軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十六話

「お久しぶりです、女将さん」

「あらま! シーレさん! お久しぶりねー」

はむす亭にやって来た私とメルトは、今日で宿を引き払う旨を、そしてセイムが急な仕事で街を空けてしまったことを伝えた。

「本当に申し訳なさそうにしていましたよ、セイムも。本当に一か月お世話になったと」

「いいのよ、うちに長期で入る人なんて滅多にいないんだから、むしろこっちがお礼を言いたいくらいよ」

恐らく、この宿が新人向けであることから、長期で契約を交わせる程の財力があるお客が来ないのだろう。

長期で契約を取るのなら、もっと設備の充実した宿か、それか最低限寝るだけの格安の宿……という考えなのだろうか。

「女将さん女将さん。旦那さんはいないのかしら?」

「旦那は夜の番の為に仮眠中だよ。何か伝言かい?」

「じゃあ、私もお世話になりましたって伝えておいて! あと美味しいご飯をいつもありがとうって。女将さんだけじゃなくて旦那さんも作っていたんだよね?」

「あら、良く気が付いたわね?」

「分かるよー、旦那さんは濃い味でお肉と芋の料理が多いもの。疲れた時は最高だった! 女将さんはスープがいつも美味しいわね! 本当にいつもありがとう!」

「……本当に良い子だねぇ、メルトちゃんは。シーレさん、セイムさんにくれぐれも伝えておいとくれ。『こんな良い子を一人にしちゃいけない』って。『出来るだけ近くに置いてあげな』ってね」

「ええ、必ず」

もうすっかり、メルトはこの宿の人間に気に入られているようだった。

気持ちは分かる。こんなに純粋に感謝の気持ちを伝えてくる子なんてそうそういない。

私だって今すぐ頭を撫でてあげたいくらいなのだから。

「では名残惜しいですが、そろそろお暇しますね」

「私この街のすぐ近くに住むから、またご飯食べに来るわね!」

「はいよ! 気を付けて行くんだよ」

そうして、この街に来てからお世話になっていた宿を引き払うのでした。

本当に良い宿を紹介してもらった。

「シーレ、この後はどうするの? お家に戻るの?」

「その前に総合ギルドへ向かいます。そこで学者ギルドと冒険者ギルドに所属しようかと」

「わ、シーレも冒険者になるのね! お揃いね!」

「自由に動く為には、やはり身分が必要みたいですからね」

ただ、学者ギルドに所属する条件がまだ分かっていない。

もしかしたら即日所属は出来ないかもしれないと考えておこう。

「……それにしても、やはり私は目立つようですね」

「ね。それに私達、髪の色が珍しいし二人一緒だから余計に目立つのかも」

「なるほど、確かに銀髪はメルト以外は殆ど見ませんね」

「ね。貴族街でたまに見かけるだけだったよ」

なら、まったくいない訳でもない、か。

そうして私達は奇異の視線に晒されながらも、総合ギルドに無事到着したのだった。

「では学者ギルドの受付に行ってきますね」

「ねぇねぇ、ギルドって二つ以上に所属出来るのかしら? シーレは冒険者にもなるのよね?」

「ものは試しですからね。最悪、冒険者になれなくとも、戦えたらそれで良いので」

「むむ……シーレは血に飢えているのね!」

「違います、検証の為です」

メルトの勘違いは訂正しておきましょう。

血に飢えているとしたら……それは『上位のキャラクター達』です。

シレントで多少、物騒な考え、策略が頭を過るようになったとセイムは言っていた。

なら……上位三人ではどうなってしまうのか。

恐らく、私の人格が完全にシズマと別れているのは、強さに起因している部分もあるのだろう。

シレントと私では、実はステータス上ではほぼ互角なのだ。

無論、戦闘力で見たら軍配はシレントに上がるけれど。

が、もし人格のボーダーラインがステータスに依存するなら、確実に上位三人は……シズマの人格を抑えつけ、キャラクター達の自我が表面に出てくることになるだろう。

そしてそれが大きなデメリットになる可能性が高い。

私は、シズマに協力的だと自負している。そして将来、シズマが成長し、この自我が彼のものになるのを喜んで受け入れるだろう。

キャラクターである私は、シズマを創造主であり、いつか帰るべき場所であると認識している。

けれどこの人格が、考え方が『キャラクター設定やシナリオに準拠したもの』だとしたら?

『恐ろしく救いのないシナリオを持ったキャラクター』が自我を完全に保ってしまったら?

