軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話

「ええ、本当に急な話で……申し訳ない。料金の払い戻しは必要ありません、その子が来たら改めて料金を払わせますのでお願いします」

「いいのよ、お金なんて。セイムさんがしっかり一月分払ってくれたんだから、代わりの子が使うならそれで問題ないわよ」

「本当ですか? すみません、助かります。では少々立て込んでいるのでこれで失礼しますが、友人は今日中に来ますので、よろしくお願いします」

「はいよ。依頼、頑張っておいで」

予定通り、キャラチェンジをする為に俺は急な依頼で遠征に向かうということにした。

この後、都市の外の人気のない場所に転移用の鈴をセットし、さらに遠くに移動してからセットした場所に転移で戻り、そこでキャラクターチェンジをして都市に戻るという算段だ。

少々手間だが、念には念を入れて、だ。もしかしたら誰かが俺のことを追跡しているかもしれないからな。この姿を変えられる力だけは絶対に知られてはいけないんだ、本来なら。

それにたった一日で、それなりに注目されかねない動きをしていたのだし、警戒するに越したことはないだろう。

「じゃあメルト、暫く別行動だけど、頑張るんだよ。危ない場所にはいかない、無理な依頼は受けない。いいね?」

「うん、大丈夫大丈夫。明日からは簡単な採取依頼とか受けてみるよ。他にも、都市の中でお使いとかもあるみたいねー」

自然な演技だぞ、メルト。

そうして早速都市の外に向かい、来た時とは別な門から外に出て、そのまま近隣の森へと向かうのだった。

「はー……この辺りが主な採取地なのかね。結構人の姿があるなぁ……」

比較的日の入る森林を、奥へ奥へと進んで行く。

道中、若い冒険者らしき人間を何人か見かけたが、皆一心不乱に地面とにらめっこをしていた。

何か探しているのだろうな。薬草とかだろうか。

「川も流れてるのか……上流に行けば人も少なくなるかな?」

川を上って行き、途中で洞窟が見えてきた。

どうやら人が住んでいる形跡もないし、人がいた気配もない。

もしかしたらモンスターの巣穴の可能性もあるが、人気もないしこの場所に鈴をセットする。

「よし……後は川を下って、そのまま道なりに進んでいけば、また野営地でもあるだろ」

人の多い場所で姿を消すつもりだ。

どこかしら、視界の影になりそうな場所もあるだろう、野営地ならば。

それこそ、適当なテントにでも忍び込んで鈴を鳴らせば、そこで転移して消えるのだし。

俺はその作戦を実行すべく、元の街道に戻り野営地を探して進むのだった。

「やばい……思ったよりも遅くなった……」

野営地は、思いのほか都市から遠く、セイムのステータスで全力疾走しても三時間程かかってしまった。

だが幸いにして追手の気配などもなく、野営地も人が想像以上に多く、人込みに紛れて行動するのも楽だった。間違いなく、今回は俺に追手はついていないようだ。まぁ途中で撒いた可能性も捨てきれないが。

一先ず大きなテント、物資を保管する倉庫として使われているであろう場所に忍び込み、そこで鈴を鳴らし、川の上流の洞窟に転移してきた。

が、既に日は落ち始め、このままでは都市に戻る頃には夜になってしまいそうだと、急いでキャラクターをチェンジする。

「ええと……『シーレ』っと……」

名前の由来? シレントから察してください。

ほら、なんとなく女性名っぽいでしょ。

『シーレ』は、俺が作ったキャラの中では、割と古参の部類だ。

ネトゲあるある『女性キャラ優遇』です。女性専用装備がね、強いのよ。

【破れた誓いの指輪】

MP回復速度100%上昇

HP自動回復(5%/1s)

全属性耐性15%上昇

アクセサリー一つでこんだけの効果ってどうなってんの。火力関係は一切伸びないけどさ。

この性能故に作った女性キャラクターなのだが、遠距離アタッカー兼援護キャラとして、ジョブは『狩人』とサブに『学者』を設定している。

ビルド的には『弓による遠距離攻撃+弱点属性属性狙い撃ちが可能な付与魔法』という、まさしく後衛物理アタッカー+属性付与という、後衛の王道を行く感じだ。

アクセサリー効果で属性バフも弓の技もMPを気にせず撃ちまくれるし、ある程度のダメージなら遠距離で逃げながら攻撃してたら回復も出来ちゃう、なんとも持久力に秀でたビルドなんですよ。

