軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十六話

「まず初めに、助けて下さって本当にありがとうございます。お礼を言うタイミングを逸していました。本当に……皆さんが来てくれなければ、私は死んでいました」

「どういたしまして……って言えばいいのかな。俺は行きがかり上っていう理由が大きいんだ。キルクロウラーの皆さんと違って」

「それでもです。助かりました、本当に」

お礼の為だけに呼び出されたとは思えない。本題があるはずだ。

彼女は相変わらずローブを纏い、フードを目深に被り、自分の姿を極力隠しているように見える。

人目に付かない場所に来たのも、それに関わる理由なのだろうか?

「……シズマさんは、もしかして私と同じ一族の出なのでしょうか?」

「え?」

「違ったのならいいんんです、失礼しました」

「……もしかして、目と髪の色のことかな?」

「……はい。黒い髪の人はたまに見かけます。ですが黒に近い瞳は珍しいから」

「そうなんだ……俺はちょっと、すごーく遠い場所から来てる人間なんだ」

たぶん、この世界にもアジア人に近い人種がいるのだと思う。

俺の勝手な予想だが、西海の果てに住んでいるのではないだろうか?

これまで色々見聞きした限りの予測だが。

「そうだったんですね」

「ヴェルジュさんも髪、黒いんだ? それで隠してるの?」

「……はい」

そう返事をすると、ヴェルジュさんがフードを外した。

初めて見せたその髪は、確かに俺と似た黒髪、艶やかで、長く、綺麗なストレートヘア。

俺の感覚では、隠す必要なんて微塵も感じないくらい、綺麗な髪だった。

「……むしろ、目を隠しています。あまりこちらは見せたくないです」

フードは脱いだが、直後に顔は手で覆って見えないようにしてしまうヴェルジュ。

む、逆に気になるぞ!

それに……【観察眼】で見た情報のこともある。

「そっか。けど黒目って隠す必要があるんだね、知らなかった。俺も気を付けるべきなのかな」

ただ、少なくとも俺は奇異の視線を向けられたりは……まぁ容姿が周囲より若く見られること以外、なかったと思う。

「たぶん、大丈夫だと思います。私は半分、自業自得な部分もありますし。シズマさんが私の一族と関係あるのか、それを知りたかっただけなんです。お時間取らせてしまい、すみませんでした」

そう言うと、ヴェルジュさんは足早に俺の横を通り過ぎ去っていった。

でも、俺はその一瞬見えた彼女の横顔に、確かに『深淵』を見た気がした。

綺麗な顔だと思う。でも、確かに一瞬だけ見えた瞳に、俺は深淵を、アビスを冠する意味を見た。

「……いや普通にキャラ立ってるし可愛いポイントだと思うんだけども」

正直! 地球の人間からしたら気にならないんですけどね! なんかあの子の黒目、一切光がなかったというか、マジで漆黒でした。恐らく光を反射しない、特殊な構造の瞳なんだろうな。

