軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第084話~地下に棲むやべー奴ら~

「ライム、俺達はどこに向かってるんだ?」

ぽよぽよころころシュババッと多彩な移動方法を見せてくれるライムの後を追いながら目的地について聞いてみる。というか、ぽよぽよころころはまぁ、跳ねたり転がったりだからわかる。そのシュババっていうスライド移動。どうやってんのそれ。

「らいむたちのおうちー」

そっか、おうちかー。俺が聞きたいのはそういうことじゃないんだよなぁ? まぁ、今はついていくしか無いんだけども。

「ライム達ってことは、他にも誰かいるのか?」

「んー? おっきいらいむと、おっきいべすと、おっきいぽいぞがいるよ!」

「おっきい……?」

おっきいってどういうことだ……? 本体的な存在がいるとか? まさかな。いや、スライムだからなぁ……あと、ベスとポイゾってのもいるのか。三人で住んでるのかな?

「ライムと、ベスと、ポイゾの三人で住んでるのか?」

「そうだよー。こわいにんげんにみつかったら、おうちのばしょをかえるのー」

「怖い人間?」

「そーなのー。ひどいんだよー。まほうでうってきたり、どくをながしこんできたり、あぶらをながしこんでひをつけたりしてくるのー」

いかにも憤慨しています、という感じの声でライムが結構悲惨なことを言う。魔法とか毒とか油とか大丈夫なのか、おい。

「そりゃひどい。ライム達は大丈夫なのか?」

「らいむたちはそうかんたんにはしなないからー。やられたーってえんぎ? するのもじょうずなんだよー」

そう言うとライムはでろーんと床に広がり、透明になって見えなくなってしまった。そしてすぐに元に戻る。

「じょうずでしょ?」

「上手上手」

「んふー」

俺に褒められたライムが満足そうな声を上げる。実際、死んだふりだと知らなければ今のは死んだと思うだろうな……ただの水たまりみたいになってたし。

そんな感じでライムと雑談をしながら暗い地下道を進む。とは言っても、殆ど俺が聞くばかりだったけど。

ライムの言葉が辿々しい上にライム自身の記憶というか知識があやふやなので詳細はわからなかったが、どうもライム達はメリナード王国が聖王国に敗北して属国化されて以来ずっとこの王都の地下に隠れ住んできたらしい。ライム達は豊富な水がある場所でしか生きられないらしく、オミット大荒野を越えて黒き森まで逃れるのは不可能だったのだとか。

「それに、おしろにはおうさまたちがいるからー。おいていけない? よ?」

「メリナード王国の王族はまだ城にいるのか?」

「いるよー」

「ほう……」

これは新情報だった。シルフィがダナン達に聞いた話によると、メリナード王国の王族達は奴隷として聖王国各地に連れ去られたという話だったはずなんだが……どういうことだろうか?

ダナン達の情報が間違っているのか、それともライムの情報が間違っているのか……これは確認する必要があるな。

「ここがいりぐちー」

「ここが入り口かぁ……」

ライムが床に嵌まった鉄格子の傍でぽんぽん跳ねる。

かなり大きな格子だ。地下で湿気も多いのに全く錆びていないように見える。鉄製ではないのかな?

「俺、ここは通れそうにないんだけど……」

「にゅるんってできない?」

「にゅるんはできないかなぁ……」

「できないかー……」

ライムが体の半分を液状化させて格子を素通りして見せてくれるけど、それは俺にはできないなー。俺はそこまで人間やめてないからね。

「格子の横の床、壊しても大丈夫か?」

「んー? たぶん?」

「たぶん?」

「もしかしたらおっきいらいむにおこられる? かも?」

「その時は謝るよ。直せると思うし」

「らいむもいっしょにあやまってあげるねー」

ぽんぽん跳ねながら優しいことを言ってくれるライムにほっこりする。んー、可愛いな、ライム。癒やされるわー。うちのこにできないだろうか? 犬や猫じゃないんだから無理か。

