軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第204話~今できることを~

「ごちそうさまでした。お話ができてよかったです、今後も仲良くしてくださいね」

いちごパフェを平らげたアクアウィルさんはそう言って優雅な所作で俺に挨拶をして去っていった。あれだ、カーテシー的なやつだ。ドリアーダさんは気さくなお姉さんって感じだったが、アクアウィルさんは理知的で礼儀正しいお姫様だな。

第一印象はお姉さんの陰に隠れてるような気弱なお姫様って感じだったんだけど……いや、眠りから覚めた直後のあの姿が本性なのかも知れないな。状況が落ち着いて心に余裕ができたから印象が変わるような振る舞いができるようになったのかもしれない。今後も要観察ってところだな。

そしてアクアウィルさんにも窘められてしまったからな。赤ジャージ──イフリータには後で謝罪しにいくとしよう。確かに感情的になって言い過ぎてしまった。

しかし謝りに行くにしても仕事を放り出していくわけにはいかない。割り当てられた仕事を終えてからだな。高速栽培ができる畑は俺でないとどうしようもないし。

そういうわけで黙々とシャベルで土を掘り返し、農地ブロックを配置してクワで耕す。広範囲を一気に処理できるようになったから作業そのものは楽ちんだ。

農地の準備ができたら薬草の苗をや種を植えていくこれは1ブロックずつやらなきゃならないから、これが一番時間がかかるんだよなぁ。それもまぁ、コマンドアクションで後退しながら植えていけば良いんだけれども。コマンドアクションで足をピクリとも動かさずにスーッと移動してると周りから気味悪いものを見るような目を向けられるのが玉に瑕だな。便利なんだけどな。

「こんなもんか」

それなりの広さになった薬草畑の半分ほどに苗や種を植えたところで在庫が尽きた。アイラかメルティが調達してくるまでは残りはこのままだな。

「あとは……」

他に何か仕事が残っていないか考える。捕虜の収容施設は作った。聖王国から来る討伐軍への備えとして武器弾薬を含めた物資の分配も終わっている。となると、あとはやるとすれば武器弾薬の量産くらいか。

「んー……」

恐らく銃士隊の機関銃だけで片がつくとは思う。機関銃に使用できる弾薬は豊富に作っておいたから恐らく足りるとは思うんだよな。いくら聖王国軍と言えども開幕の機関銃掃射で前衛が壊滅したら無理押しはしてこないだろう。

でもなぁ、宗教が絡むと損耗率とかそういうのを度外視して突っ込んできたりしそうだよなぁ。いや、俺の偏見かもしれないけれどもね。そうなると信仰心を上回るほどの恐怖を見せつけないといけないかもしれないわけで……うーん。試作で作っていた自動擲弾銃を本格運用するか? 射程およそ1500m、装弾数48発のやべーやつだ。

使用する多目的榴弾の威力は殺害半径5m、加害範囲半径15m、直撃の場合は50mmの装甲を貫通可能。聖王国軍の虎の子だという魔道士部隊の合唱魔法とやらがどの程度の強度を持っているかは知らんが、50mmの装甲を貫徹する多目的榴弾をばかすか撃ち込まれて無事ということはあるまい。ちょっと過剰火力感はあるけど、弾薬は作っておくか。俺が城壁の上から運用すれば広い範囲をカバーできるだろう。

しかしそんなことをやらかしたら聖王国から完全に敵認定というか、魔王的な認定されそうだよなぁ。気にしている場合でもないんだけれども。先に降伏勧告を行って、それでも向かってくるなら完膚なきまでに打ち砕く。そのうえでもう一度降伏勧告を行う。それで決着するはずだ。相手の頭がまともならな。

「鉄、銅、火薬が要るな」

どれもそれなりに在庫はあるが、今後のことも考えれば早めに調達しておいたほうが良いだろう。火薬の材料になる厩肥類は下水からいくらでも採れそうだから、問題は鉄と銅だ。サクッと手に入れるならポイゾ辺りに付き合ってもらって下水の沼鉄鉱を採取するのが良いかな。あの下水鉄を沼鉄鉱と呼んで良いかというとかなり怪しいけど。

