軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十話

「ふぅ……」

いつもの川上にある洞窟。そこでシレントからセイムの姿に戻る。

……やっぱりセイムでいる時が一番落ち着く気がする。なんというか、俺らしい考えが一番出来るんだ。

で、思い返すのは……シレントで過ごした、濃密すぎる二日間。

「セイムじゃなくてシズマ……俺に戻ったら絶対吐いてたな、これ」

あまりにも血生臭い、生々しい記憶の数々。

血の気が多すぎる選択肢と思考。

これは、明らかにシレントの記憶、設定に俺が引っ張られていたと見ていいだろう。

「リンドブルムとゴルダで戦争……そのごたごたに乗じて元クラスメイト……あのビッチを殺すつもりだったのかよ……」

規模が、でかすぎる。復讐の為にそこまでするか!?

いや、恐らく自分が罪に問われず、なおかつ大腕を振って、誰にも止められずに堂々と殺すのだとしたら、この方法が手っ取り早いのは……理解出来るけど!

「別に暗殺でいいじゃん……」

まぁ殺すことに反対はしないけど。ただ積極的に狙おうとか、そこまでの憎しみは抱いていない。

せいぜい困ってたら見捨てたり、命の危険があれば見殺しにする程度です。

「しっかし今回は運が良かったのか、それともシレントの動き方が良かったのか……蒼玉ランクか……これでギルドの目は完全にシレントに向いただろうな」

なら、セイムに戻って真っ当に暮らして、オークションで資金を得たら、いよいよ家の購入だな。

面倒な方法で姿を変える必要だってなくなるだろうし、メルトにもちゃんと住む場所を提供出来る。

「さてと……街に戻るのは明日の朝にするべきか、それとも今から歩いて行くか」

時刻は深夜。が、シレントで夕方まで爆睡していた関係で、全然目が冴えている。

よし、帰ろう。洞窟で一晩過ごすとか退屈過ぎるし。

そうして、俺は山を下りリンドブルムの街へ戻って行くのだった。

「止まれ! 深夜帯の通行には身分証明が必要だ」

「あ、これでお願いします」

なんだかもう、勝手に顔見知りだと思っている東門の門番二人組に、冒険者登録タグを見せる。

どうやら、門番はこういった身分証明になるタグやカード、各ギルドの登録証を照会する道具を持たされているらしい。

「ふむ……しっかりとこの街の冒険者だな。凄いな、まだ若そうなのに紅玉ランクか!」

「いやぁ、正直これは運が味方したって感じですよ」

「はは、謙遜するな。よし、通って良いぞ」

問題なく、通される。

うん、こっちの方が絶対に良い。シレントの時とかもう酷かったもん。

「さーてと……はむす亭ってこの時間もやってるよな……旦那さんが対応しているんだったか」

冒険者の巣窟を進み、目的の宿を目指す。

この時間もそれなりに人の往来があり、騒がしくはないが、人の気配に満ちた通り。

遅くまでやっている酒場からは、時折言い争いのような声も聞こえてきた。

やがて、なじみの宿、可愛い外観のはむす亭に到着し、扉をノックして開ける。

「こんばんはー……夜分遅くに申し訳ありません、ご無沙汰しています」

「ん……お前は確か……メルトの嬢ちゃんの相方か。戻ったのか」

「はい、先程街に到着しました。すみません、新しく支払いますので、メルトと同じ部屋に泊まっていいですか?」

「いや、そのままで構わん。元々二人分を一月、前払いしてもらってるんだ。少々変則的だったが構わない」

「そうですか? では……」

「もう他の客も嬢ちゃんも眠ってるだろうからな、静かに歩けよ」

そろりそろりと、階段での足音すら殺すようにしずかに進み、部屋の前までやってくる。

メルトの寝息が微かに聞こえてくるな……。

鍵を開け、静かに部屋に入ると、誰も使っていないベッドにそっと潜り込む。

まだ、まったく眠くないはずなのに、心地よさそうに眠るメルトの寝息を聞いているうちに、釣られるようにこちらの瞼も落ちてくる……。

「セイムだ! セイムだセイムだセイムだ!!!」

朝、いつの間にか眠っていた俺を起こす、耳元の大きな声。

「うー……おはようメルト」

「いつ来たの!? お帰りセイム!」

元気いっぱいのメルトが、本当に嬉しそうに笑っていた。

これは……あれか、きっと世の中のお父さんは、こうやって帰宅を喜ぶ娘や息子に元気を貰っているんだろうなってよく分かるな。

いやこの子一七歳だっけ。ちょっとはしゃぐような歳じゃないですよ、むしろ父親に向かって『ウザイ』『クサイ』『邪魔』とか言い出しそうな年齢ですよ!

