軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十八話

少々独特の乳臭さがあるが、非常に柔らかく野性味溢れる味付けの骨付きのステーキを五枚平らげ、アルコールではないが、炭酸の効いた、スパイス感と若干の苦さを感じる飲み物。

悪くない組み合わせのそれを貪るように食らい尽くし、さらにサンドイッチを三つ平らげる。

すっげえ健啖家だな我ながら。いやもう食欲も凄いけど胃のキャパシティ半端ない。

どうも、地下牢なのにVIP待遇で飯をたらふく食ってます、僕です。シレントです。

なんかシレントとしての意識が妙に俺と馴染むような気がするんですが、なんでなんですかね。

まぁ地下牢って言っても投獄されてる訳じゃないんですがね。

「……シレント様、ドリンクのおかわりは必要でしょうか」

「頼む。給仕をしてもらって悪いな、レミヤ」

あのアサシンっぽい女性だが、今は覆面を外し、ギルドの制服で対応してくれている。

どうやらエルフだったらしく、特有の笹の葉のような形の耳が生えていた。

ふむ……褐色肌だし、俗にいうダークエルフ的な種族なのだろうか?

それともひとくくりにしてエルフなのだろうか。

「喜んでもらえたようでなによりです。シレント様には格別の配慮をするように仰せつかっておりますので」

「まぁ、得体のしれない男が功績を挙げた以上、無碍には出来んだろうさ。精々タダ飯を頂くとする。……が、恐らく襲撃があるとしたら今夜だ。一応、他の人間には睡眠薬の予防になりそうなものや、毒や麻痺の解除に使えそうな薬を持たせてやってくれ。俺は自前の物がある」

「……油断がないようで安心しました。では、飲み物を取って参ります」

シレントの感覚、思考が俺に流れ込んで来る。

いや、むしろこれは……俺がシレントの経験を吸収して自分で考えた予想だろうか?

今のところ、考えられる黒幕は『他国の工作員』か『国内の反乱分子』だ。

そして……後者の可能性が高いとシレント、いや俺は判断した。

「……ゴルダとの国境の門はしっかりと出入りを管理していた。ダンジョンを通っての国境越えにも限度がある……あのカルデラ湖にあった砦を建てる資材を、国外の人間が秘密裏に運び入れるのは難しいだろうな……ならこの国の人間、資材の購入記録を抹消できるような権力を持つ人間が裏にいると考えるべきか」

小さく推論を呟く。

どうせ、こちらの様子を探っているであろうギルドの人間に聞かせるつもりで。

「現地調達だとしても、山の木々を加工する設備が足りないし専門家も必要だしな……総合ギルドに関わりそうな職人の出入りをギルドが見逃すはずもない、か。なら考えられるもう一つの可能性は『自分の屋敷や別荘を立て替える予定の貴族』がその資材を転用した、か」

ここまでが俺の導き出した推論。ここから先は分からない。

いや『もっと考えられる可能性』もあるが、それは『シレントが知っていてはおかしい情報』だからな。

たとえば『追い詰められた隣国ゴルダが、大量の異世界人を召喚し、もしかしたら秘密裏に開戦準備をし、その工作としてこの国の一部貴族と繋がっている』可能性とかな。

これは俺だから、ゴルダで召喚された俺だから辿り着ける推論だ。

「……まぁ、これ以上は俺の仕事じゃないか」

「やはり惜しい。シレント様はギルドに、この国に忠誠を誓えば、それこそ国お抱えの人間、客将にされてもおかしくない実力を秘めているように感じます」

「盗み聞きをするなら最後まで隠し通したらどうだ?」

「私に聞かせていたのではなかったのですか?」

「くく……そうかもな」

ドリンクを受け取る。ここに薬が仕込まれているとは……考えない。

そもそも俺に薬とか効かないし。

装備効果っすよ、シレントが装備してる腕輪って『麻痺 毒 睡眠 即死無効』なんですよ。

前衛の必須装備になったんだよなぁ……運営があまりにも前衛泣かせの状態異常ばらまきモンスター追加してくるから。

もう前衛の人権装備ですよ……このアクセサリー持ってないやつは来るな、みたいなこと言うやつもいたし。

まぁ一部の職業とか装備には状態異常耐性もあるんだけど。

「ふぅ……結構イケるな。これは薬か?」

「薬にも使われますが、基本はアルコールが飲めない人間に提供される酒場の定番ですね。『スパイスエール』と呼ばれています。少なくともゴルダにも流通しているものです、とだけ」

「なるほど、つまり俺はゴルダ出身ではないという情報をまんまと吐かされたわけだ」

「フェイクかもしれませんけどね、最初の質問も」

お互い、このやり取りが冗談半分なのは分かっている。

なんか、心地いい。

「予防薬の手配が済んだのなら、俺もそろそろ持ち場に着く。一応、中庭に非戦闘員が近づかないように手配してくれ。最悪の場合、中庭もろとも爆破でもしてくるかもしれないからな」