立ち去る彼女の背中を見送りながら、俺は一人呟いていた。

家に帰ると、まだメルトは戻ってきていなかった。

まぁまだ四時前だしな、俺が早過ぎたのだろう。

俺は早速、メルトが買って帰って来るであろう、勝手に命名した『マルメターノ』に合いそうなソースと野菜を用意していく。

やはり、俺だけ料理のレベルが上がっているせいか、セイムやハッシュでやっている時より、複雑な調理行程をなんなくこなすことが出来る。

「そのうち殺菌の魔法とか考えたいな……微生物の発見とかもうしてるだろうしなぁこの世界」

曰く、遺伝子関係の学問も進んでいるのだし、顕微鏡だって開発されていそうだ。

もうね、異世界に来たら絶対直面すると思うんです『生卵食いたい』問題って。

「よーし……オランデーズソース完成! 実質ほぼマヨネーズだよなぁこれも」

湯煎で火を通す工程を挟んでいるので、安全なマヨネーズとも言える。

じゃあ後はメルトが戻ってくるのを待つだけだな。

俺はエプロンを脱ぎ、隣室のサンルームで外に人の反応がないのを確認してから一息つく。

「……やっぱり多少は変質してるな、俺の精神。ダンジョン事故の時、俺は何を考えていた?」

ヴェルジュさんには悪いが、亡くなった二人の生徒について、俺は『因果応報』という感情が真っ先に浮かんできた。

あいつだろ。俺が剣で殴って眠らせたヤツ。あの日、講習会を受けていた生徒は三人。

一人は気絶させられていた。だから、詳しい説明を聞けていない。

間接的に俺も事故に関わっているとも言える。そこまで、俺は分かっている。

その上で思った『だからどうした』と。力を手に入れ、俺は少し人の道を踏み外しつつあるのかもしれない。でも、俺はそれに危機感を一切覚えていないのだ。

……そもそも、碌な人間じゃないのはヴェルジュさんの語った経緯で分かっているのだし。

「あ、そうだ。まだステータスの確認してなかったな」

気を取り直し、今日一日でどこまで強くなれたのか確認してみる。

体力 4711

筋力 977

魔力 91

精神力 581

俊敏力 1214

【成長率 最高 完全反映】

【銀狐の加護】

【観察眼】

【初級付与魔法】

【生存本能】

【高速移動】

【投擲】

【美食家】

【リズムステップ】

【演奏Lv3】

【料理Lv4】

【細工Lv1】

【裁縫Lv1】

【剣術Lv6】 ←ランクUP

【弓術Lv1】

【狩人の心得Lv1】

【学者の心得Lv1】

【盗賊の心得Lv1】

【剣士の心得Lv4】←ランクUP

【戦士の心得Lv7】←ランクUP

【傭兵の心得Lv2】

【舞踏の心得Lv4】←ランクUP

かなり、成長していた。

やはりモンスターの種類を多く倒すことは成長に必要な要素の一つなのだろう。

そして取った行動が、上がる能力を決める……と。全力疾走と跳び蹴りを多用したことや、戦士の技を多用したことが、しっかりと成長に関係しているように感じる。

「これで早ければ後三日で……あいつらと戦うことになるかもしれないんだよな」

もう、俺はあいつらを超えられたのだろうか。あいつらと対峙した時、容赦なく捕縛することが出来るのだろうか? いや……殺すことも視野に入れて行動出来るのだろうか?

あと三日、可能な限り己を強くしなければいけない……どんな決断をするにしても。

料理を終えてメルトの帰りをサンルームで待つ。

手慰みにピアノを触ってみたが【演奏LV3】ではそこまで難しい曲が弾けなかった。

けど、なんとなく……自分が通っていた高校の校歌なんて演奏してみたり。

覚悟を固める為に、儀式のように。

「む、メルトかなこれ」

その時、表示したままのサンルームの窓に、光る点が現れ、みるみる家に近づいて来た。

早速出迎えに玄関へ向かうと――

「ただいまー!」

「おかえり、メルト」

「今日はちゃんと帰って来てた!」

「もちろん! そっちも……この匂い、買ってきたね?」

「もちろん! 二つずつ買ってきたわ!」

「んー……まぁいいか! もう野菜とパン、ソースの準備も出来てるよ」

「わーい」

きっと、俺はこの生活を、メルトと一緒にいられる今の生き方を邪魔する存在に、容赦はしないんだろうな。

なんとなく、そう思った。

「ところで、商会長さんのところのお話はどうなったんだい?」

「あ……うん、それなんだけどね……?」

すると、メルトは少しだけ悲しそうな顔をしながら語り始めた。

「明日の出発は変わらず、だから……結局依頼を受けることにしちゃった」

「ん、そっか。そん顔しなくて良いんだよ、メルトのランクアップの為なんだし」

「でも、シズマはもうすぐ、何か大きな戦いに挑むのよね? 女王様のところでそういうお話、してたわよね? そんな時に私が街にいないのって、いいのかなって」

「メルト、戦いが必ず起こるとは決まってないんだよ。あくまで、抵抗された時に話し合いの余地を増やす為に、顔見知りの俺が同行するって形なんだから」

嘘だ。俺は正直、高確率で戦いになると踏んでいる。

だが、家族にそんな不安の種を植え付ける必要なんて、ない。

俺の自己満足である側面もあるのだ、今回の問題は。

「大丈夫だよ、メルト。俺はむしろ、盗賊が出るかもしれない護衛任務にメルト一人で行かせるのが心配だよ。他に人員はいないのかい?」

「それは当日、グローリーナイツからレティちゃんも一緒に来てくれるわ! 向かう先の街に、レティちゃんの知り合いの鍛冶職人さんがいるんだって。私の軽鎧を作る為に話を通してくれるから、そのついでに同行してくれることになったの!」

