作品タイトル不明
第170話~研究開発部は今日もフリーダム~
俺の服の裾を掴んだアイラと静かに後ろをついてくるザミル女史を引き連れて研究開発部へと移動する。その間も窮地に陥っているかもしれないエレンのことが頭の中をぐるぐると回っていた。
実際に話して状況を聞かないことにはどうにも安心できないが、考えてみればメリネスブルグの中ならばライム達が警護につくことも可能だ。この状況でエレンが暗殺されるのは俺達解放軍にとってはデメリットしかないから、シルフィもライム達にエレンを守るようお願いしているんじゃないだろうか? くっ、聞いておけばよかった。昼食の時に聞くとしよう。今は目の前のことに集中してクールダウンだ。
アーリヒブルグの研究開発部に顔を出すと、研究者や職人達がワラワラと集まってきた。
「おかえりなさい」
「聞いたぞ、何か見たことのない乗り物に乗ってたって」
「魔力結晶の在庫が切れかけてるんです、後方から持ってきてくれました?」
「後方から試作型の魔銃を……」
「わかった、わかったから落ち着け。詰め寄るな」
うちの研究開発部は女性比率が結構高いし、ラミアの鍛冶職人さんとかは露出度が高いから色々と気を遣うんだよ。
なんとか詰め寄ってきた様々な種族の研究者や職人を押し戻し、研究開発部の大机の上に後方から預かってきた魔力結晶や試作型魔銃、それに遺跡から引き上げてきたオミット王国時代の魔道具や書籍などを積み上げる。
「ひゃっほーい!」
目的のものを掻っ攫って自分の研究にダッシュで戻る者。
「これは……」
「構造は悪くないが、威力が出ないんじゃないか?」
「重いよね、これ」
後方から送られてきた試作型魔銃を検分し始める者。
「古い本が多いな……最低でも三百年前って古いというレベルを越してる気がするが」
「温故知新なんて言葉もあるし、読んで見れば何か新しい知見を得られるかもしれないわよ」
早速オミット王国時代の書物を物色し始める者。
「古いなー、作りが」
「魔導回路に無駄が多いなぁ。使ってる素材は豪勢だけど」
「資料的価値とか美術品的な価値を見出さないとただの資源ごみだねぇ」
オミット王国時代の魔道具を検分しながらボロクソ言っている者……まったくもって今日も研究開発部はフリーダムである。
「コースケさんコースケさん、例の乗り物が見たいです」
「儂も見たい」
「はいはい、裏手の試験場でな」
錬金術師や魔道士、それに木工職人や鍛冶職人にせっつかれて研究開発部の裏手にある試験場へと向かう。ここは作ったものの試運転や試射をするための広い敷地だ。用地の確保のためにいくつかの建物を解体したことが思い出される。まぁ、アーリヒブルグが解放軍に占領されたからってことで逃げ出した富裕層の屋敷だったんだけどね。残されていた家財道具一式は解放軍が美味しく接収しました。
「これが俺達が後方拠点からアーリヒブルグまで乗ってきたエアボード。レビテーションの魔道具で全体を浮かせて、風魔法を利用した推進装置で移動する。最高速度は今使ってる推進装置でも馬より遥かに早い。朝に後方拠点を出れば日暮れにはアーリヒブルグに到着できるレベルだな。燃費は片道で魔力結晶の消費が八割くらいだ」
「ふむ……二台あるのはレビテーションの魔道具の数が違うのか」
「小型四基と大型一基なんですね」
「この筒は……風魔法の魔道具?」
「なんか刻まれている術式が変じゃないですか?」
研究開発部の連中がワッと俺の取り出したエアボードに殺到し、分析を始める。どうやら推進装置の違和感にすぐ気づいたようだ。
「アイラさんアイラさーん、この風魔法の魔道具に刻まれてる術式、なんか不完全じゃないですか?」
「不完全じゃない。それで合ってる。コースケの言葉がヒントになった」
「コースケさんって魔法使えないんですよね?」
「ん、でも私達にはない知識と技術を持っている。もしかしたら既存の魔法を大きく進歩させる知識も持っているかも」
そう言ってアイラが俺に目を向ける。アイラの解説を聞いていた魔道士や錬金術師も目を向けてくる。というかほぼ全員の視線が俺に集まってくる。OKOK、落ち着けボーイ&ガール。そんな目で見ても突然魔法の改善案が出てきたりはしないぞ。というか、俺がこの世界ではあまり馴染みのない知識を持っていたり、この世界では突飛だと言われる発想をしたりするのは今更じゃないか。自分で言うのもなんだけれども。
「今はまずエアボードじゃないかな。うん。見ての通りその推進装置は単純な構造でな。単純な構造なだけあって恐らく破損したりすることも無いと思うんだが、もう少し工夫すればもっと効率良く推進力を生み出せるんじゃないかとも思うんだよ。そういう部分を是非追求していっていただきたい。何事も一つ一つコツコツと片付けていくべきだ」