「……考えられますね。暗殺よりもよほど確実です。シレント様、身の守りは大丈夫なのですか?」

「爆弾程度でくたばるような身体じゃないんでね」

「……本当に恐ろしい方ですね。敵でなくてよかった、少なくとも今は」

苦笑いを浮かべるレミヤが去るのを見送り、俺も扉の前に警備にあたる。

さーて……出来れば正攻法で暗殺者が来てくれると助かるんだけどな……念のため爆発に耐えられるように自動回復のポーションでも飲んでおくかね。

「着いた! ここが『ジャンガリ庵』ね! へー……パンみたいな香ばしい香りがするね」

「そうそう、それがパイの匂いなの。なになに……『秋季限定たっぷりキノコパイ』ですって!」

「ほう、美味しそうだな、俺はそれにしよう」

「俺はミートパイ一択だな! 角ウサギのミートパイにするぜ」

「ま、お店に入りましょ。たぶんこれから混んでくるだろうから」

メルト一行は目当ての店に辿り着き、店頭にあるメニュー表を見ながら、今晩の献立に思いを馳せていた。

店内に入ると、女性向けを意識しているのか、個室とまではいかないが扉付きのボックス席オンリーとなっており、メルト達もボックス席に案内される。

「私はどうしようかしら……ここ、パイの大きさ的に一人一つって感じなのよね。でもデザートのパイは大きいのが切り分けられた状態だから……食事パイと両方だとちょっと多いのよね」

「ならホールで注文して分け合おうぜ。俺らのも小さくてもホールなんだしそっちも分けてさ」

「良い考えだな。メルトはどうする?」

「うーん……どんな料理か分からないけど、みんなの意見を参考にするね? この『一口揚げパイセット』っていうのが気になるわ! 一口なのにセット! どういうことなのかしらね」

「うん? 小さいパイが沢山セットになってるんじゃないか?」

「なるほど……分けやすそうね? じゃあこれにする! 中身も選ばないとダメなんだ……」

思いのほか注文システムが複雑なようで、メルトはお手上げといった様子で、リッカに相談する。

「これ、ここから選ぶみたいね。私達が頼むのと被らないのは……『ポテト』と『チーズ』だね。二種類まで選べるみたいだし、これにしたら?」

「分かった! ふふ、楽しみねー、パイってどんなのかしら」

まるで子供の用に、ニコニコと笑いながら料理を楽しみにしてる様子に、同年代ながらも庇護欲を刺激される三人であった。

それから少しして、パイのサイズのお陰か、思いのほか早く提供される料理の数々がテーブルに出そろう。

リッカの注文したのは、宣言通り直径二〇センチはありそうな大きなアップルパイ。

カッシュ、グラントの二人が頼んだパイは、直径一五センチ程度の、小さなパイ。

一人用とはいえ、しっかりと切り分けられており、シェアすることも考えられている様子だった。

対するメルトの注文した『揚げパイ』なるものは、地球で言うところの『生八つ橋』のような大きさの三角形の簡易的に包まれたパイが、黄金色にこんがりと揚げられ、皿にほどよく高く盛り付けられた、なんともお酒のつまみに最適そうな見た目をしていた。

「わぁ! みんなと全然違うけど……こっちも魅力的ね! なんだか香ばしい! 揚げ物っていうヤツなのね!」

「すっげ、うまそうだなそっちも! じゃあ俺のミートパイを取り分けるぞ」

「では俺のキノコパイもだ。ふむ……キノコとオニオンを何かで固めて包んでいるのか」

「キッシュ生地じゃない? ここってキッシュも提供してるし。アップルパイも切り分けるね」

なんだかんだ、食事パイとデザートパイがそれぞれの前に並び、揚げパイも四人でつまむことに。

そして、初めてパイを口にしたメルトは――

「お、おいしい……サクサクでカリカリでトローっとしてて……こんな料理もあるのね……始めてよ私、こんなに違う触感が同時に食べられる料理なんて……」

「確かにこの揚げパイうめぇな! チーズ味が最高だ! 今度来たら俺も頼むわ」

「そうだな。今日は控えておくが、ワインにも合いそうだ」

「私お酒ダメなんだよねぇ……」

それぞれのパイを嬉しそうに食べながら、幸せな時間が過ぎていく。

仲間、一緒の仕事を受けた相手と、打ち上げを兼ねた食事。

その初めてを経験したメルトは、ようやく『労働の喜び』がどういうものなのか理解し始めていた。

メルトにとっては『面倒な仕事をした後の食事はとてつもなく幸せ。つまり労働とはご飯を美味しくするための儀式』という結論に至ったのであった。

無論、お金が増えることの喜びも当然あるのだが。

「はー……幸せ……私、料理って殆ど食べたことないから、これからどんなものに出会えるのか想像するだけでワクワクしちゃうわ」

「え? 料理を食べたことがない……?」

瞬間『しまった』という顔をするメルト。

自分の詳しい境遇をあまり広めるのは、もしかしたらセイムに迷惑がかかるかもしれないという思いと、同時に『自分の本当の種族が露呈するかもしれない』という思いから、咄嗟に嘘をつくことにした。