「お、それなら安心だね。たぶん、ベテランだろうしね、彼女」

治安維持も、恐らくグローリーナイツの活動内容に含まれているはずだ。

きっと商会側もグローリーナイツに手配していたんだろうな、あらかじめ。

もしかしたら、すんなり依頼を受けてもらう為に、メルトを同行させたのかもしれないな。

メルト、レティさんと結構仲良いみたいだし。

「……本当に戦わない? シズマ、本当にあの子達と戦わないで済むって思っているのかしら?」

その時、メルトが真っすぐな瞳でこちらを見つめて来た。

青く、澄んだ瞳。奥底まで見通そうとするような、そんな晴眼。

そこに嘘をつける程、どうやら俺は大人になりきれはしないようだった。

「……参った。うん、戦うことになる可能性が高いと思ってる。なにせ、アイツらは俺を格下だと、舐めているだろうからね。正直対等に話し合いすら出来ないんじゃないかって思ってる」

「ならやっぱり私も――」

「でも! ……それでも、俺がケジメをつけたいんだよ、メルト。俺が、俺の意思で、かつて決別した同胞との関係に、終止符を打ちたいんだ。この国を脅かすかもしれない脅威を、俺の手で摘み取りたいんだ」

「……そっか。分かった、なら『頑張って』って言うしか出来ないわ、私」

「うん、頑張る」

「シズマ、強くなったもんね?」

「たぶん今なら腕相撲でもメルトに負けないよ?」

「えー?」

メルトがいつもの調子で、ニマニマと笑い出した。

食べてる最中のマルメターノバーガーを皿に置いたメルトが、不敵な笑みを浮かべる。

「じゃあはい! お皿を端に寄せてやろっか! 腕相撲!」

「お? 今日一日でだいぶ強くなったぞー? 俺」

「まっさかー! 一日でそんなに変わるはずないわ!」

ふふふ、それはどうかな! なにせ異世界から召喚された勇者候補だからな!

