軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第312話~何事も上手く運ぶわけではない~

家族サービスが一通り終わった頃、聖王国の使節団も国許に帰っていった。

「最終的には物別れか」

「こちらとしては聖王国が連れ去った国民の返還が絶対条件だからな。もし死亡していたり、取り返しのつかない傷を負っていたりする場合にはそれ相応の賠償も上乗せしてもらう。これは譲れん」

憮然とした様子でそう言うシルフィの横ではメルティとセラフィータさんが難しい顔をしている。

「あちらも譲る気配が一切なかったので、仕方がないですね」

「あちらには大国としてのプライドがありますからね」

「あれだけボッコボコにされて今更プライドも何もって感じなんだけど」

俺の言葉にシルフィを含めてこの場にいる全員が頷く。まぁ、国家という存在である以上面子が大事ってのはわからんでもないんだけどな。ましてや相手はあの聖王国なわけだし。

「で、捕虜の処遇に関しては?」

「そちらに関しては身代金の支払いに応じるらしい。後日、身代金と一緒に迎えを寄越してくることになった」

「なるほど。しかし休戦ならず、か」

そうなると開拓地の計画も遅れるか? いや、魔銃も量産体制が整いつつあるようだし、北方戦役で実戦を積んだ面々が教導部隊として魔銃隊の養成も始めているのだと小耳に挟んでもいる。余程のことがなければ俺が東方の対聖王国戦線に張り付くという事態にはならんかな。

北方は落ち着いたし、西方諸国にはドラゴニス山岳王国が睨みを効かせてくれている。南方はほぼ俺達の領域と言って良いし、メリナード王国は東の対聖王国戦線に注力できる状況が整っているわけだ。

「すぐに自体が動き出すということはないと思う。あちらとしても何の対策も無いままに我々と再び戦いたいとは思わないだろうからな」

「そこにつけこむか?」

「それも一つの手だが……」

シルフィは両腕を組んで瞑目し、天井を仰いで暫し考え込む。

「三ヶ月だけ様子を見る。メリナード王国軍全体への魔銃配備と訓練にも時間がかかるし、今は国内の解放亜人奴隷対策が急務だからな。それに、今回の結果を見て向こうが態度を変えてくるかもしれん」

「なるほど。じゃあ、俺はそれまでになんとか開拓村の件を片付けないとだな」

「迅速に開拓地の選定を行うよう既に各地に伝令を送っています。情報が出揃い次第、コースケさんには出張してもらうことになりますね」

「OK、どんとこいだ。どこかのタイミングで近場に採集に行きたいな。ガッツリと資材を用意しておいたほうが良さそうだし」

「そうですね、スケジュールを調整しましょう」

「あ、それならちょっと良いかしら?」

採集の話をしていると、セラフィータさんが横から声をかけてきた。

「その採集なんだけれど、アクアも連れて行ってあげて欲しいの。ダメ?」

セラフィータさんがそう言って小首を傾げる。最近は随分と砕けた態度を見せてくれるようになってきたな、セラフィータさんも。

「そりゃ別に構わないですが、どうして?」

アクアウィルさんは明らかに俺に対して隔意を抱いているだし、わざわざ一緒に行動しなくても良いんじゃないかと思うんだけど。ああいや、だからこそ一緒に行動させて仲良くさせようということだろうか。

「あの子にあるがままのコースケさんの姿を見せてあげて欲しいの」

「俺は構いませんが……」

チラリとシルフィに視線を向けると、シルフィは苦笑いを浮かべながら頷いた。

「城に篭もりきりでは気分も滅入るだろうし、たまには外に出るのも良いだろう。コースケと一緒なら危ないことも無いだろうしな」

「別の危険があるのでは?」

「そうなったらそうなった時に考えるさ」

メルティのツッコミにシルフィがそう言って肩を竦める。いや、人のことを節操なしみたいに言うのはやめて欲し……いやまぁ、現状を考えるに強く否定はできないけど。流されやすいのは認めるけど。こっちから積極的に行ったのはエレンだけ……いや十分か。十分だな。うん。まぁこの世界の貞操観念的に言えば、というか結婚観的に言えば俺の方が異端なんだろうけどもさ。

「コースケがまたいつもの顔をしているぞ」

「なかなか慣れませんねぇ」

「生まれてからずっと刷り込まれてきた価値観というものはそう簡単には変わらない」

シルフィとメルティの会話に今までずっと黙っていたアイラが参加する。魔法絡みの話題じゃないとこういう場では全然口を開かないんだよな、アイラは。自分の担当とそうでない場所を明確に分けて考えているのかね。

