軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十話

「あ、あの……シズマ?」

「どうしたんだ、レント」

「……一人だけ召喚出来るなら、私とかどうかなって思うんだけど……ダメ?」

「む……まぁ……」

正直、レントはまだ育ってない関係で、ゲームなら採取に向かわせても素材をあまり採ってこられない、言ってしまえば『まだ使えない』状態ではある。

が、それでもこの世界の普通の住人よりは強いとは思うが。

何か、自分を召喚して欲しい理由があるのだろうか。

「私も、シズマの役に立ちたいんだ。弱いし放っておかれていたけど、私にしかない強みがある! 今、喋れない、満足に反応もしない人間を連れて行こうとしても、みんな誰かしらと顔見知りだし、大人だし、詳しい検証とか出来ないと思うの。でも私……子供だもん! エルフだけど小さい子供だって思ってくれるはず。なら、都合が良いと思うの」

「ええ、そういう訳です。我が主? これは都合が良いのです『特に戦争直後のこのタイミングなら』なおさら」

それがどういう意味なのかと、スティルに続きを促す。

「『知人の安否を確かめに行った結果、そこで戦災孤児となってしまった知人の娘を見つけ引き取ることにした。しかし心の傷が大きく、人間らしい感情が消えてしまった』と、説明するのですよ。これなら、物言わぬ人間を引き連れていても言い訳がしやすいでしょう? ましてや、何も言わない大人よりも、何も言わない子供の方が違和感が少ない」

「なるほど……二人とも頭が良いな」

思わず、レントとスティルを褒めたたえる。が、その時――

「おっとー? スティル、その考えの骨子を組み上げるにあたり、私も助言を、いえ……基礎を固めたのは私なのを忘れてはいませんか? シズマ、私のこともどうかお褒め下さい」

「ハッシュ……うん、ありがとうハッシュ」

「本当にいまいまし……いえ、愉快な人ですねぇ、貴方という人は」

「ふふ、あまり褒めないでくださいスティル。お礼に今度讃美歌でも披露しましょうか」

「遠慮しておきます」

……この二人仲悪いの? 顔は結構似てるのに。

というかハッシュのクリエイトデータいじってスティル作ったんだけど。

「なんにしても、三人の案は採用したいと思う。じゃあ、一度俺がレントの姿になって、最低一度は戦わないとオーダーを出せないと思うから、明日はそうさせてもらうよ」

「やった! やっと私も役に立てる……! シズマ、どうせなら最低でも私の初級魔法をシズマでも使えるようになるまで戦ってよ。便利だよ、けん制にも使えるし」

「確かに、剣を振るうモーションなしで遠距離攻撃手段を得られるのは大きいな……」

「で、でしょ!」

レントは、もしかしたら自分を使ってもらえないことをずっと不満に思い、同時に悔しく思っていたのかもしれない。

自分を売り込み、そして採用されたことへの喜び方に、そう感じた。

……悪いことしちゃったな。俺、なんで育成しなかったんだろう、彼女のことを。

「話は纏まったな? なら今回はここまでにするか。シズマが眠っているのに、これでは脳が休めないだろう」

「そうですね、しっかり眠ってください、シズマ」

「名残惜しいですが、紅茶はまたの機会ですねぇ。ではまたの機会に、我が主」

「ふふ、その際はぜひ私がBGMを担当しましょう。シズマ、おやすみなさい」

「シズマ、眠る前に僕からも一つ良いかな?」

その時だった。先程から一言も話していなかったセイムが、何か伝え忘れたことでもあるかのように発言する。

「シズマ、ダンジョン攻略とかしていた時、しばらく自分で活動していただろう? その間、爪や髭って伸びたかい? まだ人によっては髭が生えない年齢だとは思うけど」

「ん? そうだなぁ、髭はともかく、爪は一回やすりで削ったね」

なんだ? セイムの質問の意図が分からない。

「そうか……なら心配はないか……ならどうして……」

「セイム? どうしたんだ?」

「いや……実は『召喚された存在は時間が止まっている可能性』を考えていたんだ。もしかしたら、シズマも不老なんじゃないかって」

「な……!」

不老……それは、ちょっと恐いな。

まるで、世界から取り残されるようなものだろ、不老なんて。

そうか、爪や髭の質問は代謝や成長に関する確認だったのか。

「メルトが見つけた『から揚げ』やシズマの『スポーツドリンク』。その温度や味からして、時間が止まっていると思ったんだ。それにバスだってそうだ。シズマ、聞いたことないかい? 『バッテリーが上がってる』って」

「あー、そういえばうちの親父がなんか言ってたことあるかも」

「そうなんだ。短かければ一カ月放置されるだけで、車のエンジンはかからなくなったりするんだよ。こんな寒い場所に三カ月以上も放置されていたんだ。エンジンがかかるなんて奇跡なんだよ」

「マジか……なら本当にバスの時間が止まっていた……?」

盲点だった。たぶん、メルトがから揚げを見つけなければ気が付けなかったかもしれない。

だが、少なくとも俺自身の時間は止まっていない……これはどういうことなのか。

「ごめん、混乱させてしまったね。僕もまだよく分かっていないんだ。生き物には適用されない? いや……でもそうなると……シズマ、この精神世界でスマートホンって持ってる?」

