軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第216話~アドル教の罠~

エレンに連れてこられた場所。それは衣装部屋のような場所だった。しかしそこに置いてあったのは王城に相応しいようなドレスや、礼服などではなかった。同様に煌びやかな衣服であることには違いはなかったが。

「貴方は何を着せてもこう、威厳とか聖性というものが溢れてきませんね」

俺が着せられているのは豪華な神官服だとか、牧師服だとか、恐らくそういった類の法衣というやつであった。先程からエレンが指示を出し、それに従ってエレンのお付きのシスターであるアマーリエさんやベルタさんが俺を着替えさせているのだが、どれもエレンはしっくりこないらしい。

「どんな衣装を着せても元から無いものはどうにもならないってことじゃないかな」

「もう少しキリッとした顔はできないのですか? こうです、こう」

エレンがキリッとしたいかにも聖女オーラ溢れる凛とした表情を作ってみせる。それを真似しようとしてみるが……。

「ぷふっ……わ、笑わせないで下さい」

「失礼な」

思いっきり笑われた。ぷふって。アマーリエさん、ベルタさん、そんなに我慢しなくて良いんですよ? ほら、笑え、笑えよ。キリッ。

「くっ、ふふふっ……す、すみません」

「わ、笑うつもりは……ふふっ」

「皆が笑顔になってくれて俺は嬉しいですよ、ええ」

笑うアマーリエさんとベルタさんにジト目を向けてやる。

「しかし困りましたね。私に並び立つというのが難しいのは元よりわかっていたことですが、まさかここまで威厳が出ないとは……いっそ真っ白い鎧を着せて兜でも被らせてしまいましょうか」

「それはもう俺という個人の威厳ではなく鎧と兜から溢れ出る威圧感めいたものなのでは」

「そうですね、それでは本末転倒です。無理なものは無理なのだと諦めることにしましょう。貴方を着せ替えて遊ぶのも楽しかったですし」

「おれはもてあそばれていたのか……」

どっと疲れが出てくる。アマーリエさんやベルタさんは妙齢の女性である。具体的な年齢は聞いていないのでわからないが、恐らく二十代前半から半ばくらいであろう。そのような女性に囲まれて服を脱がせられたり着せられたりするのは精神的になかなか疲れる。どうしてもこう、色々と当たってしまうことも有り得るわけだし。

「アマーリエ、ベルタ、どうでしたか?」

「そうですね。やはりコースケ様はあまり怖いという感じが致しませんね」

「私もです」

「そうですか。ではそういうことで」

この会話に俺の第六感が激しい警鐘を鳴らした。この会話は聞き流すとまずいものだと。しかし下手につつくのもまずい気がする。どうすれば良い? というかなんだか既に手遅れという感覚が……いや待て諦めるな。諦めるな俺。

「その、怖いという感じがしないというのは……?」

「私達は幼い頃から女性ばかりが集められた修道院で育ってきたものですから、恥ずかしながら男性という存在を怖く感じてしまうのです」

「それが、コースケ様相手ですとそのような恐怖感を感じないのです。以前、毒に倒れたコースケ様をお世話した経験からでしょうか」

そう言ってベルタさんが少し赤くなった頬に手を当てる。

ああ、お世話ね。はい、されましたね、お世話。殆ど身体を動かせない上に毒で臓器がやられて色々と垂れ流しだった俺のお世話をしてくださいましたね、ええ。俺の身体でエレンを含めた三人が目にしていないところはありませんよね。

「おや? 顔が赤いですね。もしかして私達三人に何から何までお世話をされていたことを思い出して興奮しているのですか? 変態ですね」

「違うわ! 思い出して恥ずかしがってるんだよ!」

地団駄を踏む俺を見てアマーリエさんとベルタさんが笑う。いや待て違う。そうじゃない。あの不穏な会話について追求しきれていない。

「コースケ」

「んぬっ……なんだ?」

口を開こうとしたところで機先を制され、思わずたじろぐ。エレンはこう、一言一言に迫力というか重みがあるんだよな。ああやって名前を呼ばれてしまうとついつい聞く態勢になってしまう。これが聖女としての威厳だというのだろうか。

「神は言いました。産めよ、増えよ、地に満ちよと」

「お、おう」

どこかで聞いたことのある一節だな! オラ嫌な予感がしてきたぞ。

「貴方は神の使徒です。これからは私と共にメリナード王国における新たなアドル教の旗頭となってもらう必要があります」

「な、なるほど?」

「なので、少々窮屈でしょうができる限り教典に記されている教義をその身で体現して貰う必要があります」

「なんだか怪しげな雰囲気になってきたぞ」

「そこで先程の一節です。改竄前のアドル教の教典では人と亜人の融和が説かれていました。神の使徒たるコースケが亜人の皆さんと仲良くするのは大変良いことですが、人間とも仲良くしてもらわなければ片手落ちというものです」

俺の発言を完全にスルーである。そして話が見えてきたぞ。俺は逃げ──っ!

