軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第138話~進化~

翻訳作業はとてもつらかった。言うまでもないと思うが、俺自身の色恋沙汰、女性事情に関する話である。それを赤裸々に暴露させられるのだ。しかも、相手はグランドドラゴンのご婦人方を中心としたこの宴会場にいるグランドドラゴン全員である。つらい。

ご婦人方はくるくるきゃーきゃーと騒ぎ、男性陣はぐるぐるふむふむほほうとニヤつき、グランデパパはごるごるぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる。

「あれ、生きてるのか?」

「尻尾が微妙に動いてるから大丈夫じゃないか……?」

俺達の視線の先には頭部を岩の壁に埋められて死ーんとなっているグランデパパの姿があった。俺の通訳した話を聞いて「そんな性欲魔神のクソヒューマンに我が娘をやれるか!」と空気を読まずに騒ぎ立て、ご婦人方によってたかってボコボコにされたのだ。

ちなみに、顔面を岩壁に押さえつけた上で釘でも打つかのように尻尾でガンガンぶっ叩いてあの状態にしたのはグランデママである。絶対に逆らわないようにしよう。

そして、もう一人微動だにしなくなってしまった者がいる。

「……」

ご婦人方の包囲網から解放されたグランデは壁に向かって寝っ転がったまま、だらりと力を抜いていじけていた。それはそうだろう。俺に対して秘めていた……その……恋心的なあれこれをすべて暴露させられたのだ。しかも俺に直接。ご婦人方の同調圧力(物理)が凶悪過ぎる。

「ほほう、この大きさの魔煌石なんぞ初めて見るのう」

「ふーむ、あるところにはあるもんじゃな。こいつがあれば儀式ができる」

ご老人方は俺が出した魔煌石を皆で囲んでぐるぐるぎゃうぎゃうと盛んに議論をしているようだった。それなりに若い竜も混じっているようなので、もしかしたらついでに儀式とやらの知識を継承しているのかも知れない。

「ようし、儀式の知識は共有できたな。では、早速始めるぞ。デルギスの娘、グランデをここへ!」

老竜の一人がそう宣言し、ご婦人方に尻尾を引っ張られて引きずられながらグランデが連行されてくる。もう少し丁寧に扱ってやってくれよ……。

「では、デルギスの娘グランデよ。お主に人化の儀式を執り行う」

「……」

「もう、グランデちゃんったらいつまで不貞腐れてるの?」

「不貞腐れもするわっ! 何が悲しゅうてこんな衆人環視の中で色々と吐かされなければならんのじゃ!? しかも……しかもよりによってコースケの眼の前で!」

「私達が楽しいから? 強いて言うならグランデちゃんが弱っちいからかしら?」

「身も蓋もない! というか母上達に囲まれたらどうしようもないじゃろうが!」

流石ドラゴン、力こそが正義を地で行っている。もうあっちに関しては俺の力ではどうすることもできなさそうなので、俺はシルフィのケアをすることにした。

「なぁシルフィよ、良いのか、こういう流れで」

「別に良いだろう。グランデが種族の違うコースケにそう言う感情を抱いているということには流石にびっくりしたが……グランデから直接色々と聞くと概ね納得できる内容だったしな。というか、私としては無自覚にグランデを口説いていたコースケに戦慄せざるを得ないのだが?」

「そんなつもりは一切無かったんだよ……確かにグランデは可愛いと思ってたけど、どっちかというとペット的な意味というか種族を超えた友人としてそう思ってたんだぞ……?」

グランデママにも言ったが、流石にガチのドラゴンに欲情するとか恋愛感情を抱くとか無理だから。可愛いと思ってたのも割と凶悪な面相のドラゴンがおとなしくハンバーガーをモグモグしたり、砂浴びのためにごろごろしたりするのをKAWAII! と思って見てただけだし。

それがどうしてこうなった。この流れで「やっぱいいです」とか言ったら確実にミンチ案件だし……いや、グランデがそういう風に俺を思ってくれていたというのはびっくりしつつも嬉しくはあるんだけどね? なんというか晴天の霹靂感の方が圧倒的に強い。

