軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十三話

「そろそろ良いか? もう日も昇った」

「ん……そうだな。本当に総合ギルドに行くんだな?」

「くどいぞ。その冒険者ギルドとやらに所属してやると言っているんだ、文句はないだろ?」

「先輩、なんなら後で問い合わせましょうよ。おいアンタ、嘘をついてもすぐにこちらは確認出来るんだからな、それを分かっているんだろうな?」

「ああ。それとお前たち二人のことも覚えておいてやろう。とくにお前、戦場で会ったら真っ先に楽にしてやろう、安心しろ」

「ヒッ!」

「冗談だ。ではな」

早朝、ようやく街に入ることが出来たのだが、あまりの眠さにテンションがおかしくなっている気がする。

たぶん、三割増しで人相も悪くなってるんじゃないですかね。

道行く人がみんな避けて通るんですが。

「願ったりかなったりなのにな」

悪目立ちとはいえ目立っているのだし、ある意味狙い通りなのに、この悲しさはなんなのか。

これ、もしかしてシレント的な感情なのか? 恐がられて悲しい的な。

……いや、普通に俺が悲しいわ。さすがにここまで避けられるとは。

そうして、早朝の総合ギルドに到着した俺は、案の定ざわめきを背負いながら冒険者ギルド受付へ向かうのだった。

「おい、少し良いか?」

「おはようございます、なんの御用――でしょうか」

凄い! 流石冒険者ギルドの受付! 一瞬明らかに死を覚悟したような表情を浮かべたのに持ちこたえた! 嬉しい!

「冒険者登録をしたい、頼めるか」

「へ……? では、他に所属しているギルドのタグを提出してください」

「ない」

「え? 探索者ギルドや傭兵ギルド、傭兵団所属の証などで構いませんが……」

「ない」

「ええと……では……こちらの書類に……代筆、致しましょうか?」

「……問題ない」

たぶん、シーレで覚えた知識は生きている。それを試すためにも、自分で書く旨を伝えた。

が、気分を害したと勘違いしたのか、いよいよ目に涙を浮かべ始める受付に、精神的ダメージを受けてしまった。

「……問題ないな」

隣の机で無事に必要な項目……とはいえ、名前しか書くことがないのだが、それをしたためる。

出身地不明、前職『傭兵』、特技『戦いと殺し』探索者履歴なし。

もう真面目に書いてるんだが書いていないんだがわからない書類を提出する。

ちなみに、文字はしっかりと読めるし書けました。が、明らかにシーレよりも文字が汚い気がする。細かい作業は苦手なんですね、分かります。

「これでいいか?」

「ええと……はい……分かりました。少々お待ちください」

明らかに、早朝なのに疲れた顔をした受付嬢さんが奥へ引っ込んでいく。

これ、この後面談だよな……どうしよ、俺薬草の種類とか知らないし、実績、依頼の履歴なんてものも当然ないから、最低ランクからのスタート……だよな。

少しすると、数日前にメルトの面談を行ってくれたおじさんがやって来た。

だが、明らかに表情があの時とは違う。警戒心を隠そうともしない、腰に剣を帯びた姿で現れた。

「っ……アンタが冒険者志望のシレントさんか?」

「そうだ」

「前職に傭兵とあったが、そちらのギルドに所属しないで良いのか?」

「必要ならそうするさ。だが今はこちらで良い」

「……そうか。あんた、相当やれるな?」

「……人並み以上ってところか」

「謙遜を。テストの必要はないみたいだな、明らかにやりあったらこっちが無事じゃ済まねぇ」

む、この流れは……?

「フリーで今までどんなことをしてきた?」

「戦争で殺し。デカイ魔物を討伐。それだけの人生だったな」

「……そうだろうな。ああ、流石にお前さんに薬草取りやらお使いやらゴミ拾いなんざさせられないのは俺でもわかる。ちょいと特例だが……」

そう言うと、おじさんは一枚の張り紙をこちらに提示した。

「テストとしてこの依頼を受けてくれないか。たまにアンタみたいな規格外が所属しにくる。そういう時は素人じゃどうにもならないような依頼を受けさせることにしてんだ。こいつを達成出来たら……そうだな、紅玉ランクからスタートだ。分かるか?」

「知っている。そうか、この依頼を達成すれば良いんだな?」

そうして出された張り紙は、魔物の手配書のようだった。

しかもただの魔物ではなく、明らかに人の手によって訓練された個体である可能性が高いとも示唆されていた。

ふーむ……なんだか訳ありな依頼と見た。

「この魔物『だけ』を討伐しろという意味じゃないな?」

「ノーコメントだ。受けるか? この依頼」

「受けよう。場所は……そうか、あそこか」

その手配書によると、魔物の目撃地点は俺も良く知っている場所だった。

あの、川の上流にある洞窟付近だというのだ。

恐らくさらに山を登った先に、その魔物や……訓練している人間、組織でもいるのかもしれない。

この都市の門番の警戒度合やこの依頼の存在からして……なにかあるな。

……なんか物騒な方向に冴えている気がする。これがシレントの経験から来る予想か。

「場所は知っているようだな。じゃあ……任せたぞ、シレントさん」

「分かった」

じゃあ行ってみましょう。なぁにでぇじょうぶだ! 山のてっぺん辺りを丸裸にすりゃなんとかなる!

