軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第147話~ハーピィさん選抜戦~

翌日、俺は貝になっていた。精神的に。

「ほら、コースケ。あーん」

「……」

シルフィが差し出してきたウィンナーの刺さったフォークを無言で見つめる。そしてシルフィの顔を見る。

「ほら、シルフィお・ね・え・ち・ゃ・ん、の言うことが聞けないのか? うん?」

「……あーん」

笑顔のシルフィに屈服して口を開けると、シルフィは嬉しそうな笑みを浮かべながら俺の口にウィンナーを突っ込んできた。口の中に突っ込まれたウィンナーを咀嚼する。ははは、しょっぱいなぁ。

「次はこっちですよ、コースケさん」

「……」

メルティがにこにこしながら手で小さくちぎったパンを俺の口元に近づけてくる。もはや抵抗は無意味だと悟った俺は大人しく口を開き、パンを口の中に受け容れた。ははは、ふかふかで美味しいパンだなぁ。

「ありがとう、メルティおねえちゃん」

「ふふふ……」

俺が礼を言うと、物凄く上機嫌な様子でメルティが微笑む。その様子を見てニヤニヤしている単眼娘が一名。

「アイラ……」

「アイラお姉ちゃん」

「アイラお姉ちゃん……」

「なに?」

「どうにかなりませんか」

「ならない。満足するまでは」

「ぐぬぬ」

昨晩は目一杯甘やかされた。それはもう、これ以上無いくらいに三人がかりで甘やかされた。肉体的な疲労は大したことはなかった。精神的にもまぁ、甘やかされて酒で酔っ払わされて正体を無くしている状態だったからなんてことはなかった。

問題は朝起きてからだ。押し寄せてくる昨晩の記憶! とても言葉には出せない醜態の数々! 俺の心は時間差で凄まじいダメージを受けた。もうだめだ、おしまいだぁ……三人は物凄く機嫌が良いけどな!

グランデはどうしたって? グランデは今もクッションに埋もれて寝てるよ……さすがドラゴン、寝始めるとなかなか起きないな! グランデに昨晩の醜態を目撃されなかったのが唯一の救いかもしれない。

そして、そうこうしている間にハーピイさん達が現れた。

「おはようございまーす!」

「おはよー!」

「おはようさんです」

「おはよう」

そして一気に場が姦しくなり、姉弟プレイを続行する雰囲気が消し飛んだ。やった! 流石はハーピィさん達だぜ! ここぞという時に俺を助けてくれる! そこに痺れる憧れるゥ!

「おはよう! 朝食は食べたか? まだならなんでも好きなものを出すぞ!」

「じゃあほっとけーき! 生クリームとイチゴジャムがたっぷり載ったやつ!」

明るく、物怖じしない正確のペッサーがキラキラした瞳でリクエストをしてくる。よーしよし、ホットケーキだな。いくらでも出してやるぞ。

平らな皿の上にホットケーキを出してハーピィさん達が食べやすいようにナイフでササッと一口サイズにカットしてやる。こうすれば手先が器用じゃないハーピィさん達でもフォークだけで食べられるからな。

ハーピィさん達がワイワイピヨピヨと楽しそうにフォークを使ってホットケーキを食べ始める。

「のじゃのじゃ」

いつの間にか起きたグランデもその中に混ざっていた。いつの間に起きたんだお前。というかホットケーキに対する嗅覚すげぇな。

朝食を終えたら少しばかり食休みの時間だ。この世界の人々はあまり時間に追われた生活をしない。農作業をする人とか、商売をしている人はまた別なんだろうけどな。シルフィとかメルティも普段は結構早くから仕事のために動き出すことが多いんだが、今日はゆっくりしているな。

「コースケがオミット大荒野に遠征することになった。オミット王国の遺跡を探索して古い書物を探すのが目的」

アイラの言葉にピヨピヨキャッキャしながら文字通りホットケーキを突いていたハーピィ達がシンと静まり返る。

「のじゃのじゃ」

グランデはブレねぇな。グランドドラゴンは動じない。

「随伴は探知魔法を使える私と、空から偵察することができるハーピィから数名、それにグランデと護衛にザミル、あと遺跡探索になりそうだから腕の良い冒険者を連れて行く」

ハーピィさん達に衝撃が走り、彼女達の羽毛がブワッと膨らむ。互いに視線を交わし、まるでその様は牽制でもしあっているかのようだ。

「コースケの直掩に一人、偵察に二名から三名くらいが妥当だと思うけど、どう?」

「そうですねぇ……荒野の探索行ということは、夜間はコースケさんが高床式の臨時宿泊所を作るんですよね?」

「そうなると思う」

「となると、夜間の警戒はさほど必要ありませんが、最低でも一人は夜目の効く子が行ったほうが良いですね」

ちらりとハーピィ達のまとめ役であるピルナが夜目の効く二人――獣耳のような羽が頭に生えている小柄な茶色羽ハーピィのフラメと、特に獣耳のような羽は頭に無いがフラメと同じく茶色い羽を持つ茶色羽ハーピィのカプリの二人に視線を向ける。

「わ、私かカプリさんですよねぇ」

「うちかフラメのどっちかやねぇ」

二人が顔を見合わせて同時に頷く。

「じゃ、じゃあ私達二人ともついていくということでどうでしょうか?」

「夜目が効くのは勿論のこと、昼間でもうちらは目が良いですえ?」

「それはダメ。状況次第でこっちでも夜間偵察が必要になるかもしれないから、一人はこっちに残ってもらう」

アイラが胸の前でバッテンを作りながらきっぱりと首を振る。

「通常は三名一組で運用するんですけど、コースケさんに万が一の事があってはいけませんから全部で四名ということにしましょう。そのうち一人は夜目の効く二人のうち一人だから、あと三人ですね」

一体どうやって随伴員を決めるのだろうか?