「……」

「……」

左右からギュッと服の裾を掴まれてしまった。アマーリエさんとベルタさんが熱のこもった瞳で俺をじっと見つめてくる。いやいやいやいや、待って待って待って。現状ですらパンク気味だというのに、更なる追加はアカン。心の棚を作るにも限度というものがある。

この世界にはこれと言って便利なファンタジー避妊薬とかそういった類のものは存在しない。つまり、やることをやったら当然のように子供ができる。人間と亜人の間には子供ができにくいが、人間同士となるとそうもいかない。いや、俺は異世界の人間であるわけだし、この世界の人間との間にちゃんと子供ができるかどうかはわからないのだけれども。

「そこまでです!」

バァン! と誰かが勢いよく扉を開けた。素晴らしいタイミングだ! まるで図ったようなタイミングだが、ここは気にしないようにしよう。

「とつげきー!」

「「「ぴよぴよーっ!」」」

号令とともにわーっ、と何人もの人物が部屋の中になだれ込み、色とりどりの羽が舞う。

いやうん、このふさふさした羽毛の感触は間違いなくハーピィさん達ですね。ああー、もみくちゃにされてるぅ。というかエレンもアマーリエさんもベルタさんも羽毛の群れに沈んでどうなっているのかわからない状態だ。なんか「わー」とか「きゃー」とか聞こえている気がするが、よくわからない。

「かくほー!」

「てっしゅー!」

「「「ぴよぴよー!」」」

混乱の中、何人ものハーピィさんに抱え上げられてまるで神輿か何かのようにわっしょいぴよぴよと運ばれ始める。うん、もうどうにでもしてくれ。とにかくこの場を離れられるならなんだっていい。

☆★☆

あの後わっしょいいぴよぴよと賑やかに俺が運ばれた先は王城の一角に設けられたハーピィさん達の宿舎であった。彼女達は元々群れで生活する習慣があるので、それに配慮する形でシルフィが割りあてたのだ。当然、環境の整備には俺も手を貸した。

「はい、コースケさん。あーん」

「あーん」

「んー、ふふふ」

「よしよし」

そんな場所に運び込まれた俺は正にハーレムの王といった感じのもてなしをハーピィさん達から受けていた。ふかふかの大きなクッションの上に座らされ、周囲に侍ったハーピィさん達が美味しい果物や飲み物を口に運んでくれる。

更に目の前では薄着のハーピィさん達が入れ代わり立ち代わりで華麗な舞いを披露してくれていた。色とりどりの羽を持つハーピィさん達がくるくると舞い踊る姿はとても美しい。

「さっきは助かったよ」

「はい。私達はいつだってコースケさんの味方ですよ。とは言っても、姫殿下には彼女達とも仲良くするように言われているので、毎度というわけにもいかないですけど」

「……根回しは済んでいるのか」

「はい」

目を瞑って天井を仰ぐ。シルフィーーーッ!

『いや、我々がこれだけコースケと関係を結んでいる手前、仕方がないだろう』

と苦笑いを浮かべるシルフィの姿が思い浮かぶ。確かにそうなるのだろうけれども。

所謂政治的な判断というやつなのだろう。これから先、長期的にメリナード王国領内のアドル教徒をまとめるためには俺とアドル教との繋がりが強固であれば強固であるほど良いというのは明らかだ。

亜人の中でも長命種であるシルフィやアイラ、それに魔神種であることによって同じく長命種であるメルティ、それに言うまでもなく寿命の長いグランデ達は子供を身籠るということに関してはさほど急ぐ必要がない。

しかし、普通の人間であるエレンはそうもいかない。人間並みの寿命しか持たない彼女は子供を産み育てることのできる期間が長命種の彼女達に比べて遥かに短い。そして出産というのは命懸けの行いである。回復魔法や錬金薬といった元の世界の医療を凌駕する要素があるこの世界においてもだ。

単純に、エレンと俺との間に子供が生まれない可能性というのもあるし、子供が生まれたとしても無事育つとも限らない。そう考えると、俺の人間の伴侶がエレン一人というのはリスクが高い。エレンと、もしかしたらデッカード大司教やカテリーナ高司祭もそう考えたのだろう。

それに、下世話な話というか生臭い話になるが、メリナード王国で新しく興す新たなアドル教には旗頭というか、象徴が必要なのだ。例えば、神から遣わされた使徒と、アドル教の信徒との間にできた子供とか、そういったものが。

初期段階では聖女であるエレンと神の使徒である俺がその役を担うことになるわけだが、数十年後、数百年後には俺の子孫がその役目を果たすことになる。神の使徒と敬虔なアドル教徒との間に生まれた祝福の子は何人居ても良い。恐らくそういうことなのであろう。

幸いなのは、エレンは勿論のことアマーリエさんやベルタさんもそれなりに乗り気であるという点であろうか。

「旦那様が好きっていうただそれだけの理由で良いと思うんですけどね。人間って面倒くさいです」

「そーだよねー。旦那にあれこれ悩ませるなんてダメダメだよ」

「うちらと一緒の間は旦那さんも難しいことは考えるのやめたらええの。なぁんも考えないでただ楽しく過ごしてなぁ」

ハーピィさん達の無制限な甘えさせオーラが俺の脳髄を侵食していく。ああ~、駄目になるぅ~。

俺は考えるのをやめ、ハーピィさん達の羽毛に埋もれることにした。

ぼくむずかしいことわかんない。