「ん、普通にメニュー画面から取り出せるよ」

「あ、本当だ。僕達も使えるね」

スマートホンを取り出すと、普段はメニューにしまっている関係か、まだバッテリーに余裕があった。

「シズマ。強欲の館の中でスマホのバッテリーって減ってたかな?」

「あー……ごめん、そこまで覚えてないかも」

「そうだよね、普通。……僕はお手上げかな、この問題」

実際、今すぐ不都合がある問題ではないが、確かに気になる話題ではあるんだよな。

すると、今度はシーレが手を上げ発言を求めてきた。

……挙手制になったのか。

「シズマ。明日、一度スマートホンをポケットにいれて出歩いてください。バッテリーが少しでも減ったらメニューに収納してくださって構いませんので」

「ん、分かった。何かの検証だね?」

「ええ。『人間以外の時間が止まっている』のか、それとも『ある条件をクリアしていないと時間が止まっている』のか、それを確認しようかと」

「ある条件?」

「はい。ですが、これはまだ推論とも呼べない内容ですので、今はまだ」

シーレがどこか思い悩むようにして提案する。

ふむ、バッテリーの残量と特定の条件……か。

「よし、今度こそ寝るよ。これ、勝手に意識が落ちるのかな?」

「ええ、恐らくそうよ。シズマ、もしオーダー召喚に関係する検証が終わったら、私を出すといいわよ、ご飯作ってあげる」

「あ、それいいね! セイラ、その時は頼むよ」

「ちぇー、私じゃ何も作ってあげられないもんなー」

レントが少し悔しそうにしつつも、どこか楽しそうに笑う。

……そうだな、みんなのこと、ちゃんと使ってあげないと、だな。

そう心に決めたところで、今度こそ意識に霞がかかるように、次第に眠く、瞼が重くなっていく。

――ああ、みんながいるって……良いな――

少しだけ、いつもより身体が楽な気がする。

目を開けると、バスの天井が目に入った。そうだ、倒したバスの座席で眠っていたんだった。

「さすが文明の利器……ってほどじゃないけどテントよりは過ごしやすかったな……」

後部座席を見れば、メルトがまだ気持ちよさそうに毛布に包まっていた。

なんというか……獣人さんは毛布がとてもよく似合うと思うんですよ俺は。

こう、もこもこに包まって眠るのがとても自然というかなんというか。

ハウジングアイテムで家具類も結構あったからな、こたつとか今度出してみよう。

電気はたぶん使えないだろうから、魔導具で何か代用しないといけないけど。

「おーいメルト―、そろそろ起きるよー」

窓の外を見れば、もうすっかり日が昇っている。今日はメルトの家や里を目指す為にも、心を鬼にして、このもふもふ狐さんの眠りを妨げなくては。

「んー……やだ……ここ寝心地いいのよ……ぼよんぼよんなの……」

「……ブルルンってさせるよ」

「うー……」

あのエンジン音に慣れないのか、もぞもぞと起き上がる。

さぁ起きましょう起きましょう。

「おはようメルト」

「おはよう……この大きな椅子だけお家に欲しいわ……」

「んー、そうだなぁ。ソファなら何種類かあったから、帰ったら試してみようかな」

大量の家具達。その実際の使い心地を試してみたい。

「よし、じゃあご飯は収納してあるご飯にしようか」

「セイムの収納って便利ねー、時間が止まってるのよね?」

「そうだね、ほぼ止まってるね」

……このバスも、時間が止まっているのだろうか? シーレの検証を手伝う為にも、俺もスマートホンをポケットに移動しておく。

あ、その前にレントに変身するんだった。

「そうだメルト。実はまたちょっと別な姿になる必要があるんだ。たぶん、メルトの家に着くまで変身することになるかも。ちょっとその姿で戦ってみたくてね」

「あら、だれだれ? シーレになるの? それともシレントかしら?」

「んー初めて見せる姿だよ。魔法使いなんだ」

「へー! 魔法使いにもなれるのねー!」

それともう一つ。身体が小さいので、少ない量で満腹になれるのではないかという期待。

まだまだ食材も料理も大量にメニュー画面のアイテムボックスに収納されているが、それでも節約はしたいのだよ。

メニュー欄でキャラクターの項目をレントに合わせる。

まばゆい光に包まれながら、視線がどんどん低くなるのを感じる。

それが収まると、久しぶりにレントの姿となり、バスの天井が随分と高くなっていた。

恐らく、身長は一二〇センチあるかないか……ってところだろうか。

ゲーム時代の最小設定値がこのくらいだったはずだ。

「よし、変身かんりょ――うわ」

「ちっちゃーい!」

次の瞬間、メルトが抱き着いてきた。

メルトのみぞおち付近に顔が埋まる。苦しい!

「小さい、凄く小さいわ! こんな小さな女の子になれるのね!」

「やめてやめて! ちゃんと俺だから! 中身はシズマのままなんだから!」

「えー?」

「今日はこの子で魔法を使って、シズマでも魔法を使えるようになるのが目的なんだ。で、その後、シーレみたいにこの子を召喚して、しばらく連れて歩いて色々検証する予定なんだ」

「ふむふむ……なら暫く一緒なのね? 私が面倒見るわ!」

……どうやら、メルトは小さい子供が好きらしい。

本当、そのうち呼び出したキャラクターにもしっかり人格が宿ってくれると良いんだけどなぁ。