軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十一話

結局、賊の襲撃などは起こらず、予定通り四日目の昼過ぎには、目的地である『イズベル』に到着した。

これは俺の予想なのだが……初日に潰した五人組の中の一人が連絡役として、予定通り商隊だけを釣り上げられた場合本隊に報告し、その場合のみ襲うつもりだったのではないだろうか?

最近、メルトとレティさんも賊をかなり潰しているらしいし、今後は今回のように、少し手の込んだ方法で襲撃を仕掛けるつもりなのかもしれない。

これはイズベルのギルドにも報告しておいた方が良いだろうな。

「とうちゃーく! セイム、ここがイズベルの街だよ! おっきいよね! 山の麓の、ぐるっと途中まで街なのよ」

「確かに大きいな……あれってたぶん鉱山だよな……」

山の大きさそのものはリンドブルムの近くにある山程ではないが、それでも登りきるのに丸一日かかりそうな大きな鉱山を中心に、ぐるっとどこまでも街が続いているように見える。

「では、ギルドまで向かいましょう。そこで報酬をお受け取りください」

「了解しました。では一緒に行きましょうか」

護衛任務は、基本的に『前金+目的地のギルドで残りが支払われる』という形式になっている。

理由は……冒険者による略奪、襲撃を偽って殺害等、その他様々なトラブルを避ける為だ。

あらかじめギルド側に成功報酬も支払っており、その支払った分の成功報酬を目的地のギルドが代わりに冒険者に払うという形だ。

今回は賊による企みだったが、似たようなことを企てる冒険者がいないとも限らないのだ。

そうして、どことなく工業の街を思わせるイズベルの中を進み、リンドブルムと比べてやや控えめなギルドの本部に到着したのだった。

「ここは総合じゃなくて、冒険者ギルドの本部なのよ。総合ギルドってリンドブルム独自の呼び方なんだって! ここの他にも商人ギルドとか色々あるのよ?」

「ほほー、じゃあここで一緒に手続きしたら、コンコーン商会の皆さんはそっちに行くんだね」

予想通り、コヤンさんとギルドの受付に向かい、そこで無事に依頼が達成したと認められ、残りの報酬が支払われた。

実は俺は初めなんだよな、この制度使うの。ゴルダからリンドブルムに移動した時は、国を跨ぐ関係で、最初に受けた時点で報酬は全額支払われていたのだ。

つまり、護衛される側にとっては中々リスクがある依頼なのだ、国を移動する際に護衛を頼むというのは。

まぁだからこそ、ある程度の実績と信頼が必要な翠玉ランクからでないと受けられないのだ、本来護衛任務というのは。

「では、我々はこのまま商人ギルドへ向かいますね。セイムさん、我々は『キンコン館』という宿に滞在していますので、御用の際はお尋ねください。七日間、こちらに滞在するつもりですので、お話はその間に出来たら、と」

「了解しました、キンコン館ですね? では明日の夜にでも食事がてらどうでしょう?」

「良いですね、ではこちらも商談のついでに、良いお店を見つけておきますよ」

「おお、助かります」

そうして、四日間行動を共にしたコンコーン商会の皆さんと別れたのであった。

……なんかいまさらなんだけどね? 狐族の商会で『コンコーン商会』で商隊の代表の名前が『コヤン』とか、なんというか……誰かが意図的にそういう名前を付けてるんですかね!?

すっごいベタなんですけど!!!!

それにキンコン館って……鍛冶が盛んな街だからってちょっと安直過ぎないですか!

もしかして変わった名前をつける宿って一般的なんだろうか……?

思えば『はむす亭』も中々な名前だったしな……。

「さて、じゃあメルトの鎧を受け取りに行こうか?」

「うん! じゃあ受け取ったら、街の中案内してあげるね!」

本当に楽しみで仕方ないのだろう、まるで弾むように歩きながら笑みを浮かべるメルトに、周囲の人間も微笑ましそうな表情を浮かべていた。

イズベルは、どことなくリンドブルムにある職人通りに似た空気を全体から感じる街だった。

小さな商店が街の随所にあり、遠くから金を打つ音が微かに聞こえ、空を見上げれば、そこかしこから煙が立ち上っている。

まさに鍛冶の街、という印象を受ける景色だ。

「今日は晴れてるけど、この街って雨が降ると、一斉にみんな火を消して煙が見えなくなるのよ」

「ふむ、火力にムラが出来たりして品質に関わってくるのかな」

「ふむふむ……この街、武器屋さんがたっぷりあるから、きっとみんな品質で競い合ってるのね?」

「そうかもね。それこそ、もうすぐ大会があるんだろう? どうする、その大会見ていく? どうやら一カ月でそれぞれ作品を完成させて、それを一般の人も品評するらしいけど」

道中、コヤンさんから聞いたのだが、ここイズベルで開かれる鍛冶大会というのは『優れた武具を生み出し、住人や冒険者や傭兵、そして同業や収集家に品評してもらう』という内容だった。