……上位三キャラは、あまりにも凄惨なシナリオ、凄惨な設定、凄惨な生い立ちを持っている。

だから……私で実験しなければいけない。いつの日かシズマが強くなり、私の自我を取り込み、成長するのをしっかりと確認しなくては。

「シーレ、どうしたの? ボーっとして」

「あ、すみません。ちょっと考え事をしていました」

私は糧になろう、シズマの成長の。だから、検証を進めなければ。

学者ギルドの受付に向かい、早速ギルドへの所属を願い出る。

以前、図書館の場所を教えてくれた受付の男性が、しっかりとこちらのことを覚えてくれていた。

「所属ですか? そうなりますと……何かしらの研究レポートを提出して頂く必要があるのですが、何か専攻している分野がおありなのですか?」

なるほど、やはり学者と名がつく以上、簡単には所属出来ないか。

「私は属性を物体に簡易的付与させる方法について研究しています。特殊な材料、特殊な武具に儀式を行い、何かしらの属性の力を宿すのではなく、簡易的に属性を一時的に纏わせる方法について効率化、簡易化を研究しています」

そう言いながら、私は『初級付与魔法』を発動させ、目の前に置かれていた羽ペンに雷を纏わせてみせる。

「ほう……見事な付与術ですね。恐ろしく発動も早い。一度、レポートに研究の概要をまとめて提出してください。結果次第では正式に新たなる魔法体形として学園の資料に加えられ、行く行くは研究院の資料に加えられることもあるかもしれません」

「わかりました。ではまた後日お邪魔しますね」

この術を、この世界の魔法で再現出来る可能性は高い。

今発動させた時、しっかりとこの世界のルールに準拠したような感覚があった。

ふむ……私達の力は超常の力、ダンジョンマスターにより捻じ曲げられ、強引に再現された力ではなく、この世界の理にのっとる形で再現されているのだろう。

これは、良い発見だ。

「ああそうだ。すみません、学者ギルドに所属する傍ら、冒険者として活動することは可能なのでしょうか? ギルドの掛け持ちというのが可能なのか知りたいのです」

「可能ですよ。実際、研究費を自分で稼ぐ為、副業で冒険者や薬師、錬金術ギルドに所属する方は多いですから」

「なるほど、分かりました。ありがとうございます」

掛け持ちも問題なし、と。

ならば一度、メルトにも教えた方が良いだろうか?

彼女の知識は薬師ギルドできっと輝けるはずだ。

……いや、でもメルトの生活が安定した頃の方が良いだろうか?

メルトはようやく、家を持ち自分の居場所を新たに手に入れたのだ。

なら、今はそのことに集中させるべき、ですね。

「シーレ、学者さんになれたかしら?」

「今日すぐには無理だそうです。今度研究レポートを提出しなければなりません」

「へー! レポートかー懐かしいわね! おばあちゃんの部屋に沢山残っていたわねー」

「へぇ、そうだったんですね。メルトはそれも読んでいたんですか?」

「うん。読むものが無くなって、今度はレポートばかり読んでいたわ」

実に知的好奇心豊富な女の子です。

きっと彼女は『出来そうなことは試す』それを繰り返し、今の強さを手に入れたのでしょう。

元々の資質の高さだけでなく、気質も後押しした結果……なのでしょうね。

「では次は冒険者ギルドに行きましょう」

冒険者ギルドの受付には、今日はシグルトさんが立っていました。

メルトがお世話になっているらしく、先に彼女が挨拶を交わす。

「シグルトさんこんにちは!」

「お、メルトの嬢ちゃんか。今日は一人か?」

「ううん、お友達を連れてきたの。冒険者になりたいって言うんだー」

「ほう、新人か。んじゃこれに必要な情報を書いてもらってくれ」

書類をメルトから受け取り、記入していく。

……正直、シレントと大差がない、名前しかまともに書ける項目がない。

ただ得意分野には『調査と研究』と記しておく。

「記入が終わりました」

「ん、あんたが友達か? すまんがフードを脱いでもらえないか? 一応、手配書やリストと照らし合わせる必要があるんだ」

そうだった。いつもの癖で人が多いところに入る時は顔を隠していたのだった。

「申し訳ありません。どうぞ」

「…………メルトの嬢ちゃん、この人友達か?」

「うん、友達だよ。シーレって言うの。前にもここに来たことあるんだよ」

「そ、そうか……ふむ、出身地不明経歴なし……訳アリですかい?」

「そうですね、自分でも分からないのです」

「ふむ……エルフのようですし、長い人生でいろいろ経験したんですかね。調査と研究が得意とありますが、戦闘は可能ですかね? 冒険者はランクが上がると、野外での活動が増えるんですが」

「そこには記入していませんが、弓とナイフの扱い、それと簡単な魔法なら使えますよ」

「ほほう……本来なら別室で詳しい面談も必要なんですが……このまま中庭で実技テストをしましょう。面談の必要はなさそうだと判断しました」

ふむ? 面談の必要はない……もしや、エルフであることが関係しているのだろうか?

植物の知識などは持っていて当然だと思われているのだろうか?