「えーと……食材そのまま焼いただけ? みたいなご飯ばっかりで、旅を始めてからようやく料理を食べさせてもらったの」

「そ、そうか……随分、過酷な環境だったんだな」

「ね、ねぇ……メルトは今大丈夫なの? その……誰かに追われていたりとか、監視されていたりとか……されてない?」

三人は、メルトが『凄腕の冒険者の相棒』という情報を聞いていた影響で、実はそれが方便で『奴隷のように雑用を押し付けられていた過酷な境遇にいた人間』ではないかと疑い始めていた。

事実、ダンジョンに囚われていたことを考えれば、過酷な環境で暮らしていたのも間違いではないのだが。

だが、異常に研ぎ澄まされた冒険者としての力や知識、最初から翠玉ランクという異例、その他様々なメルトの言動から、三人の中ではもう『メルトはどこかで飼い殺されていた娘』という認識になりつつあったのだった。

「はー……美味しかった……セイムにも食べさせてあげたいなー」

「セイム? それってお世話になってる人?」

「うん、そうだよ。えーと……私を拾って、商隊に組み込んでくれた人だよ」

極力、詳しいことを言わないように断片的に語る。

しかし、三人に浮かんだ疑念と、メルトの『商隊』発言が、よろしくない方向に結びつく。

『どこかから逃げ出したメルトは、誰かに拾われ今度は怪しい商人に騙されて買われてしまったのではないか』と。

しかも、当の本人は自分が買われたことにも気が付かず、まるでその人間に恩返しでもするようにお金を稼いでいる風に見えてしまっていたのだった。

「な、なぁ……これって……」

「……可能性はあるな。一度、その『セイム』とやらに話を聞く必要がありそうだ」

「うん、そうだね。ねぇメルトちゃん、もしよかったら、明日からもパーティを組まない? 本格的に私達の仲間になって欲しいんだ」

善意からの申し出。が、メルトからすれば、セイムが戻るまでの間の一時的なものという考えでしかなかった。

故に、申し訳なさそうに――

「うーん、ごめんね? 私の相棒、お世話になってる人が戻ってくるまでになっちゃうかな? いつ戻ってくるか分からないけど、たぶんそろそろ戻ってくるから、それまでで良い?」

「……分かった、今はそれでいいよ。でも、そのセイムさんって人が戻ったら、私達全員と一度会って欲しいかな」

「うん、分かった!」

徐々に、勘違いが大きくなっていく一行であった。

頑張れセイム、今のところ君の印象は『悪徳人身売買野郎』だぞ。

「ヴェックシ! チッ、微妙に埃っぽいなここは」

時間的にそろそろ深夜、総合ギルドは基本的に二十四時間開いているが、それでも人がほとんどやってこなくなる時間が存在する。

それが今の時間帯であり、零時を回った段階でギルドを訪れるのは、緊急の要件がある人間だけ、というのが通説だった。

なら、今日は王国の騎士がそろそろ来てもおかしくはないと思う訳ですが、どうやら今日はもう来ないと見てよさそうだ。

「おい、お前はそっちの部屋で休んでいていいぞ。だが鍵はしっかり持っておけ」

「え? 良いんですか? って……一応、職員である俺が抜けるのはまずいんですけど」

「そうか、まぁまだ俺も完全に信用されていないだろうしな。分かった、ならそろそろ警戒して――」

その瞬間、地下を揺るがす轟音に鼓膜が破れそうになり、平衡感覚を一瞬失う。

「おい、大丈夫か!」

今の今まで会話をしていた職員が、耳から血を流し横たわっていた。

なんだ、これは一種のスタングレネードか!? それとも……本当に地下をまるごと潰すつもりで爆弾でも炸裂されたのか!?

とっさに扉の様子を確認するも、破られた形跡はない。

だが、閉じ込めている男のうめき声は聞こえる。

よかった、まだ生きているようだ。

だが扉越しでもダメージを受けるレベルの爆音のようだ。

この職員もかなりダメージを負っている様子だし、俺が無事なのはやはりステータスによるところが大きいのだろう。

「……迎え撃ちに出たいところだが、どうするか」

いや、ここに留まるべきだ。どうやら地下空間が崩落する様子はない。

なら先程の轟音は、この倒れている職員のように人間を無力化する為のものだったのだろう。

なら……俺の取るべき行動は……。