軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十五話

「この辺か……洞窟付近より上流まで行くのは初めてだな」

冒険者ギルドに提示された依頼、一種の試験と思われる依頼を達成するために、俺は昨今目撃情報が相次いでいる『謎の巨大な魔物』を討伐すべく、目撃されたという山の頂上付近を目指し、川をさかのぼっていた。

「この洞窟は……人の手が入っている様子はないよな。でも、位置的に無関係でもない……か?」

結構お世話になっている、俺が姿を変える時に利用していた川沿いの洞窟。

だが少なくとも人の手の入った様子はなく、かといって獣や魔物の痕跡も残されてはいなかった。

が……改めて調べてみると、微かに『何か荷物を運びこんでいた痕跡』と思われる、かすかではあるが『砂や小石が綺麗に掃除されている』ことに気が付いた。

「……一時的な荷物の保管庫、もしくは受け渡し用の場所、か?」

もしかしたら、ここを利用し続けていたのは、結構危なかったのかもしれない。

洞窟の調査を一通り済ませ、今度はさらに川を上っていく。

結構な標高だが、この先に水源があるとしたら、それは生き物にとっては都合の良い場所だろうな。

無論……仮に『魔物を育てている集団』がいた場合、その人間にも都合の良い場所と言える。

「が、それなら簡単に見つけられるはず。しかしそんな情報はギルドに寄せられていない。つまり――」

その瞬間、周囲の森から唐突に何かが飛来する気配を感じ、咄嗟に背負っていた大剣を身体を守るようにずらし、そいつで防ぐ。

「……我ながら凄い気配察知能力だな」

さすがはシレント。熟練の戦士、傭兵としての勘と気配察知能力、生存能力が段違いに高い。

無論、それを実行する身体のスペックも。

「……トゲ? 魔物か」

地面に転がる、太めの縫い針のようなトゲ。

人の作ったものには見えないソレから考えて、恐らく魔物の部位だろうとあたりをつけ、武器を構える。

トゲの飛んできた方向、森を見据えながら。

「……が、こんなことも出来る」

待ってられるか。敵対したなら丸ごと殺す。

俺は大剣を腰だめに構え、全力で振り抜きながら、ゲーム時代の技を思い出す。

「“ゲイル……ブレイク”!」

前衛にだって飛び道具はある。

振り抜いた大剣から、巨大な旋風と……特大の真空の刃が激しく回転しながら森へと飛び込み、範囲上にあるすべてをなぎ払いながら森を丸裸にしていく。

無論――潜んでいた存在を巻き込んで。

『ギガアアアアアアアアア! ギ! ギ!』

動物かどうかすら怪しい奇怪な断末魔が、倒れる木々の騒音に紛れて聞こえてくる。

声量から察するに、かなりの大きさなのは間違いないだろう。

早速死体を確認に向かう。

「……すごい威力だな。射程は……二〇メートルってところか」

大剣と同じだけの幅、二メートル弱の横幅で、距離にして二〇メートル程。その範囲の木々が全てなぎ払われ、そして――見たこともないような、ドラゴンともライオンとも呼べそうな魔物が、胴体を真っ二つに切り裂かれて倒れていた。

「なんだこりゃ……毛のかわりに鱗に覆われた……ライオン? でも翼があるな……」

知らない魔物だ。が、どうやら……ただの魔物、ここに住み着いた魔物という訳ではなさそうだった。

額に、明らかに人の手によるものだと思われる、金属細工の装飾が埋め込まれていた。

いや、ただ埋め込まれているという感じじゃないな。どうにも、寄生されているように見えるのだ。

「……ある程度意思を操れるのか、それともこの影響で魔物が変化したのか……なんにしても誰かの仕業なのは確定か」

きっと、山頂付近の情報がないのは、この魔物のような存在が他にもいて、人を寄せ付けなかったからだろう。

そして今なら分かる。どうしてこんな依頼を、ふらりとやって来た人間に割り振ったのか。

「俺が一味の可能性を考えたか。もしそうじゃなくても、無名の人間を調査に向かわせれば、警戒されることもない。同時に失ってもギルドが痛手を負わなくて済む、か。なかなか考えたな、冒険者ギルドも」

冴えている。自覚する、これはシレントの傭兵としての勘から来る推察なのだと。

そしてここからは俺の、シズマの予想だ。

「なぁ? これでとりあえず俺の潔白は証明されたってことでいいんだな?」

俺の背後、攻撃に巻き込まれない位置から感じる、微かな生き物の息遣い、気配に向けて声をかける。

……いるんだろ? 監視の人間が。こんなグレーな試験依頼をさせてるんだから。

「……出てこないなら『同じ技をお前に向けて放つ』が」

「…………お見事です、シレント様」

すると、予想通り木の上から何者かが降り立った。

見たところ女。そうとう身軽な上に、気配を隠す訓練も受けている様子。

恐らくギルドの監視員として訓練を受けている、特殊な戦闘員……のようなモノだろうか?