……実際問題、この速さで強くなれたのは、装備だけでなく召喚者補正もあるんだろうな。

それに加え、本来ならまだ倒せないような強力な魔物も、シレントを始めとしたキャラクターの力を俺が受け継いでいるから倒すことが出来た為、急激に成長出来たのだ。

パワーレベリングだ。まさしくこれは、ネトゲにおけるパワーレベリングと同じ状況だ。

メルトが差し出した手を、こちらもしっかりと握る。

小さくて華奢な手。けれども、しっかり戦う人間の手。

お互いに強く握り、腕相撲の開始の合図をどうするか、目くばせで訊ねる。

「じゃあ……コーラの氷が音を立てたら!」

「よしきた!」

メルトのコップ、今日もたっぷりの氷が入ったコーラ。

炭酸の泡が、氷に付いては離れ、少しずつ合図の時が迫る。

そして――

「えい!」

「ふん!」

涼し気な音と同時に、テーブルがきしむ音がする。

肘にかかる負担が、爆増する。

前腕が急激に腫れていくような、そんな熱を帯びる。

息を止め力を込めると、僅かにメルトの腕が傾く。

息を少しでも吐くと、今度は俺の腕がテーブルに近づく。

一進一退、ほぼ互角の勝負。

けれども――今、俺は料理を食べちゃったからな――

次第にメルトの体力が減り、最高出力を維持し続けることが難しくなっていく。

今度は、俺が優しくメルトの手の甲を、ペタンとテーブルにくっつけてやる。

「今日は俺の勝ち! ご飯を食べる前なら負けてたけどね」

「むー! 本当に強くなってるわ! 悔しいけど、安心ね! 今度は腹ペコの時に勝負よ!」

「ああ、約束するよ」

ささやかな勝利の余韻。でも、確かな成長の証。

こうして俺はこの日、充実感と決意、その両方を胸に、眠りに就いたのであった――

何も存在しない闇。そこに、唐突に光が差す。

光が差した先に、一つの円卓が浮かび上がる。

大きな、円卓。それを囲む椅子の数は、二〇を優に超える。

その円卓がどこに存在しているのか、誰の為の円卓なのか、それを知る情報が存在していない。

だが……最初の一人が、その円卓に到着したようだった。

「……ここは……そうか、これは俺の意思か」

現れたのは、少々野蛮な様相の、筋骨隆々の大男だった。

その名前は――

「あ、先越された。やっぱさすが『ファーストキャラ』だね、シレント」

「レント、お前もか。そうか……これは生まれた順番か」

『シレント』シズマが最初に生み出したキャラクターであり、最も信頼しているキャラクター。

そう、この場所はシズマの脳内とも、集合意識とも呼べる、現実とは違った場所に存在する世界。

今、シレントに続いて現れたのは、一度だけシズマに姿を確認された『レント』と呼ばれる、小さなエルフの幼女。

「なんで私達の意識が急に自由になったと思う?」

「知らん……とも言い切れないか。シズマが、強くなったことに関係するんじゃないか?」

レントの疑問にシレントが答える。すると――

「その可能性は高いですね。直近のシズマの行動で大きな変化が起きたのは、急激な成長。その中でも『精神力』の数値が大きく伸びたことが起因している可能性があります」

「来たな、三人目。お前が言うなら説得力がある」

「私の場合……初めまして? と言うべきかもしれませんね。どういう訳か皆さんとは記憶しか共有出来ていませんから」

「そうだな、確かに妙な話だな『シーレ』」

現在、唯一シズマと人格が完全に分離している存在、シーレが現れる。

円卓が、少しずつ埋まっていく。

上座にシレントが。その隣、時計回りにレントとシーレが続く。

「そうだね、シーレの提示した可能性が一番高い。『精神力』が文字通りの意味を持っているなら、きっと僕達という『精神』が自由にコミュニケーションを取れるだけの余裕が、彼の中に生まれたんだろうね」

