軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十三話

「ドレス!? ドレスってあれよね!? お姫様が着ているヒラヒラーってした服よね!? 私が着るの!?」

「んむ、メルトちゃんもワシと一緒にお城の晩餐会に出席するんじゃよ。だからドレスのような、パーティ用の服が必要なんじゃ。今、コクリさんが着ていないドレスを数着持ってくるからの、そこから気に入ったものをメルトちゃんの身体に合わせて調整してくれるそうじゃよ」

「わ、コクリちゃんのを私の為に? お礼しなくちゃね?」

「んむ、そうじゃな」

帰宅しメルトちゃんにドレスの話をすると、やはり予想通り目を輝かせて喜んでくれた。

うむうむ……この喜ぶ顔が見られただけで、今日王宮に行った価値があったというもの。

この子、可愛いだけでなく美人さんだからのう……晩餐会用に化粧でもしてドレスなんて着たら……参加者の貴族が黙っていないかもしれない。

「……女王陛下やコクリさんに、ワシにも一定の権力を与えてくれるよう頼もうかのう」

そういえばシズマは『ある程度の特権』をダンジョンコアをこの国に使う条件として提示していたのう……確か簡単に言うと『気に入らない貴族をぶっ殺しても罪にならない』みたいな感じじゃなかったか。

……ワシも欲しいのう、それ。

『こんにちは。ルーエ殿はご在宅かな?』

それから二時間程経って、家の扉がノックされた。

この頃にはもう、メルトちゃんの体調も戻り、昼食を摂り回復していたのだが、コクリさんの到着を知ると、更にその元気度合いが増し、ワシを追い越すように玄関の扉へ向かって行った。

「こんにちは! いらっしゃい、コクリちゃん!」

「やぁやぁ、ご無沙汰しているね、メルトさん」

フレンドリーに接するメルトちゃんに、コクリさんの表情から、微かに浮かんでいた警戒の色が抜ける。恐らく、ワシがいることへの警戒、緊張だろう。

「入って入って! 職人さんもどうぞ入って頂戴!」

コクリさんに続き、大きな衣装ケースを運んでくる、職人と思しき女性。

うむ、正解だ。男の針子を同席させようものなら、ワシがすぐにでも追い返していたぞい。

「それじゃあ早速だけど、この中から気に入ったドレスを選んでくれるかい?」

すると、衣装ケースの扉を開き、その中に収められていたドレスを、次々と一緒に運ばれてきた物干し竿のような道具に吊り下げ、まるで展覧会のように綺麗に陳列していく。

色とりどり、様々なデザインや質感のそれらに、メルトちゃんが言葉にならないような感嘆の声を上げる。

「わぁ……! はー……! おおー……! 凄い、凄いわね! 『フェアリーシルク』に……この織り方はなんだろう? 私、見たことない!」

「それはサテンと呼ばれる生地だよ。特別な織り方をしているね、確かに」

「わー……つやつや光っていて滑らかな触りごこち……凄い凄い!」

「喜んでもらえて嬉しいよ私も。でも凄いね、よくフェアリーシルクだって一目で分かったね?」

「私のおばあちゃんが着ていた白衣がフェアリーシルクだったんだー。こんなにキラキラした生地じゃなかったけれど」

「ほう、白衣に使うのかい? なるほど……確かに耐腐食性も耐火性も高いから理には適っているね……メルトさんのおばあさんとは、一度会ってみたかったよ」

「うーん……? そうねー?」

ふと、メルトちゃんから微かに疑問が浮かんでいるような気配を感じた。

コクリさんの言葉に、何か思うところでもあったのだろうか?