「ポイゾー、ポイゾはいるかー」

「呼んだのです?」

中庭だと地面が土だし壁も近くには無いから流石に出てこないかなぁと思ったけど、何の問題もなくポイゾがどこからか湧き出してきた。ほんとどうやって出てきたのかね? 君は。

「鉄とか銅が至急欲しくてな。下水のあの金属が欲しいんだ」

「わかったのです。どこに運ぶのです?」

「俺も一緒に行こうかと思うんだが」

そう言うとポイゾは少しだけ考えてから首を横に振った。

「ちょっと歩かなければならない場所もあるので、こっちに持ってくるのです。コースケはいつ呼ばれるかわからないから、あまり遠出しないほうが良いのです」

「む、そうか……? そうか」

確かに急に呼び出される可能性は無くもない。なんだかんだ言って俺の能力は色々と潰しが利くというか、できることが多いからな。いざという時に連絡を取れないのは不味いだろう。

「と言っても手持ち無沙汰ではあるんだよな」

「ならサロンに行くと良いのですよ」

「サロン?」

「なのです」

サロンというと王族区画の辺りにある談話室みたいなところだよな。凍りついたシルフィの姉達や王妃様、それに無くなった王様が居た場所だ。

「行くときっと良いことがあるのです」

「……?」

ポイゾの意図が読めないが、彼女がそう言うからにはきっと本当にそうなのだろう。少なくとも彼女はそう考えているわけだ。ポイゾが俺を陥れる理由なんて無いものな。俺を陥れてどうこうするくらいなら単に俺を叩き潰して闇から闇へ葬るほうが楽だし、速いし、彼女にはそれができるだけの力がある。

「よくわからんが、わかった」

「素直なのは良いことなのです」

ポイゾと別れてサロンに向かうことにする。場所は既に知っているので迷うこともない。元から城に勤めていた人間のメイドさんやシスターがなんだか慌ただしく動いているのを横目で見ながらトコトコと王族区画へと向かう。凍りついた王族区画はこの城で働く人達にとってはアンタッチャブルな区画だったので、近づくにつれて慌ただしさは鳴りを潜めてくる。

王族区画へと続く一本道の廊下まで来ると、城内の慌ただしさは既に遠い残響のようなものにまで成り果てていた。なんだか寂しい雰囲気だなぁ、などと考えながら廊下を進み、サロンの扉を開ける。

「……?」

ポイゾはなにか良いことがあると言っていた筈だが、サロンは無人のように見えた。まぁ、別に、誰も居なくたって良いのだけれども。よくわからんなぁ。

頭を一掻き。これですぐに踵を返して城内をあてもなくウロウロするのもなんだかつまらないな。折角上等なソファなんかが設置されている談話室に来たわけだし、たまには一人でのんびりするのも良いかも知れない。

ちなみに、今ここにあるソファは城内の凍りついていなかった区画から運び込まれたものである。元々ここにあったものは二十年も極低温に晒されていたせいで程なく朽ち果ててしまったので。

さて、手前にあるソファにでも座るべか、とソファに近づいたところで思わず声を上げそうになった。

「……すぅ」

そこには赤ジャージではなくお姫様らしいドレスに身を包んだイフリータが寝ていた。ソファに寝ていたので近づくまでその存在に気づかなかったのである。

「……ふむ」

こうして静かに寝ているとイフリータもやはりお姫様なのだな、と思う。シルフィの姉というだけあって顔立ちはもの凄く整っているし。黙っていれば美人、というのはまさにこういう奴のことを指すのであろう。

「んー……」

こいつのあどけない寝顔を見られたことは果たして良いことなのだろうか? ポイゾの意図がわからない。しかしここでこいつが突然目を覚ましたりしたらどうなるかは火を見るよりも明らかである。きっと勝手に寝顔を見るなとか離れろケダモノとか言って魔法でもぶっ放してくるのだろう。

そうなる前に退散するのが賢い選択というやつだな。うん。そう判断した俺は即座にその場を離れようと──。

「……」

「……」

ぱちり、と開いた碧色の瞳とバッチリ目が合った。