とにかく、先に進むために石斧で格子の横の床をコンコンして破壊し、下に降りられるようにする。少し時間はかかったが問題なく掘削は完了した。

「すごいすごい! こーすけすごい!」

「はっはっは、そうだろうそうだろう」

興奮した様子でポンポンと跳ねるライムに褒められ、俺も満更ではない気持ちになる。

解放軍では俺が色々やっても『ああ、またか』って生暖かい目で見られるだけになってたからな。生暖かいというか、悟りを拓いたような目だったかもしれないが。

階段状に掘削した石床で格子の下まで降りる。高さはそんなに無いな。五mくらいか? 飛び降りるのは嫌だけど、いざとなればなんとか飛び降りられないこともない高さだ。ライムも俺と同じように階段状に掘り進んだ石床を伝って降りてくる。

「いつもはあの格子をにゅるんってして降りるのか?」

「うん、そうだよー。にゅるん、びたーんっておりるの! たのしいよ?」

「びたーんして大丈夫なのか……?」

「だいじょうぶー」

ライムは五mの高さからびたーんしても大丈夫らしい。流石スライム、物理に強いな。

降りた先は地下水道のような場所だった。下水かと思ったのだが、嫌な匂いはあまりしない。

「ここはなんだ? 下水道じゃないのか?」

「んー? げすいどう? だよ?」

「えっ、そうなのか?」

それにしては臭くない。もっとオエエェェェェッ! ってなる匂いを想定してたんだけど。

「ここにながれてるのはー、ぽいぞたちがしょり? したみずだからー。きれいだよ?」

「ほう……」

ポイゾというのが下水処理をしているのか。名前から考えるにポイズンスライム的な存在なのだろうか?

「おうちってのはまだ遠いのか?」

「すぐそこー」

ライムがぽんぽんと跳ねて移動を始めたので、俺もその後をついていく。少し歩くと前方に明かりが見えてきた。あの独特の光は見覚えがある。アイラが使っていた照明の魔法の光に似ているな。

「ただいまー、こーすけつれてきたよー」

光で満ちた部屋に入ると、あまりの眩しさに一瞬目が眩む。いや、眩しいんじゃなくて地下道が暗すぎただけだろう。松明もそこそこ明るいけど、目は暗闇に慣れてたからな。

部屋に入ると、そこには三人の女性がいた。いや、女性のような形をした何かがいた。

「はーい、おかえりなさーい」

明るい声でそう言う水色の女性のような何かの豊かな胸元にライムが飛び込み、その姿を消す。消す? え? 何それどうなってんの?

「ふーん、確かに人間ね」

赤い粘液でできたスレンダーな人型が若干混乱している俺を見ながらそんな声を出す。

「驚いているようなのです」

今度は泡立った緑色の粘液で出来た人型がそんな声を発する。ええ、驚いていますとも。

「まさかとは思ったが、本当にスライム娘が存在するとは……」

話せるスライムのライムが居る時点でなんとなくいるのかなぁ、とは思っていたが本当にいるとは思わなんだ。そしてライムはどこへいってしまったのだろうか?

「ライムはどこへ?」

「わたしがライムですよー?」

水色の人型……ライムがそう言ってにこーっと笑みを浮かべる。そしてぽこぽこと身体の一部を分離させて先ほどまで俺と一緒に行動していたライムと同じものを生み出した。

「あんたと一緒に行動してたライムも、このライムも同じ存在ってこと。ちなみに私はベスよ」

「私達は身体を分裂させて複体というものを作ることができるのですよ。私はポイゾなのです」

赤い人型と緑の人型も自己紹介をしてくる。色々と考えたいことが多いが、今はそれよりも自己紹介をするとしよう。

「俺はコースケ、解放軍でシルフィ……シルフィエル姫殿下と言ったほうがわかりやすいか? シルフィと一緒に行動していた。色々あって聖王国軍に捕まって、独房にぶち込まれたのを脱出してきたところでライム――ライムさん? に会ったんだ。よろしくな」