俺の必死の主張が受け容れられ、まずはエアボードの推進装置や操作系の改善を進めるということになった。また、レビテーションの魔法を使った浮遊装置に関してはこれ以上改良のしようが無いということで、実際に大型一基と小型四基を手作りした場合どれくらいの時間とコストがかかるのかを検証するということになった。
「そもそもどういう仕組みで力を生み出しているんだ? こいつは」
「本来、風魔法で風を起こす時にはその出力に応じる反作用が働いている。でも、風魔法の術式の中には反作用を相殺する術式が最初から組み込まれている。その反作用を相殺する術式を取っ払うことによって、風魔法で風を起こした際の反作用をまともに受ける改造型の風魔法の術式を作った」
「それをこの筒に刻んで、風魔法の反作用で推進力を生み出しているわけですか……それってどれくらいの力があるんです?」
「実際に使ってどれくらいの力があるか試してみるといい。全力で使うのはオススメしない。死ぬ」
「死ぬ!?」
アイラから改造型の風魔法を伝授された魔道士や錬金術師達が順次後ろに吹っ飛んでいく。その光景を見て職人達が腹を抱えて笑っていた。
「あはははは! ぽーんて凄い飛ぶね」
「全力でやったら死ぬってのもよく分かるな」
「あいたたた……そんなに魔力を込めたつもりはなかったのに」
「私もです……でも、これって逆に言えば魔力効率がすごく良いってことですよね」
「ん。コースケと私はハーピィやドラゴンはこの魔法を使って空を飛んでいるんじゃないかと考えている」
「コースケさんの発想で長年の謎が解き明かされつつあるじゃないですか……」
華麗に吹っ飛んでボロボロになった魔道士の一人がぼやく。そうしていると、アイラがスタスタと歩いて俺達から少し距離を取った。
「そして私は風魔法の反動を抑えていた術式から新しい魔法を編み出した。みんなで私に石を投げてみて」
アイラが懐からミスリル製のワンドを取り出して構える。俺を含めた全員が互いに目を見合わせ、適当に石を拾って投げつけてみた。当てて怪我をさせては大変なので、全員あからさまに手加減をしてポイポイと投げる。
そうすると、アイラに向かって飛んでいった石がアイラに届く前に突然勢いを失って真下に落ちた。障壁の魔法だろうか?
「障壁魔法ですか?」
「似てるけどちょっと違う。本気で投げてみて。クロスボウで撃っても良い」
「ちょっとクロスボウ持ってくる」
職人が何人か研究室に駆け出し、俺達はそれを見送りながら今度は割と本気でアイラに向かって石を投げてみた。しかし、石はやはりアイラの手前でピタッと止まって地面に落ちる。
「風魔法の反動を相殺する魔法を使って石の勢いを殺しているのか」
「そう」
「魔法はどうなんですか?」
「多分停まる」
アイラがそう言うので、魔道士の一人が魔法で炎の矢を放ってみた。そうするとアイラの宣言通りに炎の矢はアイラに命中する前に手前でピタッと止まり、程なくして消えてしまった。職人達が持ってきたクロスボウの矢も、俺が撃ち込んだハンドガンの弾もショットガンの弾もサブマシンガンの弾もライフル弾も止まった。
「凄い防御力だな……」
「まだ試作段階。障壁として起動すると魔力消費が異常に多い」
そう言ってアイラはワンドを仕舞って溜息を吐いた。結構疲れたようだ。
「障壁として起動すると魔力消費が多いのは、空気の流れとか、もしかしたら目に見えない分子運動とかそういうものを常に停止させ続けるからかもしれないな。というかそれ、生物を覆うようにかけたら死ぬんじゃね……?」
「無理。生物の体内には魔力が循環しているから、そう簡単に魔法で外部から干渉することはできない。圧倒的な魔力量で抵抗を抜けば話は別だけど。でも、殴りかかったり斬りかかったりしてきた相手の手や武器を止めるくらいはできるかもしれない」
実際にやってみると、振るった武器や拳は空中でピタリと止められた。不思議な感触だ。壁にあたったわけでもないのにピタリと止まる。正直言ってちょっと気味が悪い感触である。
「なんというか、発展性がありそうな魔法だな」
「ん。よく見るとこの魔法の術式にはまだ改良や分析の余地がある。術式自体は他の魔法にも使用されているから、解析中。もしかしたら全然別物の、新しい魔法ができるかもしれない」
アイラが大きな目を輝かせながらそう言う。うん、アイラはなんだかんだで魔法が好きなんだな。魔法が、というよりも探求すべき未知が好きなんだろう。真理の探究者、みたいなことを言ってたっけ。
魔道士と錬金術師、そして職人の大半がエアボードとアイラの新魔法の開発に流れていってしまったが、新型の試作型魔銃も俺としては非常に興味のあるブツである。
皆の興味がそっちに移ったことだし、俺は他の人達があまり見向きもしていない試作型魔銃について検証するとしよう。