軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十二話

セイム達が小さな問題を解決していたその頃。

大きな問題が降りかかろうとしている神公国レンディアおよび主都リンドブルム。

その中枢とも言える王宮に、国の防衛の要であり、同時に尖兵として大きな戦力を持つ人間達が集められていた。

『十三騎士』と称される、王国の騎士や、リンドブルムの総合ギルドのいずれかに所属している人間が大きな円卓を囲み、国を治める女王、そして総合ギルドのトップであるバークを交え、ここ最近大きな動きを見せた『人造魔獣の製造』の件について会議を行っていた。

「皆、よく集まってくれた。十三騎士の皆も、多忙の中感謝する」

女王が重々しく感謝の念を口にすると、真っ先にそれに呼応するように口を開く者が現れる。

「十三騎士? 十二の間違いじゃないのか、女王さんよ」

やや荒くれた物言いで、この場に集まった顔ぶれについて訂正をする声。

「……いや、十三騎士の名は変えるつもりはない。今はここを去ったとしても……いずれ、戻ってくると私は信じているのでな」

その物言いから察するに、十三騎士と言う称号を返上、姿を消した人間がいる様子だった。

「してバークよ。リンドブルムで起きた事件について、ことのあらましを今一度皆に聞かせてやってはもらえぬか」

「かしこまりました」

総合ギルドのトップであり、リンドブルムの運営を任されている人間の一人でもあるバークが、ここ最近起きた事件について語り始める。

「昨今、リンドブルム周辺にて不可思議な魔物、強力な個体と思しき翼竜、川を下る謎の大きな獣等の目撃情報の真実を探るべく、冒険者ギルド、および傭兵ギルドの掲示板に、ベテラン向けの調査依頼を張り出していました」

「ああ、それなら俺も目を通したな。つーか、何体か潰して報告したろうがよ」

先ほどのやや荒っぽい男が、口調を正すこともなく語る。

「ええ、そうです。ですが、恐らくあの魔物だけではなかったのでしょう。さらに改良、改造を施されたと思われる魔物の頭部が大量に持ち込まれました。そしてその魔物の額には……解析不明の魔導装置が埋め込まれていたのです」

魔導装置という言葉に、何人かが過敏に反応する。

「そ、それはどんな構造なのかしら? どういう様式、どんな効能を持つ物だと仮定しているのかしら?」

「現在、錬金術ギルドと魔術ギルドの共同で解析が行われています。ですが、今のところは『生物の脳になんらかの信号を送り意思を操る』と『過剰に魔力を集め直接脳に送り込み肉体を変質させる』という効果なのではないかと言われています」

「ほう……! それはもはや禁術に該当しそうな技術だ。是非、私もその解析に関わらせてもらいたいわ」

そう息を荒げるのは、十三騎士と呼ばれている人間の一人、白衣の女性だった。

「その頭部を持ち込んだというのは、どこの誰なんだい? バーク殿」

「冒険者です、一般の」

「ふむ、それは少しおかしな話じゃないかい? そこの狂犬が件の魔物を何匹か仕留めたという話だったのに、さらに改良された魔物を何体も倒せる冒険者がいるのかい?」

「誰が狂犬だこら。風呂に沈めんぞ風呂馬鹿女」

「おっと失礼。しかしそんなに褒めないでくれないか、風呂馬鹿だなんて」

どこか飄々と受け流しながらも、魔物を狩ってきた人間が誰なのか疑問を呈するのは……十三騎士にして、以前セイムと接触したことのある冒険者、シュリス・ヴェールだった。

「それについてはあくまで一冒険者に過ぎません。ですので詳細をお伝えすることは出来ませんが……善良な一般冒険者ですよ。ただし、私では正面から挑んで勝てないような方ですが」

それに答えるのは、同じくこの会議に出席している女性、バークの護衛として同行していたレミヤだ。

この場に通され、会議に参加しているということは、つまり彼女もまた『十三騎士』の一人であるということ。

隠密作戦、暗殺等にこそ真価を発揮する人間とはいえ、それでも十三騎士に数えられる彼女が『勝てない』と断定する程の人間が存在するという事実に、何人かの人間が反応する。

