軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第292話~外交使節の来訪に備えて~

「聖王国から使者ねぇ」

いつもの長椅子に座り、背もたれに体重を預けながら天井を見上げて考える。

つい先程、東方守護を担当しているレオナール卿から聖王国との国境付近に聖王国の使者を名乗る集団が現れた、という連絡が届けられた。使者を名乗る者達は聖王国の国旗と白旗を掲げて堂々と姿を現したらしい。

『捕虜の返還と休戦及び講和交渉のために訪れたそうである』

ゴーレム通信機越しに聞こえるレオナール卿の声は不機嫌そのものであった。レオナール卿は来る聖王国との決戦で最初に剣を振るう為に東方の国境守護を希望していたのだ。その最初の仕事が講和交渉の使者を案内することになったのが不満なんだろう。

『そう簡単に講和は成らん。心配するな』

レオナール卿にシルフィがそう返していたのが印象深い。シルフィにとっても聖王国は不倶戴天の怨敵だ。二十年もの長きに渡って家族を奪われ、国民を虐げられ、多くの国民と父の命を奪った聖王国との講和はシルフィにとってもそう簡単には受け容れられるものではないだろう。

「人族は面倒じゃのう。殺し合いなんてとっととやめてしまえば良いではないか」

長椅子に座る俺の膝を枕にしながらグランデがそのように言う。どうあっても角が俺に当たるのは避けられないからって諦めるのは止めて欲しい。とてもいたい。

「そうは言うがな、グランデ。家族や同胞を奪われた人にとってはそんな簡単には行かないことだと思うぞ」

「ふぅむ? そういうものかの? 妾達ドラゴンは集団で殺し合いをすることなど無いし、もし人族や魔物に殺されたら殺されたやつが弱いのが悪いという考えじゃからのぅ」

「うーん、弱肉強食というか適者生存というか超個人主義というか……」

ドラゴンは生まれながらの強者だ。一個体が弱く、どうしても寄り集まってコミュニティを築くことによって身を守るしかない人族と同じ価値観を持つのは難しいのだろう。

「死んだものは死んだものじゃ。その死んだもののために命を懸けるというのは妾には理解できんの。舐められたからぶっ殺すとか気に入らんからぶっ殺すというなら理解もできるのじゃが」

「……まぁ、建前を全部取っ払ったら結局はそういうことなんだと思うけどな」

国を奪って仲間を殺し、売り払い、家族の命を奪いやがった! ゆるさねぇ! ぶっ殺す! というのが本音と言えば本音なのだろう。突き詰めてしまえばムカつくからぶっ殺すという話なのだと思う。ただ、場末の酒場での殴り合いと違って国同士の戦争というのは金もかかるし失われる人命も桁違いに多い。そういう部分がストッパーとなって互いの国を滅ぼすまで戦い合う絶滅戦争というものはそうそう起きるものではない。普通ならば。

「気をつけないとなぁ……」

ただ、今のメリナード王国軍は聖王国を鎧袖一触にしてしまえるだけの戦力がある。魔銃の量産は着々と進んでいるし、魔力結晶を使用したハーピィ用の航空爆弾も開発が進んでいるようだ。エアボードも魔銃と同様に量産化が進んでいるようだし、俺が去年考案した缶詰や乾麺などの保存食も急ピッチで量産化されているらしい。

その他にも脈穴のあるオミット大荒野の後方拠点では魔力結晶や魔鉄、魔鋼が量産されてそれらを使った武具も着々と作られているようだし、各地に俺が作った大型農地や黒き森のエルフから齎される品を交易品としてドラゴニス山岳王国や西方の少国家群に売りつけて資金も稼いでいる。国内の各都市の掌握も進み、それらからの税収なども見込まれている。

無論、国内には大小様々な問題が山積している状態ではあるが、聖王国と互角以上にやり合うだけの力は十分にあるのだ。なんてったって軽く二世代分くらいは技術格差があるからな。そこに俺も加わるといくら大国と言えども聖王国では太刀打ちできまい。

「何をじゃ?」

「シルフィとかレオナール卿が聖王国憎しで無為な殺しをしないようにだ。別に今更殺し自体をどうこう言うつもりはないけど、やりすぎないようには注意しないとと思ってな。シルフィ達に肩入れして俺の世界の兵器を持ち込んだ以上、俺にだってある程度責任があるわけだし」