「どれにしよー! 全部綺麗だけど……これか……これか……」

選び始めたメルトちゃんは、白のドレスと薄水色のドレスを手に取った。

ワシの予想通りじゃ、やはり、好きな色なのだろう。

艶めく二つのドレスは、心なしかメルトちゃんの銀髪に少し似た色合いをしていた。

「ねぇねぇおじちゃん! どっちの方が似合うかしら?」

「ひょほ! ワシが決めるんかの!?」

おっと、これは責任重大じゃ……緊急脳内会議開始じゃ。

ワシは一瞬で瞑想状態に入り、自身の意識の奥深くへと飛ばす。

すると――

「……と、いう訳じゃ。事態はそちらにも伝わっていたじゃろうか?」

「どわ!? いきなり現れるなルーエ!」

「……マジかルーエ、起きていたのにいきなりここに来られるのかよ……」

ワシは、暗闇の円卓の間に立っていた。

シズマとシレントが驚きの声を上げるも、事態は急を要するのだ、許してほしい。

このような重大な決断、ワシ一人で決めるには荷が重すぎる。

「私は白のドレスを勧めます。水色の方は少々、胸元の切れ込みが深く、まだ精神的に幼い彼女が着るには些か危険だと判断しました」

「そうかしら? 彼女も外見はもう大人に近づきつつあるのだし、ある程度慣れておいた方がよくない? 王家主催のイベントだもの、ある程度は国も守ってくれるわよ」

「そうですね、私もセイラさんの意見に賛成します。まだ開きかけの蕾であるメルトさん、それが開花の予兆を見せるには、万全な環境だとは思えませんか? 数多のナイトに守られている場でこそ、彼女は自由に花開かせるのではないでしょうか?」

シーレとセイラ、女性陣の意見が二つに別れるも、セイラ派にハッシュが加わる。

なお、ワシはシーレ派じゃ。

「そうだね、僕はシーレに賛同するよ。あまりにも彼女は無自覚すぎる。シズマ、君はどう思う?」

「俺もルーエも、メルトに何かあれば晩餐会だろうと相手を殺すから、リスクの少ない白かな?」

「んむ、シズマとまったくの同意見じゃ。メルトちゃんがちょっかいを掛けられる可能性が少しでも低いに越したことはない。かといって出席させないのは彼女が可哀そうじゃし、ドレスを着る機会を奪いたくないからのう」

「む、確かにそうだな。晩餐会が血まみれになるのは控えた方が良い」

「まぁ……そう言われたら同意するしかないわね……ハッシュ、諦めましょう。孫馬鹿おじいちゃんが一緒な以上、無理よ」

「んー……そうですね。仕方がないですね」

皆、分かってくれたか!

「私は水色で良いと思うのですがねぇ? より彼女の髪や体毛が映えるのはこちらでしょう? それに……愚かな貴族を炙り出し、粛清するにはもってこいではありませんか」

「私も今回はスティルに同意するよ。だって、ルーエがダンジョンコアの提供者の頭目って扱いで紹介される以上、その連れであるメルトちゃんだって、関係者だと勘繰るのが普通。そこに下手にちょっかいかけるような浅慮な貴族なんて、粛清しちゃってよくない? 言い方が悪いけれど、そういう連中を炙り出す撒き餌としても機能するんじゃないかなぁ?」

むぅ……確かにそういう考えも……しかし意外な組み合わせな同意じゃな。

スティルとレントは仲が悪い訳ではないんかのう?

『殺すのを楽しみたいのなら水色にすべきだ。一国の上層陣が集まる大事な催し、そこを殺戮で恐怖に落とすのは些か私も興が乗りそうだ。この国を恐怖で支配するのには都合が良い』

その瞬間、円卓に響き渡る『最強』の声。

……ならば、その提案に乗る訳にはいくまいよ。

「意外な申し出じゃな最強。ではワシはそれを蹴るしかないのう。……いつまでも、最強の称号が自身のモノと思う出ないぞ?」

『クク……そうか、どうやら“増長”してしまうような力を得たのだな? 良いだろう……いつの日か、共にこの円卓から出た暁には――』

暗闇の向こうの声。それと言い合うワシ。だが――

「何勝手に俺の身体を出ていくだなんだ言ってやがる。今すぐメニューからキャラデリするぞ? 調子に乗んな」

静かに、シズマの怒声が円卓に響く。

そうだ、その気になればシズマは……ワシらを消去できる立場にあるのだ。

……そうだの、すっかり……忘れていたのう。

『……そうか、気に障ったか』

「ああ。とても不愉快だった。控えろ『シュヴァイゲン』。お前は俺の主にでもなったつもりか?」

『……謝罪しよう。だが最強は私だ。それだけは異を唱えよう』

「そうだな、ルーエでも恐らくタイマンじゃ勝てない。いや『本当に一対一ならその限りじゃないがお前は一人じゃない』からな」

『そういうことだ。だが現状、私はこの世界に興味を持てぬ。お前の助けになろうとは思えんよ』

反省しよう。彼奴を挑発したのはワシなのだから。

そして……今のワシを持ってしても、シズマは勝てぬと断言した。なら、それは事実なのだろう。

悔しいのう。まだ、届かんか。

「ルーエ、白だ。メルトには白のドレスを勧めてくれ」

「んむ、了解した。では今回はこれにて失礼するぞい」

そうして、ワシはこの瞑想から意識を浮上させるのだった。

「白じゃな! 断然白の方が似合うぞい」

「ほんと!? 白いドレスって、なんだか結婚式みたいで少し気恥ずかしかったの! そっかー! 似合うのね、私!」

グハァ!!!!! 結婚……結婚なんて……嫌じゃ嫌じゃ! メルトちゃんがお嫁に行くなんて嫌じゃ! ぬかったわ……! 白のドレスでこんなダメージ受けるとは思わなんだ!

