軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第053話~ぬくもりを求めて~

さて、落ち着いたら次は一〇〇〇人くらいいるという解放民達をどうにかしなきゃならない。

まぁ、俺が直接やることは無いんだけどね。彼らは直前まで聖王国の人間達に虐げられていた人々なわけで、人間に対する敵愾心が強いだろうということは誰でもわかる。俺にだってもちろん分かる。そんな人達にノコノコと近づいていったらお互いにストレスを感じるに違いない。

とは言え、俺にだってやるべきことがあるので出歩かなきゃいけない。どうしても解放民の目に触れるというのは避けられないわけだ。ではどうするか。

「俺としてはつけ 耳(エルフ) かつけ耳+つけしっぽ(犬系)か『ファッキンアデルクソ食らえ!』たすきが良いと思うんだが。あ、仮面とかもいいかな」

「いや、我輩が傍にいれば大丈夫なので変なことはしないほうが良いのである」

「変!?」

結構真面目に考えたのに! レオナール卿はひどい奴だな。

ピルナ達に慰められてちやほやされて気力が大幅に回復した俺はシルフィとレオナール卿が今後の方針について話し合っている臨時司令室に足を運んでいた。

「話を戻すのである。とりあえず、解放民達には食事を取らせているのである。人数は総勢九九二人で、そのうち若い男が三〇三名、若い女が三五二名であるな。この場合の『若い』は体調を整えて訓練を施せば戦えるようになる人員、という意味である」

「残り三百名ほどは?」

「四肢の何れかに故障のある者、老人、子供であります。四肢の何れかに故障のある者と老人の中にはコースケの治療で力を取り戻せる者が結構居そうな感じでありましたぞ」

シルフィの質問にレオナール卿が姿勢を正して答える。この対応の差である。

「スプリントが唸るな」

四肢の欠損はどうにもならないが、骨折や筋の断裂の後遺症なら俺の添え木で治せるからな。老人も膝や腰などをやっているとかならスプリントで治せる可能性が非常に高い。そして、ちょっと打算的だが俺がそういった傷を治すととても感謝される。つまり、俺の味方になる人が多い。

戦力が増える、俺の味方が増える、一石二鳥とはこのことだよな。

「今後の計画だが、まずは解放民達を数日、できれば二日はこの砦で休ませてから後送する。その際、この砦に残って戦う者を募ろうと思う。レオナール、敵の攻撃がくるのはいつ頃になると思う?」

「そうですな。騎兵の生き残りは今日中に領域境の砦に辿り着くでしょう。そこから近隣の砦と後方に早馬を飛ばし、戦力の抽出と編成、補給の準備を整えてこの砦に攻撃してくるとなると……そうでありますな、最速で十日後、遅くとも半月以内かと」

「なるほど。コースケ、お前はどこで迎撃をするのが最適だと思う?」

「この臨時砦も悪くないし、折角造ったんだから活用したい気持ちはあるけどな。やっぱり最前線砦の方が圧倒的に守りは堅いぞ。この砦の資材はできるだけ回収して、さっさと最前線砦に引きこもるのが良いと思うね」

「そうか……うん、そうだな。では解放民の後送を最優先で行なう。戦力を二手に分け、解放民の護衛と、この臨時砦の維持に振り分ける。砦の維持の目的は、解放民達を追撃されないようにすることだ。後送が完了するまでここに居座り、聖王国軍を牽制する」

「最前線砦への後送は一週間もあれば十分に完了できるだろうな。後は本拠点への後送か」

「そうであるな。戦う意志のある者は最前線砦に残ってもらい、訓練を施すのが良いと思うのである」

「うむ、ではそういう方針で動くとしよう」

シルフィが頷き、臨時砦の行動方針がここに決定された。さてさて、それじゃあ俺も色々と仕込みに入るとしますかね。

☆★☆

約一〇〇〇人の解放民達は砦で二日間たっぷりと休んでもらう。その間に、俺は臨時砦と最前線砦との間にある地下シェルターへと赴き、その内部を大拡張するという任務をこなした。現状では精々五〇人ほどの滞在しか想定していなかったため、一〇〇人くらいならまだしも一〇〇〇人ともなれば完全にキャパオーバーである。