「魔物の死体を確認してくれ。こいつをどう見る?」

「……失礼」

顔を覆面で隠した女は、魔物の額に埋め込まれている金属を確認していた。

その一瞬の隙に、大剣を抜き放ち背中に突き立てる……一歩手前で寸止めする。

「で、お前が本当にギルドの人間か判断する材料が俺にはない訳だが」

「それは私からしても同じこと。貴方がこの魔物の関係者かどうか、まだわかりませんから」

「いや、この状況でお前が言うべき言葉はそれじゃない。なぜなら『俺は任務中に怪しい女を魔物との遭遇時に発見し対処した』でギリギリ言い訳が出来る状況だ。どう転んでもお前を殺すことに躊躇はない状況なんだよ本来なら」

これは不必要な威圧。でも、俺……シズマとシレントの心情的には必要な威圧だ。

『舐めんな、殺すぞ』『疑うってことは半分敵対だ、報復だ』このどちらも正直な気持ちだ。

「お前には身分を明かし許しを請う以外の道はない。反論は死だ」

本気の殺意を向ける。殺せる、シレントは殺せる。そして……俺も、シズマも殺せる。

一瞬、剣から伝わる女の息遣い、身体の振動に変化が見られた。

が、すぐに剣をさらに押し当てる。『無駄だ』と言うように。

「……申し訳ございません、私は総合ギルドに所属する暗部の人間です。冒険者ギルドではなく、全てのギルドを監視、監督している立場の人間に忠誠を誓っている人間です」

「証拠を提示しろ」

ようやく観念したのか、女は覆面の下から、なにやら首輪をはめられた己のうなじを見せてきた。

……彫ってある文字や紋章からも、俺にはこれが証拠だとは判断出来ないな。

「これを、ギルドに持ち込んでください。それまでの間、私は貴方に同道します」

「……いいだろう」

外された首輪を受け取り、突きつけていた大剣を引く。

ここまでやる。絶対に舐められたらいけないんだ、シレントって存在は。

これは俺の生命線でもあるんだから。

「それで、この後はどうするおつもりなのでしょう?」

「水源へ向かう。情報を知っていそうな人間一人を残し、それ以外の全ての人間とそこに棲んでいるであろう魔物を皆殺しにする」

「皆殺し……ですか」

「一番後腐れがないだろう。情報を引き出せそうなヤツはギルドで管理しろ。どうせ、黒幕がそいつを消そうと刺客を放ってくるだろうさ。そいつを捕まえりゃさらに深い情報も得られるだろ」

「……随分と物騒な解決方法を選ぶのですね」

「効率重視なだけだ。お前らが望むなら、黒幕もまるごと皆殺しにしてやってもいい。俺なら貴族の一人や二人……いや――」

これはハッタリだ。だが今の状況なら……俺を心の底から恐怖している今の状況なら、これも通じるだろ。

「国の一つや二つ、滅ぼしてやる」

それくらい平気でやろうとする狂人だと思ってくれたらラッキーだ。

ダンジョンコアを直接国に売り込むため、国の中枢に近づく手段として、セイムとして、宝石を持ち込んだ人間として近づくという手段もある。

だが、サブプランもあったっていいだろ?

『国を脅かすかもしれない巨大な力の持ち主として警戒される』という方法で、中枢に近づくことだって十分に可能だろ?

そんな存在、国としては手元に置いて飼いならしたいか、国外追放にしたいかだろ?

どっちみち接触してくる可能性は高そうだ。

『セイムとして友好的に国と関わる』のと『シレントとして警戒されつつも国に関わる』。

その両方を成立させることが出来たら、これ以上ないくらい有利に立ち回れそうだ。

まさしく『国の表と裏』その両方を知る立場になれるのだから。

「……大言壮語……とは言い切れないのが恐ろしい」

「そうだろうな」

引き続き、恐怖を抱いたままのこの女を引き連れて、山頂を目指す。

いや、そろそろ名乗ろうよ!

「名は?」

「私ですか? 興味を持っていただけるとは意外ですね」

「『女』と呼ばれていいならそのままでもいい」

「……『レミヤ』です」

「そうか。レミヤ、水源へ向かうぞ。水源が汚染される可能性もあるが、生活にどう影響する?」

皆殺しにする以上、水源が血に汚れるのは避けられないだろう。

その場合の被害があまりにも甚大なら、もう少しやり方を工夫する必要があるだろう。

が、帰って来た答えは――

「それでしたら問題ありません。水門を閉じ、川の水をそのまま人里に流さずに海へと続く川に流します。水源の浄化は二日もあれば解決できますので、その間は井戸水を使うようにお触れをだしますので」

「そうか。随分と水道の設備が整っている国のようだ」

「ええ、我が国の魔法技術は大陸随一ですから」

なるほど魔法か。……水質を管理、衛生状況を良好に保てる魔法とか便利すぎでは?