「ふむ……それはもしかして、私と同じような金髪の青年、なかなかいい男だったと記憶しているが、そういう風貌ではないかな?」

「いえ、まったく違いますね」

シュリスは、一瞬だけ脳裏をよぎった、ごくごく最近見知った、得体のしれない凄みを秘めていた青年のことかと思い訊ねるも、外れに終わる。

まぁ、本質的には正解ではあるのだが。

「どう考えても怪しいのはソイツだろ。とっととしょっ引いて拷問でもなんでもすりゃ良い」

「いえ、無理ですね。ですが、バーク様も私も、何度か彼の人となりを調べるために『試験』を行いました。結果、極めて善性の高い人間だと判断。関係性を悪化させるような行為は極力避けるという方針に決定しました。あまりにも、敵対するには惜しい人なので」

レミヤは、シレントをそう評価していた。

「そういうことになりますな。不満がある方もいるでしょうが、彼は冒険者ギルドに所属し、そして早々に蒼玉ランクを与えるべきだと私が判断しました。魔物のサンプルの確保だけでなく、首謀者に繋がっている可能性のある人間の捕縛や、ギルド襲撃犯の撃退と捕縛、それら全てを僅か二日で成し遂げた、文字通りの『期待の新人』ですからな」

「ますます怪しいな。いいぜ、だったら俺が勝手に調べる。文句は言わせねぇぞ」

「ふむ。レミヤ、君の意見を言いなさい」

先ほどから、喧嘩腰になりつつも、シレントを警戒し続ける男。

それに対しレミヤは――

「『ヴィアス』様の所属する傭兵ギルド、その中にあるクラン『レヴォルト』の構成員である三名に、件の冒険者の試験を手伝ってもらいました。結果、三人は何する暇もなく撃破されました。そしてその冒険者が敵対した場合、食い止めることが可能か訊ねたところこう仰りました『うちのボスでも止められるかどうか』と」

荒くれた男、十三騎士の一人であり、傭兵ギルドに所属する人物の名が判明する。

『ヴィアス』と呼ばれた男は、件の傭兵三人組を束ねる存在であった。

そしてシレントの力が、自分に比肩するか、もしくはそれ以上と評価されたことに対して――

「くは! うちの連中が俺以上と抜かしやがったか! なら本当にやり手なんだろうよ! 名前を教えろ、そいつは今どこにいる!」

「既に街を出発、西に向かいました。恐らく港町へと向かったのかと」

「名前を教えろ、それと風貌もだ」

「お断り致します。無駄に戦力を減らすような情報は漏らしません」

「いいぜ、なら西にある街をしらみつぶしに調べてやる。新人冒険者の動向なんざすぐ調べられる」

ヴィアスは、まるで最高の遊び相手でも見つけたように嬉しそうに笑う。

が、レミヤはこう考える『恐らく見つけられないだろう』と。

得体が知れないのだ。レミヤをもってしても、どこから現れたのかすら調べられないのだから。

そしてそれはそのまま『自分の諜報範囲外から来た』という結論に至る。

『冷戦状態で内部を詳しく探れない隣国、ゴルダから来たのではないか』と。

『恐らく進路を撹乱しゴルダに戻ったのではないか』と。

「その冒険者については一度置いておくとして、今回の人造魔獣について、黒幕に繋がる道筋は既に見つけているのだろう?」

脱線した話を戻すように、女王がシレントについての話を切り上げさせる。

「来たる建国祭、それを控えたタイミングで、人造の魔獣が大量に発見された。恐らく、建国祭を狙って動いていたのだろう。では、誰が首謀者なのか。それについて建設的な議論をしたいのだが」

「捕らえたギルド襲撃犯が問題なのです。捕らえた襲撃犯の名は『フーレリカ』。かつて、レンディアの王宮騎士にして、最年少で近衛に選ばれた人間です。力に溺れ、師である人間を裏切り、国を捨てた彼女が、今再び国に戻ってきている……黒幕が国内に潜む何者か……で終わる話ではなくなっているのです」