「では進化の秘法をデルギスの娘、グランデに施すこととする。儀式を始めるぞ」

ドラゴン達がグランデを取り囲み、輪唱でもするかのように咆哮を始める。輪の中心にいるグランデはその手に魔煌石を載せてじっとしているようだ。あの魔煌石はだいたい人間の目玉くらいの大きさなのだが、大きなグランデの手の上に載っているとビーズか何かみたいだな。

竜の輪唱は洞窟内で反響し、頭の奥にまで食い込んでくるような感じがする。有り体に言って騒音以外の何物でもないはずなのだが、不思議と聞いていたくなるような感じだ。

やがてグランデの持っている魔煌石に変化が起き始めた。まばゆい光を発し始めたのだ。

それをどうするのかと思って見ていたら、なんとグランデはそれを口に入れてゴクリと呑み込んでしまった。え、大丈夫なのそれ。お腹壊さない?

ハラハラとしながら見守っていると、次はグランデ自身に変化が訪れ始めた。全身が発光し始め、苦しげに身を捩り始める。おいおい、大丈夫なのかあれ。

そうこうしているうちに光が強くなり始め、直視するのが難しいくらいの閃光が俺の視界を真っ白に塗りつぶした。これはまるで作業台とかのアップグレードの時みたいな光だ。

「どうなったのじゃ……?」

閃光が迸った後、ドラゴン達の輪の中心にいたのは紛うことなき女の子だった。遠くてよく見えないが、頭に角が生えているのと竜の翼があるのと、手足が竜っぽいのはわかる。あと真っ裸。

「ん? 間違ったか?」

「ギリギリセーフじゃろ?」

「完全に人間になるより個性があって良いんじゃないかの?」

変身が終わったグランデを見ながら老竜達がぐるぐるぼそぼそと話し合っている。失敗したわけじゃないんだよな? おい、なんでそんなに自信なさげなんだよ。

「なんか身体に違和感があるのじゃ……なんか弱そう」

当のグランデは変身した自分の身体の調子を確かめるかのようにあちこちを眺めたり、手をにぎにぎしたり、軽く飛び跳ねたりしている。確かにドラゴンの身体に比べると弱そうではあるな。

「ほら、グランデちゃん。早速コースケちゃんに見せに行きなさい」

「わかったのじゃ」

グランデはそう言って翼を広げ、こちらに向かって飛んだ。

「のあぁー!?」

そして弾丸のようなスピードで天井に突っ込んで埋まった。おいィ? 頭から天井に埋まったグランデはなんとか自力で自分の体を天井から引っこ抜き、俺の目の前にべちゃっと落ちてくる。一見怪我をしているように見えない。頑丈だなオイ……天井からここまで結構高さあるぞ。

「か、勝手が違いすぎるのじゃ……身体は軽いし、魔力の制御が難しくなっておる……」

「だ、大丈夫か?」

「ちょっと大丈夫じゃないのじゃ。この身体に慣れんと大変なのじゃ」

お尻を打ったのか、グランデは立ち上がって白いお尻を撫でながらこちらに歩いてきた。そんな彼女を頭の天辺からつま先まで観察する。

肩くらいの長さのくすんだ金髪の隙間からは凶悪な捻れた角が二本。背中には髪の毛の色と同じような色をしている竜翼が一対。肘から先はやはり髪の毛の同じようなくすんだ金色の鱗で覆われており、指先には頑丈そうな爪が生えている。胸の中心には光を放つ魔煌石らしきものが見えるな。そして視線を下に動かすと、膝から下に目が行く。膝から下は腕と同様に鱗に覆われており、やはり足先には頑丈な爪が備えられていた。うん、半分だけ人間になった感じだな、これは。

え? おっぱいの大きさ? アイラとかハーピィさん達よりはあるね。決して大きくはないけど良いと思います。

「こ、こーすけ、どうじゃ?」

「もっと近くに来てよく顔を見せてくれ」

「う、うむ」

おずおずと近づいてきたグランデの手を取り、その感触を確かめる。温かい、けどやっぱ竜の爪は頑丈そうで、鋭いな。観察していたグランデの手から視線を上げると、グランデと眼と眼が合う。