正直、助かったかも。この世界の植物が地球やゲームの世界とどれくらい乖離しているかはまだ分からないけれど、少なくとも名前と姿が一致する自信がないので……。

そうして私は、同行を許されたメルトと共に中庭に向かうのだった。

以前、シレントとして過ごした時の事件により、爆発で荒れてしまっていた中庭。

けれども、今は全て修復され、元通りの姿になっていた。

そういえばあの襲撃者は……今も地下牢に閉じ込められているのだろうか?

「んじゃシーレさん、軽い組手と射撃の腕を見せてくれ。木剣はダガータイプで良いですかね?」

「はい、問題ありませんよ」

「んじゃ、俺が今から一撃入れますんで、避けるなり受けるなり反撃するなりしてください」

さて……シーレで戦うのは初めてだ。

シーレのメインジョブは狩人……本来の武器は弓、ナイフやダガーはサブウェポンだ。

したがって専用の剣技などは覚えない。が、どうやらしっかりと知識として『ナイフを使った体術』は私の中にある。

私は、ナイフを逆手に構え、姿勢を低くする。

俊敏さはセイムより私に軍配が上がる。つまり――

「な!? 消え――」

彼の片足に重心が移動し、踏み組む瞬間を見計らい私も動き出す。

「失礼」

瞬間加速。地面を蹴り低姿勢でのダッシュからのステップで視界から消え、そこからさらに空中への跳躍。

頭上を飛び越えながらのなぎ払いで、シグルトさんの首を上空から軽くなぎ払い一撃を加える。

「ぐ!」

「反撃させてもらいました。お怪我はありませんか?」

「あ、ああ……いやはや……メルトの嬢ちゃんと良い、とんでもない手練れだ……暗殺者かなにかだったんですかね?」

そう、シグルトさんが冗談めかしながら訊ねてきた。

……もしかしてそういう経歴の人もいるのだろうか?

「そんな物騒な経歴ではありませんよ。狩人が長かっただけですから」

「接近戦だけでも上位を狙いますよこりゃ。んじゃちょっと射撃の腕が見たいのでこちらへ」

動ける。ヘタな剣技、技よりも、遥かに有効な攻撃だ。

確かにこれなら暗殺者と呼ばれても不思議ではないですね……。

流石に強い。

「じゃあこの場所から、向こうの木偶人形に矢を射ってください。弓はええと……短弓と長弓、どっちが良いですか?」

続いて連れてこられたのは、射撃訓練場。

どうやら自主的に訓練をする人間もいるのか、多くの人間が弓を構えていた。

私は簡単な作りの金属と木を組み合わせた長弓を借り受ける。

……ふむ、コンポジットボウの一種でしょうか。

まずは一射、癖を掴むためにも、人形の胴体ど真ん中を狙う。

「――フッ」

真っすぐに、寸分たがわずにヘソに相当する場所に吸い込まれる矢。

木製の、そしてしっかりと整った矢羽根が取り付けられている矢だ。

弓にも変な癖はなく、狙いが逸れることもない。

「良い弓ですね」

「そいつはよかった。先週、鍛冶ギルドにメンテナンスをしてもらったとこなんですわ」

「なるほど、どうりで」

もう少し、試そう。

狩人の基礎弓術の一つ『精密射撃』。

ゲーム時代は主観視点に切り替わり、弱点部位を狙い易くする効果があった。

また攻撃力にバフがかかり、クリティカル率も上がり、射程も伸びる効果があった。

現実世界ではどういう効果を実感出来るのだろうか。

「――ここ」

狙うのは、既に的に命中した『矢』だ。

和弓で言う『継矢』を狙う。

本来であればあまり喜べることではない事例だ、備品を傷つける行為なのだから。

だが今だけは許してほしい。自分の能力を確かめたい。

「……成功」

さらにもう一射……こちらも成功。

世にも珍しい、三本の矢が一本に繋がるという現象が誕生する。

「こりゃあ……神業だ。あんた一体……」

「途方もない時間を弓に費やした暇人です。固定票的なんです、時さえかければいずれは成功するでしょう」

「いやいや……よく分かった、アンタは本物だ。シーレさん、窓口に戻ったら少し座って待っていてくれないか。ちょいと審議が必要なんで」

「了解しました」

いつの間にか、周囲で弓の訓練をしていた人間全ての視線を受けていた私は、メルトを連れて早々に立ち去るのでした。

「シーレ凄いわ! 私あんなの初めて見た! 矢がトン! トン! トン! って、どんどん長くなっていくの! 面白いわ!」

「ふふ、私も面白いと思いました。どこまで長く出来たんでしょうかね?」

「今度試そう? きっと目の前まで矢のお尻が迫ってきちゃうわ!」

受付に戻ると、メルトが先程の光景を見た感想を伝えてきた。

こう……なんというか、毎度彼女の感想や発想が可愛い。

「それにナイフの扱いも、走り方もかっこよかったわ! 私も今度真似してみる!」

「メルトなら本当に出来てしまいそうですね」

さてさて……私の初期ランクはどうなるのでしょうか?