「そういうものかの? 与えた力をどう扱うかはシルフィ達次第だと思うし、その力を使って何をしてもそれはコースケの責任ではなくシルフィ達の責任だと思うがの」

「そうかなぁ……うーん」

確かに包丁を使った殺人が起こったからと言って包丁を作った鍛冶職人が罪に問われることはないし、それが剣や斧だとしても同じだと思うが、明確に戦争に使うための武器や技術を提供した場合はその限りじゃないようにも思えるんだよなぁ。しかも商売ってわけじゃなく、個人的な関係にって一方的に肩入れしているわけだし。今や俺はメリナード王国と聖王国の間に起きている紛争の第三者ではなく当事者なのだから。

「お主はいつまでたってもコースケのままじゃの」

「そりゃそうだ。揺るぎない決意と鋼の意志を持った聖人様じゃないんだから。俺はどこまでいっても優柔不断で迷いの多い普通の人間だよ」

「目的を果たすために見せしめに何千、何万の同胞を平気な顔で殺す男は普通の男とは言わんと思うがの」

「……そうだな。全くその通りだ」

北方からの侵攻を挫き、北方二国との和平を実現するための布石――俺の、或いはメリナード王国の武威を示すための必要な犠牲として俺は万単位の人間をこの手で殺したのだ。そんな俺ができるだけ人死にを出さないように、などと心配をするのは今更か。

だとしても、だ。やはり不要な犠牲は少ないに越したことはない。どうせ殺さなければならないならば効率的に、効果的に、だ。どうせ地獄に落ちる身だ。ならば開き直って命の取捨選択と勘定を徹底的にしてやろうじゃないか。

「そう怖い顔をするでない。コースケは自分を卑下するが、妾から言わせて貰えばコースケはお主自身が思っているような凡夫ではない。そう言いたいだけなのじゃ」

「そうか……まぁ、あんまり気負わないようにする」

「うむ、そうするのじゃ」

聖王国の使者は国境地帯から馬や馬車で移動してきている。急いでもメリネスブルグに着くにはそれなりの日数がかかることだろう。

「どんな話し合いになることやら」

「そもそも話し合いになるのかの?」

「それだよなぁ……使者を送ってきたってことは大丈夫だとは思うんだが」

使者を送ってきたってことは少なくともメリナード王国を一国家として認めたということの証左でもあるあるわけだからな。聖王国のような大国が属国を力で支配しただけの賊に対して使者を送るなどということは有り得ない。しかし、その賊が複数の国家と国交を樹立し、複数の国家から正当な国家であると認められたとなれば話は別だ。

今やメリナード王国は西方のドラゴニス山岳王国や少国家群と経済的、政治的な交流をしているだけでなく、北方に位置するティグリス王国やディハルト公国とも限定的ながら国交を交わしており、聖王国の宿敵であるヴァリャーグ帝国もメリネスブルグに大使を置いている。流石の聖王国もこうなっては俺達を一つの国家として認めざるを得なくなったのだろう。

「今回の件はコースケは除け者か?」

「どうやら俺が聖王国に目をつけられないようにしたいみたいなんだよな」

北方二国との交渉では俺が矢面に立つことになった。今回、聖王国が急に外交使節を派遣してきたのは俺の存在を知ったからではないか? とシルフィ達が警戒を強めているのだ。

なので、今回の外交交渉においては俺を表に出さないということがシルフィやメルティだけでなくセラフィータさんやドリアーダさん、それにエレンやデッカード大司教、カテリーナ高司祭などのアドル教懐古派も含めた全会一致で決まった。それに伴って殆どの人員が会談に向けて忙しくなってしまったので、俺は急に暇になったのである。

「散歩にでも行くかな?」

「行くなら妾も一緒に行くぞ。コースケを絶対に一人で出歩かせないようにと言われておるからの」

「んじゃ一緒に行くか」

そろそろキュービの毛も生え変わって元のモフモフな状態に戻った頃だろう。からかいに行くのも良いかも知れない。ヴァリャーグ帝国の大使であるキリーロヴィチに今回の件について見解を聞くのも悪くないかも知れないな。