「はは……昨日の深夜にね。いやぁ……疲れた」

「お疲れ様ね? シレントで何してたの?」

「しー……声を抑えて。シレントは、今単独で動いてるってことにしたいんだ。だからこの間は冷たくあしらって悪かったね」

「ううん、大丈夫よ。私と一緒にいた子達にも『少し同じ道を通った行きずりの人』って説明したから」

「お、ナイス機転だ」

恐らく、俺の状況を鑑みて、必要だと判断したのだろう。

やっぱり、人の社会で暮らした経験が足りないだけで、この子はかなり頭が良いように思える。

「ねぇセイム? 今日もし時間があったら、この間私が一緒に組んで依頼を受けていた子達と会ってくれないかしら? なんか、三人がセイムにお話があるみたいよ?」

「ん、俺に? んー、夕方以降なら大丈夫かな? ほら、ピジョン商会にそろそろ話を聞きに行きたくてさ」

「あー、商会さんかー。私は今日、ギルドに用事があるから、一緒に行けないけど大丈夫?」

「ん、大丈夫だよ、もう文字も読めるようになったし」

「そっか、よかった。じゃあ夕方までに宿に戻っておいてね? 三人を連れてくるから」

はて、メルトじゃなくて俺に用事とは一体なんだろうか?

もしかして、正式にメルトを仲間として引き抜きたいから、現状彼女の保護者のような立場である俺に許可でも貰いに来るのだろうか?

