軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第079話~前線に到達~

アーリヒブルグに着くと、既に城門の上にはメリナード王国の旗が掲げられていた。俺達の馬車が城門に到着すると、警備をしていた解放軍の兵士達に止められる。

「お疲れさん」

「お話は聞いております。このままメインストリートを真っ直ぐ行ってください。敵は既に降伏していますが、まだ市内は完全には制圧できておりませんのでご注意を」

「了解」

キュービと兵がそんなやり取りをしてから再び馬車が動き始める。

「この街、結構大きそうだな?」

「アーリヒブルグは交通の要衝で、かつてはメリナード王国南部を統治する辺境伯の本拠地でもあった。聖王国の属国となってからもその役割は変わっていなかったから、街も発展を続けていた。つまり、メリナード王国内でも有数の都市」

「なるほどなぁ……ここを制圧して統治するとなるとなかなか大変そうだよな」

この都市の人口がどれくらいのものかはわからないが、二〇〇〇や三〇〇〇ということはあるまい。恐らくは万単位の住人が居るのであろう。

「うん、大変だと思う。暫くメルティは寝る暇も無くなりそう」

「本来なら心配するべきところなんだろうけど、メルティは笑いながら難なくこなしそうなんだよなぁ……」

「ん、確かに」

アイラとそんな話をしているうちに馬車は再び動き出し、未だ血と臓物の匂いが漂う城門を後にする。外から見てもあからさまに防壁の上部がガタガタになっていたので、恐らく執拗に防壁上を爆撃したのだろう。頭の上に爆弾が落ちてきたら人間がどうなるかなんてのは考えるまでもないことで……つまり、先ほどの匂いはそう言うことなのだろう。

怖いことはできるだけ意識の外に置き、馬車の中から街並みを眺める。

「人通りねぇなぁ」

「さっきまで戦場になっていたんだから仕方ない」

「それもそうか」

俺がこの街の住民なら事態が落ち着くまで引きこもるわな。戦いで興奮している兵士に何をされるかわからないものな。シルフィは軍規に関してはかなり厳しく取り締まってるって話してたけど、それだって完璧ってわけでもないだろうし。そもそもこの街の住人はそんなことは知らないだろうしな。

暫く馬車は進み、大きな館の前で止まった。ここでも戦闘があったのか、うっすらと血の臭いが漂っている。

歩哨に立っている兵に案内されて馬車は館の門を抜け、敷地内に入った。随分と敷地の大きな屋敷だな。なんか豪華な馬車とかも置いてあるし。

馬車の駐車場? のようなスペースに停まったようなので、馬車から降りる。背の低いアイラが降りるのも手伝ってやる。アイラの身長からすると荷台から地面に降りるのも結構な高さだからな。

「コースケ!」

「シルフィ!」

窓からでも見ていたのか、シルフィが手を振りながらこちらへと歩いてくる。どうやら怪我も無いようだ。駆け寄り、抱きつく。

「……何故避ける?」

「いや、私は今ちょっと血の匂いがな……ザッと流しはしたが、まだ匂いがこびりついているんだ」

「血? 怪我をしたのか!?」

「いや、全て返り血だ」

「ですよね」

シルフィが手傷を負うイメージ自体が全く沸かないんだよな。俺の中でシルフィは絶対強者のイメージが強いんだよな……戦いに関してはだけど。それ以外? 可愛い人ですよ、うん。

「コースケも変わりなかったか?」

「うん、見ての通りだ。怪我も病気もしてない」

「私がお世話してた」

いつの間にか直ぐ側にいたアイラが薄い胸を逸らしてドヤ顔をしている。

「私はコースケのお姉ちゃん」

「ぶふっ!」

「お姉ちゃん?」

俺はアイラの発言に思わず噴き出し、シルフィが俺達の様子を見て怪訝な表情をする。そんなシルフィにアイラがコソコソと耳打ちを始める。

やめて、その話はここではやめて! 小さな声でコソコソ言ってても絶対キュービには聞こえてるから! ほら! あいつニヤニヤしてる! ニヤニヤしてるって!