「ライムでいいですよー」

ライムがそんなことを言いながらのほほんとした笑みを浮かべる。うーん、癒し系。

「シルフィエル姫殿下の解放軍ね。噂は聞いてるわ。軍や教会上層部は戦況を隠すのに必死だけど、王都じゃ解放軍の噂でもちきりよ」

「聖王国軍を怒涛の勢いで撃破しながら短期間でアーリヒブルグまで攻め上がってきたという話だったのです。本当なのですか?」

「それは本当だな。アーリヒブルグまでは制圧を完了してた。今はアーリヒブルグを堅守しつつ、アーリヒブルグ以南から聖王国軍を駆逐しているところで……」

と、解放軍の戦況について俺が把握していることに関して話していく。三人は俺の話を興味深そうに黙って聞いていた。こんな地下に籠もっているから、外の話に飢えているのかもしれない。

「なるほどー。それで、コースケはひめでんかとどういうかんけい? なかよしさん?」

あまり興味なさげに俺の話を聞いていたライムが表情を輝かせながら聞いてくる。にじり寄ってくるねぇ。他の二人も興味があるのか、あからさまにワクワクした顔を俺に向けてきた。

「シルフィとはとても深い関係だな。ベッドを共にするくらい」

「べっどをともに」

「うん。そう。もちろんそういう関係だぞ」

「そういうかんけい」

近い近い、ライム近い。興味津々なのはわかるけど近いから。というか他の二人も近いから、ぺたぺた俺の首筋とか額を触ってるのなんなのそれ。

「ついいつものくせでー」

「私達は触れ合うことによって情報を共有できるのよ」

「私達の間だけなのです」

「なるほど……それって本当にスライムの間だけの話?」

「できないことはないよー。ちょっと中に入ってくちゅくちゅってすればできるー」

「どこに入るの? 何するの? ねぇ? 怖いんだけど?」

「やってみるー? やみつきになるよー?」

うぞうぞとライムが糸のように細い触手のようなものを伸ばしてくる。コワイ!

「いいえ、私は遠慮しておきます」

「きもちいいのにー」

ライムが残念そうに細い触手を引っ込める。こええよ……やっぱりこの子達テケリ・リとかいう声で鳴くやべーやつらなんじゃないだろうか。

「ライムのはやめといたほうがいいわよ。三日くらい戻ってこれなくなるから。私のなら一日で戻ってこれるわ」

「私なら半日で大丈夫なのです」

「あんたのは依存性あるじゃない……」

「とりあえずその話はやめよう。はい、やめ!」

なんか恐ろしい話で盛り上がり始めたので強制的に話の腰を折ることにする。

「それで、俺からも色々と聞きたいんだが聞いて良いか?」

俺の言葉に三人は互いに顔を見合わせ、同時にこちらに視線を向けてきた。

「コースケがつつみかくさずー?」

「全部教えてくれるなら」

「私達も答えられるものはなんでも答えるのです」

そう言ってじっと見つめてくる。あー、はい。そうですよね。俺が何者で、解放軍でどんな役目を果たしていて、何故他ならぬ俺が攫われてきたのか。そういうことに関しては意図的に隠していたものね。そうなるよね。

「コースケは、わたしたちがしんようできないー?」

「言っておくけど、アンタをどうにかする気ならとっくにどうとでもしてるわよ」

「私達はあなたの味方なのです。今でもこの王都と、王族の方々をお守りしているのですよ?」

また王族の話が出た。そこが気になるところなんだよな。

「わかった、全部話すよ。その代わり、俺の求める情報も提供して欲しい。そういうことでいいんだよな?」

「うんうん、いいよー」

「やっとね。さぁ、キリキリ吐きなさい」

「ベスはせっかちなのです。ゆっくりでもいいのですよ」

ライムがにこにこと笑い、ベスが何故か偉そうにふんぞり返り、ポイゾがそれを嗜める。なんとなく三人の関係性がわかってきたな。

「よし、それじゃあ話すが……かなり荒唐無稽な話に聞こえるだろうから、覚悟しておけよ」

そうして俺は語り始めた。この世界に来て、シルフィと出会ってからの物語を。