「『セイム』か。そうだな、お前が言うと説得力がある。一番、シズマとしての意識とシンクロしていたからな」

「そうだね、歳が近いのもあるし、何よりも僕自身シズマに共感できる部分が多い」

さらに現れた青年がシーレの隣に腰かける。

「一応、ほとんどのキャラクターは一瞬だけシズマ本人が姿だけは確認していたね。でもここに来られるのは、ある程度長い時間その姿でいた人間だけかもしれないね」

「えー? それだと私いるのおかしくない? 私一瞬だよ?」

セイムの予想に異を唱えるレント。

そう、確かにレントは『一瞬』しかシズマに使われていない。

「もしかすれば、本人達の意思……なのかもしれませんね。順番的に、セイムの次は――」

「ええ、お察しの通り次は私です」

シーレの言葉を受け取るように、暗闇の向こうから一人の優男が現れる。

少々大仰な立ち回りで、演劇でも演じるように歩み寄り、席に着く。

「いやはや、お美しいですねシーレさんは。そして聡明だ。天は二物を与えずと言いますが、どうやら貴女は例外のようだ」

「……ハッシュ、貴方の我の強さがシズマに迷惑をかけていたようですが?」

「いえいえ。私は心の余裕、そして音楽を愛する心を彼にも分け与えたかったのです。……実際、そういうゆとりは彼には必要です。少々張り詰めている今の彼には」

表情を引き締め、ハッシュが言葉を締めくくる。

それに同意するよに、他の面々も表情を正す。

「でも、だからこそ彼は心の拠り所を、信頼出来る人間と共に生きることを望み、試練に挑もうとしている。そうでしょう?」

皆を安心させるような言葉が、暗闇の向こうから聞こえてくる。

現れたのは、セイラだった。

「いらっしゃいませセイラさん。どうぞ、私の隣へ」

「んー……本来なら私はもう一席飛ばして座るべきよね? という訳でハッシュ、貴方の左隣は空席よ」

「く……だとすれば……私の隣に座るのは『彼』ですか」

「そのはずよね。私や貴方みたいな生産職の中じゃ、一番貢献してるわよね、彼」

「ですが、まだ本格的に行動していない関係で現れることが出来ない……でしょうか?」

ハッシュとセイラが、空席の主について考えを述べる。

するとその時、暗闇から声だけが響いてくる。

『そのようだ。俺のような存在はどうやらまだそこに至る程の強さを持てていないのだろう』

「おお、声だけは聞こえます。是非、貴方の打つ金の音とセッションをしてみたいものです」

『クハハ! 俺の鉄槌は楽器じゃないんだがな。ああ、そのうちな』

闇から聞こえて来た声に、円卓の一同が笑みを浮かべる。

「なるほど、生産職の皆さんは確かに強さという面では我々に一歩劣る……それ故にこの空間に存在出来る程の能力をまだ持ち合わせていないと」

「そうだね、シズマとの繋がりが浅い関係で、負担が大きいのかもしれないね」

シーレとセイムの予想に皆が納得する。だが同時に――

「だが逆説的に『関りが薄くても、一瞬だけでも姿を確認したことがあり、隔絶された強さがあれば、ここに来られる』ってことでもあるな」

「シレントー……不吉なこと言うのやめてくれない?」

レントの苦言。

しかしそれが考えられる可能性だと、他の人間は喉を鳴らす。

……そして、それは現実となる。

『ええ、ええ、ええ! その通りですとも! 私はね、皆さんと顔を合わせて話せる日が来ることを夢見ていましたからねぇ! いやはやそうそうたる顔ぶれです!』

暗闇に響く、狂気を孕む楽し気な声に、皆の表情に戦慄が奔る。

「っ! お前!」

『ああ、ご安心くださいシレントさん。どうやら私、我が主に警戒されているご様子。まだそちらには行けないようなのですよ! そう今は“まだ”ね』

「……俺達で対処は可能だ。それにシズマも強くなっている。お前が表に出てくることはない。無論……“あの二人”もな」

『そうでしょうともそうでしょうとも! 我が主は力に貪欲、少しずつ力に酔いしれ、やがて大きく道を踏み外すこともあるかもしれない! だから私がいるのですよ! 我が主の代わりに狂乱を受け持つ私が! いずれ、時が来れば必ず私の出番がやってくるでしょう! ご安心ください、皆さん。私は我が主を信仰対象として崇めておりますから! それでは、本日はご挨拶まで……』

闇夜を震わせるような、狂気が過ぎ去る。

円卓に集った一同が、ため息を吐く。

「……どこまで本気なのか、判断に困る男だ」

「でも、彼の言うこともあながち的外れでもないよ。僕自身、シズマが少しずつ力の大切さを、そして危険さを認識しつつも、求め始めていると感じた。もしシレントでも対処出来ない……いや、シレントで対処する訳にはいかない状態に陥った時、シズマは迷わず彼の姿になるかもしれない。……でも、シズマを信じるよ僕は。彼の狂気に呑まれ、引き返せないことになるとは思っていない」

「そうだな。あいつは強くなってきている。今に、俺達の誰よりも強くなる男だ。流石は俺達の主だ。きっと、あいつは近いうちに試練に、同胞とのケリをつけに向かうだろう。そこであいつはまた強くなる。心が、強くなる。あんな狂信者に呑まれるようなことはないだろうよ」

「シレント、シズマのこと気に入ってるねー?」

「当たり前だ。なんといっても俺はファーストだからな、付き合いが一番長い」

「あ、それ作られたのが早いのにほぼ放置されてきた私への当てつけだな!?」

少しだけ和やかに、楽しそうに。

シズマの心の中の円卓に、笑い声が満ちていく。

そう、シズマは一人ではないのだ。いつだって、仲間が傍にいるのだ。

たとえ言葉を交わせなくても、そこに居続けてくれる。

試練の時は近い――