「ほう……コースケはそういうのが趣味なのか」

シルフィがとても楽しそうな笑みを浮かべる。

「いやいやいや、シルフィは戦いで疲れているだろう? 今日は俺が甘やかすからな」

「ばっ!? 何を大きな声で言っているのだ!?」

「俺は主導権を握るためなら手段を選ばんっ」

「数と力の利はこちらにあることを忘れているのか? コースケ」

「そうだったァ!」

この街にはシルフィにアイラ、それにハーピィさん達も勢揃いなのだ。しかも、ハーピィさん達は生粋の甘えさせ上手……これはまずいですよ! このままでは俺の尊厳が……! お姉さんに甘える弟プレイどころかそれを飛び越えて赤ちゃんプレイというヤバい扉を開くことになりかねん。

「ま、まぁ落ち着こうじゃないか。そういう話は夜になって落ち着いてからじっくりしよう。今は他に優先すべきことがあるだろ?」

「それもそうだな」

キュービと護衛兵達は今晩の宿などの手配をするためにダナンと会いに行くらしく、そこらの兵に居場所を聞いてどこかに歩いていってしまった。

「今はどういう状況なんだ?」

「制圧はほぼ終わった。街中に潜伏している兵が居る可能性があるから、今は自主的な投降を呼びかけているところだな」

明日の昼までに投降してくれば武装解除の上で解放、それまでに投降しなかった場合は戦闘の意思ありと見て見つけ次第敵兵として扱いをすると市内全域に通達を回しているらしい。これは聖王国軍の兵士を匿っている民間人にも同じ対応をするとも伝えている。

「兵士に脅されている可能性もあるからな。その辺りは個別に対応だ」

「なんというか大変だな」

「ああ、大変だ。しかし、ここを乗り越えれば暫くは大規模な戦いはなくなるだろう。南部の平定に力を注ぐことになるだろうな」

シルフィはその辺りの仕事は部下に任せ、領主館を拠点としてどっしりと構えている……簡単に言うとやることがないらしい。

「ダナンにもメルティにもトップはこういう小事には関わらずどっしりと構えていろと言われてな」

「そういうものか」

「だいたいそういうもの」

俺の言葉にアイラが頷く。本当はここを支配していた聖王国の人間の処遇を決めるとか、捕虜の扱いをどうするとか色々ありそうなものなんだがな? まずはそれをシルフィに判断してもらうための地均しをしているというところだろうか。

「俺はどうするかね。早速防壁の修理に行くか?」

「いや、完全にアーリヒブルグを掌握してからの方が良いな。修復中に不意を突かれてコースケに何かあっては目も当てられん。城壁の損害も致命的なものではないしな」

「それもそうか。じゃあ先に物資を倉庫に吐き出すかね」

「それが良いだろうな」

そういうわけで、俺はシルフィと共にアーリヒブルグの倉庫街へと向かうことになった。アイラはこちらに来ていた魔道士部隊の様子を見てくるということで別行動になったが。

「結構な量の物資があるな」

「籠城することも視野に入れていたのだろうな」

倉庫街の倉庫には保存の利く食料や弓矢、武具、医薬品などがかなりの数備蓄されていた。シルフィの言う通り籠城をするつもりだったのかもしれない。

「籠城をするってことは、増援のあてがあるってことだよな?」

普通、籠城というのは増援のあてがあるからこそ行われるものだ。拠点に籠もって耐え忍び、味方の増援を待って敵に逆襲するというのが籠城という戦術である。そうでなければ出入り口を封鎖されて餓えて死ぬしかないのだから。ああ、これから冬が来るなら敵軍が寒さに負けて撤退するとかそういうのも考えられるのかな?