「……シレント様、あなたの言動の節々からは、ただの血に飢えた獣とは思えないモノを感じます」

「……多くは語らんさ。多少は知恵と知識がある獣だとでも思っているといい」

しまった、セイムの時と同じミスをしてしまった。

どうしても現代日本人としては他人の迷惑を考えてしまう……だって水源だよ、生活に密接に関わってるじゃないか。

やっぱり難しいな、非情になりきるっていうのは。

水源を目指し川をさかのぼって行くと、ついに大きな湖が現れた。

一種のカルデラ湖のような姿だが、この山は太古の昔、大きな噴火でも起こしたのだろうか?

が、今はそんな過去に思いをはせるのではなく、この広大で美しいカルデラ湖の風景を目に焼き付け――って違う違う。

「簡易的な基地だな。テントのような数日で退去する予定の拠点じゃない。ある程度腰を据えてここを拠点にするつもりだろうな」

湖の傍に、簡易的ではあるが、ちょっとした砦のような建物が建造されていた。

「……確かにこれは……想像以上でした」

レミヤは、少しだけ困ったような声で呟いた後、唐突にこちらに向き直った。

「シレント様。試験依頼はここまでで結構です。既に脅威となっていた魔物を一体討伐、またその裏にある拠点を発見。十分に依頼達成条件は満たしているかと」

「そうか。つまり『後はギルドが解決するから手を引け』ということだな?」

「……そう取って下さっても構いません」

「ではここからは俺が個人的に動いた結果だ。ただの報復、魔物をけしかけられたことへの報復。文句は言わせんぞ。止めたければ俺を殺すんだな」

いやいや、ここで手を引くのはありえない。

俺の計画的にも、ここで『問題になりかねない功績』を立てなければ。

それに……今この場で処断しないとまずい。すでに魔物を一体狩られている状態で、ここの連中が悠長に構えているとは考えられない。

異常を察知したらすぐに逃げおおせる用意はしているんだろう?

そして水源を抑えているという今の状況……魔物の育成に都合が良いという理由だけではないはずだ。

確実に……機会を伺っているのだろう、何か工作をしかける機会を。

これは勘だ。シレントとしての。

「……文句はないな? じゃあ……一人を残して皆殺しだ」

「っ!」

俺は隠れることもせず、悠然と基地へと歩いていく。

明らかに飼育されているであろう、鎖で繋がれた多くの魔物、そしてどこかに搬出する予定なのか、檻に入れられた魔物を横目に。

そして、この基地の内部にいる人間を等しく殺す為に……剣を振りかぶった。

「“ゲイル……ブレイク”」

森の時と同じ結果を生み出すその一撃を、基地へと放つ。

建物を一撃で崩壊させ、中にいた人間の怒号と悲鳴が響く。

無論、生き残った人間は一目散に外に逃げ出してくる。

「敵襲だ! 魔物を放て――」

最初に現れ、指示を出していた男の首を刎ねる。

身なりは普通。上等な装備でもなければ高級そうな服でもない。

このくらい周到に基地を作り、なにかしらの工作を行っていた人間が、この程度のはずがない。

司令塔が、少なくともさらに上と繋がる顔役が潜んでいるはずだ。

「そらそら! 出てこい、責任者! 皆殺しにしてやってもいいんだぞこっちは!」

もう既に何人もの人間を殺し、気分が高揚する。

これだ、この湧き上がる歓喜、興奮、熱狂がシレントの感情だ。

俺が……耐えられるものじゃない。こんな、地獄のような光景――

「――いやはや、凄まじい人間もいたものだ。誰だ? 貴様は」

「お前が頭目……いや、連絡役ってところか。お前だけは生け捕りにしてやる。大人しく諦めろ」

「これはおかしなことを言う男だ」

現れたのは、予想通り他の人間のように、戦うための装備を纏うでもなく、かといって簡素な服でもない、どちらかというと商会のような場所で働いている上役のような衣服を身に纏う人物だった。

「俺は功績欲しさに暴れてる獣にすぎん。お前らの背後に興味はないが、ここで俺の功績として捕まれ。お前だけは殺さないと決めているんだよ」

「ふむ……厄介な質の人間だな。どうやら交渉の余地も油断もない。だが……想定外は何事にもつきものだ」

その瞬間、男の胸元が強く輝いた。

何かする前に気絶だけでもさせるべきだったか――

『ガアア! グガアアアアア! ガアアア! アアアアアア!』

『キ! キイイギイイ! ギイイイアアアアアアアアア!!!』

突然、周囲の魔物達から、耳をつんざくよな絶叫が上がった。

そして――