ううむ……別にメルトの人生を縛るつもりもないが、ちょっと寂しいな。

一緒の家に住むって話だったし、出来れば一緒に行動していたいところだけど。

が、メルトが自分の意思で独り立ちして生きていきたいと言うのなら、それを認めないと、だな。

その後、宿で一緒に朝食を頂いた俺達は、それぞれの予定の為ひとまず別れたのだった。

「おはよー。今日は査定してもらえると良いね」

「おはよ、メルトちゃん。そうだね、結局昨日も査定してもらえなかったし」

「なぁ、キノコとか木の実がダメになっちまうんじゃねぇか?」

「いや、生モノはしっかり専用の保冷庫に保管される。希少な魔物の部位も保管することがあるからな、そういう品質管理は徹底しているはずだ」

朝食を済ませたメルトは、今日こそは持ち込んだ品々を査定してもらう為、朝からリッカ達と合流していた。

「昨日もまだ騒がしかったからね……私達新人には教えてくれないけど、なんだかギルドの建物内でも事件があったみたいだし」

「らしいな。なんか中庭が今封鎖されてるらしいぜ」

「噂では、爆発事故ということらしいが……」

深夜の襲撃事件。その余波は他の冒険者や総合ギルド利用者にまで広まっていたが、その真実はごく一部の人間にしか知らされていないようだった。

そして一夜明け、ようやく査定が再開されたと聞いたメルト達は、背負い籠いっぱいの中身を見てもらっていたのだった。

「ふむ、キノコの品質は良いな、だいぶ。虫食いも少ない、それに形も綺麗だ。良い種類だけ選別してきたな?」

査定を行っていたのは、たびたび顔を合わせていたシグルトだった。

「木の実は……ああ、これは助かる。こいつは薬師ギルドで買い取り募集がされてるんだよ昨日から。ポーションの効能を高めてくれるんだ」

「え? 違うよ、それはエリキシルの触媒にもなるヤツだよ? ほら『セッカ草の実』の代わりになるんだよ、五倍くらいの量が必要になるけど」

「は? いやそんな話は聞いたことがないが……一応報告だけしておくか。すまんが買い取りは通常の値段だ」

「えー……」

メルトが不満を漏らすも、三人はキノコと木の実の査定額が想像よりもはるかに高く、それらを一人で集めたメルトに、羨望のまなざしを向けていた。

無論……物欲しそうな視線も混じっているのだが。

「ん? こりゃなんだ? 薪か?」

「ファットウッドだよ、しかもかなり比重が重いヤツ」

「ふむ? 買取リストにあったか……?」

「えー!? これ高く売れるはずだよ!?」

そして問題の品、他の三人も採取に協力した『ファットウッド』と呼ばれる、長めの枝達。

それを見た反応が芳しくなく、少しだけ表情に陰りを見せ始める一同。

「ん、ちょっと待っててくれ。今鍛冶ギルドに聞いてくる」

流石にその様子を可哀そうだと思ったのか、シグルトは薪などの燃料をよく取り扱う、鍛冶職人を取りまとめるギルドの受付に話を聞きに向かっていった。

「おかしいなぁ……あの枝、凄く喜ばれてたんだけどなぁ……」

「もしや、あまり有名でなく、需要がそこまでではないのだろうか」

「だとしたら、欲しい人さえ見つかれば高く買い取ってもらえるんじゃない?」

「ま、もしダメでも、またキノコ採りに行けばいいじゃないか。もう危険はなさそうなんだろ?」

「ま、そうなんだけどね」

少しすると、シグルトが一人の男性、かなり背の低い、ひげを蓄えた人物を連れてきた。

一般的にドワーフ種と呼ばれる、自然物質の活用法について詳しく、優れた職人を多く輩出する種族だ。

「これだこれ、これって価値があるのか?」

「ん? ティンダーウッドか。わざわざこんなに採ってくるとは珍しいな。今じゃ燃料になる油も薬剤も多いからな、あんまりこれを欲しがるヤツはいないんだよ嬢ちゃん」

「えー……そんなぁ……」

恐らくその道のプロであろうドワーフの男性の言葉にがっくりと肩を落とす。

行商人の買取価格など、その地域や時勢でころころ変わるものだということをメルトは知らなかったのだ。

常に同じ場所の行商人を利用していたのだから、仕方ないとは言えるのだが。

「けどまぁ、これに拘る職人もいるのは確かだ。いいぜ、うちで引き取ってやる。そんなに大量には買い取れんが、ここにある量くらいならこっちでも喜ぶヤツはいるだろうよ。そうだな……ざっと三〇万……こっちで言う大金貨六枚でどうだ?」

「は!? マジかよそんな大金になるのか!?」

「え? 買い取ってくれるんですか!?」

その提示された値段に、思わず声を裏返すカッシュとリッカ。

メルトも、思わぬ収穫に満面の笑みを浮かべ小躍りする。

「質そのものは上物だ。ずっしり重く、断面から滴るようなヤニの光沢もある。この長さでほとんどがしっかりヤニが詰まってるなら、まぁかなりの期間はこれだけあれば賄えるだろ。縁起をかつぐ職人は、自然由来の焚きつけ剤にこだわるからな」

「じゃ、じゃあそれでお願いするね! 買取、お願いします!」

「あいよ」

そうして、思わぬ大金を手にした四人は、大金貨六枚を手に、ほくほく顔でギルドを後にしたのだった。

「じゃあ、まず一人一枚ずつで……残った二枚はどうしよっか?」

「ふむ、どこかで崩してから分けるか?」

「そうしましょ? そろそろ冒険に必要な道具の買い足しもしなくちゃだし、商業区の方に行こっか」

「いやぁ、ただの枝だと思ったら結構化けたな! 依頼の報酬と合わせたら一人あたり大金貨二枚の稼ぎだ! メルトさまさまだな!」

「まったくだ。山の高所はまだ俺達のランクでは立ち入れないから、本来ここまでは稼げなかったんだ。四人パーティを組めたのは幸いだった」

「ね。このままメルトちゃん、ずっと私達のパーティにいてくれたらいいのに」

思いのほか稼げたことに気を良くしている三人は、この後どこに行くべきか相談しつつも、メルトを改めて誘う。

と、ここでメルトは――

「あ、そうだ。昨日私の相方? 相棒? 一緒に旅してた人が帰って来たんだ。なにかお話があるって言ってなかった?」

昨夜のうちに帰還したセイムについて教える。

「それは……丁度良いな。ああ、この機会にしっかり話をつけるべきだな」

「マジか、そいつって今どこにいるんだ?」

「えーと、確かピジョン商会に行くって言ってたよ」

メルトは、セイムの今日の予定を思い出し、それを知らせる。

だが、それは思いもよらない結果を引き起こした。

「ピジョン商会……! 少し前にリンドブルムに出来た商会よね……確か」

「ああ、商業区の入り口付近に店を出してるとこだな。かなり勢いがあるって話らしいが」

「……そんな商会に用事……あそこ、もしかして何か『表に出せない品』でも取り扱ってるんじゃないか……?」

既に、三人の中でメルトの世話をしている人間、セイムは『人身売買や人攫いの疑いがある人間』だと思われていた。

そんな人物が、破竹の勢いで成長を遂げている商会に出入りしているという話だけで、疑いを深めてしまっていたのだった。

「……隣国のゴルダは獣人差別が酷いと聞いたことがある。そしてピジョン商会は……ゴルダの商会だと聞いた」

「あ、そうだよ。私もセイムもゴルダから来たんだよー」

あっさりと認めてしまうメルト。それは本当に、ただあの国から来ただけという意味だったが、それが決定的だった。

もう、三人は『メルトはゴルダ国で奴隷のようにこき使われてきた獣人』『ピジョン商会にセイムがメルトを売り飛ばそうとしている』という結論に至ってしまったのだった。

「どうする……ギルドに相談は……」

「いや、奴隷の所持そのものは違法ではない……だがレンディア国内での取引は違法だ。実際に取引の現場でも押えない限り……ギルドは動かない」

「どうしよう……」

三人が何を悩んでいるのか、何を話しているのかイマイチピンとこないメルト。

が、セイムについて悩んでいることだけは理解出来たのか――

「じゃあ、これから行ってみよっか! セイムならもういるだろうし、ピジョン商会に行こう?」

そう、提案したのだった――