グランデの瞳は金色で、瞳孔の形が普通の人間とは違った。蛇みたいに瞳孔が縦長なのだ。じっと見つめていると、グランデの顔が赤くなってきた。

「な、なんとか言え」

「うん、可愛いと思うぞ。シルフィはどう思う?」

「ああ、可愛らしいと思うぞ。あんなに大きなドラゴンがこんなに可愛らしい女の子になるというのは驚きだな。というか、言葉を喋れるのだな?」

「ん? そう言われるとそうじゃな。黒エルフの言葉がわかるぞ」

「私の名前はシルフィエルだ。黒エルフではなくシルフィと呼んでくれ」

「おお、そうじゃったな。うむ、わかったぞシルフィよ。妾のことはグランデと呼ぶが良い。これからよろしく頼むぞ」

そう言ってグランデが胸を張ってドヤ顔をする。うん、ドヤ顔は良いけどおっぱいとか色々隠そうか。そう考えてインベントリから何か身体を隠せるようなものを出そうとしたところでグランデママがずいっと首を伸ばしてきた。

「どうかしら? グランデちゃん可愛くなった?」

「ええ、可愛らしい娘さんですね」

「これなら交尾もできるわよね?」

「ストレートすぎる! まぁそういうのは順を追ってということで。まずはグランデに今の身体に慣れてもらわないとでしょう」

「えー……今すぐやってみない?」

「やらねぇよ!? 俺にそういう趣味はねぇから!」

衆人環視ならぬ衆竜環視の中で事に及べとか難易度高すぎるわ。というか自分の娘のそういう姿を衆目に晒そうとするなよ! どうなってんだよドラゴンの倫理観!

「どうしたんだ?」

「グランデママが今すぐグランデと致してみない? 見せて? 的な発言をな?」

「えぇ……」

シルフィがドン引きした。グランデは真っ赤になった顔をごつい両手で覆ってしゃがみこんでしまっている。

「ええと話題を変えよう。そうだ、グランデはその姿になったらもう元に戻れないのか?」

「う、うむ? ど、どうなんじゃろうな? 人間と添い遂げた竜の伝承では人間の姿と竜の姿を自由に行き来できるというような感じじゃったが」

老竜達に聞いてみると、答えはイエス。修練を積めば人と竜の姿を自在に行き来できるらしい。

「やり方はわからんのじゃがな! はっはっは!」

「何せここ千年くらいは誰も進化の秘法を遣っておらんかったからのう」

「儂らは興味なかったしのう」

「人間を好きになるなんて竜的には一種の特殊性へk――うぼあぁ!?」

老竜の一人がご婦人方にぶっ飛ばされる。それは完全にウカツムーブだと思います。

「私達はグランデちゃんを応援するわ!」

「竜と人との種族を越えた愛なんて素敵じゃない!」

「ロマンチックよねぇ」

ぐるぐるぎゃうぎゃうと詰め寄られたグランデは及び腰である。元々力で負けてたような相手なのに今は更に体格差でも圧倒されているからな。詰め寄られると怖いよな。

「グランデよ、修練を重ねればいずれ完全に人間と同じ姿を取ることもできようぞ」

「うむ、精進するのじゃぞ。魔煌石を取り込み、進化を果たした今のお主はグランドドラゴンという枠を外れた存在。儂らの先にいる存在とも言えるのじゃ。強大なる力に振り回されぬよう気をつけよ」

「わ、わかったのじゃ」

ご婦人方に一人ぶっ飛ばされた老竜達が急に背筋を伸ばして威厳を醸し出し始める。最初からそうしていれば……雉も鳴かずば撃たれまいという言葉が脳裏を過ぎる。

「まぁその、なんだ。グランデ?」

「う、うむ?」

「これからも宜しくな」

「あ……うん。よろしくなのじゃ」

そう言ってグランデははにかんだ笑みを浮かべるのだった。