どよめきが広がる。

「あのアバズレを撃退したってのか、その冒険者は」

「ええ、ほぼ死にかけの状態まで痛めつけていました」

「……くはは、マジで俺並にやるじゃねぇか。女相手でも容赦ねぇとか気に入ったぜ」

「でしたら、彼を探るような真似はお控えください」

「ふむ……かつて我が国に牙向いたあの女が……しかし、それほどまでの冒険者をみすみす、建国祭前に街から旅立たせたのは、いささかもったいなかったかもしれんな」

女王のそんなぼやきに、いち早く反応する人物が現れる。

「何を言うのです女王陛下! そのような得体のしれない冒険者などに頼る必要はありません。お忘れですか、かつてフーレリカを打倒し、国外に追放したのが私であると! 私を始めとした騎士団がいる限り、女王の安全は絶対です」

会議に参加していた、騎士甲冑を身に纏う女性がそう反論した。

「おやおや、私の可愛い妹君はその冒険者に嫉妬しているのかな? いいじゃないか、頼れる戦力が増えるにこしたことはない。女王という立場からすれば、国力増強に繋がるかもしれない人材を惜しむのは当然だろう?」

「ぐ……! 姉上は黙っていてください」

その女騎士をからかうように、シュリスが口をはさむ。

どうやら、この女騎士はシュリスの妹であるようだった。

「ふむ、すまんな。そなたを軽んじているわけではない。シュリスの言うように、ただ惜しいと思っただけなのだ。許せ」

「女王陛下……申し訳ありません、出過ぎた真似を」

そうして、再びこの襲撃、ひいては人造魔獣事件の黒幕は誰なのか、取れる対策はどういうものか、議論が続いていくのであった。

「お疲れ様です、シュリスさん!」

数刻後、王宮を出たシュリスに声をかけるのは、同じクランに所属している女性、アリスだった。

「ふふ、待っていてくれたのか。ありがとう、アリス」

「いえいえそんな。会議の方はどうでしたか?」

「んー……そうだね、結構実のある話が聞けたかな……」

結論としては『魔獣による大規模な襲撃は未然に防がれた以上、次の手を確実に打ってくるだろう。どんな手段であれ、確実に対処出来るように目を光らせておくように』という、具体案が何一つない結論に至った。

だが、それでいいとシュリスは考える。

『元々自由に個人で動く人間の集まりが十三騎士なのだ。本領が発揮されるのはこういう指示を出された時なのだから』と。

「アリス。しばらくは街の外から入ってくる『あらゆるもの』に注意を払ってくれ。物も、話も、人も、動物も、全てだ」

「全て……了解致しました」

「それと……外から来たと言えば、例の彼から接触はあったかい?」

「というと……セイムさんですね?」

シュリスは、なぜか印象に残っている、会議中にも自分の脳裏に現れたセイムについて訊ねる。

彼女の勘が、セイムがどこかでこの件に関わっているかもしれないと告げているのだ。

それがどんな関わり方であれ。

「未だクランホームを訪れたという報告はありませんね」

「ん、そうかい。それと聞きたいんだけど、私は昨日まで街道にある野営地の視察に行っていただろう? その間、冒険者ギルドや総合ギルドで大きな事件があったようだ。その詳細が知りたい」

「報告書は机に置いていましたが……」

「なんだって? バスタオルの下敷きになっているかもしれないね……」

風呂馬鹿。

後日、シュリスはうっすらと湿った報告書を読み込む羽目になるのであった――

「えーと……ここであってるよな?」

総合ギルドがある通りは、当然総合ギルドに用事がある人間が多く通る。

そして総合ギルドとは文字通り『総合』なのだ。

『冒険者』『探索者』『傭兵』『学者』『商人』『鍛冶師』『薬師』『錬金術師』『魔術師』『料理人』『発明家』『芸術家』『大工』『農家』『家政婦』。

つまりそれだけの業種の人間が訪れるのだ。

それに従い、総合ギルドのある通りには、それらの業種の人間が利用する店も並んでいる。

無論、専門の通りも存在するのだが、総合ギルドのあるギルド通りには、少数とはいえど、それら全ての業種に関連する店が存在するのだ。

少数でも、種類が増えればその総数は圧巻。

つまり、この街で一番賑わっているのが『ギルド通り』だ。

「ふぅむ……外れの方にはこういうクランホームってのが多いのかね……」

そして俺は、数あるクランホームの中でも、一際立派な建物である『グローリーナイツ』のクランホームを訪れていたのだった。

さて……俺のお願いは聞いてもらえるのだろうか――