「うん……背はメルトと同じくらいだし……体形もほぼ一緒かな?」

巨乳じゃないです。背も普通です。

ただ……種族的に大丈夫だろうか? このキャラエルフなんだけど、都市の中でエルフってあまり見かけなかった気がする。

全然いないわけじゃないけど、結構珍しいのかもしれない。

まぁ自衛は余裕で出来そうだけど。装備込みならセイムより強いしね。

「……フード目深に被れる装備ってなかったかな」

顔を出来るだけ隠したい。このキャラの容姿は一瞬だけ確認したが、たぶん一番の美少女だったから。

例えるなら、メルトは『将来絶対に美人になる美少女』だが、シーレは『将来は美人になるのは確実だが現段階でも美人』って感じなのだ。

絶対、トラブルの元になる。間違いない。

「あったあった。じゃあ顔隠して……護身用にナイフも装備して行きますか」

メルトに渡す装備的にも、このキャラクターはナイフも使うから都合が良い。

弓矢とナイフに属性を付与する狩人。強ビルドではないが、いると便利な組み合わせだ。

「……うーわ可愛い……」

月明りを頼りに、磨き抜かれたナイフに顔を反射させる。

ローズピンクの瞳に白い肌。

儚気な目つきと眉に、薄いピンクな唇。

長いまつげも眉も綺麗に整い、髪は月光を受けて輝く銀髪。

メルトと似ているな、ここは。

とにかく、間違いなく一〇人中一〇人どころか、無関係の人間すら『美少女だ』と言うであろう姿にため息をつきながら、リンドブルムへと戻るのだった。

「まずい……知らない記憶と映像が……脳裏に浮かぶ」

道中、夜の道をかけていると、存在しないはずの記憶が脳裏を駆け巡る。

夜の道を駆け抜け逃亡する、エルフの女性。

禁忌とされる術を学び、狩りに取り入れたことから異端と判断され、故郷を追われた……という設定だったはずだ。

その時の様子が、感情が、思いが頭に浮かんでくる。

「私……いや俺は……やばい、口調まで意識しないと変わって来てる」

しっかり、自分を保たないと、な。

文字を覚えたらすぐに男キャラで過ごそう。そうしよう。

やがて、街門が見えてきた。

辺りはすっかり日も落ち、月ですら時折雲に隠れてしまう程の闇夜になりつつある。

さすがにこの時間の出入りは厳しいらしく、街に入ろうとする人間は皆、身分を検められていた。

参ったな……セイムの冒険者登録タグしかないぞ。さすがにこれは出せない。

やがて、私……じゃなくて俺の番がやって来た。

「次、お前はこの街の冒険者か?」

「いえ、違います」

「そうか。なら身分を証明する物はないか?」

「申し訳ありません、そういったものは何も持っていないのです」

「ふむ……フードを取れ。手配書を確認する」

大人しく従う。

「っ! き……君は何者だ。見たところエルフのようだが」

「はい、実はこの都市に、とても森の知識が豊富な方がいると知人から連絡を頂きやって参りました。私は旅の学者なのですが、こうして知識を得る為に旅をしているのです」

「ほう、学者なのか。まだ若いようだが……ってエルフでしたな。ふむ……本来この時間の出入りは厳しく管理されているのですが、学者だと言うのならギルドに所属しているのでしょう? そちらの証明書かなにかはありませんか?」

「いえ……それが故郷に学者ギルドのような制度はなく……出来ればここで学者ギルドに登録したいと考えているのです」

「ふーむ……」

容姿のお陰だろうか、怪しい人間には変わりないのだが、門番の態度がかなり軟化しているのが分かる。

ここはもう一押し……。

「申し訳ありません……都市に入ることが出来ないのでしたら……この場所の近くで一晩明かしても良いでしょうか? 門番さんの近くならば、野盗の被害にも遭わないと思いますので」

悲しげな表情を浮かべながら、背負っていたリュックを地面に下す。

あたかも、疲労困ぱいでもう背負っていられないとでも言うように。

実際は全然疲れていないんですけどね。

「う……どうしましょう、先輩」

「……こんな娘さんを野宿なんてさせるわけにはいかんだろう……入れてやれ。それと娘さん、アンタはフードをしっかり被れ。で、宿に泊まるなら『冒険者の巣窟』と呼ばれる通り『じゃない方』の通りを選ぶんだ。丁度この門をくぐってすぐの通りだ。こっちは比較的治安が良い」

もう一人の門番さんが、許可をくれた。

やはり容姿によるところが大きそうだ。親切に宿の心配までしてくれた。

「本当ですか? このご恩は忘れません。後日、またお伺いしますね」

「い、いや構わない。困っている人間を放っておけなかっただけだ」

「先輩、紳士ですね」

「う、うるさい! さぁ、もう通って良いぞ」

そうして、無事に街まで戻ってこられた私は、忠告を無視して冒険者の巣窟にあるはむす亭へと向かうのだった。

大丈夫、しっかりフード被ってるから。

「夜分遅くに申し訳ありません……」

「ん、なんだ客か?」

宿に戻ると、今日も深夜の担当である旦那さんが待ち構えていた。

「はい。本日よりセイムさんに代わり、この宿を利用することになったシーレと申します」

「ん、お前さんが例の客か。フードを取ってくれ、念のため手配書を確認する」

気になったのだが、門でも確認されたし、もしかして凶悪犯でも逃亡中なのだろうか?