ギズマの駆除は進んではいるが、まだまだ完全駆除には至っていない。拡張しないと安全に夜を越せないことは明らかである。幸い、石と土だけはいくらでも手に入るので拡張するための資材には事欠かない。

俺はウォーグとピルナ、他数名の解放軍兵士を護衛として伴い、解放民達に先行して拡張工事に励んでいた。

「護衛、いらなかったんじゃないか?」

「やだよ、一人で行動なんて心細いし、何か不測の事態が起こったらアウトじゃないか」

「まぁ、それもそうか」

道中のギズマは俺が散弾銃でライフルドスラグ弾をぶち込んで始末した。ギズマ如きにかかずらっている暇など無いのだ。ピルナが先に飛んでギズマを発見してくれさえすれば何も恐れることはない。

さっさと荒野を走り抜け、俺はすぐに拡張工事。護衛の皆さんは周辺でギズマを駆除という流れで四日間で四つのシェルターを拡張した。収容人数は十倍の五〇〇人になり、無理をすれば倍の一〇〇〇人程度が詰め込めるようになっている。

そして五日目。

「よく戻ったな」

「ん、お疲れ」

ダナンとアイラが俺達を出迎えてくれた。ボルトアクションライフルを持ったジャギラも防壁の上に要るな。ウォーグと手を振りあっている。ほう、仲良しさんかな?

「状況は既にハーピィの伝令で聞いている。拡張工事は完了したということで良いんだな?」

「おう、完璧だ。通常時で五〇〇人、詰め込めば倍の一〇〇〇人は収容できるようにしてきた。ちょっと窮屈だろうが、野宿よりは百倍マシな環境になってるはずだ」

「そうか、ご苦労だったな。今日はゆっくりと休むと良い」

「ああ、明日には臨時砦にとんぼ返りするけどな。臨時砦の資材の回収と小細工もしなきゃならんし」

臨時砦にはそれなりに手を入れたので、どうせ放棄するならちゃんと引導を渡してやりたい。あのまま放棄して聖王国の連中の橋頭堡にされても業腹だしな。

「ん、ならその前にコースケに色々見てもらいたいものがある」

アイラが大きな瞳で俺を見上げ、俺の手ををちょんちょんと引っ張ってくる。瞳はなんだか輝きを増しており、なんだか褒めて褒めてとでも言いたげな雰囲気を醸し出していた。正直に言うとちょっと可愛い。

「では見せてもらおうじゃないか。少々のことでは驚かないぞ」

「度肝を抜いてみせる」

「コースケも疲れているだろうから、程々にな」

ふんすと鼻息を荒くするアイラにダナンが苦笑いをしながら注意をした。どうやら、俺が臨時砦に行っている間に何か大きな進展があったらしい。

アイラに手を引かれるまま、開発室に向かって歩いていく。

「ああ……どうも」

開発室に入ると、頬がげっそりと痩けた猿人族の錬金術師、サイクスとその周りに侍る女性技術者達が出迎えてくれた。

「アイラ……」

「仲良しなのは良いこと」

アイラは大きな瞳を俺からスッと逸らしてそう言った。サイクスは犠牲になったのだ……まぁ、その、アイラの言う通り仲良しなのは良いことだよな。

「それよりもコースケにはこれを見て欲しい」

それよりもとか言われたサイクス可哀想過ぎる。俺だけはお前の犠牲を忘れないからな。

さて、それよりもアイラの自信作である。俺も酷いって? 細かいことを気にするなよ。禿げるぞ。

「何だこれは?」

ランドセル大の箱だ。革と木のフレーム、そして金属のパーツでできており、ランドセルのように背負えるようになっているようだ。更にいくつかのダイヤルやスイッチが並んでいる。見た目じゃ全く用途がわからん。

「これは試作型のゴーレム通信機」

「ゴーレム通信機」

「離れた相手と通話をすることができる。話した言葉をゴーレムがコード化して、魔力波として遠くに飛ばす。それを受信側で受け取って、コードを解析して音として発生させることができる」

「ふむ」

つまり、音声をエンコードしてデータ化、魔力波とやらに乗せて送信、受信側でデータをデコードして音声として再出力するということか? あれ? なんか単純なモールス信号を教えたはずなのに、一足飛びに暗号化通信の領域にまで飛躍してない?