シレントが早朝にギルドで活動を開始していたその頃、メルトは一人宿屋で目を覚ます。

誰もいない隣のベッドへちらりと視線を向けると、一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべる。

十年以上一人で暮らしていた彼女だが、それでもここ一月程は常にセイムを始めとした人間、つまりシズマの持ちキャラ達が一緒に行動していたのだ。

一度、人と一緒にいる温もりを思い出した彼女にとっては、短い間でもまた一人で活動するというのは、耐えがたい苦痛であった。

「今日はシレントがもしかしたら来るかもだっけ……でもお金も稼がないと……」

意を決する。それは『自分が情けないとセイムに愛想を尽かされてしまうのではないか』という不安から来るものだった。

自分は役に立つと、お金も稼げると、冒険者として立派に活動出来るのだと、それを証明すべく、そして新しい生活に適応してみせようと、朝の目覚めと共に気合を入れるメルトであった。

「おはようございます」

「あらおはよう、メルトちゃん。今日から一人なんだっけ? セイムさんはいつ頃戻ってくるんだろうねぇ」

「うーん……わからないなー。でも、今日から冒険者ギルドでお仕事貰ってくるんだ、私」

「あらま、本当に冒険者だったんだね? 大丈夫かい? 危ないことはするんじゃないよ?」

「大丈夫大丈夫……私、こう見えて結構強いみたいだから!」

「そうなのかい? でも油断はいけないよ? あたしゃこの宿が長いから、大勢の新人冒険者さんを見送って来たんだけどね? 自信をつけ始めた頃が一番危ないんだ。初めての討伐任務に向かって、無事に戻って来た子なんて一人もいないんだよ。必ず怪我をして帰ってくるんだ。だから、本当に気を付けておくれよ?」

宿屋のおかみは、愛想がよく、いつも笑顔で挨拶をするメルトを気に入り始めていた。

まさしく無垢と言える素直な性格に、癒しにも似た感覚を抱いていた彼女は、メルトに何かあったら本当に自分はショックを受けてしまうだろうと考えていた。

「うーん……なら様子見で採取依頼にしようかな……」

「そうしなよ。今の時期は薬草だけじゃなく、希少なキノコなんかの買い取りも盛んだからね。結構馬鹿にならない稼ぎになるそうだよ」

「へー! キノコ狩りなら私得意だよ! そっかぁ……お金になるのねー」

『これは良いことを聞いた』と、メルトは上機嫌でギルドへと向かう。

実際、メルトの頭にはこの大陸に自生するキノコの知識が完全に刷り込まれている。

辞典や資料を何十冊と読み込み、その知識で何年も一人で生きてきた彼女にとっては、本当に最高の稼ぎになること請け合いだったのだ。

そうして、メルトはつい先刻まで『恐ろしく物騒な冒険者志望の男』が注目を集めていた総合ギルドへ向かうのだった。

「おはようございまーす」

朝。人が増えつつある総合ギルドの冒険者ギルド受付にやってきたメルト。

彼女と同じように、今日の依頼を探そうと集まる大勢の冒険者に、メルトは若干目を回しながらも、人が大勢いる世界に自分がいても良いという実感に、少しだけ寂しさを薄れさせていた。

「はいはい。あら、確かメルトさんだったかしら? どうしました?」

「ええと……お仕事ってどうやって受けたら良いんですか?」

「あら……セイムさんから教わっていないの? 今日は彼も一緒じゃないのかしら」

そう訊ねられ、一瞬だけ表情が曇る。

「セイムは、お仕事で少し別行動なんだ。だからその間、私が一人で仕事をしようと思ってるの。どうやってお仕事を受けるか教えてくれませんか?」

「そう、了解しました。でも簡単よ? ほら、後ろを向いてみて」

受付の反対、自分の背後を振り返るメルトは、遠くの方に大きな掲示板が幾つも並べられているのを見つける。

「左から順番に『街の中の依頼』『採取依頼』『討伐依頼』『護衛依頼』を募集している掲示板なの。あそこに貼ってある張り紙に依頼内容が書いてあるから、それを読んで『これを受けたいな』って思った依頼があれば、その依頼番号をここに来て言ってくれるだけでいいのよ」

「へー! 簡単なのねー?」

「そう、簡単。でも、依頼によっては定員が限られていたりするから、なるべく早く言いに来ると良いわよ。メルトさんはかなり戦えるって聞いているけど……そうね、翠玉ランクの依頼なら、討伐依頼が多いかしら? それか、今の時期のおすすめの高山地域の採取依頼かしら」