顔を隠すのはやめた方が良いかもしれないな。むしろトラブルが起きそうだ。

フードを外し、素顔を晒す。

「っ! 分かった、手配書にアンタはいない。部屋は三階の一番奥だ。もう一人の利用客はもう眠っているだろうから、静かにするんだぞ」

「はい、ありがとうございますご主人さん」

「……うむ」

……仏頂面な人だったのに、目に見えて顔を赤らめられると、正直複雑です。

でもなぁ……我ながら本当にトラブルを起こしかねない容姿だ。

なんだか儚気で少し憂いを秘めている表情な所為で、ちょっと大人っぽくも見える。

「メルトさん、まだ起きていますか?」

部屋の扉をノックし、静かに声をかける。

すると、ゴソゴソと布がこすれる音がした後、扉越しに話しかけられる。

『だーれ?』

「遅くなって申し訳ありません。私です、セイムの代わりです」

『! 今開けるね!』

「しー……」

「あ、ごめんごめん」

静かに部屋に入ると、どうやら彼女は今の今まで眠っていた様子だった。

「ご飯はもう食べましたか? お金は先に渡しておきましたけど」

「あ、うん……今日はこの宿で食べたよ。銀貨一枚で夕食と明日の朝食を出してくれるんだって」

「なるほど、そうでしたか」

「……本当にセイム?」

「ええ、そうですよ。口調を相応しいものにしているんです」

そう、意識して口調を変えている……はずだ。

それなのに、時折思考までもが女性の口調になるのは何故なのか。

「へー……顔見ていーい?」

「どうぞ」

フードを脱ぐと、メルトが目を輝かせる。

「エルフのお姫様みたい……! わー……わー……絵本で見たのに似てるー……綺麗……」

「メルトさんも可愛いですよ」

「えー? 照れるよー」

実際、口を開かなければ大人っぽく、美人で通用するかと。

口を開くと……小学生低学年、ときどき大人という印象ですが。

「じゃあ、今日はとりあえず寝よう? 文字を教えるのは明日から、図書館でもないか探してからにしよっか」

「そうですね、私も疲れました。では……おやすみなさい、メルトさん」

「うん、おやすみなさい……名前教えて?」

「シーレです」

「うん、分かった。じゃあおやすみ、シーレ」

そうして、ベッドに横になる。

不思議だ。特に意識も無理もしていないのに口調が変わってきている。

これが、シーレになるということなのだろう。

果たして文字の習得にも役立ってくれるのだろうか……。

いや、でもその前に門番さんに……何か差し入れでも……渡さないと……。

「起きて、シーレ。もう朝だよ、起きてシーレ」

「ん……おはようございます、メルトさん」

翌朝、思っていたよりも疲労が溜まっていたのか、夢を見ることもないくらい、深い眠りについていたようだった。

ベッドが想像よりも寝心地が良く、改めて門番さんにはお礼を言わなくはいけないと思った。

「シーレ、朝食はサンドイッチだったんだけど、半分あげるね」

「良いのですか?」

「うん、かなり量が多かったんだ」

「ふふ、そのようですね? ではいただきますね」

………………は!? 今なんか思考が普通にシーレになってなかったか!?

やばい! なんか思考が凄い親切心たっぷりな女性って感じになってたんだが!?

門番にお礼なんて……いや、でも何かドリンク剤的なものだけでも……。

「少々危機感を持った方が良いかもしれませんね……既に影響が出てきています……」

「うん? どうしたのシーレ」

「いえ、なんでもありません……」

メルトはこの姿が変わる現象を、別な魂になっていると認識している以上、今更説明しなくてもいいだろう。

これは私が気を付けるしかないか……それとも、もっと男っぽい下品なことを常に考えたらいいのだろうか?

ダメだ、そんなはしたない! っ! 今確実に倫理観がシズマからかけ離れた!?

「……どうしましょう……」

「うん? じゃあ食べたら今日もお風呂入りに行こうか、シーレ」

「な……」

本当にどうしよう……!