「これ、どれくらい届くんだ?」

「本拠点との通信は問題なくできた」

「マジか……凄いな! いや、本当に凄いぞこれは!」

ここから本拠点までは軽く60km近くあるはずだ。これくらいの大きさの通信装置でそれだけの距離を通信できるのって凄いんじゃないか?

俺の称賛を受けてアイラはドヤ顔である。

「もっと褒めても良い。頭を撫でると良い」

「すごいすごい! 流石は天才魔道士にして天才錬金術師だな!」

「むふー」

腰に手を当てて平坦な胸を反らすアイラの頭をなでなでする。この成果は本当に凄い。渾身のドヤ顔も頷ける成果だ。

「あとはどれくらいの距離通信できるかだな」

「ん、そう。だから、戻るなら実験に付き合って欲しい」

「なるほど、俺がこいつを背負っていけばいいってことだ」

「そう。お願いできる?」

「勿論だ」

ゴーレム通信機を背負ってみる。結構重いが、これくらいなら走るのに問題は無さそうだ。

え? サイクス? 俺とアイラがゴーレム通信機の話をしている間に女性達にどこかに連れて行かれたよ。冥福を祈っておこう。

他にも携帯型の温熱調理器や鍋シールド、生石灰式温熱調理袋なども試作品が出来上がっていた。アイテムクリエイションでクラフト一覧に追加することができたのは鍋シールドと携帯型温熱調理器だけだったので、生石灰式温熱調理袋やゴーレム通信機にはまだまだ改良の余地があるようである。

「んあーっ! 疲れた!」

「私も少し疲れた」

この場でできる限りの検証と改良案の模索、そして今後の研究のための素材の生産にと帰ってくるなり開発室で缶詰状態になり、気がつけばもう外は真っ暗だ。開発室の奥には職人用の仮眠室があるから、今日はそこで寝るとしよう。俺とシルフィが使ってた部屋に行ってもいいけど、シルフィがいるわけでもなし、一人で寝るならどこで寝ても同じだしな。

「飯食って寝るか……風呂は明日でいいや」

「ん」

インベントリからすぐに食える物を出してアイラと二人でもそもそと腹に収める。今日の献立はミートソースのパスタと芋のポタージュスープだ。どっちも温かくて美味いはずなのだが、疲れのせいであまり美味しく感じない。

「寝るか」

「ん」

アイラと二人で仮眠室に向かい、別々のベッドに身を投げ出す。ああ、オフトゥンから良い匂いがする……普段ここを使ってるのは女性職人の誰かだからかね。そんな益体もない事を考えながら俺は意識を手放した。

☆★☆

「ん……朝かぁ」

半開きの雨戸から差し込んできた光で目を覚ました。昨日は長距離を走った上にここに着くなり開発室に缶詰になったから、なんかあまり疲れが取れた気がしないな。んー、でも隣に寄り添うシルフィの温もりが俺の心を癒やしてくれる。

ん? 何かおかしくないか?

恐る恐る毛布をめくり、俺に密着する温もりの正体を確かめてみると、何故か俺のベッドにアイラが潜り込んでいた。俺の胴体に抱きつき、両足を俺の右足に絡めて幸せそうに眠っている。唯一の救いはお互いにちゃんと服を来ていることだろうか?

いや、アイラはローブや上着を脱いで薄くて白いネグリジェみたいなのと、パンティしか身に着けていない。平坦な胸を保護するアレはなかった、よって透けて見えている。これは危うい。誰かに目撃でもされた日には誤解されることは間違いない。

そして、大抵の場合こういう場面は誰かに目撃されるものだ。

「ん? 誰か寝て……」

ひょい、と仮眠室の扉から鍛冶師のラミアさんが顔を覗かせた。毛布をめくっている俺と、薄着で俺に抱きついているアイラの姿がバッチリ目撃される。

「……ごゆっくり」

ススス……と覗いた態勢のまま器用に後退してラミアさんの姿が消える。ちょ、待って、誤解、誤解なんです!

