

超速で迫ってくるレッドコングの左腕を見て、瞬時に受けきれないと察する。

【外皮強化】と【要塞】を発動させ――いや、二つは間に合わない。

ならば……【要塞】だ。

咄嗟に【要塞】を発動させ、振りかぶって放たれた左ストレートを、なんとか盾で受けきった。

【肉体向上】に加えて、【要塞】を発動させたのにもかかわらず、威力を殺し切れずに一メートルほど地面を滑るように押された。

レッドコングは攻撃を受けきられたことに驚いたような表情を見せるも、すぐさま次の攻撃を仕掛けに動いている。

今の左ストレートは……スキルでの一撃ではなく、ただの振りかぶったパンチ。

――強い。こいつは強い。

ペイシャの森の熊型魔物よりも強い魔物で、俺が戦った中でクラウスに次いで二番目に強い敵だ。

俺の理性は逃げろと言っているが、本能はこいつを喰らいたいと叫んでいる。

こいつを媒体にしたオンガニールを食うことができれば、俺はまた更に強くなることができるはず。

理性は一瞬で消し飛び、俺は口角を上げてレッドコングを見た。

ペイシャの森で、初めてオークと対峙した時と似ている。

何も持たずに森へと逃げ込み、数日間草しか食っていなかった俺にとっては、オークが食べ物にしか見えなかった。

今回もあの時と全く同じ心境だ。

強さに飢えた俺にとっては、強敵であるはずのレッドコングが獲物にしか見えない。

勝手に体が疼き、自然と口角も上がってくる。

傍から見たら悪魔のような笑みをしているであろう俺は、頭の先から足の先まで全てが活性化され――自然とゾーン状態へと入ったのだった。