「あ、じゃあ採取依頼にするね。左から二番目の掲示板だよね? 見てくるね」

「ふふ、いってらっしゃい」

そうして、嬉しそうに駆けていくメルトの背中を見送り、受付嬢はほっと一息つく。

彼女は疲れていたのだ。朝から、心臓に悪い経験をしてしまったが故に。

「あんなかわいい冒険者もいるのに……色々な人がいるわね、本当に……」

それは今朝遭遇した、冒険者志望だと言う大男と比べての言葉だった。

職業柄、血の匂いを漂わすような危険な人間を幾度となく見た経験のある彼女。

中には『英雄』と評される程の人間と会話したことすらある彼女ではあったが、そんな経験豊富な彼女をして『恐ろしい』と感じてしまった男が、今朝遭遇したシレントだったのだ。

「……彼、戻ってくるのかしら」

その姿を思い出し、肩を震わせる。

思い出すのは、あの男の纏う『戦場の凄惨さ』をそのまま運んできたかのような気配。

なにが、あの男をあそこまでしてしまったのか。

どんな経験を積めば、ギルドに関わらずにあれほどまでに凄惨で悲惨で、禍々しくもある空気を平気で背負い続けられるのか。

そして、半ば無理難題とも呼べる試験依頼をふっかけられながらも、平然とそれを受けられるのか。

「……夜のシフト、誰か変わってくれないかしら……」

だが同時に、彼女の勘がささやいているのだ。

『恐らく今日の夜には確実に戻ってくる』と。

平然と依頼を片付け、再び戦乱と血風を彷彿とさせるあの男が戻ってくると。

どんな難題も、当たり前のようにこなしてくるのではないかと。

彼女がこれまで見てきた『一流の冒険者』と、似た気配を持つあの男ならば、と。

「……任務達成率だけじゃダメなんですよ。人柄が伴わない限り……決して冒険者にはなれないんですから」

そう言いながら、彼女は自分の受付から少し離れた場所にある、もう一つの受付に目を向ける。

『傭兵ギルド』最も荒くれ者が多く、最もトラブルが多く、最も人の死を生み出すギルド。

あの場所にこそ、あの男は相応しいのではないかと思いながら。

が、同時にこうも思う。

『冒険者に拘っていたのには理由があるのではないか』と。

例えばそう……『もう、人を殺したくない』と願ったからなのではないかと。

気が付けば、受付嬢は一日中、鮮烈な印象を与えてきた男、シレントのことを考えていたのであった。

「うーん……『シルキーの新芽』の採取かー……単価は少し高めだけど、同じ生息域だと高く売れそうなキノコとか取れないもんなぁ……」

その頃、メルトは熱心に依頼を吟味していた。

少しでも効率よくお金を稼ぐ為にも、最低限の移動距離で、高く売れそうな物を大量に見つけられそうな依頼を探していたのだった。

「うん? 『常駐依頼』ってなんだろう」

その時、掲示板の端の方に、少しだけ毛色の違う依頼を見つけ、思わずそこに近づいてしまう。

その時――

「そいつは依頼というよりは、『依頼のついでに達成出来たら金を払います』って知らせだよ。今の時期だとキノコか木の実だな。そいつを持ち込んだら鑑定して買い取ってくれるんだよ」

メルトと同じく、採取依頼を吟味していた冒険者のパーティが教えてくれたのだった。

「貴女見かけない子よね? 新しくこっちに来たの?」

「私? うん、そうだよ。少し前に冒険者になったんだ」

パーティの一人、メルトと歳の近そうな女の子が話しかけ、それにメルトは正直に答える。

すると、最初に声をかけてきた青年が――

「お、マジか! んじゃ俺達の後輩か? 俺達も一月前に冒険者になったばかりなんだよ」

「ええ、私達三人もまだ新人なのよ」

「そうなるな」

最後の一人、静かに成り行きを見守っていた、青年も声を上げる。

どうやら新人冒険者のパーティである彼らの言葉に、メルトは深く考え込んでいた。

『なら私は後輩なのか』『親切に教えてくれた人達だ』『警戒しなくてもいいかもしれない』と。

それは、三人共獣人ではなく、ただの人間であるが故の警戒だった。

まだ、メルトは少しだけ人間に対して、警戒心を抱きやすい状態であったのだ。

無論、慣れるのもかなり早いのだが。

「そう、先輩なのねー? じゃあ、何か採取依頼を受けたら、ついでに木の実とキノコを集めたらお金になるのねー?」

「ああ、そういうことだな」

「ねぇ、貴女の名前、教えてくれる?」

すると、パーティの紅一点である女の子が名前を訊ねてきた。

少し考える素振りを見せた後、メルトはまたしても正直に答えるのだった。

「メルトだよ。白狐族のメルト」

「白狐族なのね、初めて見たわ。綺麗な髪だからついつい目で追っちゃった。私は『リッカ』って言うの。見たまんまの人間。で、残りの二人が――」

「俺は『カッシュ』だ」

「俺は『グラント』」

互いに自己紹介をする一同。

そして――

「メルトちゃん、私達も採取依頼に行くつもりなんだけど、良かったら一緒にいかない? 今日だけ、一時的にパーティに入らないかしら?」

そう、誘われたのだった。