「イーグレットが良いんじゃないかな? 旦那さんと一緒に長時間行動したこと、あんまり無いよね?」

「わ、私ですの?」

ペッサーに推薦されたイーグレットが目を見開いてたじろぐ。彼女は白い羽を持つハーピィさんで、どこか高貴な雰囲気の漂う美人さんだ。ハーピィさん達の中では比較的体格が大きい大鳥種の女性である。どこか白鳥っぽいイメージがある子だな。

「良いと思う。同じ理由でエイジャも」

「……?」

漆黒羽ハーピィのレイが茶褐色ハーピィのエイジャを推し、推されたエイジャが「私?」とでも言いたげな様子で首を傾げる。彼女もイーグレットと同様に大鳥種のハーピィさんで、とても寡黙な女の子だ。声を聞いた記憶が殆ど無い。キリッとした目つきの美人さんである。

「もう一人はだれが良いかな?」

「うーん、オリオやアイギス、ディクルが居れば推したんだけどね。任務で離れてるからなぁ」

「じゃあ残り一人は勝負で決めましょうか」

「望むところ」

イーグレットとエイジャ、そして話し合っているフラメとカプリ以外のハーピィさん達がぞろぞろと領主館の外へと出ていく。何をするんだろう? と興味が湧いた俺もその後に続くことにした。

「形式はどうするっ?」

「バトルロイヤル」

「それが公平ですね」

「負けませんよ」

残っている枠は一枠、その一枠を争うハーピィは青羽ハーピィのピルナ、碧羽ハーピィのフロンテとピンク羽ハーピィのブロン、橙色ハーピィのフィッチ、漆黒ハーピィのレイ、赤羽ハーピィのショウ、茶色羽ハーピィのペッサー、緑羽ハーピィのトーチの七名だ。全員が小鳥種で、皆同じような体格である。

「では……各員飛翔開始!」

ピルナの掛け声とともに強い風が吹き、一瞬で七人のハーピィが上空に舞い上がった。暫くの間領主館の上空を旋回し、ほぼ等間隔で上空で円陣を組む。そして不意に上空の円陣が崩れ、ハーピィさん達が複雑な軌道を描いて互いの後ろを追い始めた。まるで戦闘機の空中戦のような動きだ。

「アレはどうやって勝敗をつけるんだ?」

「背後を取って物理か魔法で一撃入れたら勝ちですわ」

「なるほど」

「ふぅむ……まぁまぁじゃな」

グランデが空中戦をしているハーピィさん達を見ながら上から目線だ。確かにグランデのほうが真っ直ぐは早いと思うけど、あんなに繊細な飛び方できないだろう、君は。

しばらくすると、脱落したと思われるハーピィ達が降りてくる。そして最後に残ったのは。

「やりました」

シュタッ、と上空から舞い降りたピルナがドヤ顔でポーズを決める。まぁ、皆のまとめ役だし順当といえば順当なのだろうか?

「隊長には勝てなかったよ……」

「強い」

「もう少しだったのに……」

敗北したハーピィさん達が地面に膝を突いて項垂れる。そんな彼女達をフォローしたのはアイラだった。

「今日すぐ出るわけじゃない、準備が要るから。その間は残る人達が多めにコースケと触れあえばいい」

「そうですね。それが良いと思います。良いですよね? コースケさん」

「それは構わないけど、お手柔らかにな」

敗北したハーピィさん達の表情が明るくなる。アイラってこういう細かいところに結構気がつくよな。利害調整が得意というかなんというか。

「私も準備期間中は控えめにする。コースケはその分ここに残る人達に優しくしてあげて欲しい」

「わ、わかった。できる限りの範囲で善処する」

「ん、そうして」

アイラが俺の顔を見上げて微笑む。うーむ、溢れ出る母性と余裕。身体は小さいけど、実はアイラがこの中で一番大人なのかもしれない。

「準備はどう進めたら良いかな?」

「物資と冒険者の手配は私がします」

メルティが手を挙げて発言する。うん、そういうところはメルティに任せるのが一番だな。

「物資はコースケが運ぶのがやはり良いだろうな。だが、それだけではコースケとはぐれた時に危険だ。各員ある程度の水や食料などは持っていたほうが良いだろう」

「ハーピィ用のゴーレム通信機を用意しておく」

「それは便利ですね」

「グランデに運んでもらうゴンドラを作るか。二人用じゃなくもっと多人数で乗れるようなのを」

「そうじゃな。あの『ごんどら』だと二人しか運べぬし」

「ええと、乗るのは俺とアイラとザミル女史と冒険者数名? 八人乗りなら余裕あるかな」

「妾の方はまだまだ力の方には余裕があったから大丈夫じゃぞ」

「なるほど」

風の抵抗があまり強い箱型の馬車みたいなやつだと飛びづらいって言ってたんだよな……空力特性を考えて流線型のゴンドラでも作ってみるか? 弾丸型とかが良さそうな気がするな。色々作ってみるとするか。