「なるほど、このドレスだね? では職人くん、彼女の身体に合わせて調整をお願い出来るかな?」

「畏まりました。では、お隣の部屋をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「んむ、構わぬよ。メルトちゃん、ドレスを持って隣の部屋に行ってもらえるかの?」

「分かった! わー……ドキドキするなー……」

く……白いドレス姿なんて……未来の花嫁姿を想像してしまい、胸が苦しくなってしまう!

ここは水色にするべきだったんかのう……。

「さて……恐らく本格的な作業は城に戻ってからだと思うけれど、それでも大体の当たりをつけたりするのに多少は時間がかかると思うからね。その間、私とおしゃべりでもいかがかな、ルーエ殿」

「んむ、良いぞコクリさん。では少しお茶でも淹れてこよう」

「いや、私が淹れるよ。貴方に入れさせるなんて申し訳ない」

「ふむ、まぁワシも家主という訳ではないからの。では今回はお言葉に甘えさせてもらおう」

「そうしておくれ。私は一応、この家を長らく管理していた身なんだ。だから多少は詳しいんだ」

「ほう、そうじゃったのか。ならば近々、例の道の異常調査を手伝ってもらおうかのう……」

「例の道……?」

ふむ、嘘はついていないな。この家の地下通路については本当に何も知らないようだ。

「ああ、道というか水路かの? ほら、庭の端でメルトちゃんが川の流れを変えて、何やら池を作っておるじゃろ? その影響がどこかに出ていないか調べようと思ってのう」

ワシはとっさに嘘の理由をでっちあげる。本当は地下通路のことなのだが、コクリさんはその存在を本当に知らない様子。

「ああ、裏の小川かい? あれは支流だからね、たぶんいじっても問題ないと思うよ。そうだね……春になったら、少しだけ調べてみるよ」

「んむ、お手数おかけしますじゃ」

油断ならない相手……だとシズマは警戒していた。

確かに、ある種の老獪にも似た恐ろしさがこの人物にはある。

だが……警戒する必要はないのう。

彼女は、この国に自分を本当に捧げているようだ。

恐らく、旅団に対して懐疑的とまではいかなくとも、調べようとし続けているのは、愛国心が故。

「入ったよ、コーヒーでよかったかな?」

「構いませんぞ、ワシもコーヒーは好きじゃから」

「今日は雨が降ったおかげで少しだけ肌寒いからね。雪は溶けたけど」

「そうじゃのう。もう少し日が照ってくれれば良いのじゃが。……二月が終われば、そろそろ春の先触れが訪れ始めるじゃろうか」

「そうだね……コアの影響か、少しだけ例年より雪解けが早く感じる。実りの実感が湧くのは春になってからだろうから、もうすぐ……かな」

思うところが多いのだろう。長年、この国で生きてきたのだから。

「そうじゃ、コクリさんや。折り入ってお願いがあるんじゃが」

「ふむ? なんだい? 貴方の願いなら極力叶えたいのだけど」

「晩餐会当日のことなんじゃがの? ほれ、メルトちゃんは可愛いじゃろ?」

「ふふ、そうだね。可愛いよ彼女は」

「じゃろう? だからしっかり警備の人間に、彼女を守るように言ってくれんかの? 絶対、過度な接触を試みる貴族が出てくると思ってのう?」

「はは、確かにあり得る話だね。うん、了解だよ。彼女の近くにはボディガードを潜ませておくよ」

「んむ、頼んだぞい。最悪――ワシが会場で血の雨を降らせることになるからのう」

本気の威圧と共に念を押す。

「彼女はうちの旅団『全員』が大事にしておるからの。最悪、全員がこの国の敵になると思うてくれて良いぞい」

「……厳重に警備しておくよ。ボディガードにも相応の権限を与えておくと約束する」

「んむ、任せたぞい」

さて、これで安心して晩餐会の臨めるのう!

さぁ、ご馳走一杯、綺麗なドレスでたっぷり楽しもうぞ、メルトちゃん。