「んん……」

慌てて手を伸ばすが、その体の動きでアイラが目を覚ます。おお、もう……!

「やぁ、おはようアイラ」

「……おはよ」

「何故俺のベッドに薄着で潜り込んでいるのか説明してくれないか?」

「ん……コースケが先に寝た」

「そうだな」

確かに、ベッドに身を投げだしてすぐに寝たと思う。ただ、あの時はアイラは向かいのベッドに腰を下ろしていたと思うが。

「私もあっちのベッドで寝ようと思った」

「なるほど」

「でも、毛布が薄くて寒かった」

「……そう言えばそうか」

毛布を確かめてみると、確かにちょっと薄っぺらい。俺は服を着たまま寝たから問題なかったけど、アイラみたいな薄着で寝たらさぞ寒いだろう。

「だからコースケに抱きついて寝た。暖かかった」

「服を着て寝れば良かったのでは?」

「服が皺になる。それに、私はいつもこの格好で寝る」

「さようですか……でも、男の寝床に入り込むのは感心しないぞ。がおーって食べられちゃうぞ」

「コースケなら食べても良い」

「えぇ……」

あまりにストレートな物言いに困惑する。俺の顔を真っ直ぐに見上げてくるアイラの瞳は、寝起きだからかまだ少し眠そうに細められているが、その奥にある光は彼女が寝ぼけているとかそういう状態でないことを如実に語っていた。

「コースケと一緒にいると退屈しない。その能力も、知識も、発想も、いつも私に何かしらの驚きや閃きを与えてくれる。ずっと一緒にいたい」

「あー、んー、いや、嬉しいけど俺にはシルフィがな?」

「知っている。姫殿下とコースケは互いに愛し合っている。その間に入り込もうとは思えないし、入り込めるとも思っていない。ただ、コースケの傍にいることを許して欲しい」

じっと見つめてくる大きな瞳は潤み、アイラの柔らかそうな頬は一世一代の大告白で紅潮していた。どう答えるべきか、俺にはわからない。ただ、アイラが大きな決意を持ってこの告白をしているということはわかる。

俺の倫理観で言えば、この告白を受け入れるのはあまりに不誠実な選択だ。シルフィに対してもも、アイラに対しても。だが、この世界の倫理観から言えば男が複数の女性と関係を持つのは不誠実でもなんでもないという。全員を養えるだけの甲斐性があればそれで構わないとか、むしろ複数の女性を養うのが立派な男だとかそういう感じだ。

郷に入れば郷に従え、なんて言葉もある。俺もこの世界で生きていくと決めた以上は腹を括るべきなのだろうか。アイラのことは俺も憎からず思っているわけだし……。

「……ダメ?」

「いや、ダメじゃない。ダメじゃないけど、一足飛びにというのはな。ほら、俺ってこの世界の人間じゃないし、この世界の男女関係ってまだしっくりこないんだよ」

「うん」

「だからその、まずはお友達からで」

「……今までは友達じゃなかった?」

アイラが悲しそうな顔をする。

「いやいやいや、友達だった。今までも友達だった。言い方が悪かった。その、お友達以上、恋人未満というかね?」

「こいびとというのはわからないけど、つまり、コースケは私を受け入れてくれる?」

「ゆっくり、ゆっくりな! シルフィとよく話し合ってくれ! 俺も話すけど!」

「ん、わかった。序列は大事。私も乱すつもりはない」

アイラが嬉しそうな表情で微笑む。うーん、可愛い。アイラは可愛いなぁ。勢いで返事をしてしまったけど、シルフィになんて説明をしたら良いだろうか……? いや、シルフィにはハーピィさん達の件で問い詰めたいこともあるしな、真正面から話し合わせてもらうとしよう。

それに、今は色恋沙汰よりもやらなきゃならないことがあるからね。アイラも納得してくれるようだし、ここはちょっとそういうのは横に置いておいて、俺の成すべきことをやろうじゃないか。

べ、別に問題から目を逸らして有耶無耶にしようとかそういうことじゃないからな。不誠実なのは良くない。良くないよな。うん。

でもこういうのは慣れないんだ、少しくらいの逃げとか先送りは許して欲しい。