軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第142話~休暇の終わり~

里に戻ってからの三日間は実に穏やかに過ごすことができた。そもそも休暇のためにこちらに来たのだから、別にあちこちに観光に行く必要も無いのだ。

朝起きたら風呂に入り、朝食を摂る。里や周辺の森を散歩したり、何か適当にクラフトなんかをしたりしてゆったりのんびりと過ごすのだ。

シルフィは時折長老衆の元を訪れて交易に関する打ち合わせなんかもしていたようだが、俺はそれには同行しなかった。俺が行っても仕方がないからな。シルフィと二人で行くと長老衆がシルフィをからかい始めて話が進まなくなるし。

グランデはグランドドラゴンの巣とエルフの里を行ったり来たりしている。その時に兄ABを伴って来たり来なかったりするが、奴らには適当に飯なり酒なりを与えれば良いのでなんてことはない。寧ろ、森の奥に生息する強力な魔物を獲物として取って持ってきてくれるので、こちらとしても損はない。

エルフに解体を任せて、手数料としていくらかの素材を引き渡す。残りの素材を穀物粉や野菜、花蜜と交換。肉をそのまま利用すれば奴らに出すハンバーガーと蜜酒を上回る素材が俺の懐に入ってくる。右から左に素材を流すだけで懐が潤う左団扇な生活だ。

まぁ、エルフの里の食糧生産量ではドラゴン二頭が消費する穀物や野菜を供出し続けることは不可能なので、いつまでもここで同じことを続けるとエルフが困ることになるな。俺が農地ブロックを使って作物を生産すれば解決はできるけど。

この三日間で俺もまた色々とアイテムを作ることが出来た。まずはグランデに運んでもらう移動用ゴンドラの改良版だ。ブランコ型の五号を更に改良し、座席を吊り下げる鎖部分にスプリングを入れた。これで前後上下左右全ての方向の揺れに対応することができるようになったわけだ。試乗したところ、揺れはかなり抑制されて長距離飛行も問題無さそうだ、という結論が出た。

グランデはグランデで飛行訓練や力加減の訓練、そして姿を自在に変えられるように修行をしていたようである。巣に戻って長老に教えを請うたりもしていたらしい。

「まだ身体を変化させることはできんが、なんとなく感覚が掴めてきた気がするのじゃ」

グランデは口元を花蜜でベタベタにしてホットケーキを食べながらそう言っていたが、成果はまだ何も出ていない。今後に期待するとしよう。

シルフィは今更訓練するようなことはないのか、のんびりとしていた。久々に何も考えずに穏やかに過ごせているためか、機嫌も上々であるようだ。訓練らしい訓練をしたのは俺が誘った拳銃の射撃訓練くらいだな。

体幹も握力もしっかりしている上に視力も良いシルフィは訓練の必要なんて無いくらいに俺の渡したリボルバーを使いこなしていたけどね……いやほんと、10mの距離で拳銃の弾丸が六発ともワンホールに収まるとかどうなってんの? おかしくない?

「もっと強い拳銃でも使えそうだ」

「マジで?」

「ああ」

シルフィがそう言うので、もっと大口径の弾薬を使えるリボルバーを作ってみた。今使っているのは.357マグナム弾を使うリボルバーなので、.44マグナム弾を使うもの、.454カスール弾を使うもの、ネタ枠で.500マグナム弾を使うものも用意してみた。

「これとこれ、特にこれは注意して使わないと射撃の反動で怪我をしかねないから気をつけてくれ」

「わかった。ふむ……流石にこれはなかなかの重量感があるな」

シルフィがいきなり.500マグナム弾を使う大型リボルバーを手に持って呟く。

「それはマジで危ないから撃つ時は気をつけ――」

耳をつんざくような轟音が鳴り、10m先に設置された標的のレンガが木っ端微塵に砕け散った。

「ふむ……」

ガォン、ガォンとまるで拳銃の発射音とは思えない、猛獣の咆哮のような射撃音が連続で鳴り響く。そしてその度にレンガが一つ一つ木っ端微塵になっていく。

え? 連射で当ててんの? 片手で? マジ?

「ちょっと反動がキツいな」

「ちょっとなのか……」

元の世界だと『人間の限界に迫ったスペック』とか言われてた銃なんだけど。

「もう一つ下のを使ってみるか」

そう言ってシルフィが.454カスール弾を使用する大型リボルバーを手に取る。元の世界のアニメや小説でも人気の荒ぶる雄牛さんだ。

またもやシルフィが連射を始める。だから危ない銃だって言ってるだろォ!?

「ふむ、これは丁度良い感じだな」

「そう……」

「もう一つも撃ってみるか」

今度は.44マグナム弾を使うリボルバーを撃ち始める。いやいや、なんですかその三点バーストみたいな撃ち方。おかしいでしょう?

「ふむ……この三つだと二番目のやつが良さそうだ」

「ああ、うん。なんかカスタムでもするか? 接近戦用にバヨネットでも付ける?」

「別にそういうのはいらないな。重くなるだろう? とにかく頑丈なら良い」

「アイアイマム」

こうしてシルフィの愛銃がより強力なものに差し替わることになった。カスタマイズ? 元よりフレームとか銃身はミスリル合金で作ってたから特に必要ないと思うよ、うん。

☆★☆

そうして三日が経ち、俺達が帰る日がやってきた。今日まで一度もアーリヒブルグから連絡がなかったということは、恐らく向こうでは特に問題などは起きていないということだろう。