無論、専門家による審査も含まれるらしいが、一般客の注目も集める必要がある為、必然的に『高い完成度と性能だけでなく、見た目の美しさやインパクト』も必要になるのだとか。

確かにそんな名品、一度は生で見てみたいな、俺も。

「むむ、確かにそれは気になるわね……綺麗な剣とか鎧とか、そういうの見てみたいわ」

「メルトの今使ってるダガーも、とりあえず戦闘用の武器がないからってことで渡した品だけど、そこまで良い品じゃないしね。紅玉ランクに昇格したお祝いに、もしこの催しで良さそうな剣が売っていたら、それをプレゼントするよ」

「おー! じゃあここに残るわ! 鍛冶大会、終わるまで滞在しましょう!」

「よし来た。じゃあ滞在中はどうしようか? 観光でもするか、それともギルドで近場の依頼を受けるか。お金には余裕があるけれど」

正直、一生遊んで暮らせるだけの金は既に手に入っている。

だが、正直この金を使いきる自信はないし、そうなると当然経済が滞ることもある。

なにかしら、投資や寄付、国の為になることに使いたいとは思うのだが。

「とりあえず観光して、見終わったらその時考えよっか?」

「そうだね、今はとりあえずメルトの鎧を受け取りに行こうか」

観光、再開。この初めての街に、どうやら俺も少し浮かれているようだった。

「ここよ、ここ。『フレンツ・メイス上級武具店』。ここは、過去に一度でも大会で入賞したことのある職人が最低二人は所属していないと名乗れない『上級武具店』なのよ! レティちゃんに紹介してもらったの」

「ほほー! 確かに店構えも規模も、他の武具店とは一味違うね」

案内されてきたのは、街の中でもよりに山に近い、斜面の一部を切り開いて出来た、少し標高の高い位置に作られた区画にある、風格ある店構えと、大きな工房を店の後ろに構えた武具店だった。

「こんにちは!」

来客を知らせるベルを鳴らしながら店に入ると、肌寒い外とは打って変わり、少々暑いくらいの空気に全身を包まれる。

これは暖房でなく、もしかしたら工房の熱がこちらまで届いているのかもしれない。

「ようこそいらっしゃいました。本日はご注文でしょうか? それとも売買でしょうか? 現在、大会に向けて職人の手が埋まってしまっている為、新規のオーダーメイドの注文は完成までお時間を頂くことになってしまうのですが」

「ええと……」

すると、メルトは懐から一枚の書類を取り出し、店員に手渡した。

「注文の品の引き取りですね、それでは展示場にご案内します」

店員が、階段を上り店の二階へと向かう。どうやら、一階は受付と工房への道、その他事務手続きの為のスペースらしい。

「ふふ、なんだか特別なお客さんになったみたいで照れちゃうね。前回ここで依頼を出した時、注文書っていうのを貰ったの」

「そうだったんだね。じゃあ二階に行ってみようか」

二階に上がると、そこには様々な武具が、全てガラスのショーケースに収められた状態で、所狭しと並べられていた。

だが、階段と展示スペースの間には鉄格子が設けられ、中には入れない状態だった。

「この鉄格子はなんなんですか?」

「はい、こちらはオーダーメイドの品を保管しているスペースですので、我々店員が同行しないと入ることが出来ないのです。ですが、こうして鉄格子の隙間から一流の品々が見えるので、一般のお客様に『いつか自分もこの奥に飾られるような品を買いたい』と思わせることが出来るのです。いわば憧れ、モチベーションを維持させ、未来のお得意様を育てている、と言えるでしょう」

「なるほど……かなりやり手……ですね」

これはただ者じゃないな、この店のオーナーは。

鉄格子を開けてもらい、展示されている装備の数々をこの目で観察する。

……こういう時は、俺本来の姿で来た方が良いかもしれないな。

なにせ、あの姿なら【心眼】を使うことが出来るのだから。

こういう装備達の詳細を調べられたかもしれないのに。

「わー……すっごい武器ばっかり! わー……わー……」

「確かにこれは……ぱっと見でそこらの剣とはモノが違うと分かりますね……」

どうも、ただの金属で出来ているように見えないのだ。

何かしらの力を秘めているのか、刃が薄っすらと青みを帯びている長剣や、微かに何かを放っているのか、微妙に震えている双剣、それにキラキラと反射以上に光っているように見えるガントレット等、どれも何かしらの魔法のようなものが込められているように見えるのだ。

「メルト様の鎧はこちらになっております」

「おおー!!! 凄い、綺麗に整ってるわね!」

少し奥に、木で出来たトルソーが展示されており、そこにメルトのものと思われる軽鎧が取り付けられていた。

銀と灰銀のパーツが胸部の覆い、それ以外の場所は細いワイヤーで編み込まれたチェインメイルが組み合わさり、服のように手軽に装着出来そうな鎧。

チェインメイル部分が随分と細やかに編み込まれているな……極細のワイヤーだろうか?