「どうかな。ダナンとメルティの見解ではすぐに増援を出すのは難しいのではないかと思っているようだったが」

今までに解放軍が聖王国軍に与えた損害や、接収した聖王国軍の資料などを元にメリナード王国内の敵兵力を算定したところ、聖王国軍は既に半数かそれ以上の戦力を失っているはずであるという。

もしこの上で解放軍に反撃するとなると本国からの大幅な増援を受けるか、メリナード王国領内の民を大規模に動員して徴募兵を集める必要があるだろうとのことだ。どちらも短期間でできるようなことではんく、徴兵にいたっては領内の経済に大きな打撃を与えることになる。そう簡単に実行に移すとは思えないという話だ。

「これまでの戦いで聖王国軍の死傷率はとんでもないことになってるよな」

特にハーピィ達による爆撃のせいで解放軍と聖王国軍のキルレシオの差は目を覆うばかりになっている。今回の戦いでも解放軍には多少の死者は出たようだが、聖王国軍の死者に比べれば何百分の一くらいのものだろう。

「そうだな……敵の士気もかなり低下しているようだ」

前に解放した砦の生き残りなどから解放軍との戦いの様子が伝わっているらしく、聖王国軍の一般兵達の間では俺達に対する恐怖がかなり広まっているらしい。ハーピィ達の降らせる死の雨で死体がバラバラに砕け散るのだと。

「……爆撃は怖いよな」

「……怖いだろうな」

俺もハーピィさん達の爆撃対象になるなんて絶対に御免だ。シルフィも流石にハーピィさん達に爆撃で面制圧をされたら死ぬだろう……死ぬかな? なんか物凄い速度で動いて爆弾が落ちてくる前に殺傷範囲から外れるとかやりそうだな?

「空いている倉庫はここだな」

案内されたのは倉庫街に一角にある大きな倉庫で、ここはほとんど中身がすっからかんだった。

「ここに置くのは食料だけで良いんだよな? 爆弾とかクロスボウとかはどうする?」

「どこかに敷地を設けてコースケに倉庫を作ってもらったほうが良いな。警備もしっかりしなければならないし」

「だよな。軍施設は今回も爆撃で滅茶苦茶だろ? 潰して作るか?」

「そういう感じにした方が良いかもしれんな。万が一にも持ち出されたり、破壊工作を仕掛けられたりするわけにはいかん」

俺が航空爆弾をインベントリに仕舞っておくというのが一番安全だが、それでは俺が居ないと爆撃を開始できなくなってしまう。やはり軍事拠点の決まった場所に弾薬の類を保管しておく方が利便性が高い。

「明日からは俺も忙しくなりそうだなぁ」

「防壁の修復に破損した施設の建て替え、場合によっては市内の区画整理などもしてもらうことになるかもしれんな」

「まぁじでぇ」

アーリヒブルグは歴史の古い街のようだし、何度も拡張しているらしいからきっと非効率的な道路とか、道を塞いでしまっている建物とかがあったりするんだろうな。だが、そんなのも俺にかかればなんてことはない。インベントリに荷物の類を全て収納して建物を破壊し、同じ構造で別の場所に建て直すなんてのは朝飯前だ。下手すると一件あたり三十分かからないかもしれない。

家の形に拘らなくていいならもっと早く終わるだろう。

「メルティに無茶を言わないように釘刺しておいてくれよ……扱き使われて過労死とか俺は嫌だぞ」

「善処する」

任せろ、とは言わない辺りにシルフィとメルティの力関係が現れている気がするな。メルティは解放軍の裏ボスみたいなもんだよな……本人の実力はどうかしらないが、物理的にも絶対強い気がするぞ、あの人。

それにしてもシルフィは一応解放軍の最高権力者だろう? いいのかそれで……?

「メルティが必要と言ったら必要なものだから……負担をかけるが、頼む」

俺の視線に気がついたのか、シルフィが苦笑いをする。

「それじゃあその分の埋め合わせをしてもらおうかな、今晩あたり」

「ふふ、果たしてそううまくいくかな? だが、その前に風呂に入りたいな」

「領主館にないの? 風呂」

「無かったな」

「じゃあまずはあのだだっ広い庭にいつもの宿泊施設をおっ立てるか」

「それは良い考えだな」

放出した物資の目録を倉庫を警備していた解放軍兵士に任せ、俺とシルフィはゆったりと過ごすべく領主感へと足を向けた。