「そうなったら晴れて全員が家族になれますね」

「ちょっと最近責任が重量過多気味なので勘弁して欲しいんですけど」

これは紛れもない俺の本音である。そこまで行かずとも、せめてアクアウィルさんに心を開いてもらって普通に接してもらうというだけで十分だ。今は殆ど目の敵にされてるからな。

☆★☆

というわけで、会議も終えて今日も今日とてマナトラップの研究でも進めるかな、と城内の廊下を一人で歩いていると。

「にゅるーん」

前方に文字通りの意味でライムが湧いて出てきた。石材と石材の隙間から出てきたのだろうか? 見た目には隙間なんて殆ど無いように見える場所から湧いてくるよね、君達。

などと考えていると、背後からベチャッ! と大きな音が鳴った。なにかと思って振り返ってみると、そこには徐々に人型を取りつつある泡立つ緑色の粘液が広がっている。ポイゾだな。

この二人が出てきたということは――と考える間もなく、俺のすぐ左にあった扉が開いた。

「……」

「……やぁ」

扉から出てきてジーッと俺の顔を見ているのはツヤツヤと輝く赤いゼリーのような身体の女性――つまりベスであった。ライムとポイゾの二人が出てきた時点でベスも現れるのは想定内である。

しかし、三人のこの雰囲気は一体なんだろうか? いつも……今もにこにこしているライムはともかく、ベスとポイゾからは微妙に不穏というか、拗ねているような気配を感じる。

「コースケー?」

「うん? なんだ?」

「わたしたちはー?」

笑顔のまま、ライムが首を傾げてそう言う。私達は? うん? どういう意味だ?

「私達以外とはゆっくりしたのに、私達は無視なの?」

「えっ」

「これは完全に私達をカウントしてないやつなのですねぇ……?」

ベスの問いに思わず驚きの声を上げてしまった。その反応をポイゾがねっとりと指摘してくる。

いやだって。ええ? まぁ確かに君達ともそういう感じになったけど、あれは殆ど捕食だったじゃないか!?

「わたしたちはー?」

いつの間にか目の前まで迫ってきていたライムがにこにこしながら俺の顔を見上げてくる。気づけばベスもポイゾもすぐそばまで迫ってきていた。既に手を伸ばさずとも触れられる距離だ。

「ええっと……」

視線を転じて誰か助けを求められる人は居ないかと探してみると、丁度よいところにメルティが角から曲がってきた。来た! メルティ来た! これで勝つる!

「メ――」

「あ、どうぞごゆっくり」

メルティはそう言いながらニコリと笑みを浮かべ、ツカツカと俺達の横を素通りしていった。これはもう話がついているやつですね?

もうだめだぁ……おしまいだぁ……! この状況から逃げられるわけがない……!

「勿論ライム達のことは忘れていない。常日頃感謝しているぞ」

俺がそう言うと、三人は俺の頬や首筋にピタリと手をくっつけてきた。一体何が始まるんです?

「うそついてないー」

「ノットギルティ」

「なるほどなのです」

これはまさか真偽判定をされている……? え、こわ。触るだけで真偽判定できるの? こわい。

「こわくないよー?」

「心を乱しているわね」

「人は怖がったり焦ったりすると汗が出てくるのですよ?」

「OKOK、わかった。俺が悪かった。全面降伏する。だからそういう怖いことを言うのはやめよう。はいやめ」

俺が両手を挙げて降参したことで溜飲が下がったのか、三人とも俺の頬や首筋に手をくっつけるのはやめてくれた。

確かに他の面々に比べると対応がかなりなおざりであった面は否めない。三人とも慕ってはくれているけど、どっちかと言うと遊び相手というか捕食対象くらいにしか思われていないと俺は思っていたのだ。

俺のそんな考えをよそに、距離はさらに縮まって……というかもう密着している。ぷに、ぽよん、ぐにょんと三方向から圧迫されています。はい。何にとは言わないけど。

「じゃあ、わたしたちのばんー」

「覚悟してね?」

「私達の本気を見るのです」

「優しく、優しくな。元に戻せばいいとかそういうのじゃなくな。おい、聞いてるか? 返事は!?」

ベスが出てきた部屋に引きずり込まれる。部屋の中には地下へと続いていると思われる階段があった。あ、これアカンやつ。絶対にアカンやつ。

「ちょ、待って待って約束してタンマ! ストップ! いやぁぁぁ! 誰か助けてー!?」

俺の叫びも虚しく、部屋の扉は青い粘液でできた触手でバタンと閉められた。