激しい動きでも身体にフィットしそうな、細やかな仕事が細部にまで施されている、まるで繊細な工芸品のような逸品だった。

「すごーい! これ私が着てもいいのよね!?」

「勿論です。メルト様は注文時に料金を支払ってくださいましたからね。大金貨八枚、一括で。中々いらっしゃいませんよ、その若さで当店の商品を一括前金で購入出来る方なんて」

「驚いた……かなり大きな買い物をしたんだね」

「うん、前にさ、魔物の討伐隊に参加したじゃない? その時、私とシレントが倒した魔物の部位が売れて、そのお金が振り込まれたのよ! 大金貨一五枚も!」

「あー! それかぁ。良い買い物したね、これからも戦うなら良い装備はあった方が良い」

「ね! ダガーは暫くはコレ使おうと思っていたんだけど……セイムは新しいモノの方が良いって言うし、どうしようかしら?」

「ふむ……店員さん、ここに置いてあるのは全てもう売り手が決まっているんですか?」

俺は、このフロアにある数ある装備品の中から、金と銀色の刀身を持つ、二振りのダガーが飾られているショーケースへと向かう。

「そうですね、前金で一部を払い、残金の支払いを完成後にするお客様もいますが、完成から一年経過した時点まで購入出来ない場合、こちらの品々は一般の方も買うことが出来るようになります。ですが、残念ながらそちらの『月光と日輪』は、既に支払いが完了している品でございます」

「残念。かなり良い品に見えたのでつい」

そのダガーは、美しい刀身とガードやグリップの細工に加え、何か不思議な力をケース越しにも感じる、まさに名品中の名品に見えたのだ。

黄金のダガーと白銀のダガー……綺麗だな。

「そんな高そうなのいいよー」

「でもせっかく紅玉になったんだし良いモノ贈りたいじゃないか」

「なんと……お若いように見えていたのですが、紅玉ランクとは……さぞや名のある冒険者なのでしょうね、お客様は」

「えー? それほどでもー……あ! 鎧、これ装備しちゃって良いかしら!」

「勿論。そちらのドレッサーで装着してください」

メルトがカーテンの向こうに消え、その間俺は店員さんに問う。

「新規のオーダーメイドをした場合、完成はどれくらい先になりますか?」

「そうですね……大会だけでなく、そもそも多数の注文を抱えていますので……上級の職人に頼むとなると、最低でも半年先になってしまいますね。今回の鎧は、そこまで特殊な素材や加工法が使われていないため、ギリギリ上級職人に頼むことが出来たのですが」

「なるほど……分かりました。ちなみに予算を積んでも無理……ですよね?」

必殺、袖の下。

「流石にそれは……」

「ですよね。いや、失礼しました」

そうだな、他の人の注文を遅らせるなんてダメに決まってるよな。

俺は待っている間、部屋の壁に貼られていた鍛冶大会のチラシを見て時間を潰す。

『新年鍛冶大会開催! 期間は三月三日から四月二日まで! 登録者募集中、また飛び入りの職人も歓迎します。受付は鍛冶ギルドまで』

『参加料大金貨三枚 工房レンタルが必要な方は工房ランクにより大金貨五~二〇枚必要です』

『優勝賞品は“クォーツドラゴンの心臓銀”と“世界樹の老皮”に加え大金貨五〇枚』

ほほう……賞品として、なんだか凄い大仰な名前の素材に、結構な大金が出るのか。

それに加えて職人には『上級職人』か『マイスター』の称号が与えられる、と。

「凄いですね、この大会。マイスターなんて称号もあるんですか」

「ええ、そうなんですよ。当店ですら、上級職人を二人輩出するにとどまっております。というよりも……優勝しても上級職人を与えられるのが一般的なのです。かつてマイスターを授けられたのは……もう何十年も昔の話になってしまいますね。ハムステルダムの鍛冶職人『金糸の乙女』と呼ばれる方のみが、唯一マイスターの称号を受け取ったと言われています」

! また出た! 謎の国家ハムステルダム……! それにその『金糸の乙女』という名前は……以前、シュリスさんの口から聞いたことがあったな。

確か、彼女の式典用の鎧を手掛けた職人の名前だったか……。

「着れたよー! ほらほら! 身体にフィット! おっぱいが大きくなっても大丈夫だよ! 横のアミアミになってるところが伸びるの!」

「……メルト、人前でおっぱいなんて言うんじゃありません」

ほら! 店員さんが気まずそうにしてるでしょ!

ドレッサーから出て来たメルトは、先日買ったコートの下に軽鎧を身に着けていた。

美しい銀と灰銀色の胸部装甲に細やかな意匠が施され、それ以外の部分は完全に身体にフィットした、特殊な編まれ方をしているであろう、極細の銀のワイヤーで出来たチェインメイル。

肌とよく擦れる部分である袖口や首回りは、白い革でガードされている。

誰が見ても、一流だと分かる鎧だった。一気にメルトが上級冒険者になったように見える。

「すっごく似合うよ。カッコいいし、一流の冒険者って感じがするよ」

「ほんと!? へへへ……なんだか身が引き締まる思いねー」

こうして、この街に来た当初の目的、メルトの軽鎧を無事に入手することが出来たのであった。

さーて……じゃあこの後はどうするかねー?