「また遊びに来るんじゃぞ」

「今度は赤ん坊を連れてくるとええ」

「孫の顔が見たいのう」

「婿殿、気張るんじゃぞ。ガンガンイクんじゃ」

「ほれ、エルフ特製の精力剤じゃ。持っていくが良い」

見た目幼女の長老が俺に布の包みを手渡してくる。こういう時にお弁当とかおはぎとか煮物とかじゃなくて精力剤を渡してくる辺り、この人達はぶっ飛んでると思う。

「間に合ってよかった。これが特別製の守りの腕輪だ」

目の下に隈を作ったエルフの職人が銀色に輝く腕輪を手渡してきた。複雑な文様の彫られた綺麗な腕輪だ。小指の先程の大きさの魔煌石が陽の光を受けてキラキラと輝く。黄金色に輝くそれはまるで竜の瞳のようだ。

「ありがとう。あとでグランデに渡すよ」

今から飛び立つのに魔力を制限する魔道具をつけても邪魔にしかならないからな。

シルフィとグランデのいる方に視線を向けると、彼女達は里の女性達と何か話をしているようだった。今のうちに改良型ゴンドラをインベントリから出しておくことにする。それに気づいたのか、グランデがこちらに歩いてきた。

「それが新しい籠か」

「おう。これなら前みたいな悲惨なことにはならないはずだぞ」

「二人ともおえーってなっておったものな」

「シルフィはギリギリ堪えてたけどな」

俺は無理だった。

「ほら、これ」

「おお、綺麗じゃのう! これが例の腕輪か?」

「そうだ。向こうについたらつけてみてくれよ」

「ここでつけてみてはだめか?」

「それは構わんけど、飛ぶのに邪魔になると思うぞ」

そう言いながらグランデに腕輪を渡す。腕輪と言ってもこれは完全な輪というわけではなく、輪の一部が欠けているバングルタイプの腕輪だ。ある程度柔軟性もあり、ごっつい爪の生えているグランデの手でも簡単に着脱することができる。

「ほあぁ~……」

グランデが自分の腕に嵌まった守りの腕輪を眺めて目をキラキラさせる。もしかしたらこういう装飾品が好きなのだろうか?

「そういうアクセサリ好きなのか?」

「む? うむ。ドラゴンは基本的に光り物が好きじゃぞ。今まではこういう腕輪なんぞを付けることはできんかったからな。人族の身体も良いものじゃな」

「そっか。んじゃ向こうに戻ったら色々アクセサリを作ってやるよ。指輪は無理だから、腕輪とかアンクレットとかネックレスとかだな」

「本当か?」

「本当だ。折角人族の身体になれたんだから、色々と着飾るのも良いと思うぞ?」

グランデが目をキラキラさせたままコクコクと何度も頷く。ハーピィさん達も装飾品が好きだから、そういう方向で話が合いそうだな。同じ翼を持つ者同士ということで是非仲良くしてもらいたい。

「むふふ、帰るのが楽しみになってきたぞ」

グランデの尻尾が地面をペシペシと叩く。守りの腕輪を装備しているからか、尻尾の威力も随分と落ちているようだな。いや、それでも多少地面がへこんでるけど。守りの腕輪をつけても元々の尻尾の強度や重さが減るわけじゃないものな。

そうしているうちにシルフィも話を終えたのかこちらへと歩いてきた。

「待たせたな」

「いや、大丈夫だ。グランデ」

「うむ」

グランデが自分の腕から守りの腕輪を取り外して俺に手渡してくる。その腕輪にシルフィが視線を向けた。

「それが特別製の守りの腕輪か」

「ああ。まだ効果の程は確かめきれてないけどな」

「今晩にでも試すと良い」

「いきなりは無理じゃないか……?」

アイラやハーピィさん達やメルティも待ってるわけだし。グランデは俺とシルフィの会話を聞きながらキョトンとした顔を俺たちに向けている。うん、わかってないね。純真なままの君でいて欲しい。

「そういうのは向こうについてから考えよう。ウン」

「そうだな」

純真な視線にやられた俺達は首を傾げるグランデから目を逸らしていそいそとゴンドラに乗り込む。乗り込むとは言っても席についてシートベルトを締めるだけなんだけど。

「では、行ってくる! 何かあったら砦に連絡してくれ!」

「お世話になりました!」

「じゃあの!」

それぞれに別れの言葉を告げ、グランデの手によって空へと飛び立つ。グランデは里の上空を旋回しながらぐんぐんと高度を上げていく。それにつれてエルフの里がどんどん小さくなって行き、やがて森に埋もれて俺の目には見えなくなってしまった。

「よーし、ゆくぞー。身体の固定は大丈夫か?」

「ああ、こっちは大丈夫だ」

「私も大丈夫だ」

「うむ。では飛ばすぞ!」

グランデがそう言って北に向かって飛び始める。早い。多分ドラゴンの姿でいた頃よりもスピードが出ているな、これは。

ふと隣に座るシルフィに視線を向けると、少し寂しそうな目をしていた。俺はシルフィの手を握り。耳元に口を寄せる。

「また今度戻ってこような」

「……そうだな。いずれまた」

シルフィはそう言って微笑み、俺の手をきゅっと握り返してきた。柔らかい手から伝わってくる体温が心地良い。あんなに上手く武器を扱って、物凄い反動の銃を撃てるというのにシルフィの手は柔らかいんだよな。一体どうなっているのやら。

「休暇は終わりだ。そろそろ聖王国と決着をつけないとな」

「そうは言うけど、そう簡単にはいかないだろ?」

「もちろんそうだ。だが、一歩ずつ進んでいけばいずれ目的地には辿り着くものさ」

シルフィの視線がオミット大荒野の向こう、遥か北の大地を見据える。

「後方支援は任せとけ」

「ああ、頼りにしてる」

シルフィが再び俺の手をきゅっと握り、微笑む。俺もその手を握り返した。俺達の間にこれ以上の言葉は必要なかった。